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蒼龍国奮戦記  作者: こうすけ
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第五話

今年最後の更新になります


今年も有難うございました。来年も宜しくお願いします

アクシリア王国 王都:エレスティア

第二城壁東城門



「民は急いで城門の中へ!」

「所持する財産は最小限にして慌てず落ち着いて中へ入って下さい!」


 祐樹達が城門に到着すると、近衛騎士団や守備兵が必死で逃げて来る民の避難誘導を行い、それと同時に民家からタンス等の家具を徴発し、バリケードの構築も開始されていた。


「アネット!」


 民達の避難誘導をしている中で祐樹は見知った顔を見つけ、祐樹はその人物の名前を叫んだ。


「ユウキ!よく来てくれた。今、避難誘導と同時にバリケードの構築もしていて後少しで門を閉じる事になっている」

「そうか。俺の部隊も展開させよう。この城壁の回廊に展開させるが構わないか?」


 祐樹の言葉にアネットは静かに頷いた。


「構わない。私は南側の城門の指揮を執らなければならないから、この門は副官のエルヴィエラに任せるから何かあったら彼女を頼れば良い」


 アネットはそう言うと、バリケード構築の陣頭指揮を執っていたエルヴィエラを呼び寄せた。


「エルヴィエラ、ユウキもこの防衛戦に参加してくれる事になった。彼の部隊には独自に動く事を認めてやってくれ。それでは、私は南門に行って来る」

「はい、分かりました。宜しくお願いしますね」

「あぁ、宜しく頼む。それじゃあ、城門上の回廊に俺の部隊を展開させるから守備兵に言ってもらって良いか?」

「分かりました。守備兵には私からも言っておきます」

「感謝する。全員、城門上の回廊に上って射線を確保しろ!擲弾銃や重機関銃は門塔に配置して十字砲火が行えるようにしろ。時間が無い、全員急ぐぞ!」


 エルヴィエラの言葉に祐樹は頷くと、後ろに整列していた兵士達に向き直ると、矢継ぎ早に指示を出し、兵士達はその言葉に従い素早く城門上に展開すると自分達の小銃や機関銃、擲弾銃を構え、敵を待ち構えた。


「FPL(突撃破砕線)は矢の射程外に配置!距離はおよそ三百!弾薬の分配も急げ!」

「「「「「了解!」」」」」


 敵の部隊が城門に隊列を組んで近づいて来るのは部隊の展開と迎撃準備が完了してから十分後の事だった。


「敵を確認!数一万!距離八百!隊列を組んでこちらに接近中!」

「敵の武器は分かるか……?」

「少し待って下さい。盾と槍を持った兵士が主ですね……それと、後方にローブを纏った兵士がいます」

「ローブを纏った兵士……?」

「それは恐らく魔導師部隊であろう。それにしても魔導師まで出すとは…厄介だな……」


 祐樹の疑問の声に、祐樹の隣で刹那に借りた双眼鏡を覗いていたエルヴィエラがそう答えた。


「まだ…まだ撃つなぁ……」


 盾を前面に構えながらじわじわと近づく敵兵に対して祐樹は逸る気持ちを抑え、他の部隊にも号令を待つように無線機に喋り掛ける。


「距離四百…三百五十…三百!」

「撃ち方始めぇー!」


 祐樹の号令で、のこぎり型挟間や門塔に並べられている小銃、重機関銃、擲弾銃の銃口が一斉に火を吹き、盾を構えて近づく敵兵達に銃弾の雨を浴びせる。


 盾を隙間なく並べた密集隊形で近づいて来る姿は、この世界の戦いにおいて敵兵を威圧するには充分だったが、小銃や重機関銃等の近代兵器で武装した祐樹達の前では、唯の的でしか無かった。


 盾を隙間なく並べて城門に近づいていた敵兵達は四〇ミリ擲弾で四肢を吹き飛ばされ、それを逃れた兵士達もM2重機関銃、M134の12.7ミリ弾、7.62ミリ弾の弾幕によって瞬く間に肉塊に変えられ、城門付近には血の川が出来上がっていた。


