悪役令嬢的な立ち位置の女の子に婚約破棄を突きつけようとした王子様ですが来世の記憶に目覚めたので死にます
「エリザベス公爵令嬢! お前のアイラに対する陰湿ないじめ――いや、もはや過激な犯罪というべき行為はどう足掻いても許されるものではないッ!」
「ケイン殿下、お待ちください! 私には何の身に覚えもありませんわ!」
華やかな学校の卒業パーティには似つかわしくないであろう大きな声音が辺りに響き渡る。
「ええい、黙れッ! 父上達が勝手に決めた婚約など最初から無理があったのだ! もういい、エリザベス・パツキンドリル嬢。お前との婚約は破棄――」
その瞬間、不思議なことが起こった。
パッションルーツ王国の第一王子であるケイン・フォン・パッションルーツはあまりの激情をその身体の内に滾らせた為に使用される筈の無かった脳みその大部分が一時的に活性化し、天文学的なあれやこれやなんやこらで異なる世俗の知識が呼び起こされた。
それは今世のものではなく、また前世のものでもなかった。
そう、それは来世の記憶だった――。
「……ん?」
気がつくと何処ぞのパーティ会場だった。
いやいや、記憶はある。俺の前世は――あいや、今世ではこの国の王子様だ。
名前はケイン。ここは学校の卒業パーティー。
そんなご立派な祝宴をぶち壊す台無しイベントを作り上げてたとこ……だ……?
「ケイン様ぁ~? あたしぃ~あの女が怖いから早く済ませたいぃ~」
俺の近くに擦り寄ってきた気色悪い女――ああ、確かこのアバズレが今回の事件の発端だったな。
名前はアイラ・ラライラ。ラライラ男爵家の令嬢。
俗に言う”ぶりっこ”で、顔の整った男の前でなければその顔を醜悪な表情に変え、横暴な我侭娘と化す。
この学校に入学してからというものの、第一王子である俺を含めて国の有力な大貴族の子息達に擦り寄り……んん?
「アイラ、安心しろよ! オレ達がいる限り、お前には指一本触れさせないぜ!」
「レイと同意見ですね。貴女のことは僕が守ります」
「あ~、ルークってば抜け駆け発言してるー。でもまあ、ボクも右に同じくかな~」
「御身……守る……」
「我々がついてますよ、アイラ」
お、おおお、思い出してきたー。
エリザベスと同じく三大公爵家の跡取りが二人に、国教である宗教を取り纏めている教皇の坊っちゃんに、暗部のニンジャくんと宰相の息子さん。
この中に俺もいたのかと思うと頭痛がヘディェックだな。頭痛が頭痛って痛そう。
アバズレ女はどうやったのか皆目見当もつかないが、学校に入学した有力貴族の令息たる御曹司達を骨抜きの間抜け腰抜けの腑抜け野郎にしてしまったのである。
何人かは婚約者がいたのに、だ。
対面にいるエリザベスをはじめとした件のご令嬢達は泣きそうな顔でこちらを窺っていた。
ご令嬢達の表情が心にグサっときたね、うん。
さっさと行動しよう。
「ケイン様ぁ?」
動きを見せようとしない俺に問うてくる曲者の方へ、くるりと振り返る。
それと共に腰の剣を抜き放ち、ぶった斬る!
「この淫売がぁあああ! 下等な貴様がこの俺に何をしたぁあああ!」
ちなみに俺は魚人ではないが念の為。
……あ、いけね。怒りのあまり仕留め損なった。
抜かったわー、まじ迂闊だわー。
「ぎゃあああああ!」
そこは「キャー」とかじゃないんだな。害虫ばりにのた打ち回りおって。
ノンキに考えてる場合ではないか。ちょっとだけスッキリしたけど。
先の一撃は来世からご令嬢達の分だ。俺の分はトドメに取っておく。
「アイラ!? きゅ、救護班っ!」
「殿下!? 何を!?」
「応急処置しなきゃ! い、痛いの痛いの飛んでけ~!?」
「傷は……浅い……!」
「乱心なされたか!?」
まずはコイツらの目を覚ましてやらないとな。
俺は目覚まし王子、やればできる子!
