二人の夜
「とりあえず、これ着てろ」
俺は自分の上着を遥香に投げた。
さて、どうするか?
遥香の服を探しに行っても残っている可能性は低そうだし、何より日が暮れるとさらに危険度が増す。2人とも疲労もたまっているし、どこかで休んで明日の朝町に向けて移動るのがよさそうではあるが、幼馴染とはいえ、年頃の女子、それも裸、一晩一緒にいるのは非常にまずい気がする。てか、まずい。休める気が全然しない。どうするかな。
「誠也? セ・イ・ヤ?」
気が付くと目の前に遥香がいた。
俺の上着を着てはいるがそれだけなので、胸元がやばい。
「もうすぐ日が暮れそうだし、いつまでもここにいると怖いよ。早くどこか行こ?」
俺の腕にしがみつき、上目使いで涙目である。理性が飛びそうだ。
「あ、ああ、そうだな」
短く、そう答える。腕が振るえている、いや、遥香が震えているのか?当然か、魔物に追われ幼馴染を巻き込んだ訳だもんな。この杖がなければ2人とも大けがしていたか死んでいたかもしてない。しかも、俺たちは日本人だ。目の前で生き物を殺すなんてこと自体ほぼなかった。しかもゴブリンとはいえ人型なのだ。いろんなことが起こりすぎて冷静でいられるはずがないな。
【主様、私がいた洞窟に一度戻ってはどうでしょう? すぐそばですしあそこなら魔物も来ません。あれでも一応結界付きの神殿ですから】
「そうなのか?」
【はい】
「わかった、じゃ、そうしよう」
「?」
「遥香、こっちだ」
一応声をかけ、体から引きはがして歩き始める。
遥香は慌てて俺の左手を掴むと、周りをキョロキョロ見渡しながらついてきた。
そのまま洞窟に向かう。
「うわー、こんな所があったんだね」
「ああ、ここでこの杖を見つけたんだ」
「杖?そういえばさっきは剣を持ってたようだけど今は杖だね、なんで?」
色々パニクって気づいてなかったらしい……
「俺もよくわからないけどこれは杖だぞ?」
「そうなんだ、すごそうな杖だね」
「だよなぁ、悪目立ちするよな」
「すごく綺麗で立派だと思うけど……確かに目立つね」
そういってほほ笑む。
少しは落ち着いてきた様だ。
俺は地図を見ようと思って思い出した。
上着の内ポケットだった!
「遥香悪い、その服の内ポケットに地図があるはずなんだ出してくれないか?」
「うん、いいよ」
そういって胸に手を入れて探し始める。
(やばい、見えちゃうって)
俺は思わず目をそらす。
「これかな? うん、これだね!」
そういって地図を渡してくる。
心なしか顔が赤くなってる気がするが、きっと気のせいだろう。
地図を受け取ると、足元に広げてみる。
遥香も寄ってきて地図をのぞき込む。
(近い、近いよ)
そうは思うが、指摘するともっと恥ずかしくなりそうなので指摘できない。
町からのルートをたどって現在位置を探してみる。
結構雑な地図なので、細かく追うことはできないが、この場所の小さな滝はほかに目印になる物が周囲に無い事もあり、ちゃんと書かれていた。ただし、名前は小さな滝だった……
「この滝、ちゃんと書かれてるな。小さな滝ってのはどうかと思うが」
「そうだね」
遥香は笑っている。緊張が解けたならいい事だ。
こっちは色々ダメだけど……
しかし、地図に書かれているということはここにも人が来ていたと思われるのだが、ニルヴァーナはよく見つからなかったな。
【ここは結界が掛かっていますから意識してみないと見つからないですよ】
「ぐわ、お前俺の思考も読めるのか?」
【当然です】
「当然ってお前……」
まぁいい、と思っていると、目の前に怪訝な顔の遥香がいた。
「思考なんて読めないよ? どうしちゃったの、大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ、それよりこの地図通りの場所だとすると、意外と町には近いっぽいな。明日は日が昇たら町に向かおう。何にもなくなったが町に行けば何とかなるはずだ」
「そうだね、明日はできるだけ早く町にいこうね」
そうして俺たちは寝ることにした。
壁を背にして遥香が寝息を立て始める。よほど疲れていたんだろう。あっという間だった。
しかし、この状況でよく眠れるな。目の前に同い年の男子がいるんだぞ、しかも自分は上着羽織っただけの裸なのに……警戒心無さすぎやしないか?それとも俺は男だとすら認識されていないのか……
ちょっとだけショックを受けながら杖を抱きながら反対側の壁に背を預ける。
そうすると、あっという間に意識が落ちていった。