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01 襲われる馬車(ただし、襲う方)

若人もすなる日記といふものを老人もしてみむとするなり

 街道上の小さい峠の山頂を超えると逃げる馬車が見えてきた。俺はつい悪ノリして、先行する大尉に叫ぶ。


「お頭! 馬車が見えましたぜ~!」

「なんだ、少尉!? そうか馬車に追いついたか。なにか武器はないのかっ?」


 俺の「お頭」呼びの悪ノリは、拾われなかったらしい。ここは『野郎ども

! 殺るぞ!』位いってほしかったが、どうも国軍の大尉の必須スキルに含まれてなかったらしい…。




  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇




 部下の伍長と共にゴーレム馬2頭とゴーレム驢馬12匹の輜重隊を率いて西の城塞都市の城門で、入城の列に並ぼうとしていたときに、かなり暴走気味に城門から4頭立ての馬車が出ていくのが目に入った。


「あれは確かこの街の侯爵の紋章だな。なにか、あったかな?」


 となんとはなしに見送っていると、今度は女性将校とその部下が駆け込んできた。彼女達は走って行った馬車を確認した後、辺りを見渡しこちらに近づいてきた。ああ間違いない、これは厄介ごとだ。


「少尉、すまないが馬を徴用する。というかなんだこの馬は?」

「ああ大尉、これは私の律法術によるゴーレム馬なんですよ」


 たぶん年下で、豪奢な雰囲気の偉そう(いや実際に俺より階級は上だ)な少女に、略式敬礼しながら答える。


「ゴーレム馬…。速度は? それに扱いは?」

「操作は簡単だと思いますよ。速度はまあ普通の馬よりは速いですね」


「そうか、それは助かる。すまないが緊急事態だ。馬を徴用させてもらう」

「いや貸すのは構わないですけど、ちゃんと返してくださいよ。それと私から離れると動けなくなります。ですので私の同行が必要です」


 まあ本当は適宜魔力を補充すれば離れても稼働に問題ないが、れっきとした輜重隊の備品なので壊されたり失くされたりしたら軍法会議案件だからな。


「ご協力感謝する。私はミネア・クリシュナーだ。少尉」

「マルルクト・ローゼンベルクであります。作戦完了時には一つよろしく頼みますよ大尉」


 輜重隊の部下の伍長にゴーレム驢馬達を任せて、出発の準備を終える。


「そちらの馬を使ってください。こっちは私が乗ります」

「そうか。ではアンニャ、こいつに一緒に乗ってくれ。他の者は預けた我々の馬を用いて後からでも合流を図れ」


 アンニャと呼ばれた女性軍曹と、他の部下達も完全には納得してないようだったが、代替案もないのか命令に従う。


「それでどこへ行くんですか? まあ付いていくんで適当に進んでください」

「そうか、すまない。では行くぞ」


 当然というか、やはりというか先ほどの暴走馬車を追いかける。大尉も問題なくゴーレム馬を扱えているようだ。


 ゴーレム馬は馬車の倍は速度が出ているので、程なく視界に馬車をとらえる。なお冒頭の場面だ。


「大尉、この後の作戦は!?」


 ゴーレム馬を並走させ、怒鳴って尋ねる。ああ、高速走行時の意思疎通方法に改善の余地があるな。今後の課題にしよう。


「なにか武器はないのかっ?」

「中級の魔法巻物が使えます!」


 座席上の魔法攻撃用の杖を指示し答える。


「馬車の足止めを! 中に重よぅ…、いや巻き込まれた市民が乗っている、なので攻撃が中までおよばないように頼む!」


 了解のハンドサインを送り、射撃態勢に入る。馬を害することに少し呵責を覚えながら、攻撃を開始する。少し遠くから徐々に近づくように1発、2発、3発。爆発に驚き、馬が棹立ちになり、馬車がドリフト気味に急停車する。


 馭者と魔術師ぽい男が投げ出されてた。といっても馬車の速度だから命には別条ないだろう。大尉が馬を止め、軍曹と共に馬車に駆け寄っていく。まだ敵戦力の排除が確認されてないので、こちらは射撃態勢を保ったまま近づく。


「シャルルッテ! シャルルッテ! 無事ですか?」


 シャルルッテって、まあ左程珍しい名でもないが、この近くの駐屯地にいる俺の知り合いの整備兵と一緒だな~と思う。程なく、大尉と軍曹が二人して金髪で小柄な少女を抱えてでてくる。


「やっぱりシャルルッテじゃん、いや私服姿も良いね」


 初めて見るスカート姿に、目を奪われながら、思わずつぶやく。いや、バカなこと考えてないで、まずシャルルッテの安全を確保しないと。ってヤバい敵のおっさんがふらふらしながら出てきた。


「敵です! 敵!」


 おっさんを指さしながら、二人に横付けし、シャルルッテを後席に積ませる。


「ひ…、シャルルッテを駐屯地へ!」

「了解」


 ここの状況はまだ完了しておらず二人で大丈夫なのかとも思うが、命令に従う。うんシャルルッテ第一。そして、とりあえず西だ。



  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



 もとより城塞都市から駐屯地までは驢馬でも半日の距離だが、馬車を追いかけ始めた時点で午後の半鐘(16:30位)は過ぎてたので、既に日暮れが近い。街道とはいえ、こんな辺境に街燈なんてないしな。


 ああ、魔物発生時に旅人が利用する避難小屋があるな。今晩の宿泊場所は決まったな。


 馬を止めて、避難小屋を確認する。誰もおらず、状態も問題なさそうだと馬に戻ると、シャルルッテが目を覚ましていた。


「ああシャルルッテ、目を覚ましたかい。ケガはない?」


 シャルルッテは小さくうなずく。そうこの娘は少し人見知りならしい。なのでこちらから上手く誘導しないと話がなかなか進まないんだ。


「ああそれは良かった。それじゃ問題ない?」


 シャルルッテは少し悩んだ後、首を振って否定する。


「えっ? なんか問題あるの。お腹すいたとか?」


 少し怒った感じで、否定。


「ああいや、ごめん。あ~それじゃ、え~男に乱暴されたとか?」


 少し悲しげな感じで、否定。


「ごめん。本当に判らないや、説明して」


 まだ後部座席に座ったままのシャルルッテの前にしゃがみ込み耳を寄せる。


「び…、や…、く…」

「び、や、くって、媚薬のこと? あの、その、発情したりする感じのヤツ?」


 真っ赤な顔で気恥しそうに身悶えしながら、シャルルッテは小さくうなずいた。



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