6話
僕は、考え続けていた。
ラスティは日々、虚ろに成っていた。
その時もう少し…。彼に何が起こっているか、考える知恵が僕に
あったなら………。
だが僕は、仕事をし、週末に彼に会う楽しみに
それでも夢中だった。
まるで、お気に入りのドラマや小説の、続きを待つように…。
コテージで、ラスティと再会した時、彼の印象があまりに…。
あまりに透明で、透けているように感じられ
僕は呆然と、した。
「…まだ…アトランティスが、滅亡した時間に…いるのかい?」
そっと、尋ねると彼は、笑った。
そして僕は、彼の隣の椅子に掛け
風を感じた。
明るい、日差し。
そよぐ風に、優しく枝を揺らす木々。
ラスティはそれらを身の内に吸い込むように、顔を上げる。
「…ミュールが飛び込まなければ間違いなく…。
あの時この世界は、終わっていた」
僕はラスティを見つめた。
ラスティは、何も知らない子供を見るように
僕を見、ささやいた。
「…アトランティスが崩壊しただけだなんて
とても、幸運な出来事だったんだ…。
つまり、その時アトランティスどころか、地球が砕け散る
危機だったのだから………」
僕は、喉が詰まった。
惚れた彼女に過去何人かの男性が居たと知らされ…。
それは…そうだろう。と思いながらも、それでもやっぱり
その事実にショックを受けてる事に、似ていた。
「…長い歴史だから……。
僕が知らなくても、そういう事態が何度か
あったろうと想像は、付くけど……」
ラスティは吐息を、吐いた。
「…自然に起こったんじゃなく、アトランティスの科学推進チームの、仕業なんだ」
僕は目を、見開いた。
「…だって…地球を丸ごと一つ砕くのは、結構大変なんじゃ、ないのか?」
ラスティは俯いた。
そして、ビールを手に取ると、口に運びながら、言った。
「宇宙人が持ち込んでものを、改良したんだ…。
その当時、彼らは大きな船を造るのに、夢中だった。
僕らは広大な…それでも島に暮らしていたし、地球はもっと、広かった。
大きなクリスタルの…ピラミッド型の空飛ぶ、都市を作り上げ…。
それで空中を移動する巨大な船を、作り上げた」
「…ラピュタみたいな?」
「発想はそうだけれど…。でももっと、モダンだったよ。
クリスタルの巨大ピラミッドが、空中を漂うんだ」
僕はその時初めて、アトランティスの文明について
考えた。数々の、神秘だろう、その文明が、とんなだかを…。
「…でも実験は、失敗した。
それは確かに宙に浮き、何千人をも乗せて漂ったけれど
都市を離れ…エネルギー源を離れると途端
エネルギー循環が上手くいかず、砂漠の真ん中に、どすん!と
落ちたんだ………」
僕は、ラスティを、見た。
「…それは…とても無様だな」
ラスティは笑わなかった。
「エネルギーが確保出来ない以上…どうやってそんな重い物を
元の場所に戻せると思う?
何千人もの人を救出する手段が、考えられた。
大勢の能力者が集められ、その都市を離れ
エネルギーの満ちあふれていない土地で、
ミュールが彼らにそのエネルギーを送り…。
彼らは次々と人々を、瞬間移動させた…。
都市へと。
それでも遭難した人の数は、多すぎた…。
半数以上を送り…そしてもう一度、クリスタルを
持ち上げられないか、やってみた。
…てんで、駄目で………。
そこで僕らが、駆り出された。
重い物を持ち上げるのが、得意な能力者達だ。
皆が、巨大なクリスタルの周囲に距離を開けながら
並び囲み………。
…本当に、あれは大きかった…。
囲んだ面はガラスのように…太陽の光の反射で周囲を、照らしていた。
僕はどれだけ頑張っても…。
あんなでかい乗り物を宙に浮かせられる想像が、付かなかった…」
「…乗り捨てられたのい?」
「…ちゃんとアトランティスが崩壊した時、都市と一緒に滅んださ。
…つまり、ミュールのエネルギーを我々一人一人が受け取り…
その小山を、動かしたんだ。
自分でも、無理だと思ってる事が目の前で
起こってる。
あれは…感動したよ」
僕はその巨大なピラミッドが、宙に浮く様を、想像した。
「…それは、都市を離れた場所を移動する為に、造られた。
都市の中でそんなでかいものが空に浮かんでいたら
