3話
彼はバーベキューの良く焼けたウィンナーを櫛に刺して、口に運ぼうとし、私は言った。
「火傷する」
ラスティは笑うと、櫛を口から離した。
パチパチと炭火が弾ける。
「・・・そう言えば・・・言ってたろう?
例の・・・国では、特別なエネルギーを使っていたと」
日常会話の延長で、私が尋ねるのに、彼は慣れた様子だった。
少し俯くと、ささやいた。
「満ちていた。国中に。
至る所に・・・。それは脳を、全ての細胞を活性化し・・・そして次々に人は超常能力を目覚めさせた」
ラスティは顔を上げて、私を見た。
「こことは丸で違う。空気の中にそれは溢れていて・・・力が常に、漲っていた・・・。
頭の中は澄んで・・・何でも出来る気に成る。
体の淀みは自然に無くなり・・・常に代謝が起こり、病も少ない・・・。
少し集中すれば簡単に・・・物を、浮かせられた。
なのに・・・」
首を振る彼を、私は見た。
彼はちらりと見つめる私に視線を送ると、またささやいた。
「・・・ここでは丸で枷のように、全てが鈍く、重い・・・」
私はつい、彼に尋ねた。
「牢獄の・・・よう?」
ラスティは笑うと、頷いた。
「ここと比べるとあの世界で私はまるで別の、生き物のようだ・・・。
天使だとか魔女だとか、魔法使いや妖精は・・・あの世界じゃ全然特別な存在なんかじゃない。
でもここでは・・・」
私は少し、焼けたタマネギをひっくり返してつぶやいた。
「神話だ」
ラスティは頷いた。
「その・・・エネルギーはつまり・・・どんなエネルギーなんだい?」
僕の質問に彼は少し首を傾けた。
「宇宙エネルギーの一種で・・・銀河の中心に溢れる程存在している。
それを引き入れ、自在に使うやり方を遠い祖先が、訪れた宇宙人から学んだ。
あの当時は多くの空からの訪問者と行き来が、あったから」
「じゃあ君も・・・宇宙に出たのか?」
ラスティは俯いて、笑った。
「そりゃ・・・出かける者も確かに、居たが・・・行って、どうする?環境も生態も・・・桁外れに違うのに」
「大変な苦労かい?」
ラスティは頷いた。
「田舎の、宿屋のように・・・連中は来て、欲しい物を手に入れ、代わりに我々でも使えそうな物を置いていき・・・また去っていった。
でも・・・国に満ちたエネルギーのせいで・・・それに合わない者は訪問を控えたから・・・どちらかというと友好的で、精神レベルの高い者が多かった」
ラスティは私をじっと・・・見た。
「この銀河にはひどい淀みがある。
真っ暗な空間で、淀みきったその場所に住まう精神生命体は・・・我々のエネルギーを嫌う。
そう・・・丁度、悪魔が神の光を嫌うように・・・。
そいつらは、本来の生命体のような自然な発育から見放されているから・・・淀みを好む。
精神の淀み・・・肉体の淀み・・・。
つまり我々が、悪魔と呼ぶような生命だ」
「・・・本当に存在するのか?
そんな生き物が」
ラスティは真顔で私を見た。
「でも手足がある訳じゃない。
エネルギー体で体を持たず、感応力がある。
だが迂闊にそいつらと波長が合うと・・・。
残酷な事が、大好きになる。
生かす力とは反作用の力で、滅ぼす事で、生きているから。そんな風に思い出すと時々、悪魔と交流を持つ者はあの特殊な儀式で・・・連中と通じ、力を得てないかと・・・思う程だ」
「じゃ・・・そいつらはエネルギーの塊なのか?
でもどうやってここに来る?」
「波長が通じると一種の回路が、出来るから。
その回路を伝わって、意志疎通が出来る。
呼び出した人間の意識をすっかり乗っ取れたら、まるで抵抗無くその人間を操れるだろう。
自分の考えややり方を少しずつ・・・教え、そして段々慣れさせて、やがて乗っ取り、操る。
そして回路を通じて、淀みのエネルギーを吸い上げる。
何一つ産み出す事の無い暗黒の地に住む者達の唯一の・・・活力源だ。回路が通じればそれに全勢力を使って吸い上げようとするだろうね」
私はつい、ぞっとしてラスティを、見た。
「君はそういう奴らと・・・出会う・・・と言うか・・・通じた事が、あるのか?」
ラスティは笑った。
「だから・・・奴らに捕まらない為に、皆我々が使っている宇宙エネルギーに囲まれて暮らすんだ。
それが濃ければ濃い程、シールドの役目を果たすから。
昔は儀式を通じて連中と通じる人間も居たろうが・・・。
けれど我々の国には入り込んだり出来なかった」
「・・・つまり君たちの宇宙エネルギーは連中に取っての・・・神の光のようだったから?」
ラスティはその通り、と笑った。
私は少し、ぞっとした尋ねた。
「今その・・・君たちが昔使っていたエネルギーはこの地球には、無いんだろう?
じゃ・・・もし連中と回路が通じたら・・・為す術も無いじゃないか」
ラスティは頷いた。
「まるっきり無い訳じゃない・・・。
ピラミッドが昔から、あるだろう?
あれがかつて我々が宇宙エネルギーを集積する為の装置だった。
それに生命のある所に必ず宇宙エネルギーは存在している。確かに、昔に比べれば、格段と少ないけど。
でも時々、とても気持ちよくて体の疲労も重みも取れ、とても清々しい気持ちになる場所があるだろう?
その場所には宇宙エネルギーが存在している」
「それが・・・満ちあふれていた?」
ラスティが笑った。
「もっと、濃く」
私は何となく・・・それが濃い場所にずっと居た古代の彼らが超能力を持っていた理由が、理解出来た。
脳がきっともっと・・・もっともっと、活性化していたんだろう。
睡眠不足で仕事をしていると、全然はかどらないのに、十分休養を取り、すっきりした頭だと作業能率が格段に違うのは、当たり前の事だ。
でももっと・・・頭を隅々までクリアにしたら・・・超能力と呼べる・・・第六感がもっと・・・作業能率を、上げる事だろう・・・。きっと。
それは彼らにとっては当たり前できっと今のように、超能力がある人間を特殊な存在だなんて、思わなかったに違いない。
むしろ・・・超能力のある人間が、彼らにとっての人類だったろう。