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蒼龍国奮戦記  作者: こうすけ
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第三十九話

アクリシア王国 首都:エレスティア

西城門前



 女王派貴族と駐留部隊の救出が成功した三日後、不安要素を排除した第一混成旅団と第三親衛師団は新たに増援として派遣された第五、第八親衛師団と王都奪還のための攻勢作戦を開始した。


『戦車隊は砲撃を開始せよ!繰り返す、砲撃を開始せよ!』

「遠慮はいらん!城壁上にいるクソッタレどもを吹き飛ばせ!」

「了解!」


 各城門に展開したM1A2SEPV3エイブラムスは、各戦車隊指揮官の命令に従いM830-HEAT-MP-T対戦車榴弾を装填した砲身を城壁へ向けたM1A2SEPV3エイブラムスが一斉に砲撃を開始した。


『各車輌、歩兵も射撃を開始せよ!派手やれ!』

「命令通り派手にやるぞ!撃ち方始め!」


 矢継ぎ早に出される指揮官の命令によって、戦車の影に隠れていた兵士の持つ小銃やM2A3ブラッドレー歩兵戦闘車に搭載されている二十五ミリ機関砲、M2の銃弾や砲弾が城壁に降り注いだ。


「敵襲ぅ!西門に敵襲だ!すぐに増援を派遣してくれ!」

「戦闘配置!神の使いし軍団から受け取った兵器を持ってこ―――グアッ!?」

「鉄の戦像を破壊しろ!これ以上城壁を破か―――ギャッ!?」

「しっかりしろ!攻撃の手を緩める―――グハッ!?」


 戦車の砲撃音によって慌てて小銃などの武器を取り城壁上を移動し胸壁に身を隠しながら反撃する守備兵だったが、親衛軍から雨のように降り注ぐ銃弾や砲弾によって身体を貫かれ、四肢を引き千切られた。


「神の使いし軍団から受け取った兵器の準備はできたか!」

「準備できました!」

「よし、あの正面にいる戦像を狙え!」

「分かりま―――ギャッ!?」

「な、何が―――グアッ!?」


 神の使いし軍団か提供された兵器―――パンツァーファウストを担いだ兵士が主部隊長の命令で城壁や城門に砲撃を続けるM1A2SEPV3エイブラムスに照準を合わせようとした瞬間、兵士と守備隊長は頭を撃ち抜かれ脳漿を辺りに撒き散らしながら絶命した。


「敵対戦車兵の排除を確認!」

「スナイパーの連中には感謝だな……」


 戦車の砲塔の中で砲手からの報告を受けてそう呟く車長の言う通り、第二城壁の各城門に近い高い建物には親衛軍の狙撃部隊が展開しており、戦車や歩兵戦闘車の脅威となる対戦車兵器を持つ守備兵たちを優先的に狙撃し排除していた。


「しかし、ここまで派手に壊して大丈夫ですかね?」


 多数の戦車からの砲撃とM2A3ブラッドレー歩兵戦闘車から発射されたTOW対戦車ミサイルによって多数の穴が開けられ無残な姿となっている城壁と城門を砲手用ディスプレイで確認した砲手が車長へ訪ねた。


「司令部からは派手にやれとのお達しだ。それに、最後の仕上げは俺たちの仕事じゃないからな……」


 車長はそう言うと車長ハッチを開けると、自分たちの上空を通過するAH-64Dアパッチ・ロングボウやMH-60Lブラックホーク、MH-47Gチヌークなどで編成された大編隊が第二城壁を越えて王城へと向かっている光景が目に入った。


「“囮”の役目は果たした……あとは頼んだぜ……」


 上空を通過していくヘリコプターの大編隊を見ながら車長はそう呟くと、再び砲塔の中に入り砲手に砲撃指示を出すのだった。




 城壁と城門に攻撃を行う地上部隊の上空を飛行するMH-60Lブラックホーク二十一機、MH-47Gチヌーク八機に搭乗する各師団から抽出された精鋭六百六十名は機内で静かに降下の時を待っていた。


『降下開始まであと四分!』

「総員、降下用意!」


 各ヘリコプターの機長から降下時間を告げられた兵士たちは分隊長からの指示を受け、自分たちの持つSCAR-Lに三十発装填の弾倉を装着し槓桿を引きいつでも銃弾を発射できる状態を整えた。


『諸君、もう一度我々の任務の確認を行う』


 兵士たちが戦闘準備を整えたのと同時に、指揮統制機に指定されたMH-60Lに搭乗している作戦指揮官、クロエ・マクファーデン二佐の声が全員の頭に装着されているヘッドセットから流れてきた。


