不釣り合いな杖
小川で汚れを軽く洗い流した後、滝のほうに歩いてきた。
なるほど、確かに滝の裏には人ひとり入れそうな大きさの小さな穴があった。
中を覗いてみると、奥のほうに明るい場所があるのが見えた。
何があるかわからない為、慎重に入っていくことにした。
狭い、湿った通路を抜けると、6畳くらいの広さの空間に上から光が落ちてきていた。
光はちょうど奥にある一段上がった祭壇の様な石の上に降り注ぎ、その上に30センチほどの木の枝が置かれていた。長年放置されているのか、人が入った形跡もない洞窟の奥に置かれている枝なのに青々と茂っているのが不思議に思えた。
よく解らないのだが、それを見ていると手に取ってみないといけない様な気がして、自然に手が伸びていた。
手に触れた瞬間まばゆい光が空間を埋め尽くし目の前が真っ白になり思わず目を瞑る。
「やば、やっちまったかも……」
そう思ったが後の祭りである。
しばらくすると、光が収まり周辺も落ち着いてきた所でゆっくり目を開く。
「よかった、何とか無事みたいだ。死ぬかと思った」
【死んだりしませんよ】
頭の中にきれいな女性の声が響いた。
「うわ、今度はなんだ!」
見ると目の前にさっきの木の枝が浮かんでいた。
【驚かせてしまったようですね。私は世界樹ユグドラシルの枝の一振り。名をニルヴァーナと申します。さぁ主様、その手に取ってみてください】
「なんだこの超ファンタジーな展開は……まぁ、貰えるものは貰う性質だから貰っておくが、世界を救ってくれとか言われても無理だからな?」
そういって枝を手に取る。そうするとみるみる内に姿が変わっていき、しばらくするととても美しい真っ白な杖になった。先には透明な拳大の丸い石がついており、それを支えるように2匹の蛇が向かい合わせに彫られている。その2匹の蛇の下には虹色の小さな石が埋まっていた。その石を中心に5枚の羽か、葉の様な意匠が付いている。はっきり言って立派過ぎる。これから高校生になろうかという子供が持っていい物ではなさそうである。
【それでは主様、これからよろしくお願いいたしますね】
「ああ分かった」
俺はそのまま、どう見ても不釣り合いな杖を片手に洞窟から出ることにした。
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