07 馬上槍試合
ええっと主人公は、個人的戦闘力においてはチートではありません
「ゴドフロワ卿。決闘の申し込みの際に『間違い』があったみたいだが、このマルルクト・ローゼンベルク少尉が相手で問題ないな?」
仲裁役をかってでてくれた近衛隊長が、ゴドフロワ卿に問う。
「間違いありません」
「勝った暁の望みは、シャルルッテ姫の名誉回復とのことだが、より具体的に少尉が姫のお相手を辞退するということか? それとも卿みずからが姫のお相手を務めるということか?」
「いや、自分は…。いえ少尉の辞退を求めます」
「少尉は、それで良いか?」
近衛隊長が、俺に問う。
「いや、お言葉ですが、ゴドフロワ卿に姫のお相手に異議を唱える権利がありますか?」
「なんだと! この痴れ者が!」
ゴドフロワ卿は、俺につかみかかってきそうな勢いでいう。
「やめんか! 卿はどういった立場で姫のお相手に異議を唱えるのか? 姫とお付き合いがあったり、お約束してたりするのか?」
近衛隊長が、更に問う。
「いえ、自分は…」
「わたくし、こんな人は知りません」
シャルルッテが離れた位置からいう。だとしても、もう少し言い方が…。そして同じく少し離れて、仲裁を見守っていた王が寄って来た。
「まあ良い、卿がどうこういうのではなく、確かにこのままでは国中の青年貴族が納得しないやも知れん。少尉、卿と試合って、シャルルッテの相手に足る実力を示してみよ」
結局、王のこの裁定で『決闘』ではなく『試合』ということになった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ゴーレム馬と馬による試合のルールは、以下の通りになった。
〇試合場所は、馬場半面の50馬身(120m)平方の広さ
〇防具は頭部のヘルメットのみ
〇武器は試合用のしなやかな素材の槍1本、同素材の剣2本
〇武器に麻痺の魔道具が仕込んであり、相手に強く当たると発動する
〇魔道具により麻痺した方が負け
なお、ゴーレム馬の外装杖での巻物による攻撃魔法の使用は禁じられた。まあ、決闘ならともかく試合なら仕方ないか。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
開始時の彼我の距離は40馬身(100m)程で正直狭いが、まあ街にある馬場ならこんなものか。
仲裁役から審判役に役を変えた近衛隊長が、試合開始の旗を振る。
すぐさま卿は馬を駆るが、俺は動かず魔法の狙い撃つ。攻撃魔法ではなく、風魔法のウィンド・ウィスパーの巻物だ。
「これが決闘なら、ファイアーボールが当たってたぞ!」
問題なく俺の叫びは届く。卿の馬が竦んで止まる。でも戦闘用の馬で、それ以上の混乱はない。
俺は騎槍を構え突撃する。
「おらっ!」
ゴーレム馬の速度が乗った攻撃だったが、卿の槍によって弾かれる。卿のトーナメント優勝者の腕は確かなようだ。
馬場のほぼ中央ですれ違い、互いに後ろを取ろうと回り始める。馬はその場で、ゴーレム馬は横移動でだ。
横移動の方が速く、後ろを取った。が卿の馬が後ろ蹴りする。
「ちっ!」
俺は仕方なく後に跳んで距離を取る。狙って後ろ蹴りして、落馬もしないなんて脳筋め。
少し距離を置いての相対になり、卿は突撃、俺は少しの助走で飛び跳ねる。同時に下向きにウィンドの巻物の使用だ。
『飛んだ』と思う間もなく、上から卿の馬へと落ちていく。今度はエア・クッションの巻物だ。
上手く当たり、馬が横倒しになり卿が落馬する。馬にケガがないと良いのだが…。
『勝ったな』と思い、俺はゴーレム馬を止め、審判役の近衛隊長を見る。あれ? 試合終了の合図ないぞ。近衛隊長の視線を追うと、卿が立ち上がるところだった。まったくおとなしく寝ておけよ、体力異常が…。
卿は盛んに身振りをしている。意味は『馬を降りて、剣で戦え!』ですね。ええ判ります。
俺は一瞬このまま騎槍突撃で終わらすことも考えたが、あとで文句が出そうなので、降りて剣を構える。
剣で打ち合い、一合、二合。ああ、だめだまともに打ち合っては勝てないな。こっちはしがない輜重隊員で、しかも一応、魔法職なんだよ。
ああそうか、一応、魔法職だったな。俺は飛び退って、詠唱を開始する。基本魔法だから即時完了し、左手に火球を造る。
「なっ!?」
卿はこれに反応し身を守る。俺はその隙に飛び込んで剣で突く。瞬時に麻痺の魔道具が発動し、卿はわずかな時間抵抗した後、崩れ落ちる。
「おっしゃ!」
近衛隊長の試合終了の合図を確認し、俺は思わず声をあげる。
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