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蒼龍国奮戦記  作者: こうすけ
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第三十七話

アクリシア王国 王都:エレスティア

王城 玉座の間



 城の守備兵から敵部隊強襲の報告を受けたカザーフやカザーフ側近の貴族は、自分たちが所有する金に物を言わせて職人に作らせた豪華な装飾の施されたおよそ実戦向きではない鎧を身に纏いながら混乱する状況をどうにか整理しようとしていた。


「ご報告いたします。中庭は完全に敵の手に落ちました。現在、守備兵と教皇国兵が交戦中です」

「報告いたします。三階の守備兵との連絡が途絶えました」

「ご報告いたします。敵の一隊が王城内に侵入しました。現在、城内の守備兵と交戦中です!」


 次々と玉座の間に飛び込んでくる伝令たちから報告される情報を整理しつつ、カザーフや側近たちは報告された情報から理解できることを話し合っていた。


「敵の目的はやはり三階に立て籠もる売国奴の連中と兵士の救出と見るのが妥当だろう」

「うむ。しかし、まだ敵の詳細な数は分からないのか?」

「今回の作戦が救出作戦ならば早さを重要視するはず……敵の数はそれほど多くはないだろう」

「報告いたします!敵のおおよその数が判明いたしました。中庭に二十、王城内に四十、五十ほどの兵士が確認されています」

「やはり敵は少数で来たか」

「一気に攻勢をかけるべきだ!数に任せて押し出せば勝てる!」

「陛下、このような寡兵で襲撃した愚かな敵を蹴散らしてしまいましょう!」


 敵の襲撃の目的が自分たちでなかったことに安堵した貴族たちは、敵が来るかもしれないという恐怖で青白くさせていた顔を怒りで真っ赤にさせて威勢のいい発言を始めると玉座に座るカザーフに視線を向けた。


「諸君の意見に儂も賛成である。城の守備兵を中庭と三階へ集中させよ!我が国へ土足で踏み入る賊どもを生きて返すな!」

「「「「「はっ!」」」」」


 側近たちの言葉に頷いたカザーフがそう告げると、側近たちは伝令に各部隊に伝達すべき命令を語り聞かせて各所で待機している守備隊へと走らせた。




『こちら三班、二階階段付近を完全に制圧。敵影ありません』

『こちら二班、二階廊下確保。敵影は見受けられず』

「了解。本隊は三階踊り場へ到達。各班は現地点の確保を一番に考えよ」

『了解』

『了解』


 襲撃の混乱で手薄になった隙を突いて三階へと宮崎が率いる救出部隊本隊が三階に続く階段を上がり踊り場に着いた瞬間、三階からライトが照らされるのと同時に八九式小銃を構えた数人の兵士が姿を現した。