「射撃を緩めるな!弾幕で押し切るぞ!第三、五分隊は後方にいる魔導師部隊を射撃しろ!魔法を撃たれ始めたら厄介だ!」


 祐樹自身もHK417の弾倉を交換しながらそう叫んだ。敵はこちらの持つ兵器を理解せずひたすら前進を続けた結果、徒に屍の山を築いていた。




 インペリウム教皇国軍の精鋭を選抜して編制されたエレスティア攻略遠征軍は、敵は数、錬度においても我が軍を大きく下回り、攻略は容易いだろう。と考えており、先鋒一万で第二城壁城門を開け放ち、後方に待機している本隊が突入し、王城に続く第三城壁を目指すという作戦だったが、現実は城門付近に展開している謎の敵兵によって屍を積み続けていた。


「矢だ!見えない矢が飛んで来るぞ!」

「う、腕が!俺の腕があぁぁぁ!」


 城門の攻略を始めて三十分が経過しようとしていたが、城門は攻略できず、至る所で兵士の下が転がり、兵士達の悲鳴が上がっていた。それと同時に、部隊の混乱も頂点に達しようとしていた。


「全員撤退だ!一時、退いて態勢を立て直すぞ!」

「ならん!撤退は認めんぞ!絶対に城門を落とすのだ!」


 増え続ける兵士達の被害を重く見て、態勢を立て直す為に撤退命令を出した指揮官に対してその隣に立っている戦場に似合わない煌びやか服を身に纏った「司教将校」がその指揮官の言葉を遮った。


 この指揮官の隣にいる司教将校とは、インペリウム教皇国の国教であるディーレ教の司教クラスの息子を集めて編成した部隊で、立場は前線指揮官よりも上にあるが、「将校」と言っても名ばかりで、軍事知識は全く無く、軍事教本では無く聖典しか読まない集団だった。


「これだけの死傷者が出たのにまだ攻撃を続けろと言うのか!?」

「異教徒如きに恐れて如何する!我が神の力の前に敵は無い!」

「それは、我々に死ねと言う事か!?」

「まさか。あの城門さへ落せれば、貴様達は生き残る事が出来るであろう?さっさと城門を落とせばいいのだよ。落せば」

「くそっ!盾を構え直せ!弓兵、城壁を狙え!」


 そう淡々と告げる司教将校に指揮官は憤りを感じるが、自分よりも立場が上の為、命令には背けずそのまま攻撃を続行し、死者の数を増やし続けた。




 「中々敵も撤退しないな……」


 城壁の上で三個目の弾倉を交換しながら盾を構えて突撃する敵兵の姿を見て、祐樹はそう呟いた。


 戦闘が開始してから三十分以上が経過し、敵は甚大な被害を受けてるいが、そんな事に構う事無く、隊列に空いた穴を埋めてじわじわと前進を続けていた。


「このままじゃ、じり貧だな……んっ?刹那、あそこに立っている指揮官みたいな男とその隣にいる派手な服を着ている男を狙撃で殺れるか?」


 祐樹の言葉に、隣で小銃を撃ち続けていた刹那が双眼鏡で祐樹が言った二人を見ると、静かに頷いた。


「出来ます。お任せ下さい」


 刹那はそう言うと、狙撃兵からM24対人狙撃銃を受け取り、祐樹が指示した敵指揮官と思われる男の頭に照準を、定め、引き金を引いた。続けて撃鉄を引いて薬莢を排出、新たな弾を薬室へ装填すると、隣で指揮官が撃たれたのを驚いている派手な格好をしている男の頭に照準を合わせ、引き金を引き、狙撃銃のスコープからは二人の男が脳漿を撒き散らしながら地面に倒れ込むのが確認できた。


 すると、指揮系統が混乱し、先程まで盾を隙間なく構えて一歩も退かなかった敵兵が蜘蛛の子を散らす様に、城門から逃げ始めた。


「何とか守り抜いたか……全員、損害の確認と弾薬の補充を行え。直ぐとは言わなくともまた敵は攻めて来るぞ」

「「「「「了解!」」」」」


 兵士達は祐樹の言葉に頷き、トラックから持って来た弾薬箱の中から弾薬を取り出し、分隊ごとに分配が行われ、門塔に設置されているM2重機関銃、M134、九六式擲弾銃も新たな弾帯に付け替えられた。


