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蒼龍国奮戦記  作者: こうすけ
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第八話

蒼龍国 首都:蒼龍府

統合本部執務室



「後三時間で会談開始か……」


 アクリシア王国との同盟締結の為の会談の当日、執務室に掛けられている時計を見てそう呟いた祐樹は始めて行う国家間での交渉の事を思い緊張を隠せないでいた。


『マスター、失礼しても宜しいでしょうか?』

「あぁ、良いぞ」


 扉の外から刹那の入室の許可を求める声が聞こえたので、入室を許可すると、扉が開き、親衛軍の礼服に身を包んでいる刹那が姿を現した。


「マスター、出発の準備が整ったので、お迎えにあがりました」

「そうか…それじゃあ、行くとしますか」

「はい、マスター」


 祐樹がそう言って立ち上がるのに合わせて、刹那はクローゼットから祐樹の制服の上着を取り出し、微笑みながら祐樹に手渡した。


「有難う。さてと、初めての国家との同盟締結交渉だ。気を引き締めて行くとするか」


 祐樹はそう言うと刹那を連れて執務室を後にすると第一空軍基地に向かい、総帥特別使用機になっているV-22に祐樹、刹那、汐里、紅葉が乗り込み、護衛を乗せた二機のV-22と護衛のAH-64Dを連れて、洋上で待機している第一航空打撃群の旗艦である「ニミッツ」に着艦して補給を受けるとアクリシア王国へと向かった。



アクリシア王国 王都:エレスティア

王城 執務室



「そろそろ約束の時間ですね……」


 執務を黙々と続けていたアクシリア王国女王ヒルデガードは机に置かれている時計を見てそう呟いた。


「そうだな。そろそろ陛下も準備をした方が宜しいでしょう」

「えぇ、そうですね」


 ヒルデガードの執務を隣で補佐していたアネットはそう言うと、侍女を呼ぶと、ヒルデガードの衣装を変える様に告げると侍女は静かに頷き、ヒルデガードを衣装室へ連れて行った。


「それでアネット、同盟締結反対派の事は何か分かりましたか?」


 外交用ドレスの着付けをしている時、ヒルデガードは傍らで待機しているアネットに対してそう尋ねた。彼女は、同盟締結反対派が同盟締結交渉の妨害工作を行う可能性を考慮して自分の直属である近衛騎士団に調査を命じていた。


「駄目だな。締結反対派の黒幕は“あの男”だ、簡単に尻尾を見せる相手では無いさ……」

「そう…ですか……アネット、蒼龍国の方々には絶対に危害が加わらない様にお願いしますね」

「お任せ下さい。蒼龍国の方々には絶対に危害を加えさせません」


 アネットがヒルデガードの言葉に頷き、そう答えた時、衣装室に近衛騎士団の団員が一人入室した。


「何だ……?」

「蒼龍国の乗り物と思われる物が王城に向かって接近中です!恐らく、この前と同様に中庭に降りると考えられます」

「分かった。降りて来ても危害を加えず、丁重にお出迎えしろ。私も直ぐに中庭に向かう」

「はっ!」


 アネットの言葉に団員は頷き、アネットとヒルデガードに一礼すると、足早に中庭へと向かった。


「では陛下、私は先に蒼龍国の使者の方々を出迎えに向かいます」

「分かりました。使者の方々に粗相の無い様お願いします」


 ヒルデガードの言葉にアネットは頷き、衣装室を出て中庭へと向かった。



王城 中庭

V-22総帥特別専用機



「随分と物々しいお出迎えだな……」


 中庭に着陸し、窓から外の様子を眺めた祐樹はそう呟いた。


 祐樹が見つめる中庭には、白銀の鎧を纏っている近衛騎士団が綺麗に整列し、こちらが出て来るのを静かに待っていた。


「マスター、そろそろ出ますか?」

「そうだな…相手を待たせるのも悪いし、出るとするか」


 祐樹の言葉に刹那は頷くと、傍らの無線機を手に取った。


「全護衛隊に通達。総帥がこれから機体の外に出られる。護衛の兵士達は五分以内に整列せよ。いいか、五分以内だ」

『『了解』』


 刹那がそう言って無線機を置くのと同時に、護衛のV-22の後部ランプが開くと、中から親衛軍の軍服を身に纏い、HK417を持った兵士達が飛び出し、祐樹の乗るV-22の後部ランプの左右に整列した。


「マスター、準備が整いました」

「うん。行くとするか…機長、後部ランプを開いてくれ」

『了解』




「アネット団長、蒼龍国の使者、中々降りて来ませんね」


 中庭に降りて来た蒼龍国の乗り物から使者が降りるのを待っているアネットの隣にいた団員の一人がアネットに話しかけた。


「そうだな…もしかしたら、近衛騎士団の姿に警戒しているのかもしれないな……」


 アネットはそう言ってそのまま蒼龍国の乗り物を見つめていると、三つの内二つの乗り物の後ろが突然開き、黒い服を身に纏い、黒い杖の様な物を持った兵士達が姿を表し、まだ後ろが開いていない乗り物の左右に綺麗に整列した。


