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出会い

そこは朱鷺色で統一された室内であった。

薄明の中、下を向けば醜い顔の老人が汗だくで寝ていた。

別に殺人現場というわけではない。何故ならベッドの上なのだから。

その部屋には部屋のイメージにピッタリの甘美な声が響いていた。


『あっ//ケンジさん//そこ//そこいいっ//』


『ユミちゃん//中に出すからねぇ//』


『だめっ//あっ//中はらめぇ//』





「くそったれ! なんであんなブルドッグみたいな老害が美人とヤレるんだよ!」


本作の主人公である西宮亮介はあろうことか公道でこんなことを喚いていた。

だが彼のアクションはある意味で正しいものだ。美人が不細工な老害の上で喘いでいたら誰でも発狂するだろう。

しかし彼はプロレスごっこを直に目撃したわけではないし、そもそも「ユミちゃん」の知り合いですらない。

老人の萎びたえのき茸に喘いでいた「ユミちゃん」は先程すれ違っただけで、その「ユミちゃん」が美人だったため彼はその記憶を覗き見したのだ。

そして非情な現実を垣間見て、深い絶望へと堕ちていった。まあこんなもんだ。

もうお気づきかもしれないがこの西宮亮介という人物、世界でも数少ない生粋の超能力者である。

その能力は「他人の記憶を覗ける」というもので、感情や感覚もついでに体感することができる優れた物だ。

そんな彼だからこそ分かることが一つ。「ユミちゃん」は全然感じていない。

老害の機嫌を取るためだけに腰を振っているだけでそいつのことを金づるだとしか思っていない。それ故に彼は絶望しているのだ。

しかしこんなことも西宮にとっては慣れたものだった。

彼は媒体問わず相手の顔さえ見ればその人の記憶を覗ける。

そのためテレビに映るアイドルの記憶も覗いていたりするのだが、奴らのやってきたことといえばまあ酷いのだ。

話題に出てくる弟が実は彼氏だったり、女が好きと言いながら裏ではバカそうな男とハメていたりはまだ甘い方だ。

中には枕営業をしていたり怖い人達の愛人だったりする人達もいたりする。


「(ああ…なんかすげえ嫌なことを思い出した……ん? なんだあいつは)」


彼の目線の先には高校生くらいの女性がいた。

綺麗な黒髪は腰あたりまでまっすぐ伸び、所々露出している白い肌がそれとは対照的に輝いている。彼女は世間一般に言う美少女だった。

しかし気になることが二つほど。

彼女はもう直ぐ夏だというのに真っ黒のコートを羽織っていた。しかも目つきがすこぶる悪いのである。

明らかに怪しい人間の登場に、地まで落ちたテンションがみるみる高まっていく。西宮はこういった変わった人間の記憶を覗くのが趣味なのだ。

彼女はどんな経験をしてあの目つきになったのか、あの服装に辿り着いたのか、そんな悪趣味なことを考えながら、彼は記憶を覗くために目を瞑る――


「(………あれ、おかしいな全く覗けない)」


彼の目の前はいつまでも真っ暗のままだった。

稀に相手の記憶を見れないことがあるのだ。そういう時は何時もその前にショッキングな記憶を覗いたりしているので、その影響を引きずっていると彼なりに解釈をしているのだが、今回は相手が相手だけにそれが惜しい。