「出来るなら、状況報告会を開きたいが、無理だろうな……」

「そうですね……各部隊に報告書を作らせましょう」

「敵接近!騎馬が一騎近づいて来たぞぉ!」


 刹那の言葉に祐樹が静かに頷いた時、城壁で見張っていた守備兵の声が響き、身体を休めていた全兵士に緊張が走り、祐樹達も急ぎ城壁へと上がった。


「たった一人で何の用だ……?」


 馬に乗って近づいて来る派手な服を着た男に対して、祐樹達は小銃や狙撃銃の照準を男に合わせ、何時でも撃てるようにしていた。


「聞けぇー!亜人を匿う蛮族共!我は、インペリウム教皇国軍エレスティア攻略遠征軍軍使アルベック・クロード・カルマンである!」


 城門前で馬を止めた男はそう声高らかに叫んだ。


「貴様等の先程の戦いは見事だった!しかし!亜人を匿う貴様らをディーレ神の神兵として見過ごすわけにはいかん!直ぐに、城門を開けて我らの軍門に降り、亜人と亜人を匿う諸悪の根源である女王、ヒルデガードを捕らえて我々に引き渡せば一族根絶やしだけは免じてやる!」

「成程、降伏勧告と言う訳か……」


 祐樹が呟くと、南側の城門を守っていたアネットがやって来て、軍使に向かって声を上げた。


「アクシリア王国第一近衛騎士団団長のアネット・ラ・フリーデルだ。貴国の申し出は全て拒否する!我々は国民を見捨てる事は絶対にしない!」

「そうか…国が落される時に自分が言ったその言葉を悔やむがいい!」


 軍使はそう言うと、馬の首を返して自軍の陣地に戻った。


 軍使が戻ってから数分後、各部隊に状況を聞きに行っていた刹那がクリップボードを持って戻ってきた。


「マスター、各部隊の状況報告書が完成したのでお持ちしました」

「有難う、刹那」


 刹那から各部隊の状況が記された報告書を受け取った祐樹は、その内容に目を通し始めた。


「死者は無くて、負傷者が十二名か。弾薬は後一回大規模な攻撃が発生したら消費してしまう……か。トラックにも弾薬は無いのか?」

「はい。元々、今回の調査ではこの様な大規模な戦闘に参加する事は予想されていませんでしたから……」

「そうだな……」


 報告書と刹那の言葉を聞いて顔を顰めていると、その様子を見ていた刹那がおずおずと口を開いた。


「マスター、本土に救援を求めた方が良いと考えます。もはや、二個小隊では支えきる事が出来ず我々も危険です」

「そうだよな……分かった。本土に通信を繋いでくれ」

「了解しました」


 刹那は頷くと、近くにいた通信兵を呼び寄せて本土へ通信を繋ぐように指示を出した。


「俺だ。優奈、聞えるか?」

『はい。しっかりと聞えています。総帥、如何なさいました?』

「現在、アクシリア王国首都のエレスティアで女王の依頼を受けて城門の防衛線を展開しているが、敵の数に押されつつある。我々は、アクシリア王国国民を無差別攻撃から守る為に蒼龍国軍の派兵を決定した。優奈、明日までに戦力を編成して敵軍に空爆を行ってくれ」

『は、はっ!了解しました。直ちに、編成に入ります』

『全幕僚と統合司令室に緊急召集!急いで!』

『各軍に緊急待機命令を発令!』


 無線機からはそう言う優奈の後ろでは、祐樹の突然の言葉に対して詩織や紅葉が幕僚を招集する声が聞こえた。


「頼んだぞ」

『はい、お任せ下さい。出来る限りの力を尽くします』


 そう言った後も優奈と言葉を交わすと無線機を通信兵に返し、刹那に小隊を集合させるように告げた。


「全員よく聞け。先程、本土に対して増援を派遣するように連絡を入れた。早ければ、明日には増援が到着するだろう」


 祐樹の言葉を聞いた兵士達から驚きの声が上がり、第一小隊長である宮路哲哉二尉が手を上げた。


「総帥、それは蒼龍国が戦争に介入すると言う事で宜しいのでしょうか?」

「その通りだ、宮路二尉。我々の任務は敵の明日の攻撃を味方の増援到着までこの第二城壁で食い止める事だ。全員、厳しい戦いになるだろうが、頑張ってくれ」

「「「「「了解!」」」」」

「それでは各自、自分の装備を点検したら当直以外は身体を休ませておけ。以上、解散」


 祐樹がそう告げると、整列していた第一、二小隊は其々の持ち場へ戻り、当直の兵士以外は自分の装備の点検を終えると、時間制で睡眠を取るのだった。


次回の更新は1月1日です。


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