へきれきがあらわれた
初夏の風が頬を撫でる。
さわさわと、草木が揺れる。
木陰の下。
少し暑くなってきたのを肌で感じながら、
のどかな現実を実感する。
敵なんていない、のどかな風景だ。
霹靂は今、王都の外れにある草原の木陰にいた。
特に何もするわけでなく、ただぼーっと。
日が落ちるのを眺めていた。
手に持った袋から薄く切って揚げた芋を取り出して、
口に放り込む。
パリパリと言う音と、少しの塩気が口に広がった。
呑気なものだ。
そこに。
一匹の黒猫が。
チリンチリンと音を鳴らしながら。
霹靂の目の前に止まり、一枚の封筒を落とした。
「次の仕事だ、しくじんなよ」
猫が男の低い声で喋った。
霹靂は特に驚く様子もなかった。
驚く様子どころかいることにすら気づいていないようだ。
袋の中から芋を取り出し、一口つまむ。
「おい、聞けよ」
「......」
「聞けよ」
「......」
「......いてっ」
黒猫が袋からお菓子を摘もうとすると手で払われてしまった。残念。
「なんだ見えてんのか、反応しろよ」
「.....面倒だろ、俺に押し付けるな」
そういうと袋の中の最後の一枚を口に運んだ。
パリパリとまた音が鳴る。
「なあ、読めって」
「面倒なことはしないんだ」
「お前最近ギルドの依頼もサボってるらしいじゃん」
「俺がやらなきゃいけないような案件がないからだ」
何を言っても言うことを聞かない。
いじっぱりの代表のような男だ。
霹靂は自分の強さに見合った仕事しかしない。
一方的な戦いを誰よりも嫌った。
「頼むから読めって、ヒルネ様からだぜ」
「それを言えよ」
国王の名前を聞いた途端、態度を変え、手紙を拾い上げる。
赤い封筒。
何度か見た記憶のある封筒だ。
封筒の裏に書かれていたのは王国からの文書という証明の紋章。
龍の描かれたものだ。
偽造は不可能。高度な魔法を利用して描かれている。
「......」
「なんで書いてんだよ、見えねえよ」
「......」
霹靂は急に立ち上がり、王都の方へ向かい、歩き出した。
「おい!どこいくんだよ!」
黒猫は黄色い鈴をチリンと鳴らしながら霹靂の後ろを追いかける。
肩に飛び乗り、ちょこんと座った。
「なぁ、どうしちまったんだ?急によ」
「時が来た、ついにだ」
「あ、そういうこと......ね」
妙に納得したように猫は背中を丸め自分の手を舐めた。
初夏の風が金色の髪を撫で、通り過ぎていった。
黒い猫はイケオジです。