「(あの黒服と黒い杖は、ユウキ達が持っていた物と同じ物じゃないか……?と言う事は、ユウキは蒼龍国の関係者……?いや、考え過ぎか……)」


 アネットが出て来た兵士達について思考を巡らせていると、最後まで開かなかった物の後ろ側が開き、中から一人の女性と男性が姿を現したその瞬間、アネットはその男性と女性の顔に衝撃を受けた。




「霧風祐樹総帥に対して捧ぇー銃!」


 刹那が号令を掛け、後部ランプの左右に整列していた兵士達が一斉に持っていた小銃を構え、祐樹に注目する。


 兵士達が作った銃の林を見て満足そうに頷いた祐樹は、左後ろに刹那、右後ろに汐里と紅葉を引き連れて、アネットの下へと歩みを進めた。


「ゆ、ユウキ……?」


 自分の目の前に来た蒼龍国の代表者が自分と共に教皇国軍と戦った祐樹だった事に驚きを隠せないアネットがそう呟いたが、祐樹はアネットに対して、困惑した表情を作ると口を開いた。


「……貴女とは初対面の筈だが、何処かで会った事がありましたか?」

「っ!?し、失礼しました。私は、第一近衛騎士団長アネット・ラ・フリーデルです。女王陛下が玉座の間にてお待ちになっておりますので、ご案内します」


 アネットの言葉に祐樹は静かに頷くと、刹那達と、護衛を数名連れてアネットの案内でヒルデガードの待つ玉座の間へと向かった。


 玉座の間へと続く重厚な造りの門の左右には屈強な二名の男性が控えており、その周りに白銀の鎧を身に纏い、腰に剣を帯びている第一、第二近衛騎士団の面々が並んでいた。


「蒼龍国の使者の方々である。開門を」


 アネットの言葉に扉の左右に控える二名の男性は静かに頷くと、重い音を立てながらその扉を開いた。


「さぁ、どうぞ」


 祐樹達はアネットに促されて玉座の間へ足を踏み入れると、部屋の両端には豪華な服に身を包んだ貴族や鎧を身に纏っている将軍達が控えており、正面の階段に据えられている玉座にヒルデガードが鎮座していた。


 貴族や将軍達の値踏みされる様な無数の視線に耐えながらヒルデガードが鎮座する玉座の前まで進み、立ち止ると、ヒルデガードが口を開いた。


「ようこそ、キリカゼ総帥。先の戦闘での蒼龍国の支援には感謝します」

「気になさらなくて結構ですよ、女王陛下。我々は当然の事をやっただけですので」


 お互いの社交辞令から始まった二国間の会談は大した混乱も無く進み、話は今回の重要な案件の同盟締結の話題に触れた。


「キリカゼ総帥、貴国は我が国と同盟を結びたいと言う事でしたが……」


 ヒルデガードが同盟締結の事についてより詳しく話を進めようとしたが、祐樹がそれを手で制した。


「同盟締結についての詳しい会談は二日後に行いましょう。現在、我々の王国に対する土産を積んでいる船がこちらに向かっており、到着するのが明日になりますので、それが到着してから会談を進めるとしましょう」

「そうですか…では、今日はこれ位にしておきましょう。キリカゼ総帥と護衛の方々には客室を用意していますので、そちらで寛いで下さい」

「陛下のご厚意に感謝します」


 祐樹はそう言ってヒルデガードに一礼すると、再びアネットに案内されて玉座の間を出ると、祐樹達は用意された客間へと向かった。




 祐樹達が玉座の間から完全に退出する事を確認すると、ヒルデガードは集まっている貴族と将軍達に対して口を開いた。


「さて、皆さん。蒼龍国のキリカゼ総帥は我が国と同盟を結びたいと告げられましたが、皆さんはどう考えていますか?」

「蒼龍国との同盟を組むことは我が国にとっても良い考えだと思われます」

「うむ。あれ程強大な軍事力を持つ国と同盟を結べるのならば、教皇国など恐れるに足りませんからな」

「それに、キリカゼ総帥は陛下とこの国の民を救ってくれた恩人だ。この恩に我々は報いなければなりません」


 同盟締結賛成派から多数の賛成の声が上がった事で、このまま同盟締結は賛成多数で終わるかと思った時、肥え太った巨体を豪華絢爛な服で覆っている同盟締結反対派の筆頭ゲイルズ・バース・ザクセン公爵が怒鳴り声を上げた。


「何を言っているか!?聞くところによると奴等の国は、最近出来た新興国らしいではないか。建国して百五十年の歴史を持つ我々が何故そんな新興国の蛮族と手を組まねばならんのだ!?」