『我々の作戦目標は、今回のクーデターの首謀者であるカザーフ・ヴァン・ラドクリフの確保又は殺害である。すでに作戦通り王城からも多くの守備兵が城壁の増援として向かったのが確認されている。王城内の守備兵は少なくなっていると思うが、油断せずに任務を遂行してほしい。以上だ』


 マクファーデンによる作戦の説明が終わる頃には、強襲場所である中庭へと接近しておりキャビン内で待機している兵士たちは王城の城壁に敵の守備兵がいないか銃を構えながら警戒を始めた。


「降下開始!ファストロープ降下!」

「行け!行け!行け!」


 中庭上空へと進入したMH-60LやMH-47Gからロープが降ろされると、キャビン内で待機していた兵士たちがロープに飛びついて滑り降りた。


「敵襲ぅ!中庭に敵襲―――ギャッ!?」


 ローター音に気が付いた守備兵が回廊から警告の声を発した瞬間、降下し終えた兵士の持つSCAR-Lの短連射によって頭と身体を撃ち抜かれた守備兵は警告の声を上げる途中で糸が切れた人形のように倒れた。


「敵が来るぞ!全員の降下が終えるまで警戒を怠るな!」

「城壁から敵集団が接近!」

『城壁側は我々が対処する』


 降下し周囲を警戒していた兵士が城壁から小銃や短機関銃を構えてやって来た守備兵の姿を報告すると、上空を警戒していたAH-64Dアパッチ・ロングボウの機首下部に搭載された三十ミリチェーンガン、MH-47Gの窓に搭載されているM134ミニガンによる射撃が開始された。


『っ!?対空兵器を確認!回避!回避しろ!』


 一人の守備兵が持つ兵器に気が付いたAH-64Dのパイロットが警告の声を発してその守備兵を射撃しようとした瞬間、守備兵は自分の手に持つ兵器の引き金を引きロケット弾が発射された。


『メーデー、メーデー!こちらブルーム04、被弾!被弾した!』

『チクショウ!堕ちる……っ!』


 強襲部隊のファストロープ降下を続けていたことで回避が遅れたブルーム04の符号を持つMH-60Lは守備兵の持つ対空兵器―――パンツァーファウストと同じコンセプトを引き継いだ携帯対空兵器「フリーガーファウスト」から発射された九発のロケット弾のうち一発によってテールローターが破壊された。


『ブルーム04、操縦不能!操縦不能!』

『クソ、地上部隊は退避!退避しろ!』

「総員退避!退避しろ!」

「伏せろ!」

「物陰に隠れろ!」


 制御不能の機体をなんとか制御しようと最後まで操縦桿を握り必死に計器を操作するパイロットたちだったが、テールローターを破壊されたことでメインローターから生み出される反トルクを打ち消すことができず機体を回転させながらローターブレードなどの部品を周囲に四散させて中庭に墜落した。


「ブルーム04が墜落!ブルーム04が墜落した!」

「う、うぅ……」

「衛生兵!衛生兵!」

「しっかりしろ!すぐに衛生兵が来るぞ!」


 墜落するMH-60Lから四散したローターブレードや部品の破片は展開していた地上部隊に少なからず被害を与え、あちらこちらから衛生兵を呼ぶ声が上がり赤十字の腕章を付けた衛生兵が負傷者の応急処置を行う。


「クソ、最悪だ…第五分隊、ブルーム04のパイロットと搭乗部隊の安否を確認しろ!第一小隊は城壁に上がって守備兵を牽制!」

「了解!第五分隊行くぞ!」

「了解!第一小隊続け!」

「ジョーカー01、負傷者が多数発生!すぐに回収してもらいたい!」


 墜落して無残な姿となったMH-60Lや負傷兵の応急処置を行う衛生兵の姿を見た地上部隊指揮官、原田啓介一尉は、比較的被害の少なかった第五分隊と第一小隊に指示を出すと上空にいる指揮管制機―――ジョーカー01に要請を送った。


