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元伯爵令嬢の下克上と恋愛譚  作者: 高槻いつ


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伯爵令嬢と皇族の茶会と2

アマーリア、サラセリーカ両名共に和やかなお茶会を進めていた最中、部屋奥の扉ががちゃりと開き二人の空気が冷めていく。


「やあ月の女神、ご機嫌は麗しゅうかな?」


その原因とはやたらとアマーリアを気に入っている男、大国サウシェツゥラの王兄殿下ことランドルフである。


クローゼットに閉じ込められていたと思しき彼は丁寧に後ろ手で扉を閉めた後にこつこつと迷いもなくアマーリアに近付き、固く重ねられる手を取り口付けを落としては挨拶を述べた。


「離れてくださいませ()()()、アマーリア様は婚約者のいらっしゃる身ですよ」


あまりにも距離の近い挨拶が一方的にされた後、それに応えようとする彼女の戸惑いを察知したサラセリーカは静かに立ち上がって未だに傍を離れないランドルフの手を叩き落とし、向き直る。


「……ああ、我が()よ、挨拶をしただけだろう?そんなに目くじらを立てることではないだろう」

「程度をお考えくださいませと言っているのです。アマーリア様は婚約者のいらっしゃる身で、貴方はサウシェツゥラの王兄殿下としてこちらに参列しているのですよ。アマーリア様は困らせないでください」

「はあ……昔はびくびく怯えて顔色を窺っていたばかりの小娘がこうも口煩く変わってしまったことに私は困惑しているよ」


渦中にいるアマーリアを置き去りに、何だか始まった言い合い。


これに慣れているのか足元のソルはその二人に見向きもせずに気にするなと言わんばかりに自分の手に頭を押し付けているし、サラセリーカの護衛騎士はいつの間にか空になっていたティーカップを満たすために新しく紅茶の支度を始めている。


アマーリアとクラウス、この二人だけが状況を良く呑み込めないまま困惑の視線を交わすこと数回。


「サラセリーカ様、ランドルフ様。茶の支度が出来ましたので茶番はそこまでにしてお客様をこれ以上困らせないでください」


手際良く進められ、次第に立ち上る紅茶の香りに心惹かれるアマーリアにそっと微笑み掛けた騎士はまだ長引きそうな二人の会話を強制的に止めて腰を据えるよう誘導する。


「……大変失礼致しましたアマーリア様、お恥ずかしいところを」

「本当だな、ホストが招待客を蔑ろにするなんてとんだ失態だ」

「サラセリーカ様、ランドルフ様」


椅子に座り、申し訳なさと恥ずかしさとが滲み出るサラセリーカの言葉と表情に対してそんな彼女をからかうランドルフによって再び火蓋が切り落とされそうになったその瞬間に紅茶を淹れてくれた騎士がまた止める。


その声音に諦めを、表情には慣れを感じさせる彼から察するに王兄殿下と皇女は常日頃からこんな感じなのだろうと蚊帳の外な二人は察した。


「んん、こほん……アマーリア様、是非紅茶を召し上がってくださいませ。彼の紅茶は私が知る中で一番美味しいのです」


そんな二人を見ては一度紅茶を口に含んで空気を改め、サラセリーカが話を仕切り直しまだ口を付けられていない紅茶へ目を向けた。


「ふふ、でしょう?」


促されるがままに一口、香りからして美味しいということは察していたがそれ以上に美味であることに小さく驚くアマーリアを見て、自慢気に微笑む姿。


「とても美味しいです。……正直、ハイディ様の紅茶よりも美味しいかもしれないわ」


皇女の可愛らしい一面に同意し、素直な感想を告げては自分が知る中で美味しい紅茶を淹れる存在と密かに比べてしまう。


「……公爵夫人様の?つかぬことをお聞きしますが、アマーリア様の婚約者様である方の母君は()()バーゼルト公爵夫人でいらっしゃいますよね?」

「はい、左様にございます」


ぎりぎり傍に控えるクラリスへ届くかどうかくらいの本当に小さな囁き声であったのにも関わらずそれを聞き漏らさなかった耳の良さよりも、隣国だけではなく大陸も違う大国サウシェツゥラまでハイディの名前は知られているのかと驚くアマーリア。


そして即座に、嫌な予感を覚えた。


ハイディが他大陸まで名前が流れる理由。それは公爵夫人という解釈ではなくて、と思い当たる節を見つけてしまったことでサラセリーカの次の言葉を予測出来てしまったから。


「アマーリア様は夫人の、精霊の棲むヴァイオリンを持ってきていらっしゃいますでしょう?」

「……はい」


予測と違わずやはりヴァイオリンの名手、かつ精霊の棲む楽器を奏でられる人物だからこそ名が知れ渡っている訳で、何だかついこの間もこんなことがあった気がするとそのまま言葉を待つ。


「お願いですアマーリア様、どうか私に一曲聴かせていただけませんか?」

「ポートリッド嬢、私も聴きたいな」

「……後日、でよろしければ」

「勿論構いませんわ、アマーリア様のご都合が宜しいときで。ふふ、お手紙待っています」


この事態が想像出来たからと言って、この方達の要望を退けられるような訳を用意出来るはずがないアマーリアは何とかまた後日という猶予だけ得る。


結果、数日の空きが出来たことでより皇族二人の期待値が上がっていっているのだが、それに気付けども即この場で披露するような度胸を持たない彼女は戻ったら練習に励もうとだけ決意してこの話を流した。


「アマーリア様、本日はありがとうございました。今度は是非我が国へいらしてくださいね、全力を持ってお迎え致しますから」

「ああ、彼女に同意するのは苦痛だが私も貴女の来訪を心待ちにしている。勿論、数日後に聴けるバイオリンもね」


それ以降は特に問題もなくサウシェツゥラの二人と親交を深め、いずれ自国へ招待させて欲しいとの言葉、約束で見送られるのだった。


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