 そう声を荒げるゲイルズに呼応する様に、同盟締結反対派の貴族やアクリシア王国軍の将軍達の一部からも彼の意見に賛同する意見が出てきた。


「そうですぞ、陛下。我々アクリシア王国軍の主力が集結した今、他国の軍の力を借りる必要は無いと考えます!」

「左様。奴等が教皇国軍に勝てたのは幸運が重なっただけの事。我々の実力を持ってすれば、蒼龍国軍など鎧袖一触で殲滅する事が出来ます!」


 そんな乱暴な意見を口に出した同盟締結反対派に対して、黙っていた同盟締結賛成派が堪らず反論する。


「貴様等は彼らの戦い方を見ていないからその様な馬鹿馬鹿しい事が言えるのだ。蒼龍国を敵に回してしまい滅亡の道を辿るのは我々の方だ!」

「何をそんな弱気になっている!総帥を殺してしまえば、奴らも混乱する。その混乱に乗じて、攻め滅ぼしてしまえばいいのだ!」

「戯言を!そんな事になれば、蒼龍国兵は怒り狂って我が国を滅ぼしてしまうぞ!?」


 その言葉にゲイルズも一瞬だけ怯んだが、名案が浮かんだ表情をしてまた直ぐに口を開いた。


「ならば、蒼龍国兵を買収してクーデターを起こさせればいいのだ!あんな若造が国王に就いているのだから不満を持つ輩も少なからずいるだろう。これならば、蒼龍国を我々が裏から操る事が出来て攻め込まれる心配もあるまい」


 ゲイルズの乱暴を通り越して馬鹿げた案に同盟締結反対派の貴族達が呆れかえり、絶句していた時、ヒルデガードが口を開いた。


「ゲイルズ公爵、口を慎んで下さい。私も、同盟締結には賛成です。なので、同盟の交渉は締結する方針で進めると言う事で――」

「陛下、それは早計と言う物ですぞ」


 そう言ってヒルデガードが場を閉めようとした時、そのヒルデガードの傍らに立つ男が異議を唱えた。


「何故ですか、ダディス宰相……?」


 ヒルデガードに異議を唱えた男――ダディス・ロ・キース宰相は、年若いヒルデガードよりもはるかに多数の貴族の支持と強大な権力を持っている事で、宰相派からは「影の国王」、女王派からは「老害」と呼ばれていた。


「彼らの戦いは私も見ていましたが、確かに味方になればその強大な軍事力は心強い。しかし、その矛先が何時我が国に向くかも分かりませぬ。その為には彼らの手綱を我々が握っておく事が必要でしょう」


 先程まで冷静さを失って乱闘寸前までヒートアップしていた会議もダディスの発言で徐々に静まり、冷静さを取り戻していく。


「――であるからして、ゲイルズ公爵の言葉は示唆に富んでおりました。先ずは、明日到着すると言う彼らの海軍に我が海軍の主力艦隊を見せ付けて度肝を抜いてやりましょう。さすれば、ゲイルズ公が言った通り、こちらに寝返る蒼龍国兵も出現する筈でしょう」


 ダディスの言葉を受けて宰相派の筆頭でもあるゲイルズが恭しく一礼した。


 同盟締結賛成派も女王を上回る権力を持つと言われるダディスの発言に対して一言も反論する事が出来ず、ダディスの独壇場が続いた。


「―――今回の交渉締結案の作成は私が中心となって行う事にしましょう。この様な交渉では舐められてはいけませんからな。陛下が御心配なさらずとも、あの若造に本物の交渉を見せ付けてやりましょう」


 そう長々と喋ったダディスはヒルデガードに有無を言わさず勝手に会議の解散を言い渡して自分の側近やゲイルズ公爵を連れて玉座の間を後にした。



王城 客間



「ここが、客間になります」

「あぁ、有難う」

「キリカゼ総帥、一つ質問して宜しいでしょうか?」


 アネットに案内されて客間に祐樹達が入ると、アネットが何か決心したように祐樹の目を見て、口を開いた。


「……構いませんよ」


 アネットの言葉に一瞬だけ考えて祐樹が頷くのと同時に、刹那達や護衛の兵士達がアネットには気付かれぬ様に腰のホルスターに入っているUSPに手を伸ばし、アネットが何か祐樹を害する様な行動をするのであれば即座に撃てる状態にしていた。


「キリカゼ総帥は、ユウキでは無いのか?私達をあの盗賊や教皇国軍から救ってくれたユウキでは無いのか?」


 アネットのその言葉に、祐樹は静かに頷きなら口を開いた。


「あぁ、俺だよ。あの時は、身分を隠さなければならなかったら言うのが遅くなってしまったな……すまない」

「いや、気にしないでくれ。変な質問をして済まなかったな。必要な物があるなら外で警護している近衛騎士に申し付けてくれ」

「分かった」


 その後もアネットから幾つか王城での行動について説明を受け、全ての説明を終えるとアネットは部屋を後にした。


ご意見・ご感想お待ちしています。


次回の更新は2月24日です。

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