『こちらジョーカー01、すぐにアーク01を降下させる。着陸場所の確保を行え』

「了解。すぐに回収ヘリが降下する!着陸場所の確保を行え!」


 ジョーカー01に搭乗するマクファーデンの言葉を受け、原田が警戒を続ける兵士たちにそう告げて墜落したMH-60Lから離れた場所の確保を行わせた。


「第五分隊、ブルーム04の状況を報告」

『生存者はパイロット二名と搭乗していた第九分隊の一名だけです。全員があばらと足が骨折していると思われます』

「すぐに衛生兵を送る」


 墜落したMH-60Lの確認をしていた第五分隊との通信を終えた原田は、負傷兵の応急処置を終えた衛生兵を向かわせた。


『こちらアーク01。これより着陸する』

「ヘリが着陸する!負傷者を乗せる準備をしろ!」


 パイロットからの中庭に降下を始めるMH-47Gを見ながら兵士たちに指示を出すと、負傷者の処置をしていた衛生兵たちが負傷者を運ぶ準備を始めた。



「一尉、負傷者の集計が終わりました」

「どれほどの被害になった……?」

「墜落したブルーム04に搭乗していた第九分隊を含めて二十八名が死傷しました。戦死者九名、ヘリで回収されるのは十名です」

「作戦に支障は……?」

「ありません」

「ヘリが離陸と同時に行動を開始する。各隊にそのことを伝えろ」

「了解」


 中庭に着陸したMH-47Gの開かれた後部ランプから衛生兵と搭乗員が担架に乗せられた負傷兵を収容する光景を見ながら被害集計をしていた部下からの報告を受けた原田は、そう告げて部下を再び各隊へ伝達に行かせた。


『こちらアーク01、負傷者の収容を完了。これより離陸する』


 負傷者の収容を終えたMG-47Gの後部ランプが閉じられ、エンジンの出力を上げたMH-47Gは中庭を飛び立つと港に停泊している「キアサージ」へと向かった。


「一尉、各班の用意が完了しました」

「全員、これより王城内へ突入する!邪魔する奴は躊躇わず殺せ!」

「「「「「了解!」」」」」


 原田の言葉に力強く頷いた兵士たちは、小銃を構え直し血を流す守備兵の死体が転がる回廊の入り口と先日の救出作戦でも使われた階段の二通りのルートに分かれて王城内から突入した。


「て、敵襲ぅー!敵が城内にし―――ギャッ!?」

「て、敵がなぜここにいる!?敵は城壁で交戦中のはずだろ!?」

「そんなこと知るか!とにかく応戦だ!応戦しろ!」

「城の調度品でバリケードを作れ!身を隠しながら応戦しろ」


 突入してきた兵士たちに驚きの声を上げる暇もなく射殺されていく守備兵たちだったが、小銃などの扱い方の指導のために王城に残っていたドイツ国防軍のM36野戦服を着る神の使いし軍団の兵士の指示によって廊下に城の調度品を使ったバリケードが構築されて防衛を始めた。


「応戦が激しいな……敵の指揮官もやるじゃないか」

「一尉、感心している場合じゃないですよ」

「そうだな…手榴弾を使え。爆発と同時に突入する」

「了解」


 敵指揮官の行動に感心していたところを部下に窘められた原田が手榴弾を使用するように指示を出し、指示を受けた兵士たちはM67破片手榴弾やMK3手榴弾をバリケードに向かって投げた。


「―――撃て!このまま突撃する!」

「ここを通すわけには―――グアッ」

「銃を向けた奴は躊躇わず射殺しろ!それ以外は応急処置だけしてフレックスカフで縛っておけ」


 投げられた手榴弾の破片によって傷つきながらも突撃する蒼龍国兵に小銃を向けて反撃しようとする守備兵もいたが、そんな素振りを見せた守備兵はSCAR-Lの短連射によって優先的に排除され、抵抗の意思を見せなかった守備兵は衛生兵によって応急処置を施されて樹脂手錠によって拘束された。


「おい、クーデター派の連中はどこにいる!」

「う、うぅ……玉座の間にいるはずだ…今はどうか知らんがな……」

「そうか…衛生兵、こいつの応急処置をしてやれ」

「了解」

「こちら第一部隊、第二部隊の状況を知らせ」

『現在、二階と三階を制圧。制圧したバリケードで主犯等が玉座の間にいるとの情報を受けて玉座の間に向かっている』

「了解。これより第一部隊も玉座の間へ向かう」


 制圧したバリケードでM36野戦服を着た指揮官と思われる神の使いし軍団の兵士を尋問しクーデター派の居場所を聞き出した原田は、拘束した守備兵たちを監視するために一個分隊を残してクーデター派がいるとされる玉座の間へと急いだ。




