06 馬場での試験
「アウストロさま、いくらなんでも突然の訪問すぎませんか? 第一まだ使いの者も出しておりませんのに」
「いやなに、シャルルッテが入城したら、使いを出すよう命じておってな」
やはり王なのか。マルグリットさまは立ち上がり上座を王に譲る。シャルルッテは特に何も感じてないようだが、俺と大尉は咄嗟には動けないでいる。
「お久しぶりです、お父さま。ただいま戻りました」
シャルルッテは立ち上がり一礼する。俺と大尉はあわてて立ち上がる。
「うむ、シャルルッテ、お帰り。それとその方ら、今回は非公式で個人的な訪問であるゆえ、そこまで畏まらなくてよいぞ」
大尉は一礼し再会の挨拶をし、着席する。
「マルルクト・ローゼンベルク輜重隊少尉であります。お目に掛かれて光栄です」
俺は一礼し着席する。その後、メイドが王へ香茶を持ってきてあと、大尉が再度今回の経緯を説明する。
「ふむ、その侯爵の次男の件は、内務大臣に諮ってみよう。それとまずは、ゴーレム馬と驢馬を見てみるか。案内せよ」
王を厩に案内することは失礼なので、中庭で見せることになった。参加者は王、王の護衛の近衛中佐、大尉、俺とシャルルッテ。マルグリットさまはご興味がないとのことで参加しない。
俺は馬2頭と驢馬2匹を中庭に連れてくる。
「少尉、ゴーレム馬を軽く走らせてみよ」
俺は芝生に入らないように気を付けながら、中庭の石畳の上をゴーレム馬をゆっくり走らす。
「速度は? それにどれ位の距離走れるのだ? それに丈夫さは? 」
「速度は一番速い馬程度です。距離は適宜魔力を補給すれば、際限なく走れます。丈夫さは馬と同程度ですが、なにぶんゴーレムなんで怯えたり竦んだりしません 」
「ふむ、これは一度詳しく調べさせる必要があるな。う~む、シャルルッテとの付き合いを認める条件が騎士では簡単すぎたな。これではすぐに達成しそうだ」
「お父さま、ずるいです。そうおっしゃいましたよね?」
シャルルッテが文句をいうが、王は取り合わず後日に馬場にて試験することを申し渡して、護衛と共に帰っていった。船を使えば、案外簡単に来れるそうだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
馬場での試験は三日後になった。ゴーレム馬に関して特に準備することはない。ああいや居室の覆いの箱は外しておこう、ついでだからああして、こうして…。そのちょっとした改造以外は王都の知り合いのところに顔を出したり、シャルルッテと買い物したりして過ごした。当日、マルグリットさまお屋敷で朝食を終え、馬場に移動する。馬場は王城内ではなく、湖の東の近衛の駐屯地内にある。
ゴーレム馬の試験は、短距離と長距離の所要時間計測と障害物跳躍を予定している。なおレースではなく、単騎での実機試験だ。
試験を開始する前に、実機を見せ、その操作の簡単さ、乗り込みの容易さ、その乗り込み場所の低さゆえの安全性、乗馬時の無防備な部分の少なさを俺は説明した。なお、説明を受けているのは王、王宮魔術師、近衛隊長というそうそうたる面々だ。
「さてそれでは実際に動かしてみましょう。今回、馬を操ってくださるのは、乗馬三日目のシャルルッテ姫になります! どうぞ皆さま、拍手を!」
俺は悪ノリして、乗馬用の服で颯爽と現れたシャルルッテに対し、わざとらしく拍手する。シャルルッテは、バケツ形のフルフェイスヘルムを小脇に持ち一礼する。
「おい少尉、シャルルッテに危険はないのだろうな?」
「その為のヘルムですよ」
「もうお父さま、無用の心配すぎます」
王はシャルルッテに対し、危険を感じたら直ちに試験を中止するよう言い、試験の実施を許可する。
短距離の所要時間は普通だったものの(いやもっと高級素材が使えれば…)、障害物の跳躍に関しては、とても三日目の馬術ではなかった(まあ適切な瞬間に釦を押すだけなんだが…)。
そんな感じでシャルルッテが短距離走と障害物跳躍を終え、長距離走の前に休憩でも取りますかと話していたところで、馬場の柵を開けて一騎の騎士が現れた。その騎士はフルプレートアーマーで身を包み、馬上槍を装備している。
「ええっと、誰か試験に騎士を呼んでたりします?」
俺は思わず、王たちにたずねる。王たちは首を振る。そうこうしている間に、騎士はゴーレム馬に近づいて口上を述べ始める。
「平騎士の出にもかかわらず、姫さまをたぶらかし、お相手を願いでるなど言語道断。この騎士トーナメント優勝者であるゴドフロワ卿が姫の名誉を守るため決闘を申し込む!」
そういってゴドフロワ卿?は、決闘の作法通りに泥をシャルルッテに投げつける。泥は正確にヘルメットに当たり、服をも汚す。
「もう! なにをするんですか? マルルが買ってくれた服なのに!」
シャルルッテはそういって、ヘルメットを脱ぐ。ああ、完全に涙目だ。
「なんだと…!?」
「ええっと、あれを倒してしまっても構いませんよね?」
俺は泣いているシャルルッテをなぐさめながら、王に問う。
「ああ少尉、完膚なきまでに叩きのめして見せよ。ああ一応、殺すな」
さあ次話は戦闘シーンだ、頑張ります