「―――止まれ!」

「撃つな!我々は執行部だ」

「執行部か……よく来てくれた。司令部、執行部が到着した」

『了解。これより要人たちの移動を開始する』

「了解」


 宮崎たち執行部の姿を見て安堵の表情を見せた兵士は部下に警戒を続けるように命令し、無線で司令部に救出部隊が到着したことを報告した。


「通路の安全は確保されているのですか?」

「今のところは確保している」

「今のところは……?」

「敵の行動が予想以上に速い……近いうちに敵の反撃が―――ッ!?」


 宮崎と階段を確保する小隊の小隊長が話していたとき、二階から一発の銃声が聞こえるとそれから断続的に銃声が続いた。


「二班、状況を報告」

『廊下から敵守備隊が接近。戦闘中です』

「通路の確保は大丈夫か?」

『問題ありません……と言いたいところですが、敵の数が多く長くは持ち堪えられそうにありません』

「分かった……最悪、階段を確保している三班と共同で対処せよ」

『了解』


 二階で守備兵と銃撃戦を繰り広げる二班との通信を切るのと同時に救出目標である女王派貴族の周囲を小銃を構えながら警戒する蒼龍国軍駐留部隊が姿を現した。


「駐留部隊指揮官の是枝だ。今回の救出作戦に感謝する」

「救出部隊指揮官の宮崎です。感謝の言葉はここから脱出してからにしましょう。すでに二階で敵守備兵と交戦状態に入りました」

「敵さんの動きも早いな……中庭までの案内は頼む」

「本隊より各班へ、これより要人たちを連れて離脱する。繰り返す、これより離脱する」




「突撃ぃい!逆賊どもを生きて城から出すな!」

「新生アクリシア王国万ざ―――グアッ!」

「怯むな!進めぇえ!」


 三階に上がった救出部隊本隊が女王派貴族たちを護衛する駐留部隊と合流した頃、二階廊下を確保していた二班はカザーフたちの命令を受けて反撃に出た王城守備兵の攻撃を受けていた。


「クソッ!数が多すぎる……これじゃ埒が明かないぞ」

「持ち堪えろ。要人たちが二階を降りたら我々も階段踊り場まで後退する」

「弾が足りるのか……?」


 射撃しながら柱などに隠れて言葉を交わす隊員たちの守る廊下は、二班の隊員たちの持つHK416のサプレッサーによって抑制された銃声と王城守備兵の持つGeW43の銃声、王城守備兵の悲鳴に満たされていた。


『二班に通達、要人たちが二階へ到達した。二班も階段踊り場まで後退を開始せよ』

「了解。これより後退を開始する」

「やっと後退ですか……」

「聞いた通りだ。互いにフォローしながら階段踊り場まで後退する。小田と橋本が先に後退しろ。それから順番に後退だ」

「「「「「了解」」」」」

「よし……後退を開始!援護射撃!」


 班長の号令が掛かると隊員たちは二名の隊員が後退を始めるのと同時に銃を撃ちまくり弾幕を形成し、守備兵が近付けないように互いをフォローしながら隊員たちは階段踊り場へと向かった。


「一尉、敵がすぐに来ます。数は少なく見積もっても五十はいるかと」

「ご苦労。お前たちもすぐに一階に降りろ」

「はっ!」


 階段踊り場で二班が戻るのを待っていた宮崎は戻った二班にそう告げると、階段を警戒する三班の隊員と何かを設置している隊員に視線を向けた。


「三班は射撃用意。置き土産の用意は?」

「あと二分で完了します」

「遅い。あと一分で終わらせろ」

「了解」

「敵を補足!数は五十以上!」

「さらに増強したか……班長の指示で射撃開始。置き土産の準備が完了と同時に我々も下に行く」

「目標、接近中の敵守備隊。距離百、短連射……撃て」


 暗視装置によって暗い廊下から小銃を構えて近付く敵守備兵の姿を確認した三班の隊員は、班長の命令に従って射撃が開始され近づく敵から優先的に排除していく。


「一尉、置き土産の設置完了しました」

「撃ち続けながら後退。隣とタイミングを合わせながら落ち着いて下がれ」

「「「「「了解」」」」」

「賊どもが退きはじめたぞ!この機を逃すな!」

「おぉおおお!」


 損害を増やしつつも突撃を続ける守備兵たちに銃撃を加えながらゆっくりと後退する隊員たちの姿を見て、こちらの数に恐れをなして退却を始めたと思った守備隊長が突撃を命じると守備兵たちは雄叫びを上げながら後退する三班に迫る。


「ここまでくれば大丈夫か……全員いるな?」

「三班、欠員なし」

「点火しろ……」

「了解。点火します」


 階段の踊り場まで降りた宮崎は三班の隊員が全員いることを確認すると、起爆スイッチを持っている隊員にそう告げた。


「ぎゃぁぁあああああ!」


 隊員がスイッチを押した瞬間、二階の廊下から爆発音が聞こえるとそれに続いて守備兵たちの断末魔の叫び声が聞こえた。


「プレゼントの配達は終了だ。一階に急ぐ」

「「「「「はっ」」」」」


 廊下に設置されたプレゼント―――C-4爆薬と七百個の鉄球を内包したM18クレイモア地雷は隊員のスイッチによって起爆されると、内包していた七百個の鉄球が宮崎たちを追っていた守備兵たちに死の暴風をもたらし廊下には体に無数の穴が開いた守備兵の死体だけが転がっていた。