「報告します!敵は二階からも侵入。二階は完全に制圧されました」

「報告いたします!一階で抵抗を続けていた兵士たちからの通信が途絶えました!一階は制圧されたものと思われます!」

「ほ、報告!三階の兵士たちとの連絡が途絶えました!制圧されたと思われます!」


 各所で銃声や爆発音、守備兵たちの怒号が響く中で玉座の間にいる煌びやかな鎧を纏ったカザーフやカザーフ派の貴族たちは自分たちの身に危険が迫っていることを感じながら、次々と玉座の間に飛び込んで来る伝令兵たちから告げられる戦況に顔を青ざめさせていた。


「へ、陛下、これからどういたしますか!?敵がここに来るのも時間の問題ですぞ!」

「このままでは手遅れになってしまいますぞ!」


 次々と各階が制圧された報告を伝令兵から受けた貴族たちは、自分たちのいる玉座の間のある五階にも到達するのは時間の問題だと思い、縋るような声で玉座に座るカザーフの指示を待った。


「だ、脱出だ…隠し通路に脱出用の馬車を待機させている。残っている兵をこの玉座の間周辺に集結させ時間を稼げ。その間に我々は隠し通路から脱出する」

「おぉ!それならばすぐに脱出の準備をしましょう。伝令!残った兵に玉座の間を守るように伝えに行け!」

「早く逃げなければ奴等が来ます!」


 恐怖で顔を青ざめさせてそう言うカザーフ言葉に自分たちの身を守る一筋の希望を見出した貴族たちは、伝令に残存兵に玉座の間を守るように伝えに行かせると数名の衛兵を連れて我先にと玉座の間にある隠し通路から逃げ始めた。




「クソッ!敵の銃撃が激しい!第二部隊、そっちはどうだ!」

『こちらも銃撃が激しく進めない…玉座の間は目と鼻の先だっていうのに……』


 四階までを制圧した第一、第二部隊は左右から挟み込むように玉座の間へ進んでいたが、玉座の間に続く階段にバリケードを構築した守備兵たちの激しい銃撃によって前に進めずにいた。


「グレネードを使う。装着している兵士は自分の判断で撃て」

「了解」

「第二部隊もグレネードを使え。一気にバリケードを突破する」

『了解』


 原田の指示を受けた兵士たちがSCAR-Lに装着されたMK13グレネードランチャーに四十ミリグレネードを装填すると一斉にバリケードに向けて発射し、激しい銃撃を続けていた守備兵を吹き飛ばした。


「この機を逃がすな!一気に行くぞ!」

「おぉー!」

「敵の反撃には注意しろ!」


 バリケードを破壊されたことによって銃撃が止んだことを確認した原田がそう叫ぶと、兵士たちが射撃を続けながら階段を駆け上がり破壊されたバリケードの中に突入し玉座の間へ続く通路を確保した。


「第二部隊も無事に制圧できたようだな。さて、玉座の間へ踏み込むとしようか」

「一尉、マクファーデン二佐から通信です」

「マクファーデン二佐から……?」


 第一部隊と同じくバリケードを制圧した第二部隊と合流し、玉座の間を制圧しようと動き始めた原田に通信兵が無線機の受話器を手渡した。


「原田一尉です」

『一尉、残念な知らせだ。王城にクーデター派は存在しない』

「なっ!?どういうことですか!?」

『王城上空を警戒飛行していたUAVが第一城壁を出る不審な馬車の集団を確認した。多分、隠し通路を使って脱出クーデター派だと思だろう…一尉は任務を変更し、王城の完全な制圧と確保を行え』

「脱出したクーデター派は……?」

『そっちは後詰めの連中がやってくれるそうだ』

「分かりました。任務を変更します」

『頼んだぞ』

「了解。全員、クーデター派の貴族がこの王城から脱出したことが確認された。我々は任務を変更し、王城の完全制圧と確保を行う」

「「「「「了解」」」」」


 原田からクーデター派逃亡の知らせを聞いた兵士たちは驚きの表情を見せたが、続けて新たな任務の命令を受けると素早く玉座の間を制圧すると城の確保に努め、第二城壁の守備兵を制圧した主力部隊と合流するのだった。