「鎮まれぇえええぃ! 誰も俺に逆らうなぁあああ!」
ちなみに俺は首領と呼ばれてはいないが念の為。
未だに騒がしい中、声高らかにアバズレ女へと詰め寄る。
「この俺が遅れを取るとはな……一体何をした? 催眠か洗脳の類か?」
「あ、あ゛あぁ、殿下゛ぁ~。い゛っだぁい――ッ!?」
アバズレ女は恐怖に顔を引き攣らせた。
自分自身へと想いを寄せてきてくれていた相手が突然斬りかかったらそうなるか。
「ごんな゛の゛、攻略ルートにな゛がっだ……バーレ゛ム゛でぎだの゛に゛」
なんぞ呟いていたが、俺の怒りはまだ収まってはいない。
第一にこの毒婦を生かしておく訳にはいかないだろう。
残念なイケメン共の目を覚ましてやる為にも始末する。
「自惚れるなよ小者が!」
ちなみに俺は砂人間ではないが念の為。
駆け寄ろうとしてきた貴族の子息達でもどうしようもない高速剣技。
このアバズレ女には勿体無い程の剣筋だったと後世に語り継がれることだろう。
「ぐえぇぇ~」
バタリ、とアイラ・ラライラという名のどうしようもない人間はこの世を去った。
来世では俺みたいな真人間になることを祈っておこう。
「……巨悪は去った!」
会場にいる全員に聞いて貰うように宣言する。
あ、国王陛下こと父上、いらっしゃったんですね。
パーティー会場にいたこと、すっかり思い出し忘れてましたよ。
俺が目を覚ます前まで凄い顔で怒りを顕にしてましたよね。
今はもう驚く程の無表情で、その心の中を察することができませんが。
「エリザベス。すまなかった――もっと早く目が覚めていれば」
「――いえ、いいんです。やっとお気付きになってくれたのですね」
建前上、調子のいいことを言ってはいるが来世の記憶に目覚めた俺としては望むところな展開へと持っていくつもりだ。
エリザベス嬢自身は王族相手であれば誰でもいい気がするので弟の第二王子あたりとくっつけさせよう。
「だが、この一件は謝って済む話ではない。なあ、そうだろう? お前達」
腑抜け共へと向き直りながら、いい加減に目が覚めたであろうことを表情から察する。
俺に対して少し畏怖の感情が読み取れたが……恐慌状態でも説得はまあ大丈夫だろう。
「俺達は婚約者の愛に報いるべきだった――皆、愛されたいから愛してくれたのだ。いや、愛とは見返りを求めぬもの。そもそもが愛したいから愛したのだろうが、それでもやはり愛をそそいでくれた相手にあまりの仕打ちだった――本当に愛すべき者へと愛を返すべきだった。愛無き剣に振るう価値などあるだろうか? 愛してくれた者へ愛を返さず誇りが持てるか? やはり愛に報いてこそ真なる愛に生きることができるのだ……」
アイアイアイアイお猿さんではない、念の為。
とりあえず愛と言っておけばなんとかなる筈だ。
「この一件で廃嫡される者が出るかもしれない。だが、俺はお前達に今一度機会をやりたい! 人は過ちを知ってこそ学ぶのだと! この俺に証明してみせろ!」
声を張り上げてそれっぽさを演出しておく。
俺は早く終わらせたいのだ。
「いいか、お前達は――愛を貫けよ」
言うだけ言って俺はエリザベス嬢へと振り向く。
イイ女だとは思うが来世の記憶に目覚め、一目惚れをした相手がいる俺にとっては別になんでもない相手だ。むしろ愛しの彼女とは比べるまでもなく、この今世こそがなんでもない無価値な世界と言える。
さっさと行動しよう。
「エリザベス。此度の一件は俺が全責任を取る! 故に俺はお前と婚儀を結ぶことができないだろう。その代わり、弟と仲良くしてやってくれ……俺と違って真面目だし、なにより愛をもって暮らしていける筈だ。愛を貫いてくれる筈だ」
「ケイン殿下、何を――!?」
再び、エリザベス嬢に背を向ける。
直接、真ん前で見せつけたらトラウマになっちゃうかもしれないからな。
少しでも緩和する為の苦し紛れな配慮だが。
あのアバズレ女を斬った所為で血塗られたこの剣は使いたくなかったので懐に忍ばせた豪華な装飾の短剣を抜き放つ。
「今回の不始末! このケイン・フォン・パッションルーツが命で償おう!」
最初は腹を斬ろうと思ったが手早く介錯してくれる人がいなかったので胸を一突きすることにした。
そこには勿論、なんの躊躇も存在せず、戸惑いなどある筈もなく、一切の迷いが発生し得なかった。
来世で愛した彼女を思えばこそ、死の苦痛や恐怖など全く在りはしないのである。
来世にて――
「君の王子様に俺はなる!」
「ご、ごめんなさいッ!」
「ガビーン」
一世一代の告白は時たま見せるサイコなところが怖いと断られましたとさ。
おしまい。
・没案1
第一王子「ええい、放せ! 俺は愛に生きねばならんのだ!」
取り巻き「いや、死のうとしてますよね!?」
・没案2
王様「死ぬ前に魔王倒せや」
王子「おk」
↓
王子「魔王ー! お前を殺して俺も死ぬゥー!!」
魔王「なんか病んでる奴が攻めてきたぁああ!?」
というネタ入れようか迷いましたニャ。