 宮崎たち救出部隊本隊が貴族たちを護衛しながら守備兵の追撃を受けている頃、中庭を守る先遣班二十名も伝令からの命令を受けて中庭奪還を目指す守備兵との間で戦闘が行われていた。


「クソッ!敵の数が多すぎる!」

「弱音を吐くな!それでも執行部か!」

「城壁からも敵兵多数!」

「回廊からも来るぞ!」


 物陰に隠れながら中庭を奪還しようと突撃する守備兵や教皇国兵に銃撃を加える先遣班の隊員たちだったが、敵の数の多さに苦戦を強いられ始めていた。


「城壁側の第一分隊、城壁側の敵兵を一掃しろ!ヘリが危険に晒される可能性がある」

「了解!」

「回廊側の敵が突撃してきます!」

「第二分隊、撃ちまくれ!敵を近づけるな!」


 ウィシャートの命令を受けて突撃する守備兵と教皇国兵に隊員たちが小銃の照準を合わせた瞬間、隊員たちに迫っていた守備兵や教皇国兵たちが糸の切れた人形のように膝から崩れ落ちた。


「敵の全滅を確認!」

「警戒を怠るな!まだ敵は来るぞ!」

「一班、回廊を確保とトラップの用意!二班は城壁に上がって先遣班の援護!三班は着陸地点の確保!急げ!」

「本隊……宮崎、遅かったじゃない」

「悪かった。ストーカーがしつこかったのよ」


 女王派貴族と駐留部隊を連れた救出部隊本隊が先遣班と合流すると、貴族たちの護衛を駐留部隊に任せて本隊はトラップの設置や先遣班の援護などを開始した。


『救出部隊へ、こちらセイバー。着陸地点の安全は確保されているか?』

「こちら救出部隊指揮官の宮崎だ。着陸地点の安全は確保している。セイバーは安心して中庭に着陸してくれ」

『了解。これより着陸態勢に入る』


 宮崎との通信を終えた女王派貴族と重傷者回収のために特殊作戦用に改造されたMH-47Gが中庭上空に到達すると、着陸地点の安全を確認しながら徐々に高度を落とし中庭へと着陸した。


「乗せる人数は何人ですか!」

「貴族が二十八名に重傷者が二十一名!乗せられるか?」

「ぎりぎり大丈夫です!すぐに乗せて下さい!」

「分かった。貴族と重傷者を乗せろ!早くしないと敵の増援が来るぞ!」


 猛烈なダウンウォッシュの中でヘリ搭乗員と会話した宮崎は、物陰に隠れさせていた貴族と戦闘で発生した重傷者をヘリの中へ乗せるように命令すると、貴族や担架に乗せられた重傷者たちが運び込まれた。


「これで全員ですか?」

「これで全員だ」

「もっと余裕があれば全員を救出できるのですが……」

「我々は陸路でゆっくり帰る。貴族たちのことは任せた」

「はい。お任せください!」


 ヘリに全員が乗ったことを確認した搭乗員は宮崎との会話を終えて駆け足で機内へ戻ると、MH-47Gの後部ランプが閉まりエンジンの出力を上げて中庭を飛び立ち「キアサージ」へと向かった。


「我々も撤収する……全員、弾薬の補充を終えたらすぐに城門に向かうぞ。是枝一佐、もう少しだけ頑張ってください」

「あぁ。我々も頑張るとしよう」


 貴族と重傷者を乗せたMH-47Gを見送った宮崎たちは、これまでの戦闘で消費した弾薬の補充を行うと作戦通り第二課と駐留部隊の回収を行う車輌部隊との合流地点である城門へと向かった。


遅くなって申し訳ありません。


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