 親衛軍が王城の奪還と抵抗を続けていたクーデター軍の制圧をほぼ完了した頃、数騎の騎兵に護衛されながら豪華な装飾の施された数台の馬車が街道を進んでいた。


「ここまでくれば連中も追ってはこないだろう……」

「奴等も王城に隠し通路があるとは考えておるまい」

「うむ。我らが逃げたと知った連中の悔しがる顔が目に浮かぶわ」


 蒼龍国軍の追撃を逃れたことで安堵の表情を見せた貴族たちは、馬車の車内に準備されていたワインで喉を潤しながら思い思いに蒼龍国軍に対する愚痴をこぼしていた。


「陛下、これからどういたしますか?」

「まずはロスレアに向かう。あそこには我々の配下の兵や神の使いし軍団の艦隊もいる。そこならば再起することも可能であろう」

「確かに、ロスレアならば蒼龍国軍も迂闊に手は出せないでしょうな」

「うむ。それに我らの領地の私兵を合わせればまだ勝機はある」


 最高級のワインで喉を潤したことで余裕を取り戻したカザーフの言葉に、貴族たちも同意するように頷いた。


「しかし、少ない護衛でロスレアに無事に到着するか不安ですな……」

「はっはっは!貴公も心配性だな。この街道は蒼龍国の人間のような連中は知らんから大丈夫だ!」

「うむ。この街道は隠し通路と同じで地図にも書かれておらん。安心してワインを飲みながらロスレアの到着を―――うぉっ!?」


 陽気にワインを飲みながら笑い合う貴族たちの中で顔を青ざめさせながら敵の追撃を警戒する若い貴族にカザーフが安心するように告げた瞬間、馬車が急停止しカザーフや貴族たちはソファーから放り出された。


「御者は何をやっておるか!おい、何をやっておる!」


 御者が馬車を急停止させたことにカザーフは怒鳴り声を上げながら御者が見える窓に視線を向けると、馬の手綱を握っていた御者が脳漿を撒き散らしながら崩れ落ちる姿が目に入った。




『お客さんが到着した。各自作戦を開始せよ』


 UAVによってエレスティアを離れる馬車の存在を報告された親衛軍司令部は、第三親衛師団に臨時で配属されていた執行部第二課に出動を命令し、MH-60L二機に搭乗した第二課二十名はカザーフたちよりも先に街道で待ち構えていた。


「アーチャー2は先頭を行く騎兵を狙え。アーチャー3は第二目標の御者…第一目標の御者は俺が殺る」

『アーチャー2了解』

『アーチャー3了解』


 街道を進む馬車の姿をM110狙撃銃に装着されているスコープで確認しながら、騎兵に周囲を守られながら進んでいる馬車を引く馬の手綱を握る御者の頭部にアーチャー1はレティクルを合わせた。


「……撃て」


 アーチャー1は静かにそう告げたのと同時にM110狙撃銃の引き金を引き、別の狙撃ポイントに潜んでいたアーチャー2、アーチャー3もその声に従い自分が指定された目標に向けて銃弾を放った。


「目標の停止を確認した」

『こちらも目標の停止を確認。これより行動を開始する』

「了解。援護する」


 スコープの中で脳漿を撒き散らしながら崩れ落ちる御者の姿を確認したアーチャー1がヘルメット下に装着しているヘッドセットにそう告げると、待機していた部隊がMK416を構えながら馬車に向かって前進を始めた。


「敵襲!敵が来るぞ!」

「馬車を守れ!何としてもロスレアに―――ガッ!?」

「おい、大丈夫―――グアッ!?」

「クソッ!何が起こって―――ギャッ!?」


 街道の両側から姿を現した敵の姿に小銃や短機関銃を取り出して反撃しようとする衛兵たちだったが、後方に展開している狙撃手たちによって次々と無力化されていき反撃する暇もなく全滅するのだった。


「馬車周辺の脅威の排除を確認。これより目標の確保に入る」

『了解。援護する』

「スタングレネードを使用する」

「了解」


 衛兵たちが死亡していることを確認した隊員たちは馬車の扉の左右に立つとM84スタングレネードを取り出し、馬車の窓から投げ入れた。


『『『『『がぁああああ!?』』』』』


 投げ入れられたM84スタングレネードは、二秒後に百八十デシベルの爆音と百六十万カンデラの強烈な閃光を放ち馬車の中にいた貴族たちの視覚と聴覚を完全に奪うことに成功したのだった。


「扉を開けろ」

「了解」

「どこだ!?敵はどこにい―――グアッ!?」


 隊長の言葉に隊員が警戒しながら扉を開けると同時に叫びながら目を覆い剣を振り回しながら貴族の一人が外に出たが、警戒をしていた隊員たちの敵ではなくMK416の短連射によって無力化された。


「目標を確保。繰り返す、目標を確保した」


 目を覆いながら呻き声を上げるクーデター主犯の姿を確認した隊長が司令部にそう報告したことによって、アクリシア王国公爵カザーフ・ヴァン・ラダクリフによる大規模クーデターは鎮圧されたのだった。


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