光の精霊
朝4時、大陸でも朝は肌寒く朝霧の立ち込める独特な感じはかわらないようだった。旅館の女将さんが起こしに来てくれ、2人とも目を覚ます。
普段よりずいぶん早く起きたのだが、不思議とすっきり目が覚めた。顔を洗い荷物を確認。女将さんから頼んでいたおにぎりを受け取り外に出る。
外はまだ暗くひんやりとした空気の中バス停のほうから話し声が聞こえた。
バスはまだ来ていないようだが、乗り遅れてはたまらないと2人でバス停に向かう。
バス停には他にも自分たちと同じ学生や観光客っぽい人もいる。
全部で8人ほど、意外と少ないなと思った。
ブロロブロロ……
バスがやってきたようだが……
ぼろかった……いや、リムジンバスを求めていたわけではないが昔のビデオで見た途上国の乗り合いバスそのものな感じで、あれ大丈夫か? と思っていると。
「あれ、だいじょうぶなの?」
隣で遥香が言ってしまった。
いや、俺もそうは思うけど声に出しちゃいかんでしょ?
「大丈夫だよ、見た目はぼろく見えるけど頑丈でめったに壊れないからね。それにドライバーの腕は保証するよ!」
と、受付のおばちゃんは言っているが、俺も周りのみんなも不安そうである。
まぁ、ほかに選択肢があるわけでもなく乗るしかないのだが……
小笠原は大陸の拠点として開発されており現在は中央区、西区、東区、南区と別れている。
バスが向かうのは中央区らしい。
到着までは12時間ほどかかるのんびりした旅である。
町を出てしばらくすると日が昇り始める。
道はそれなりに整備はされているようだが舗装はされていないのでよく揺れる。
しかし、日本ではなかなか見れない朝日に照らされた見渡す限りの水田はとてもきれいなものだった。
「すごい景色だね」
「ああ、今の本土ではなかなか見れないよな」
「本土?」
「大陸から日本列島側の事を呼ぶときは本土と言うらしいよ。基本的に日本人しかいないしね」
「そうなんだ、まぁ、ここも一応日本だしそういう呼び方がないと分からなくなりそうだものね」
そんな話をしたり、おにぎりを摘まんだりしながらバスに揺られていった。
バスが通る道は基本的には整備されていて危険は少ないそうで、実際危なげなく進んでいった。
途中、ものすごい速さで追い越していく人や飛ぶように走り抜けていく人がいて、なるほどバスを使う人が少ないのもわかる気がした。来年には自分もバスなんて乗らないのかなぁなどと思いながら見ていた。
バスは美しい田園風景から一転、うっそうと茂る森の中へと入っていく。木々の間からわずかに入る木漏れ日が美しいが、バスの揺れも若干激しくなった気がした。
バスの運転手からは自衛隊や冒険者たちが定期的に魔物駆除をしてくれているので安心していいとアナウンスがあるが、それを聞いて逆にここは大陸で本土のような絶対の安全は担保されていないのだと気づく。今の自分達がこんな所に投げ出されたらどうにもならないな、などと思いながら万が一に備えて昨日買った地図を懐に忍ばせた。
森の中を進み始めて2時間ほどが過ぎたあたりから急な雨に見舞われた。視界が狭くなり地面がぬかるむためにバスの速度も落ちてしまった。それでもゆっくりと進んでいたのだがぬかるみにつかまって動かなくなってしまった。運転手はしばらくアクセルを踏んだりギアを変えたりしていたようだがどうにも動かず乗客に助けを求めてきた。
「皆さんすみません。見ての通りぬかるみにはまって動けなくなりました。男性の方だけで結構ですので手伝ってもらえないでしょうか?」
乗客の中で男性は自分含め7人いたが顔を見合わせると『しょうがないな』といった感じで一人、また一人とバスを降りてゆく。そうなると自分も行かざるを得ない。とりあえずバスを降り、相談の上みんなでバスを押してみるということになり、力の強そうな男性3人が後ろに残りは左右から押すことになりそれぞれの場所に着く。俺はバスの右側に着いたのだがバスに手をかけたところで後ろの茂みがガサガサと騒ぎその奥から【ギギギ、ギギギ】という不快な音ともともに何かが近づいてくる感じがした。
運転手さんが叫ぶ!
