表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒼龍国奮戦記  作者: こうすけ
42/42

第四十一話

バレンシア大陸沖

神の使いし軍団 潜水艦「U-2510」



「これは凄い…敵の大艦隊だ!空母に戦艦…特大の獲物がうようよいやがる!」


 主力艦隊とは別にアクリシア王国の通商破壊を行うために近海を潜航中だったUボートXXI型「U-2510」艦長のディーテリヒ・アルべルツ中佐は、潜望鏡に映る第一統合打撃群の姿に歓喜の声を上げた。


「エドヴィン、これを見てみろ!」

「これは……こんな大艦隊に出会えるとは潜水艦乗りとして冥利に尽きますな」

「あぁ、その通りだ」


 ディーテリヒに呼ばれた副長のクレイグ・ベッカート中尉が潜望鏡を覗き込むと、ディーテリヒと同じように敵の大艦隊の姿に歓喜の声を上げた。


「通信、主力艦隊に敵艦隊発見の報告だ」

「了解です」

「魚雷戦用意!久しぶりの獲物だ。一番でかい奴を喰ってやろう」

「はっ!」


 再び潜望鏡を覗き込んで獲物の品定めをしていたディーテリヒの命令に乗員たちが力強く答えてそれぞれの持ち場に向かい、魚雷発射管室では六門ある魚雷発射管に魚雷の装填作業が進められていた。


「聴音手、何か反応はあるか?」

「いえ、何もありません」

「異常があったらすぐに知らせろ」

『こちら魚雷発射室。全門に魚雷装填完了』

「もう少し敵艦隊に近付け。この距離では魚雷が届かん」

「了解」


 敵艦隊の様子を潜望鏡で確認していたディーテリヒは、敵艦隊がこちらの存在に気が付いてないことや魚雷を確実に敵艦に命中させることを考えて危険だが敵艦隊との距離を縮めるように操舵手に告げた。


「……艦長!不審な音を探知しました!」

「何?敵駆逐艦か……?」

「いえ、着水音だと思われます」

「着水音……?」

「鳥が咥えていた木でも落ちたのか?」

「分かりません……」


 聴音手からの報告に敵駆逐艦に見つかったと思っていた乗員たちは安堵の表情を見せたが、ディーテリヒやクレイグは聴音手が聞いた不思議な音を疑問に感じながらも魚雷発射の準備を進めさせた。


「……待って下さい!推進音を確認!……こ、これは魚雷です!魚雷が本艦に接近しています!」

「馬鹿な!魚雷だと?」

「本当です!艦長、すぐに回避を!」

「……機関全速!面舵一杯!」


 魚雷が自艦に接近しているという報告をする聴音手をディーテリヒは一喝しながらも聴音手が嘘を言っていると考えられなかったことから回避行動を操舵手に命令したが、その判断は遅かった。


「す、推進音さらに近づく……」


 聴音手が聞いた「U-2510」に迫る推進音とは、周囲に投下したソノブイと磁気探知機によって「U-2510」の位置を特定したSH-60Kから放たれた二発の12式魚雷が発する推進音だった。


「ほ、本艦に命中します……!」

「総員、衝撃に備えろ!」


 ディーテリヒがそう叫ぶのと同時に五十八ノットで追尾していた二発の12式魚雷が艦尾に命中し、破孔から侵入する大量の海水が混乱する乗員たちを飲み込みながら「U-2510」は海底深くにその生涯を終えようとしていた。




「対潜警戒中の『あたご』01より報告。敵潜水艦一隻の撃沈を確認』

「敵潜から電波は?」

「残念ですが、魚雷投下前に敵潜から通信電波の発信を探知したと……」


 敵潜水艦撃沈の報告に艦橋全体が安堵の空気に包まれたが、通信電波が発信された報告を受けると打撃群の位置が敵艦隊に知られたことに各参謀や参謀長の藤堂が緊張した表情を浮かべた。


「対潜警戒の網を抜けられたとは…参謀長、どうやら我々は油断していたようだな」

「はっ……」

「各艦と哨戒中の各機に厳命。対空、対潜警戒を厳とせよ。こちらの位置を知ったからには向こうも何か行動を起こすはずだ」

「了解」


 第一統合打撃群司令部は各艦に搭載されているSH-60Kを飛ばして完璧な対潜警戒網を構築していたと思っていたが、それが最新鋭の装備を使用する自分たちの慢心だったということに苦笑する宮原の言葉を受けた藤堂は深く頷いた。


