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元伯爵令嬢の下克上と恋愛譚  作者: 高槻いつ


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幕間のサウシェツゥラ

「どう思われます?」

「ああ、月の女神はやはり美しいな」

「……」


アマーリアが立ち去った客室の中、変わらず険悪な雰囲気を漂わせるサウシェツゥラの二人と一人。


真剣な面差しで何かを尋ねるサラセリーカと、彼女の意図を汲みながらもいつも通り茶化すランドルフ、それを慣れたように見守る皇女の護衛騎士、アーノルドだ。


「あの様子では()()どころか、そもそも()()()()のことさえ思い出せずにいるのだから暫くは何も動かないだろう。忘れることが女神のご意志であるのだとすれば現状これ以上のことは出来ないな、賢い番犬もいることだし」


くるりくるりと自身の銀髪を指先で弄び、真面目に今後の見解を連ねるランドルフを歯痒そうに見つめる金色の眼。


「……()()()()が無事に終わるまでは、仕方がないのではないでしょうか」


そんな主に寄り添うように声を掛けるアーノルドの一言で、解決しなければならない問題がまだ他にもあることを示されたサラセリーカは一つ大きな溜め息を吐いた。


「十年以上前に存在を確認された精霊を苦しめるための魔道具(アーティファクト)。あの大広間でそれが使われたことは間違いないとはいえど、堕ちた精霊が見えない以上怪しいところを虱潰しに当たるしかないというのが辛いですね」

「あのワンコも女神の眷属である以上精霊が見えないようだしな、有効な手立てとしては導きの音色で跡を辿り返すことだが」

「我々はそもそもそれがどんなものなのかを知らない、と」


かつて大国の地図上に存在したナウェルという国で初めて確認された精霊を捕らえるアーティファクト、それを追って三人はこのケープトンへやって来たものの未だ手掛かり一つ掴めずに溜め息を吐く。


「アマーリア様と直接会えたのは僥倖でしたが、あの方の様子を見るに母君からは何も伝わっていないというのも厳しい」

「女神が亡くなった時期、彼女は八つかそこらであっただろうから使()()について何も聞いていないのが通常だろう」

「ならばあの月光に名を連ねるはずの彼はどうなんでしょうか。少なくとも私と同じように精霊達が視え、同じようにこの国でアーティファクトが使われていることに気付き、女神が亡くなった当時に九つを越えていた彼ならば何かを知っていてもおかしくはないと思うのですが」


カップを傾けては戻し、再び傾けては揺れる水色を眺めるサラセリーカとそれをただ横目に頬杖を付くランドルフは何度も重ねた会話をまた繰り返す。


ただの調査として訪れたこの国でアマーリアとクラウスに会えたことは想定外だったものの、それは二人にとっては本当に僥倖だった。


何故ならば堕ちた精霊を導くには、アーティファクトの所在を割るには、アマーリアの力が必要であるとは知っているから。


けれど今の彼女はその力を持っていなくて、それを取り戻す手段はない。


ならば傍にずっといたであろう侍従のクラウスから事情を聞きたいところだが、既に警戒をされている以上話を聞くのも容易ではない。


「……ひとまずはアマーリア様の身に何事なくこのまま帰国出来れば良いのですが」

「難しいだろうな。精霊が視えた王太子殿下を暗殺するくらいなのだから、我が身を脅かす可能性しかない月の女神を害さない理由はないだろう」


このまま一度アマーリアとクラウスが帰国すれば、あとは大国サウシェツゥラという名を使って二人を国に呼んで囲ってしまえばいい、この事件が解決するまで。


が、それよりもずっと前に障害はあって、それがこの国であの二人が無事に帰国出来るのかという点。


「やはりアマーリア様に障りないところまでお話して協力を扇ぎ、その上で庇護させていただくのが良いのではないでしょうか」

「私としてはそれでも一向に構わないが、それで矢面に立つ君の身に何かがあったらクロード(皇帝陛下)に殺されるのは私だ。それに現状、あの魔術師団長が付けている護衛と君の精霊達が守っているのだからすぐにどうこうとはならないだろうし、そうなれば何故危険に晒したと後に詰め寄られるのは目に見えている」


アマーリア以上に精霊を傍に置いている自身が注目を引けば、まず意識はこちらに移る。


普段は人目の付く場所では集まりすぎないように、と精霊達へ伝えているから辺りをふわふわしているだけの彼等も、親に等しいサラセリーカが願えば必ず傍に来てくれるからそれを生かしたらどうか、という提案は彼女の父兼主君である皇帝が許さないとランドルフは首を振る。


加え、魔術師団長であるルーカスがクラウスの認知の上護衛を付けていることもあり、更にはサラセリーカが過剰と言える程に精霊を侍らせていることを鑑みれば、その案は到底呑めるものではなかった。


「自らの意思で覚醒しなければ資格を失う、なんてものがなければ無理矢理にでも起こしてしまうのだが」

「そんなことが度重なった結果文明が滅びたが故に交わされた約定が、こうももどかしいとは」


様々な約定が存在する女神の力について煩わしそうに呟くランドルフに、珍しくサラセリーカが首肯した。


事態を終息させるために必要な女神の力は、外部から影響を受けて覚醒させても制御出来ずに暴走する可能性が高い。


本来であればそうならないよう頃合いを見計らって母が子へ己の使命について語り聞かせ共に少しずつ力を分け与えていくものだが、堕ちた精霊達が引き起こした事件のせいでそれは叶わぬものとなっている。


「……ああ、楽しみですねアマーリア様のバイオリン」


ややこしい制約に、事態に、思考を放棄したサラセリーカが遠い目をして数日後の出来事に思いを馳せることにした。


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