初めての戦闘と……
外に出るとずいぶん時間がたっていたようだった。
【主様、魔物がこちらに向かってきているようです】
「助けてー」
滝の音に交じってそんな声が聞こえた気がした。
声はこちらに向かって来ている様で、少しづつ大きくなってくる。
どうやら川の下流から走ってきているようである。
「なんだあれは? なんで裸なんだ?」
思わず目が点になる……
裸の女がゴブリンらしき魔物に追われながらこちらに走ってきていた。
「助けて!」
女と目があう……走ってきたのは遥香であった。
「何やってんだよ!」
「せ、誠也……ダメ逃げてー」
とても危険な状態である。が、何故か俺は冷静だった。
自分以外にパニックになってる人がいると意外と自分は冷静でいられるものだ。などと思いながら手に持つ杖を握りしめて問いかける。
「ニルヴァーナ、あれどうにか出来るか?」
【主様はなぜか体内の魔素が馴染んでおりませんので魔法は無理ですが、あの程度の魔物魔法なしでも問題ないでしょう。必要な知識を送り込みますね】
そういうと、頭の中に不思議な光景が流れ込んでくる。
それは一人の男が杖から剣を引き抜くイメージ。
引き抜いた剣は光り輝き、鞘は粉々になって体に纏う。
黒い衣を纏い光り輝く剣で魔物を打ち倒す姿。
「おいおい、まじかよ?」
【まじです!】
イメージ通りに杖から剣を引き抜くようにやってみる。
剣を引き抜き衣を纏うと、精神が冴え周りの時間が遅くなったかのような感覚に襲われた。
【その衣には纏うだけで身体強化が掛かるようになっています。防御力もかなりのものですからゴブリン程度ではケガさせられる事もないでしょう。安心して倒してください】
ファンタジーすぎる……そしてこの格好は殆どコスプレ……
とはいえ今はそんな事を言っている場合ではない。
遥香がどんどん近づいてくる。
「遥香、そのまま俺の横を走り抜けろ!」
「え、でも」
「いいからそのまま走り抜けろ」
俺は剣を片手に待ち構える。以前とは比べ物にならないほど動きがよく見えるし体も軽く感じる。これならいけるはずだ。
遥香が俺の横を通り抜ける。その後ろに追いかけてくるゴブリン。
その間に割り込んで左手を振りぬきゴブリンを殴り飛ばす。
以前の俺なら吹っ飛ばされていた気もするが、ゴブリンを殴り飛ばすことに成功する。
しかし、ゴブリンは倒れることなくバク転するように1回転すると俺をにらみつけ棍棒を叩きつけてきたたが、俺が反射的に剣を横薙ぎに振るうと何の抵抗もなく振りぬけてしまい、ゴブリンは真っ二つになって倒れこみそのまま霧のようになって消えてしまった。後には棍棒と小さな黒い透明な石だけが残された。
「この石拾っても大丈夫か?」
【それは魔石ですね。ひらっても問題ないですよ】
何かの役に立ちそうなので取り合えず拾っておく。
そのまま振り返ると、尻もちをつき呆然とした顔の遥香がいた。
「大丈夫か?」
声をかけると
遥香は突然泣き顔になるとそのまま駆け寄ってくる。
俺に抱き着くと泣きながら叫びだす。
「馬鹿、馬鹿、馬鹿、相手は魔物だよ? もし怪我したり死んだりしたらどうするのよ」
「だ、大丈夫だって。それよりお前、いろいろ拙いからちょっと離れろって」
「何がまずいの?死にかけたんだよ? 心配したんだよ?大変だったんだよ?」
「あー、だから、分ったから離れろって、お前裸なんだぞ?」
「え? 裸? あっ」
そういって遥香は自分の体を見て顔を真っ赤に染めて慌てて胸を隠す。
「ばかぁ、みるなぁ!」
ぼごぉ!
その瞬間に強力な右フックが俺の左頬に決まった。
そのまま吹っ飛ぶ俺がいた……
「おいニルヴァーナ、ゴブリン程度が相手ならダメージ受けないとか言ってなかったか?」
遥香のパンチはめちゃくちゃ効いてるんだが……
【……】
返事はなかった。
今日ものんびり更新です。
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