「こちらと敵艦隊の距離は?」

「およそ三千です」

「航空参謀、敵艦隊には空母も確認されていたな」

「はっ。グラーフ・ツェッペリン級と思われる空母が三隻確認されています」

「となると艦載機はBf109TとJu-87Cになるか」

「そう思われます。二機とも航続距離は千キロ以内なので心配は無いと考えられます。間もなく発艦した第一次攻撃隊によって空母ごと仕留めることは出来るでしょう」

「第一次攻撃隊の位置は?」

「目標到達まであと二分です」

「航空隊が仕留めてくれればありがたいが、我々も相手をしてみたいものだな」


 航空参謀から報告を受けた宮原は頷いてそう呟くと、数千キロ先の海域で潜水艦から敵艦隊発見の報告を受けて一戦を交えるために戦闘準備を始めているであろう敵艦隊のことを考えていた。




 敵艦隊発見の報告を受けて第一統合打撃群に所属する各空母から発艦した四十八機のF/A-18Eスーパーホーネットは、搭載するレーダーによって敵艦隊の姿を捉えたホークアイ五号機の誘導によって順調にハープーンの発射地点へと向かっていた。


「さて、第一次攻撃隊に参加している全機へ告げる。我々の任務は統合打撃群に近付いている敵艦隊にハープーンを発射するだけの簡単なものだ。敵艦隊に腹一杯ハープーンをご馳走してやれ」

『『『『『了解!』』』』』

『ホークアイ五号機から第一次攻撃隊へ』

「こちら第一次攻撃隊総隊長。ホークアイ五号機どうした?」

『そちらに敵戦闘機と思われる一個小隊が接近している』

「ホークアイ五号機、現空域を味方が飛行しているという情報は……?」

『そのような報告は受けていない。IFFにも応答なし』

「了解。近づく目標をボギーと断定する。302、敵機撃滅のため先行しろ。旧式の戦闘機と言っても不安要素は排除しておきたい」

『302了解。先行します』


 ホークアイ五号機の報告を受けた総隊長が第一次攻撃隊の中でも護衛のためにハープーンではなくAIM-120Dを搭載している第302戦闘攻撃飛行隊に迎撃命令を出すと、第302戦闘攻撃飛行隊に所属する機体が速度を上げて編隊を離れた。


「ホークアイ五号機、敵艦隊に変化はあるか?」

『敵艦隊に変化なし。ハープーン発射地点も変更はない。目標地点まで一分』

「了解。全機、武装の最終チェックを行え」

『こちら302、敵戦闘機の撃墜を確認。これより編隊に合流する』

『こちらでも接近中だった敵小隊の全機撃墜を確認した』

「了解」


 接近していた敵小隊の撃墜の報告を受けた総隊長は、不安要素が排除出来たことに安堵しながら自身の機の武装の最終チェックを続けた。


「各隊長は武装に異常があった機がいるか報告せよ」

『異常ありません』

『こちらも異常なし』

『第一次攻撃隊へ通達。目標地点へ到達した。作戦を開始せよ』

「……全機、ハープーン発射」

 武装の最終チェックを行っていた各編隊長からの報告を受けた総隊長がハープーンの発射を命令すると、四十八機のスーパーホーネットの翼下に搭載されていた二発のハープーンが敵艦隊に向けて発射された。


「ハープーンの発射を完了した。これより帰還する」

『了解。戦果の確認はこちらが引き受ける』

「頼んだ。第一次攻撃隊全機、巣に戻るぞ!」

『『『『『了解』』』』』


 ハープーンの発射を完了した第一次攻撃隊は監視を続けるホークアイ五号機に戦果の確認を任せて総隊長の命令に従い編隊は機体を反転させると、再出撃に備えるために自分たちの母艦へと向かった。




 三十分前に付近を航行中だった潜水艦から敵艦隊発見の報告を受けた神の使いし軍団の第一主力艦隊は、敵艦隊が自分たちの保有する艦載機の行動圏内に入るように速力を上げて距離を詰めようとしていた。


「敵艦隊を発見した潜水艦からの続報は?」

「ありません。恐らく発見されて撃沈されたか回避中だと思われます」

「潜水艦を見つけたとしても我が艦隊の位置は見つかっていません。心配することはないと思われますが……」

「通信参謀、油断し過ぎてもいかん。精強を誇っていた我が陸軍は敵陸軍に敗北を重ねている。我々を気を引き締めて挑まねば敗北を喫することになるぞ」

「はっ!申し訳ありません」

「しかし、偵察に出した戦闘機小隊からの報告が待ち遠しいな」


 第一主力艦隊旗艦である「H」級戦艦三番艦の「クラウゼヴィッツ」の艦橋で、楽観視した言葉を口にした通信参謀を窘めた司令長官は5分前に報告された海域に向けて発艦させたBf109T一個小隊の報告を待ち望んでいた。


