プロローグ
雨が降り続いてもう二週間目のこと。僕は女の子と神社の本殿前の石階段で雨宿りしていた。少し前ならこんなこと考えられなかった。けれどこうやっていっしょにいてくれるってことは彼女も僕のことを友だちと思ってくれているということだから、少し嬉しい。
「あの、雨宮さん」
「…………?」
彼女、雨宮さんは僕の呼びかけにどうしたの?と続きの言葉を促す表情をする。
いつもあまり喋らない彼女だけど最近になって気がついたことがある。この子は意外と表情豊かだ。
「修学旅行、行かないってほんと?」
「…………!」
誰から聞いたのか、と言いたそうな目。
「先生が言ってたよ」
「…………そう」
今度は少し怒ったような顔。きっと先生には言わないでいて欲しかったんだろう。
「それでほんとなの?」
「…………」
少し間があって、雨宮さんはコクリと首を縦に振った。
「そうなんだ」
「…………」
「どうして?」
「…………」
首を横に振る。たぶん、
「話したくない?」
「…………うん」
「そっか……」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
何か別の話をしようかと思ったけど何も思いつかなかったので彼女にならって僕も何も喋らなかった。しばらく沈黙が続いたけれど雨が石畳を叩く音のおかげでそこまで苦じゃなくて、でもそんな沈黙を破ったのは雨宮さんの方だった。
「…………あの、時間」
「あ、もうこんな時間だね」
時計を見ると針はもう18時を指そうとしていた。ここで話し始めてからもう一時間と少し。もう彼女の帰る時間だ。
いつだか彼女とつい話し込みすぎてしまって帰るのが遅くなったことがある。そのときは親にものすごく心配されたみたいで、それ以来僕達がここで話すのは一時間だけと決まっていた。
「そろそろ帰ろうか」
「…………うん」
「じゃあ、気をつけて帰ってね」
「……日下くん」
いきなり、彼女に呼び止められる。
「……また、明日」
「うん。また明日!」
また明日。その言葉だけで僕は少し嬉しくなって、ものすごく明日が楽しみになる。
だけど、雨宮さんが修学旅行に来ないのはやっぱり寂しい。僕はどうすればいいのかと考えて、ひとつだけ名案を思いついた。