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元伯爵令嬢の下克上と恋愛譚  作者: 高槻いつ


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伯爵令嬢と第二のパーティ3

夜会を目前とした二人は、会場横の控室で名前を呼ばれるのを待っていた。


王子が開く正式な夜会ということで今夜は爵位の低い者達から順に会場へと呼ばれ、賓客の中で一番高貴な者が入場してから次に王子が入場し、口上を述べて夜会が始まるのだ。


「レスカレド王国バーゼルド公爵領から、第一王女殿下の代理としてアマーリア・ポートリッド嬢のご入場です」


傾げる音すらもなく静かに開く扉の下を、アマーリアとクラウスは通った。


本来第一王女として参加する予定だったために、アマーリアの名前は最後から三番目に呼ばれる。大方の貴族が会場内へと揃い、代理としてやって来ただけの場違いの令嬢はどんな者だろうかと値踏みをする観衆に刺されながら、二人は左右に割ける人波の中心を進んでいく。


ある者は獣人であるクラウスをエスコート相手に選ぶアマーリアに軽蔑の眼を、ある者はただ洗練されたアマーリアの振る舞いに関心の眼を、ある者は興味なさそうにただ見やる眼を。


大勢の人間が集まる中、主にその三つの視線が向けられてもハイディの教えの通りただ前を向き続けて進むアマーリアは、最奥の一つ上がる壇上の側で歩みを止めた。


「サウシェツゥラ王国から王兄殿下、及び第二王女殿下のご入場です」


アマーリアが配置に付き、それを見届けた衛兵が読み上げた名前、王子殿下の前に当たる最後の賓客の二人の名前に、空気がどよめく。


「サウシェツゥラ、ですって……?」

「何故そんな大国の人間がこのような場に」

「そもそも海の向こうの国ではありませんか。大陸の違う国が何故……」


人々の動揺を余所に、美しい銀の髪と穢れのない白い髪が靡き揺れる。


サウシェツゥラ、といえば今世稀代の発明家がいるという国で、様々な魔道具を発明しては人々の暮らしを便利にしている技術大国で、資源も潤沢。


そしてそんな面の裏側、十何年か前に隣国を制圧したことでサウシェツゥラを擁する大陸を完全に支配下に置く軍事的強さも持ち、名実共に世界最強を担う。


海の向こう、陸続きではない大国が何故友好国でもないケープトンに賓客として参加しているのかという疑問は当然で、アマーリアもサウシェツゥラの名には驚いた。


「……あ」


近付いてくる足音に耽っていた思考を止め、顔も見えなかったその方を一瞥しようと視線を上げたアマーリアの目の前を、ふわりと銀色の髪が通り過ぎていく。


それと同時に、見覚えのある青年を目にしたアマーリアの口から一言、零れた。


「第二王子殿下の、ご入場です」


クラウスが主の言葉を聞き返す前に、それは主催者である王子の入場によって遮られる。


「挨拶は手短に行きましょう。今夜は私、リシャールの主催するパーティにご参列賜りありがとうございます。皆様方にお楽しみいただけるよう趣向を凝らしましたので、お気楽に過ごしていただければと。……それでは各々、本日の出会いに祝して楽しんで参りましょう」


壇上に上がり、挨拶を述べてから乾杯の音頭を取ったリシャール。それを筆頭に彼の傍に寄るために目前を過ぎていく貴族達を眺めながらも、アマーリアの視線はずっとサウシェツゥラの二人に向いていた。


「……お知り合いですか?」

「……という程のものではないけれど」


いつかのパーティ、バルコニーにて出会った謎の青年。


同国の王候貴族の顔と名前は頭に入っていたはずなのに、それのどれとも一致しなかった訳を悟ったアマーリアは、あのときの無礼を謝るタイミングを測っていた。


大国サウシェツゥラの、王兄殿下ともなればあのときの第一王女への物言いも許されはせずとも見逃されるだろうが、自分はそうではない。


知らなかったとはいえ、知らないで済まされるような事柄ではないのだからとずっと機会を窺うものの、滅多にパーティに出ることのないサウシェツゥラの二人はリシャール以上に人に囲まれていて到底近付けはしない。


