4話
僕はその時自宅でふと、思った。
超能力者って、どんな感じなんだろう?と・・・。
だがそれを口に出すより先にラスティが僕に振り向き、微笑んだ。
僕は笑って言った。
「まるで僕の言おうとした事が解るみたいだ」
ラスティは頷いた。
「君は質問をする前僕に、その考えを向けた。
頭に君の訊ねたい事が、浮かんだ」
僕はびっくりした。
「それ、人の心が解るって事かい?」
ラスティは笑った。
いつも彼はとても軽やかに、そして爽やかに笑う。
「・・・そうだな。言葉に出す前の意識の段階で僕と君はとっくに会話してたって事だ」
僕は首を、捻った。
「精神エネルギーの一種で人に向けて思考波を発する。つまり、テレパシーだけど、敏感な受け手、もしくは思考波を読むのに慣れた相手は、向けられただけで解読出来る。言葉に出さなくても」
僕は確かに、ラスティを意識した。でも・・・それだけだ。
「たったあれだけでつまり・・・僕が言おうとした事が、解るのかい?」
ラスティは頷いた。
「動物は大抵がとても優秀な受け手だ。
人間の言おうとした事が解る」
僕は暫く呆然とした。
「そりゃ・・・確かにそういう感じがする事はある。
つまり、犬と居る時なんかに」
ラスティは少し気の毒そうに僕を、見た。
「僕ら人間は自分の見聞き出来る範囲が世界の全てだと、思いがちだ。
けどもっと違う波長はたくさんあって、僕らが感知出来ないと思ってる意識レベルでも正確に読みとれる者も、居る。
つまり、時間が同時に存在するレベルや・・・。人が意識しない無意識レベルでの波長をだ」
僕がまだ彼を見つめているので、ラスティは付け足した。
「つまり言葉に出さなくても会話出来るとしたら、瞬時に膨大な情報を交換し合える。それに、距離も関係ないんだ。
どれだけ離れていても、頭に思い描いて強く波長を合わせれば」
僕がまだ不思議な者を見るようにラスティを見つめているのでとうとう彼は、僕に首を傾けた。
「だって、テレビだってそうだろう?
チャンネルを合わせれば、番組が見られる。
でも出力してる電波はうんと遠くから、送られて来るだろう?」
僕はやっと、ああ。と頷いた。
「それに考えが聞こえるのは、ラジオに近い」
「つまり君の頭の中には他の人が受信出来ない、テレビやラジオが内蔵されているって事かい?」
ラスティはまた爽やかに笑って、首を横に振った。
「これは実は誰にでも内蔵されている。
皆その存在が自分の中にあると知らず、使い方も知らないだけで。
例えあっても、それがあるって知らなければ、使えないだろう?」
僕はびっくりした。
「じゃ、僕の中にも、あるのかい?」
「当然、あるさ。強く意識して、使い方を覚えれば、君にだって出来る」
「・・・じゃあ・・・。念動力とか・・・つまり、手を使わずに物を動かす力だけど。僕にも出来るかい?」
ラスティは少し周囲を見回し、落胆したように吐息を吐いた。
「昔は空気の中に、“力"が満ちていた。
以前言ったろう?宇宙エネルギーの一種だと」
「ピラミッドが集積装置だっていう、あれかい?」
ラスティは頷くと、ささやいた。
「今はとても膨大な精神エネルギーが要る。
神に近い存在だと言った、我々の時代随一の能力者、ミュールは、銀河の中心の、エネルギーの溢れる場所と精神が直結していたから、膨大なエネルギーを扱う事が出来た。
けど我々は、生活で使うエネルギーがそこら中を被っているその中から、力を得る事で能力を、使っていた。
今の時代、ミュールのような者ならもう少し、能力を使えたろうが・・・。
エネルギーを得る宛の無い我々では、物を持ち上げるだけでも、途方も無い精神エネルギーを消耗するだろうね。
例え出来たとしても、効率良くエネルギーを得る方法が見つからなきゃ、疲れ切って、精神で物を動かすより手で動かした方が余程マシだと、思うだろう。
必要性の無い力は使われなくなる。例えそれが出来るとしても」
僕が、まだラスティを見つめるので彼は続けた。
「物質をどういう形にしろ変容させるには、とても多くの“力"が要るんだ。
瞬間移動というけれど、肉体を移動させるのはとても大変で多くの力が必要だけど、どうしても飛んで行って逢いたい人が居るとする。
そういう時、人は精神を飛ばす。
うんと、軽いし扱いやすいから」
僕はまだ、ラスティを見つめた。
「けど君の大昔居た時代では、出来たんだろう?」
ラスティは笑った。
「軽々とね。
だって10キロある物を持ち上げるのと、10グラムの物を持ち上げるのと、どっちが楽だい?
僕らの時代は物質の変容はたった10グラムの物を持ち上げるだけの精神エネルギーで実現出来た。
だから君もそういう環境に住んでいたら、超能力なんて、不思議な物でもなんでもなくて、人間の持っている当たり前の能力だと、思えるようになる」
僕はつい、身を乗り出した。
「つまり、誰もが当たり前に超能力を、使っていたんだね?」
ラスティはだが、少し俯いた。
「そうだね。でも遺伝子の配列とかで、どうしても能力が使えない者や・・・。
得意、不得意もある。
その力を使う事に抵抗を感じない者も居れば、必要ないと、思う者も、居る。
なぜって・・・」
僕の視線を読んだのだろう。ラスティは言葉を区切った。
「なぜって、刃物を使うのには、訓練が居る。
慣れないスポーツをするとひどい筋肉痛になったりするし。
どれだけ能力があっても、それが嫌で、使わない人間だっている」
「超能力って、魔法みたいに使えるんじゃなくて?」
ラスティは苦笑した。
「なんだって、使いこなすには訓練が必要だろう?
第一、物事にはいつだって、リスクが存在する。
そのリスクを乗り越えられる者が、望む事を実現させられるんだ。
でもリスクを重大な事で、控えようと思えば・・・。
それを普通人は、避けるだろう?
ただ、本人の選択だ。
超能力が自分に必要で、リスクを感じてもまだ使いたいと思うかどうかは」
「つまり・・・超能力にとってもリスクって・・・」
「頭痛がしたり、体が捻れたように感じたり?使う能力によってもそれは違う。空間移動だって、飛ぶ先をちゃんとイメージして固定出来なきゃ、とんでも無い場所に出て、ひどい目に合うし、体質に合わないと、酔ったようになったり、耳鳴りがしたり。色々さ。
船乗りに成りたくても、ひどい船酔いする者には、向いていないように」