「逃げろ! あれはゴブリンだ。早くバスから離れてにげてください」
運転手さんはバス内にいた女性を下した後、バスの前方を指さしながら何か指示をしていた。
バスの外にいた男性たちもそれぞれに逃げ始める。
俺はというと、あまりの事態に動けずにいた。ゴブリンと目が合い、1匹・2匹・3匹・4匹……まで確認したところで
「ぼうず何してる、早く逃げろ!」
大声で叫ばれ”ハッ”とする。
ゴブリンは目の前にまで迫ってきて右手に持った棍棒を振りかぶって俺に殴りかかってきていた。
慌てて左に飛び棍棒を躱すが、ぬかるみに足を取られ転んでしまう。
「うわ、最低……」
泥だらけで気持ち悪いがそうも言ってられない。急いで立ち上がるとバスの前に回り込みそのまま反対側の茂みに突っ込む。道沿いに逃げると他の人を巻き込みそうだと思い。そのまま森の奥へと逃げ込んだ。ゴブリンたちはしつこく追いかけてきていたが、しばらくすると声も気配もしなくなったが、安心すると同時に完全に道に迷っていることに気づき愕然とした。
「はぁ、逃げ切れたのはいいがここはどこだ? 遥香たちは無事だろうか?」
疲れ切った体を休めるように、近くの木にもたれ掛かってそのまま座り込む。
しばらくそうして休んでいると近くで水の流れる音がする。
自分が泥だらけだったこともあり。そちらに向かってみることにする。
「ほぉ、これはすごいな」
そこには5階建てのビルほどの崖とその上から落ちる小さな滝があった。
そのまま小さな滝つぼともいえる泉があり小川が流れていた。
滝には小さな虹がかかりとても不思議な感じがした。
「ずいぶんきれいな水だな。滝で洗えば綺麗になりそうだけど……泉を汚すのはまずそうだ」
なんとなくそう感じた俺は小川のほうで服を洗おうかと思って歩いて行った。
【お願い、助けて!】
どこからともなく声が聞こえた気がした。
【お願い、声が聞こえるなら助けて!】
今度ははっきり聞こえた。
ふと足元を見ると青白く光る小石があった。
気になって手に取ってみると中で小さな光がくるくる回っている。
【私の声が聞こえるの?お願いその石を壊して】
どうもこの石の中から声がするようだ。
壊していいものだろうか? ライトノベル的展開だと魔王の魂とか封印されてて世界が危機になるとかありそうだ……
【そんなことないわよ、絶対大丈夫だからお願い助けて!】
な、こいつ俺の考え読みやがったぞ、怪しすぎる。
【本当に大丈夫だから、ちゃんとお礼もするからお願い助けて……】
泣き始めやがった……
さすがにこのまま放置すると寝ざめが悪いか……
仕方ない
近くの大岩に叩きつけてみた。
パリーン!
ガラスの割れるような音がして石が砕け散る。
中でくるくる回っていた光が飛び出すと俺のもとに寄ってきた。
目の前でふわふわ浮かびながら形が変わっていく。
しばらくすると手のひらサイズの小さな女の子が現れた。背中には綺麗な蝶の羽がついていて全体的に光って見えた。
「あ、ありがとう。あの風隕石があんな簡単に割れるなんて、あなたすごいのね!」
「そうなのか? よくわからないが簡単に割れたぞ、経年劣化でもしてたんじゃないか?」
「いやいや、そんなことはないと思うけど……ともかく助かったわ、ありがとう」
そういって頭をさげる。
「世界を滅ぼす大魔王とかでなければいいよ。大した事はしてないし気にするな」
「こんなプリティーな精霊が大魔王なはずがないでしょ?これでも光の上位精霊なんだからね」
「へぇ、そうなんだ」
「その顔は全然信じてないね……とりあえずお礼も必要だし、あなたには私の加護をつけておくわね」
そういうと俺の体が光に包まれる。光が収まったとき不思議な力が体に宿るのを感じた。
「これであなたには光の加護がついたわ、ありがたく思いなさい。それとあの滝の裏に小さな洞窟があるわ、そこに行ってみなさい。いいものがあるから、今のあなたなら手にできるはずよ」
「まじで?」
「マジよ、さぁ行きなさい。私もそろそろ行くわ。また会いましょう」
そういうとあっという間に飛んで行ってしまった。
「滝の裏ねぇ……」
ひとりごちた後、せっかくだから行ってみることにした。
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