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ホムン/クルス  作者: HIRO
思考回路オーバーヒート
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思考回路オーバーヒート 第二章

「んでね、その後の展開がわかっちゃったのよー。推理小説って先読みするとダメねー。」


後ろの席にいるユキが、少し自慢げに俺へと話しかける。

周りではどーでもいい恋愛話や、昨日やっていたテレビ番組の話などで盛り上がっている。


「ねえ、キト聞いてる?」


「ん、聞いてるぞ。1/3はな。」


「ちょっ!」


軽く肩を落としたユキだったが、次は照れながら小さな声で喋り始めた。


「あ、あのさキト…。ア、アクセサリーとか興味ある?」


「んー、多少は。なんでだ?」


問いに答えた瞬間、予鈴が学校内に響き渡った。

ユキは何かを言っていたが、机や椅子を戻す音で綺麗さっぱり掻き消されていた。

俺は聞き直そうと後ろを振り向いた。

だが、ユキは何故か嬉しそうな表情をしていたので、そっとする事にした。

まあ、気が向いたら後で聞くかな。


「はーい、静かにせんかい。」


担任のサチ先生、通称サチ(ねぇ)がだるそうに教室へ入ってきた。


サチ姉は美人でありスタイル抜群だ。

それに加え、面倒見が良いので学校内では中々の人気者だ。


ところがどっこい、一つ残念な点がある。

お恥ずかしい事に、現在も独身である。

本当に残念だ。


「おい、キト。今、俺に対して変な事を考えなかったか?」


サチ姉が俺の顔を覗き込む。


「い、いえ。美人でスタイル抜群でいい香りもするのに、何で未だに独身なんだろうとか一切考えてないですよ。」


「…。キト…。後で職員室へ来い。」


父上母上。

今日、僕は死んでしまうかもしれません。


しかし、あれだな。

こーいう男勝りな性格が、どんどん婚期を遠ざけているのだと思います。

サチ姉はもう一度俺の方を睨んだ後【エスパーかよ】咳払いをし、潤んだ唇を開いた。


「えー、今日は転校生がやってきました。」


まるで青春漫画に出て来る様なセリフを言い放つと、(だんま)りしていた教室内がざわつき始めた。

男子は「女子かな!可愛いかったら俺行くわ!」とありがちなお喋りを。

女子では「イケメンだったらどーしよー。まだ心の準備が…」とよくわからんことを話し合っている。

まあ、俺も彼女居ないしちょっとは希望を…ってなんか後ろから凄い殺気を感じる。

うん、気のせいにしておこう…ゴクリッ。


(みな)が期待で胸を躍らす中、重い扉が開き転校生が入ってきた。

すると空気が一変し、まるで時が止まったかのような静けさが教室内に漂い始めた。


「では、自己紹介を。」


「はい。」


中性的な声が無音の空間へ流れ込む。


「今日からこちらの学校へ通うことになりました、セツナと申します。今後ともよろしくお願いします。」


彼が淡々と喋り終えると、所々でまたざわざわし始めた。

それもそのはずだ。


彼は間違いなくイケメンだ。


見惚れる程の透き通った白い髪。

見つめ合うと吸い込まれそうな青い瞳。

女子がキャッキャするのも無理はない。

しかし、俺が感じ取った第一印象はこうだった。


異質。


そう、何かが皆とは違うのだ。


これといって理由があるわけでもない。

彼に変わった特徴があるわけでもない。

体がそう感じ取っているだけなのだ。

このような体験は初めてである。


心臓の鼓動が早くなっていく中、背後から急に奇声が飛んできた。


「お、おっっ兄たん⁉」


後ろを振り向くとそこには、目をまん丸にして仁王立ちしているユキの姿があった。


数秒経つとユキは、自分のあられもない姿と最後に噛んだ事に気が付きサッと席に着いた。

周りの生徒は呆気に取られていたが、サチ姉は動じる事無く喋り始めた。


「そうか、ユキの兄だったか。ちょうどいい。ユキ、色々と学校の事を教えてやってくれないか?」


「は、はい…。」


「助かる。ではセツナ、キトの隣にある空席へ。」


「はい、喜んで。」


そう言い終えると彼は、皆に一度お辞儀をしてこちらへと向かってきた。

しかし、ユキに兄がいるとは知らなかった。

あれだけビックリしていたということは、本人も今日来ることを知らされていなかったのであろう。

後でどんな人か聞いてみるか。


そうこうしている内に、彼は空席へと辿り着いた。

それと同時に、俺はある事に気が付いた


匂い。


何処かで嗅いだことのある匂い。


何処か懐かしさを感じさせる匂い。


暖かくも悲しみを帯びた香りが、俺の体内へと入り込んでいく。


時間が経つにつれ、不思議と胸の奥が痛み始めた。

手足も震え始め、まるで極寒の地に丸裸でいるような感覚さえ覚えて来た。

目の前が白くなる中、遠くの方から聞き覚えのない女性の声が俺へと話し掛けて来た。


(シュ)()宿(ヤド)リシ、(ハカナ)()(イノチ)(ゲン)(モド)リテ、()()()ベヨ。」


とてつもない悪寒が走った。

俺は恐怖にかられ、顔が見えない者へと叫んだ。


「お前は誰だ⁉」


「主ノ身ニ宿リシ、儚キ其ノ命。現ニ戻リテ、我ガ名ヲ述ベヨ。」


「おい、聞いているのか⁉」


彼女は俺の問いには答えず、只々(ただただ)同じ言葉を繰り返し唱えている。

それはまるで、俺ではない誰かに話し掛けているようだ。


無意味なやり取りが続く。


無意味な時間だけが過ぎて行く。


終りの見えない答弁が、俺の正気を犯していく。

体力の限界に近づく最中(さなか)、ある映像が突如現れた。


一本の大樹。


傍には手を繋ぐ少年と少女。


二人は笑っているが涙を零していた。


見たこともない景色が目の前に広がる。

大きな喪失感が左胸を圧迫していく。

そして俺は何故か、ある言葉を口走った。


狐火(コン)…。」


目にしていた光景が紅く染まる。


何かを繋いでいた鎖が(ほど)けていく。


辛うじて開いていた瞳が閉じていく。


ゆっくり。


ゆっくりと。


俺は諦めて一度、眠りに就く事にした。


そう。




この左手に感じる優しい温もりと一緒に。




思考回路オーバーヒート 第二章 終

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