邪魔でしょうがない…。
僕は連中が、エネルギー回路を作り替え
エネルギーの乏しい場所でも確保出来る方法を
見つけだし、それが…都市を離れ
浮遊都市として機能する為に取り組むのだと
思っていた。
が連中はその大失敗で懲りて、別のものを、造ったんだ…。
つまり、アトランティスのみならず、地球を丸ごと破壊する程の
エネルギーの集積機を…。
多くのエネルギーが集積出来ればもっと…
多くの事が出来る。と謳って…。
たが実質、今の文明にそんな物は
必要じゃ、無かった…。
人々は満ち足りていたし、満足だった。
過ぎた物を手にすれば扱いを間違えて、不幸になる。
…結局、そういう物で、だが住処の地球まで無くしそうに
成ったんだから………。
ひどい発明だとしか、言えない……」
「彼らが発明したのか?」
ラスティは、深刻な顔をし、首を横に、振った。
「…宇宙人の使っていた装置を、改良したんだ」
「…失敗…って………。爆発したのか?」
ラスティはまた、首を横に、振った。
「…集めたエネルギーは本来、都市の経路を辿って
各ピラミッドに散り、そこから…多くの施設や都市
民家へと運ばれる予定だった…。
でもその膨大なエネルギーは、変換装置を破壊し、
地球のコアめがけて、一直線に注がれ続けた」
僕は、その凄まじいイメージに、呆然と、した。
「一直線に?」
ラスティは微かに顔を揺らし、僕は尋ねた。
「膨大な、エネルギーが?」
ラスティは早口につぶやいた。
「…制御はまるで不能で、エネルギーの向きを変える事が出来ず
暫くしてアトランティスの地表は、波打った。
…そんな凄まじい火柱がコアに向けて突き抜け続け…。
アトランティスはその形を保つのも、時間の問題だと、思われたし
我々は必死でただ、脱出する為の努力を、続けた。
…凄まじい晩だった。
やがて地表から、火柱が上がり、炎で都市は、埋め尽くされ
地表の揺れはどんどん激しくなり…
僕は、思った。
このままだと、どこに逃げても……。
この揺れは、収まる事が無いのではと…。
この揺れは、どの土地にも及びその内……。
この大地全てが火柱を吹き、いつか……。
粉々に……………
その時の恐怖は、あの場に居た者にしか、解らないだろう。
我々だけし゛ゃ、無かった。
あの時、地球上の生き物全てが……。
どこにも逃げ場無く、滅び去る恐怖に、包まれた」
僕はその、生々しさに、言葉を失い、ただ、ただラスティの横顔を、見つめた。
だが、ようやく思い出して、つぶやいた。
「…でもミュールが、何とかしたんだろう?」
声は、掠れていた。
ラスティは、頷いた。
「僕は、その場に居なかった。
だが装置を止めようとしたエモオンテが……。
ミュールは逃げろと言い、自らその凄まじいコアに突き進むエネルギーの中に
身を投げて、自らの体でその流れを………変えたのだと」
…………僕は、涙を感じた。
どうしてだか、解らない。
その人智を超えた凄まじいその場所で、ミュールがどれ程必死だったのかを
思ったせいなのかそれとも……。
そんな場所へ、入って不可能とも言える、向きを変えようと挑む
決して諦めないミュールの姿に、感動したのか………。
「…か…わったんだろう…?
だから今、僕らはここに居る」
ラスティはゆっくり…とてもゆっくり、頷いた。
「…ミュールに続き、もう二人、飛び込んだ…。
ミュールが指一本動かせなくとも
生きていたのは、彼らのお陰だと……。
そしてミュールは、飛び込んできた二人に
自分のなけなしの能力を使い
シールドを張って、守ったと………。
二人は、自分達こそ、ミュールを助けたくて
飛び込んだのに…!と………。
泣いていたと………。
エモオンテはもう、必死で、宇宙から吸い寄せられるようにその装置に流れ込む
エネルギーを切ろうと、した………。
ミュールとその二人を救おうと…他の者達も必死に成った…。
やがて、装置は止まり、エネルギーは消え…。
ミュールは力を失い、地球のコアに向かう深い穴に…。
落ちていった。
集まった者達は必死で彼を、止め、掴み、引き上げた…。
彼は生きていたが、体の機能の殆どが失われ…。
気絶したまま、目覚めなかった」