05 王都へ
二泊の旅程で、途中なにも起きないのは物語としてどうかとも思いますが…
その後の話し合いにより、休暇と王都への出発は一か月後となった。なお徴用されたゴーレム馬は帰ってこなかった。そのうえさらに、ゴーレム馬を追加1頭とゴレーム驢馬2匹の納入を依頼された。まあ駐屯地内司令の発案なので、問題ない。通常の輸送業務の合間にやることになるので、俺は超過勤務になりそうだが…。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
驢馬は問題なく完成したが、特別仕様を要求された馬はかなり手こずった。驢馬だけでも納入するかと問い合わせたが、納入しなくて良いから驢馬に缶詰積んでおけといわれた。ああ、それもあったか。
出発日の前日に馬は完成し、試運転だけ済ます。
出発日、朝食を食べてすぐ集合場所に馬に乗り、驢馬を先導して向かう。夏の避暑地のお嬢様な格好のシャルルッテが一人で待っていた。まあ警務隊の建物のすぐ前だから安全ではあるが…。
「シャルルッテ、おはよう。服、似合ってるよ! ええっと清楚ではあるんだが、可憐さも併せ持つ感じで」
「おはようございます、少尉。お褒めいただきありがとうございます。がんばって選んだ努力が報われました」
ほどなくして大尉といつぞやの女性軍曹が建物の裏手からゴーレム馬に乗ってやってきた。
「待たせたな少尉」
大尉の後ろから軍曹が黙礼してくる。そしてゴーレム馬だが、警務隊の標章が追加されている。
「おはようございます、大尉。標章を追加さたんですね?」
「ああ、今やれっきとした警務隊の装備だからな。さて、シャルルッテ姫はそちらの馬の居室に乗ってください。う~ん、少尉はそちらの馬を! そっちは新型なので、少尉が扱った方が良いだろう」
そうなのだ、新型のゴーレム馬には警護と美容の観点より一人用の居室が付いているのだ。この居室の考案にかなり時間を取られたよ。
「少尉、準備は良いか?」
俺はゴーレム馬とゴーレム驢馬を点検し、驢馬の荷物の固定を確認し、準備完了した旨を大尉に伝える。
「よし出発だ、少尉」
なお今回の王都への旅は、驢馬が律速となって、二泊の予定だ。まあ左程急ぐ旅でもないしね~。
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街道や泊まった宿でゴーレム馬たちが若干人目を引いたものの、何事もなく王都に到着する。
そして流石に王都だけのことはある、入城の列だけでも城塞都市の3倍ある。まあいつもの光景ではあるが。
程なく入城の検分を終える。今回は休暇なのでシャルルッテ姫とその付き人の扱いだ。
「ああそうだ、少尉、ここはもう王都だ。姫さまに対する言葉つきを直しておけよ」
「了解です、大尉。シャルルッテ姫さま、窓を開けてもかまいませんか?」
俺はシャルルッテの承諾を得て、ゴーレム馬の居室の窓を開ける。シャルルッテは「なに?」って感じで少し首をかしげてる。
「お疲れ様です、ご気分の不調とかはございませんか? ここからお屋敷までは馬で歩いてまいりますので、窓をお開けになっててもかまいませんよ」
「まあ少尉、ありがとうございます。それでは久しぶりの王都を眺めながらまいりますね」
ちなみに王都に入城してからは、シャルルッテは居室内にいるが、大尉以下の随員である俺たちは馬には乗らず歩いている。というより王都内は非常時以外、乗馬禁止だ。なので目的地であるシャルルッテのお母上さまのお屋敷まで少し時間が掛かる。
下町を抜け、商人街を抜け、やがて湖畔にでる。遠くに湖に浮かぶ王城が見える。大領地貴族の大きなお屋敷が並ぶ一画に、その小さいけれど瀟洒なお屋敷があった。
門でシャルルッテの帰宅を告げ、案内を頼む。シャルルッテは使用人から「おかえりなさいませ」の声を掛けられている。
玄関のホールに入ると落ち着いた雰囲気の貴族の女性が待ち構えている。
「まあお母さま、わざわざお出迎えありがとうございます」
「おかえりなさい、シャルルッテ。そしてね、娘が男の方を紹介したいなんて、手紙をよこしたら出迎えくらいするわ。それでそちらの方なの? 早速紹介してくれないかしら?」
「ええ、こちらの方が今回ご助力頂きましたローゼンベルク少尉です」
「はじめまして、マルルクト・ローゼンベルクです」
「マルグリット・ラ・ガイヤルドです。シャルルッテの母になります。立ち話もなんですから、どうぞこちらへ」
マルグリットさま自ら応接間へ案内してくださる。マルグリットさま、シャルルッテ、俺、それに大尉が席に着く。
香茶を飲みながら大尉が今回の経緯を説明する、俺とシャルルッテは、それに適宜補足した。
「それでマルルクトさんは、今後シャルルッテとどうする所存ですの?」
「えっ、あっ、はい、今後とも親しくさせて頂けたらと考えております」
シャルルッテは香茶を飲みながらすました顔でうんうんとうなずいている。
「しっかりしてらっしゃるマルルクトさんなら、シャルルッテのことを任せられると、わたくしは思っているのですけれど…」
「けれど?」
「ご存知の通り、この娘の父は、現王のアウストロ・キリン・ド・ロプンチア王にあらせられます」
「はい」
「光栄なことに、その王がこの娘をいたく可愛がっておりまして…」
いきなり激しい勢いで扉が開かれ、壮年の上級貴族男性が入ってくる。
「だめだ! せめて騎士になる位の功績をあげんと認めん!!」
書き溜めた分は終わってしまいました~。今後は少しずつ書いていきます