ともしびがあらわれた
ゆうあらって略称よくね
あの日から数年後。
ルクスはあの一件の後、王国から勇者として認められた。
最初は罪悪感から自分ではないことを打ち明けようとしたものの、周りの人や最愛の人からの視線を受け、打ち明けられず、そのまま勇者になってしまった。
彼は『灯火の勇者』。
猛火のブレスレットの効果で炎の固有魔法を扱う。
最初は勇者のくせに実力がない、なんて言われていたが、今では立派に職務を全うしている。
街を救い、英雄と言われたことさえあった。
本物の力を身につけた。
あの日の覚悟に似合うくらいの男になった。
ちなみに固有魔法とは魔法陣を必要とせず、
他の魔法の影響を受けないという特徴がある。
世界各地に点在している遺跡などに眠っている旧時代の遺物や秘宝、神器なんかを身につけると力に目覚める。こういった類のものを集め、王国に献上すると勇者と呼ばれたりもする。勇者なら基本固有魔法は扱えるが、中には特殊な戦い方をしたりするものもいるとかいないとか。
「ただいまー」
灯火がボロボロの衣服で家に帰った。
久々の魔物討伐任務なこともあってか、いつもよりくたびれていた。
グルグルとなるお腹を押さえながら玄関を開ける。
空いた窓から香るスパイスの香りでより一層音が強くなった。
「あ!おかえりルクス!」
「ルミア、ただいま」
家に入ると外で香っていた匂いが一層強くなる。
キッチンに立つ赤髪の女。
数年前の龍討伐の際ともに参加していた魔法少女だ。
灯火の帰りを待ち、料理を作っていた。
「仕事どうだった?」
「ばっちりだ」
「それはよかった!」
太陽のような笑顔で微笑む。
ルクスの疲れはその微笑みに吹き飛ばされていった。
彼女の笑顔を守るためにルクスは戦う。
家に帰るために、彼女の平穏のために戦っていた。
「今日はカレーよ?あなたの大好物!」
白いご飯に山盛りになったカレー。
ルミアが調合したスパイスがいい匂いだ。
より一層食欲がそそられる。
「いただきます」
一口すくい、口に運ぶ。
口にピリッとした辛さが広がる。
鼻で息を吸い、息を吐けば。
口の中に幸せな香りが広がる。
ゴロゴロと転がる芋を口に運ぶ。
芋の甘さとピリッとしたスパイスが心地いい。
「急にごめん、2つ伝えたいことがあるの」
目の前に座るルミアが言った。
真剣な顔で言ったその言葉に息を呑んだ。
「私ね、できちゃったの」
お腹をさすりながら言ったその言葉に。
カタン、と。
スプーンを落としてしまった。
「え?」
「だからね、この前急に気分が悪くなって。不安になったからベルおばあちゃんのとこで見てもらったの。そしたらね、お腹に子供がいるって」
口が塞がらない。
「ついに、家族が増えるんだな」
「そうよ」
真剣な顔で言う。
「俺が父親?」
「そうよ」
幸せそうな微笑みで。
「ほんとに?」
「そうよ」
満面の笑顔で。
頬に涙が伝った。
あぁ、俺は幸せだ。
ルクスは立ち上がりルミアを抱きしめる。
「俺頑張るよ、ルミアと、その子のためにも」
幸せだ。
この時間を噛み締めていた。
数時間前の激闘から一変。
戦いなんてやめてこの時間がずっと続けばいいのにとすら思えた。
「そういえばもう一個の伝えたいことって?」
「それね、この手紙よ」
そう言ってルミアは一通の真っ赤な封筒を取り出した。既に封は開けられており、おそらくルミアが読んだのだろう。
裏を見てみる。
国王からの手紙だった。
王家の紋章付きの手紙。
勇者になった時以来だ。
胸が高鳴ると同時に、ざわついた。
何か嫌な予感がしつつも、その封筒を開ける。
『初夏の風が優しく頬を撫でる季節となりました。
最近暑くなってきていますが、
いかがお過ごしでしょうか。
さてあなたならと思いご案内申し上げます。
勇者の皆様は、魔王を倒す、真の勇者になる覚悟をご持参の上ご参加ください。真の勇者の選定試験を行います。日程は......』
「これって......」
「招待状だ、魔王討伐のための勇者を決める、な」
突然後方から声が聞こえる。
ルミアとは違う女性のものだ。
「あ、姉ちゃん!?」
「ルクス、きちまった」
「アマラさん!急にお呼びしてすみません」
「いいんだよ、可愛い弟とそのお嫁さんのためだ」
アマラはルクスの姉。
料理人をしていて、ルミアに料理を教えていた。
村の英雄兼料理人という謎の肩書きを持つ。
彼女のおかげでルミアの料理は格段に美味しい。
ルミアの才能もあっただろうが。
「なんで姉ちゃんがいるんだ!?」
「ルミアちゃんに呼ばれたんだよ、子供ができたからって。お前に行かなきゃいけない場所ができたからって」
「行かなきゃいけない場所って.....」
この手紙か。
つまり国王の元へ向かわなきゃいけない。
『真の勇者』にならなくてはいけない。
ルミアの笑顔を守るために戦わなくてはいけない。
そのためにも、俺は。
「でも、子供どうするんだ」
「そのための私じゃないか!任せな!」
アマラに肩をドンと叩かれる。
たしかに。
彼女以外に適任はいない。
安心できる人だ。
信頼して任せれる。
「さ、晩御飯の続きと行こう!」
「そうだな、俺たちの将来に!」
「「「 乾杯! 」」」
子供できました。
お姉ちゃん出てきました。