暫くその人だかりを眺めていたものの、遂にサウシェツゥラの二人が見えなくなった段階でアマーリアは一度視線を下げ、次に横へと向けた。


「……クラウスは、サウシェツゥラの姫君が気になるのかしら?」

「……」


自分は王兄殿下を見ているが、クラウスはクラウスでずっとサウシェツゥラの美しい姫君を見ていた。


それが少しだけ気になっていたアマーリアは、意地の悪い聞き方だったと理解した上でそれを取り返すように言葉を続ける。


「とても、綺麗な人だものね」

「…………誤解です」


癖なく腰まで落ちるまっさらな白髪を彩る金銀の髪細工、華奢な身体を包み込む鮮やかな光沢を帯びる絹地と繊細な刺繍。


俯きがちな睫毛が隠す金の眼は形良くアーモンドに整って、高い鼻梁から弧を駆ける顎までのラインは造り物の如く造形美を描く。


誰が見てもまごうことなく絶世の美女であることは確かで、クラウスが見惚れてしまうのも無理はないとアマーリアは一人理解するが彼女に目を奪われているのはそういう訳ではないとクラウスは反論したい。


「なら、どういう意味なの?」

「……」


じいっと己を真っ直ぐに見つめてくる赤い眼から、クラウスはふいっと視線を外す。


「……アマーリア様の方が、ずっとお美しいです」

「……」


そしてぼそりとまるで言い訳のように使ってしまった言葉にぱちぱちと赤眼が瞬いた。


「貴女様の方が、ずっと」

「……もういいわ」


違う、これでは言い訳の適当な世辞に聞こえてしまうだろうと、再度目を合わせてそう繰り返したクラウスの目から今度はアマーリアが逸らした。


「何にしても、お声掛けをするのは不可能そうね」


咳払い一つで溢れ出る感情に蓋をし、未だ人に囲まれるサウシェツゥラの二人を見やる。


今王子殿下を取り巻いている者達の挨拶が一通り終われば招かれている楽士達が演奏を始めて舞踏を兼ねるパーティへと変わるだろうが、その後にサウシェツゥラの二人から人が離れるとは思えない。


寧ろ、ここぞとばかりに二人と踊りたい者達で一層近付けなくなるのは容易に想像が出来た。


「……あら?」


ならばまた別の機会を窺うのが賢明かと判断し掛けたアマーリアの目線の先で、不意に人波が割れる。


何があったのだろう、と自然と注視する形でその行方を眺めていれば、波の中心からサウシェツゥラの二人が姿を現した。


「……やはりお知り合いですか?」

「いえ、だからそういう訳では……」


話題の渦中である二人は、人を割って確実にアマーリア達の方へ向かってきていた。


ただ単にこちらの方へ用事があるのかもしれないが、アマーリア達がいるのは飲食の並ぶテーブルからさえも離れた隅の隅。


そして周りには、誰もいない。


「失礼。少しお話宜しいかな、月の女神」


王兄殿下が目前に立ち、口を開くそのときまでアマーリアはそんなはずないと思っていた。


しかしそんな願望にも似たアマーリアの心情など知ったことなく周りの視線全て集めて王兄殿下は、身代わりの伯爵令嬢へと話し掛けたのだった。


王兄殿下が出てきたのは第17話の『伯爵令嬢と婚約者の誘い』最後辺りです。バルコニーでフラれていた人。


そしてこの辺りから同じ世界観である薄幸転生侍女と話が絡んできます。


勿論両方に目を通さずとも問題ないように書いていきますが、もしご興味あればもう片方にもお付き合いいただけますと幸いです。

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