きょうえんがあらわれた
王都。
地下訓練場。
暗く、静かなその空間で。
一人の男が剣を振っていた。
彼は『狂焉の勇者』。
勇者でありながら、国の騎士団の団長も兼ねる異例てきな存在。
この世界に彼を知らぬ者はいない。
彼の握った拳は岩を砕き、
彼の振った剣は大地を切り裂いた。
彼の放つオーラを見るだけで人々はその場から動けなくなった。
固有魔法を持たずして絶大な力を誇る。
神を屠る最強の力。
筋骨隆々なその肉体と。
漆黒に煌めく鎧。
誰もが憧れと畏怖の念を抱いていた。
「狂焉様、国王様からです」
鎧を着た騎士が男に封筒を差し出した。
「そこに置いておけ」
「はっ、失礼します」
騎士は封筒を置き、その場から去る。
男は自分より大きい剣を振るう。
何回振るっただろうか。
風を切る音が聞こえた瞬間、
剣が粉々に砕け飛んだ。
空間を切りすぎたのだ。
彼の能力に剣が追いつかなかった。
彼は同じ剣を持たない。
すぐに壊れてしまうからだ。
男は表情ひとつ変えずに柄を放り投げ、そのまま封筒の下へ向かう。
「......」
不敵な笑みを浮かべ、封筒を引き裂いた。
「全て終わらせてやる。私の時代だ!」
彼の声が。
空虚な空間に響き渡った。
最悪の終焉をもたらす、その男の声が。
出てくるのはだいぶ先です