ああ、「ユミちゃん」の記憶なんて覗かなきゃよかった、そう思って目を開けると、


「ハーイ、難しい顔をしてましたけど、一体どうかしましたか?」


いつの間にか彼の目の前にあの黒ずくめの女が立っていた。

突然の出来事と、彼女の笑顔から明らかに浮いている目つきの悪さに西宮は思わず後ずさる。

なにより、遠目からでは分からなかったが彼女はかなりでかかった。

西宮が170に届かないということはさておき、彼女はそれより頭一つ分くらい高いのだ。

その大きさに威圧感と少しばかりジェラシーを感じる彼の様子に気がついたのか、彼女は子供に接するように前かがみになって目線を合わせてくる。


「ん、私の顔に何かついていますか?」


「あ、いやいや、その、なんというか、悩めることが色々とあって。ほら、僕は思春期なもので」


「あなたの記憶を覗こうと思ったら覗けませんでした」とは流石に言えず無意識に目を逸らす。

――と、西宮の意識はそこで途切れた。





「………………………………何処だここは」


気がつけば何やら怪しげな空間にいた。

そこは特別広いわけではなく、むしろ狭いといった方がいい。例えるなら倉庫くらいの広さだろうか。

窓はなく、天井からぶら下がる裸電球が室内を淡く照らしている。

ナンダカイヤナヨカンガスル、そう思った西宮が手足を確認すると案の定椅子と手錠で繋がれていた。しかも何故かパンツ一丁にされている。

部屋内を見渡してもさっきまで持っていたはずの鞄も見当たらない、近くにさっきまで着ていた服が綺麗に畳まれているのみ。

これらが意味することは一つ、彼は監禁されたのだ。

しかし何故、そこまで思ってある一つの可能性が思い浮かぶ。

もしかして自分が超能力者であることがバレて、それで連れ去られたのではないか?

そんな馬鹿げた思考をしていると目の前の壁が唐突に開かれた。


「お、やっと起きたか思春期君。腹の調子はどうだね?」


そこには先ほどの黒ずくめの女が立っていた。

腹の調子、そう言われてみればなんだか痛むなあ、そこでやっと思い出す。気絶する寸前にとてつもない一撃を腹に食らった気がする。


「ふふふ、まだ頭は寝ているようだな。今覚ましてやるからちょっと待ってろ」


彼女はそう言って右手に持っていたこけしのようなモノのスイッチを入れた。

モノは何やら低い振動音を震わせて西宮にジリジリと迫ってくる。

早くもその正体に気づいた西宮の顔がみるみる青ざめていく。


「ヘ、ヘイガール? そいつは女の子に使うものではないのかね?」


「安心しろ。こいつはマッサージ器なんだから男女関係なく使えるぞ」


「でも、動画の中では女しか使ってなあががががががががががが!!!」


モノの丸い部分は容赦無く西宮の股間へと当てられた。

まるでAVの撮影なのだが西宮にはそんな雰囲気を楽しむ余裕はない。


「痛い痛い痛い痛い!!!! 潰れる! 振動で潰れるって!」


動画なんかで見てみるとあまり分からないがこれは押し当てると結構痛い。

それだけでもあれなのに彼女はそれを上からかなりの力で押し付けている。

その様は道路工事で使われている地面を固めるあれで西宮の股間を平らに(なら)すようであった。

そんな苦悶の姿を楽しむかのように黒ずくめの女は笑う。


「私のたった一つの質問に答えてくれればすぐに終わるからそれまで我慢してくれ。お前はあそこで何をしていたのかな?」


「何って、ただの考え事だって、ぐおぉ、さっきも言ったじゃないですか!!」


「ほーシラを切る気か思春期君。私はお前の玉になぞ興味はないんだ。このままピザ生地みたく平べったくしてもいいんだぞ」


電マがさらに押し付けられていく。

同人誌とかだとそれで快感が増すはずなのに現実でやられると死ぬほど痛いなんて夢にも思わなかった。

しかしそれほどの痛みを味わっても何と答えていいのか分からない。


「せめてヒントを、ヒントをください!」


「お前があそこで何をやってたかを言えばいいんだよ! 私に気づく前になんか叫んでたろ!」


「それは…やっぱりあれですか? ぐうっ!? 公にするとムー然りオカルト系雑誌が騒ぎ出すあれですか?」


「その通りだよ西宮。物分りがいいじゃないか」


彼女の答えに西宮の頭が真っ白になる。

彼の考えはあながち間違いではなかったのだ。

彼女は明らかに彼の能力を知っている、知っている上でこんなハードSMを強いているのだ。

だがあいにく彼はパラフィリアではない。

こんなことでは美少女に責められる喜びはおろか快感も感じない、言ってしまえばただの拷問だ。

西宮に拷問を耐え抜く精神力などあるはずもなく、彼は真実をあっけなく吐き出す。


「すいません! 先程は貴女様の記憶を覗こうとしました! もうしないんで、どうか許して下さい!」


そんな悲痛な叫びに彼女はにっこりと笑う。


「よーしよく言えたな。良い子にはご褒美をやろうじゃあないか」


ふと、電マに入っていた彼女の力が緩まった。

それにより西宮の息子にちょうど良く振動が伝わっていく。


「あの、何かの冗談ですかこれ?」


「冗談じゃなくご褒美だよ西宮。美少女の超絶テクニックが味わえるんだからもう少し喜べよ」


「テクニックもクソもただ震えてるだけちょっとマジでやばいってんほおぉっ!」


その部屋の中には女の笑い声と、女のような喘ぎ声がただただ響いていたという。

ちなみに朱鷺色とはピンク色のことです。

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