08 生家にて
試合が終わって、王が皆を従えて馬場内に入ってくる。そして不意にシャルルッテが飛び出して俺に抱きついてきた。
「どうした? 試合だから危ないことなかっただろ?」
俺がシャルルッテに声を掛けるが、シャルルッテは首を振っている。どうも気持ちがある程度昂ぶると言葉足らずになるシャルルッテのクセは健在みたいだ。
「あ~、その方ら、少し自重せよ。それと少尉、完膚なきまでにという感じではないが、まあ無事の勝利なによりだ」
その後、王宮魔術師と近衛隊長も交えて今後の方針を話し合った。ゴーレム馬は有望なので、採用に向けての本格的検討が行われることになった。
そして検討する部署への俺とシャルルッテの移動が決まった。実は当初は俺だけだったのだが、シャルルッテがゴネて、最後には王に何か耳打ちして認めさせていた。う~む、シャルルッテ、おそろしい子だな。なおおって正式の辞令を出すので、それまで引き継ぎ等の準備をしておけとの内示を受けた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
試合の翌日、長らくお世話になったことをマルグリットさまに感謝し、王都のお屋敷を出発する。なおクリシュナー大尉とその部下の女性軍曹は、ゴーレム馬1頭と共に王都に残った。代わりに2騎(なおゴーレムではなく普通の馬)の女性の近衛隊員が同行している。そして直接駐屯地に帰るのではなく、一度北西に向かう。
途中の宿で一泊し、翌朝の出発の際に、遅いな~と思いながら待っていると、シャルルッテがやってきた。
「それじゃあ、出発しようか、シャルルッテ? えっ! 何か格好違わない?」
なんとなくシャルルッテが、いつもと違ってみえる。
「そんなことないですよ、少尉」
いや絶対、なんというか気合が入っているように見受けられるのだが…。
ゴーレム驢馬も缶詰と共に王都に置いてきたので、その分でかなり速く進む。昼過ぎには、小さな開拓村にたどり着く。
村の入り口に立つ見張りに、俺は顔を覚えられているが、今回は三人も同行者がいるので驚かれる。身分証を見せ、貴族やら士官なので更に驚かれる。まあむやみに揶揄われるよりはましか。
村に入り、中心にある領主館へ向かう。館といっても小さなもので、貴族の館として最小限の設備しか備えていない。
敷地に入り、馬を馬番に預けて世話を頼む。ちなみに勝手に厩の片隅で座り込んで世話も要らない点でも、ゴーレム馬は優れている。
厩から屋敷に向かうと、母さんと義姉さんが出迎えてくれる。ええ、いつもと扱いが全然違いますね~。
「母さん、義姉さん、ただいまもどりました」
「はい、マルルおかえりなさい。早速だけど、ご紹介してちょうだい」
玄関のホールまで出迎えた母さんがいう。
「シャルルッテ・ラ・ガイヤルドと申します。以後お見知りおきください、奥さま」
シャルルッテがにこやかに挨拶し、母さんと義姉さんが挨拶を返す。父さんは、兄さんと出かけているが夕方には帰るとのことで、とりあえずお茶をすることになった。
義姉さんは夕食の準備したいとのことでお茶に参加せず。母さんと俺とシャルルッテで居間で香茶を飲む。すると居間の外が誰かがやってきた。
「お母様ただいま! 兄さんが帰って来たって? えっ、誰?」
若干、慎みが足りないのではないのか、妹よ。
「シャルルッテ、これが俺の妹のユリエッテ。士官学校の最終学年だったっけ?」
「兄さん、『だったっけ』という紹介はないと思うけど。ユリエッテ・ローゼンベルクです。この秋から士官学校騎兵科最終学年です。はじめまして」
「シャルルッテ・ラ・ガイヤルドです。兵学校卒業の工兵科で兵役1年目、いえ今度2年目ですね」
シャルルッテがユリエッテがほぼ同世代のためか、若干気安げにいう。
「ええっと、彼女たちは?」
ユリエッテが、居間の中と居間の扉の外とに立っている近衛隊員を示してたずねる。
「ああ、彼女たちは護衛で任務中だから、気にしなくて良いよ」
「ええっ!? 護衛ってどういうこと?」
「ええっと、シャルルッテのこと知らせてないの?」
俺は母さんに質問する。
「エッテも三日前に帰ってきたばかりだし、マルルが帰ってくることは話題になったけど、マルルが女の子、いや『姫』を連れて帰ってくることは話題にならなったからね~」
「姫!?」
だから妹よ。実家だからといって気を抜きすぎだ。
「わたくしの父がアウストロ・キリン・ド・ロプンチア王なのです」
「お兄ちゃん、な…、なにしてんのよ~」
だから妹よ。『お兄ちゃん』なんて完全に幼児化しているぞ。それになにもしていない、単にキスしただけだ。言わないけど。
そして俺は、ユリエッテにいくつか説明する。
〇シャルルッテは王の娘で確かに『姫』ではあるが、王家の娘ではない
〇ド・ロプンチア王家には、王妃が生んだ第一王子、第二王子がいる
〇シャルルッテは王位継承権を持つが順位はかなり低い
〇第一、身分差がある結婚なら、うちの両親の例がある
〇この王国の身分制度は緩やかなもので、能力があれば出世可能
〇王にはシャルルッテを付き合う条件として騎士になることと言われた
「という訳で、できれば応援していただけるとありがたい」
そういって俺は、母と妹に頭を下げる。
「愛しい息子の恋路だもの、できる限りのことはするわよ」と母さん、「うむむむ…」と妹は唸ってる。おい、どういう意味だ、妹よ。などとまったりお茶をしていたら、父の家臣が駆け込んできた。
「エルネット様、魔物の襲来です!」
色々考えた設定を上手く物語の中で説明するのって難しいですね~
そして次話にて、初めての魔物との戦闘です。まだ魔物の設定悩んでいるんですけどね~