「長官、やはり直掩機を出しましょう。敵の偵察機を発見してから発艦させるのでは遅すぎます」

「……航空参謀の言う通りだな。各空母から戦闘機を一個小隊ずつ出させよう」

「はっ!」


 航空参謀の言葉に司令長官も頷き各空母に直掩機を上げる命令が届けられると、待機していた戦闘機が飛行甲板前端部分に内蔵されたカタパルトによって十二機のBf109Tが射出されて艦隊上空を旋回して警戒を始めた。


「これで敵偵察機をレーダーで捉えても即座に対処できる」

「はい。しかし、偵察に出した部隊からの報告が遅いですな……」

「そうだな……初めての実戦で何かしらトラブルが出たのかもしれん。軍港に帰ったら今回の反省点を考えて訓練をやり直さなければならんな」

「そうですね」


 この時偵察に出した小隊は蒼龍国海軍の第203戦闘攻撃飛行隊が放ったAIM-120Dによって全機撃墜されているのだが、そのことを知らない主力艦隊司令部は報告が来ないことを初めての実戦で何かしらのトラブルが発生したのだと考えていた。


「ほ、報告!警戒中の直掩部隊より緊急通信!我が艦隊に敵攻撃隊と思われるの飛行物体が急速接近中とのことです!」

「敵の攻撃隊だと!?」

「馬鹿な!敵偵察機には見つかっていなかったはず……」

「諸君、詮索は後だ!各艦に対空戦闘用意を通達!」

「了解!各艦に対空戦闘用意を通達します!」


 艦橋に飛び込むように入って来た通信兵から告げられた敵攻撃隊接近中の方向に浮足立つ幕僚達だったが、司令長官の命令によって徐々に落ち着きを取り戻すと各艦に対空戦闘用意が通達された。


「各艦の対空戦闘用意完了!」

「敵攻撃隊は視認できたか?」

「……敵攻撃隊と思われる噴煙を視認!我が艦隊に突っ込んできます!」

「全艦、敵攻撃隊に向けて攻撃開始!敵攻撃隊を近づけるな!」


 司令長官の命令に従い各艦が搭載する高角砲や対空機銃が白煙を出しながら近づく飛行物体を撃墜しようと一斉に火を吹くが、人力で照準と射撃を行う高角砲や対空機銃では音速に近いハープーンを捉えることができない。


「は、早すぎる!」

「弾が切れた!弾を持ってこい!」

「あれに当てなくていい!海面だ海面を狙え!」


 各銃座で悲鳴に近い声を上げながら必死に対空射撃を続ける兵士達の中にもハープーンに直接命中させるのではなく海面を撃って妨害する妙案を思いつく士官もいたが、その案を実行するには遅すぎた。


「目標が急上昇!」

「突っ込むぞ!」

「総員、衝撃に備えろ!」


 対空射撃を回避しながら海面を舐めるように超低空で飛行を続けていた四十八発のハープーンは急上昇を行うとそれぞれが目標として捉えた各艦の最も脆弱な部分目指して急降下すると艦にその身を突き刺して爆発した。


「く、空母『グラーフ・ツェッペリン』、『グレーナー』、『ヴェッツェル』被弾炎上中!」

「重巡『アドミラル・ヒッパー』被弾!駆逐艦『Z25』、『Z28』、『Z29』撃沈!」

「本艦の被害は?」

「艦尾に二発が命中しましたが、戦闘に支障はありません」

「空母の様子は……?」

「現在消火中ですが、第一次攻撃隊に搭載予定だった爆弾や魚雷に誘爆して手の施しようがないとのことです……」


 艦橋の外に広がる敵の攻撃を受けて炎上する空母や重巡洋艦、駆逐艦の艦影を見ながら今の攻撃で受けた被害報告を受けた司令長官は、参謀から告げられた被害の大きさに表情を険しくさせた。


「長官、幸いなことに重巡洋艦と戦艦には大きな被害は出ていません。このまま敵艦隊がいると推測される海域に向かうべきだと思われます」

「いや、すでに敵の攻撃によって我が軍の空母は無力化されました。航空戦力なしでこのまま進むのは危険です」

「……撤退しよう。航空参謀の言う通りこのまま進むのは危険だ。味方航空機の行動圏内まで撤退する。海へ投げ出された乗員の救出も急げ」

「長官、それでは当初の計画に支障が……」

「敵から先制攻撃を受けたのだ!敵に我々の位置はバレている。早く航空部隊の行動圏内に撤退しなければ全滅することになるぞ!分かったら急いで行動を開始しろ!」

「は、はっ!」


 作戦の継続を望む参謀の一人が言い募ろうとしたが、その参謀よりも先に司令長官が一喝したことで参謀たちも黙り撤退のために撃沈された艦の乗員の救出作業が迅速に進められるのだった。


遅くなって申し訳ありません。


ご意見・ご感想お待ちしています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