さてこれからどうしようか
「うっわ…すげえ綺麗な色…」
姉が感嘆を漏らす。
姉ちゃんは綺麗な紫の艶がかかった美しい髪をポニーテールに縛り、淡く光る桃色の瞳をしている。
姉ちゃんにしては綺麗な色じゃないか…
しかし何故だろう…相手の姿を見ることができるんだから姉ちゃんの姿は見ていたけど、よく見ると本当に綺麗だな…それにしても…なんか、俺を見た時の姉ちゃん…何も反応がなかったな…なんでだろう…弟の姿には興味ないってことかな…
「…?あ、またお前ネガテイブな事考えてるだろー!大丈夫だって!お前らしい色じゃん!」
姉ちゃんがバシバシとと俺の肩を強く叩く。
…そうだよな。いい加減直さないと…
「…痛いよ姉ちゃん」
あ、悪い悪い!と悪びれる様子もなく姉ちゃんは手を引っ込めた。
「…ありがとう」
呟いた言葉は、きっと姉には聞こえていない。
「しっかし、服装も異世界仕様か。気が利いてんなぁー」
姉ちゃんが自分の着ていた服を引っ張る。
姉ちゃんが着ている服はイラストなどで見るような典型的な妖精が着ている様な服だ。
まず、セーラー服の様な襟がついていて、四角い襟の代わりに、後ろにはフードがぶら下がっている。
スカーフは、木ノ実の殻ようなものではみ出さないように留めてある。
下はスカートではなく短パン。
裾が、真ん中、右、左、とみつまたに分かれており、スカートのようになっている。
履いているのはブーツだ。
よく見ると、ポニーテールの髪は頭をぐるりと囲むように編み込んである。
それからシンプルなピアスもしているようだ。
自分の耳をそれとなく確認すると、同じタイプのピアスが勝手に耳についていた。
僕真面目キャラなんだけどなー
そう思ってステータス画面を確認すると、なるほど、面白いことが色々書いてある。
【ユーキ・リノネイア】
14歳。
自称真面目なネガテイブ思考。
〈職業〉
現在なし
〈種属〉
Fee, die reist《旅する妖精》
〈性格〉
Thinker《考える人》
〈特性〉
двойник
〈使える魔法〉
なし
〈お金〉
0W
*Wichtigの略。ドイツ語で「大切なもの」
金はないわ使える魔法もないわで散々だな。
清々しいくらい何もない。
さしずめ僕はレベル1ってとこか。
しかも、名前のところ、ここではこっちを名乗らなくてはならないらしい。
「ユーキ」か…なんか「勇気」みたいでちょっと名前負けしてる気がする。
開いていたステータス画面を覗き込んだ姉が鼻を鳴らしてコメントしてきた。
「ニートで金も力もないクズってことか」
「っうるさいな!だったらねぇーちゃんのはどうなんだよ!!」
抵抗する姉ちゃんを物ともせず、力任せに姉ちゃんのステータス画面を引っ張り出す。
「ばっ…この…」
短い悲鳴とともに、ステータス画面が開く。
【リース・シュネーナ】
16歳。
活発な馬鹿。器用貧乏。
〈職業〉
Air hunter
〈種族〉
Fee, die reist《旅する妖精》
〈性格〉
Healer《癒し人》
〈特性〉
Liar
〈使える魔法〉
carefree《能天気》
recovery《治癒、回復、立ち直り》
〈お金〉
0W
*Wichtigの略。ドイツ語で「大切なもの」
「能天気!!能天気…あはははは!」
「笑うな愚弟!!」
姉ちゃんは必死にステータス画面を閉じようとしてくる。
それを華麗に避けながら、姉ちゃんのステータス画面を眺める。
(…特性、ライアー?…なんでだろう?)
違和感を覚えたその時、姉がステータス画面を閉じた。
「はー…はー…あ、そうだ、名前…」
「名前?あっ、そうか。姉ちゃんも僕もこっちの名前があるね。姉ちゃんはリースか」
「お前はユーキだな」
?案外スムーズに呼ぶな…慣れてるみたいだ…
「名前、呼び合いっこしようよ」
姉ちゃんがニヤニヤして言った。
「わかった。じゃあ僕から。うぉほん。」
勿体ぶって咳払いをする僕にツッコまず、ただにこにこしている姉。
「…リ、リース…姉ちゃん」
一瞬の沈黙、そして間。
「ぶはははは!」
我慢できねー、というように姉が笑い出した。
「っ次!姉貴の番だぞ!」
そう言うと、わかったわかったと姉は涙を拭いた。
「ユーキ」
どくん。
え?
身体中の血が沸騰して逆流するような感覚に、めまいを起こし、体がふらつく。
目まぐるしく頭の中で「ユーキ」と呼ぶ姉の言葉がリピートされぐるぐるまわってゆく。
数え切れないほどのたくさんの写真の中の姉が自分の名前を呼ぶシーンが切り取られた写真が、僕を飲み込む。
飲み込まれた写真の渦の中に埋もれた誰かがいる。
その人は、ゆっくりと、渦の中で振り向こうとした。
一体、誰ー?
「…キ?ユーキ!」
「っは!…は…はぁ…」
僕はハッとして意識を取り戻した。
すごい汗が身体中をびっしょりと濡らしていた。
「大丈夫か?突然、雨乞いの踊りをし始めた時はもう、駄目かと…」
「しとらんわ!!」
姉が神妙な顔つきで言うので僕は思わずツッコんだ。
もう本当にこの人は…
フッと意識が朦朧としていた瞬間のことを思い出す。
「ユーキ」
姉ちゃんは必死にそう呼んでいた。
和人じゃなく、ユーキ、と。
僕は深く考えないように被りを振ってその考えを捨てたが、やっぱりまだどこかで引っかかっているようだった。
「和人?どうした?」
今度はちゃんと名前を呼んでくれた。
「いや、なんでもない」
僕はゆっくりと首を振った。
「んで?どうするよ?」
姉ちゃんは頭の後ろに手を組んで次の指示を待っている。
自分に出来ないことは無理にやらずにスパッと他人に任せるスタイルは姉ちゃんの長所だ。
「そうだな…」
僕は次にどうするかを考え始めていた。