表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒼龍国奮戦記  作者: こうすけ
37/42

第三十六話

アクリシア王国 王都:エレスティア

ミスラ―タ港 強襲揚陸艦「キアサージ」



 ミスラータ港に停泊する強襲揚陸艦「キアサージ」のブリーフィングルームでは照明が落され、椅子に座る第二課の隊員たちは正面のスクリーンに映し出される王城の見取り図を見ながら宮崎の説明に耳を傾けていた。


「―――我々の降下地点は中庭。最初にMH-6Mリトルバードで輸送された先遣隊二十名が中庭城壁を制圧、制圧確認後MH-60Lブラックホークに輸送された本隊五十名が中庭に降下し中庭を制圧する」

「一尉、中庭から貴族たちが立て籠もる区画までの距離は……?」

「約四百五十メートルだ。立て籠もっている区画は三階、蒼龍国軍駐留部隊区画となっている」


 宮崎がそう言うのと同時にスクリーンに映し出されていた画像が王城の見取り図から王城内部の見取り図へと切り替えられ、見取り図には青色で方が立て籠もっている区画と赤い線で予定される救出路が示されていた。


「すでに王城内の味方にもこの救出作戦は知らされている。作戦開始と同時に王城内の味方部隊も行動を開始、味方部隊は要人たちの護衛を行い三階から中庭までの安全の確保は我々が行う。中庭の制圧後、着陸したMH-47Gが要人と重傷者を輸送する」

「王城内での戦闘は?」

「なるべく控えろ。今回の作戦は敵に対する打撃ではなく味方と要人の迅速な救出が目的だ。必要以上の戦闘は行うな」

「了解」

「要人救出後、我々は王城城門に移動し車輌部隊に回収されて作戦は終了となる。以上が今回の救出作戦となるが、質問がある者はいるか?」

「王城の奪還は行わないのですか?」

「戦力が足りないからな…王城の奪還は要人と味方の救出後に行われる」

「そうですか」

「ほかに質問がある者はいるか?……いないならブリーフィングは以上とする。第二課の名に相応しい働きを期待する。解散!」


 宮崎が解散を告げると説明を聞いていた隊員たちは席を立ちブリーフィングルームを出ると、作戦に必要な自分たちの武器弾薬などの装備品が準備されている車両格納庫へと足早に向かった。


「菜美、今回はこれまで以上に難しい任務になりそうね」


 ほかの隊員と同じように作戦準備をするためにブリーフィングルームを出て車両甲板に向かおうとする宮崎に、ブリーフィングルームの外で待っていた女性―――宮崎と同期で親友のシンディ・ウィシャート一尉が話し掛けた。


「えぇ……困難な任務だと思うけれども不可能だとは考えていないわ。シンディ、それはあなたも同じでしょ?」

「当然。私たちは総帥直属の特殊部隊よ。これぐらいの任務で怯えていたら第二課の名前にも総帥の顔にも泥を塗ることになってしまうわ」


 ウィシャートとの会話を続けながら車両格納庫へと続く通路を歩いて車両格納庫へと入ると、全身を黒で統一された戦闘服とボディーアーマー、ヘルメットを身に付けた隊員たちが黙々とマガジンポーチに予備弾倉を入れ、相棒であるHK416の点検を行っていた。


「今回の救出作戦で、アクリシア王国の女王派の貴族は蒼龍国本土に一時的に亡命することになるわけね……」

「そうなるわね。まぁ、港を抑えているから王都もすぐに奪還できると思うけど」


 出撃準備を進める隊員たちと同じようにボディーアーマーのマガジンポーチに予備弾倉を入れながら宮崎とウィシャートは会話を続けていた。


「取り敢えずは目先の任務を無事に成功させるとしましょう」

「そうね…先に行って待てるわ」

「えぇ、中庭で会いましょう……城壁に降下する先遣隊二十名はヘリに搭乗!パイロットたちを待たせるな!」

『『『『『了解!』』』』』

「本隊も飛行甲板へ上がりヘリで待機!さっさと仕事を終わらせて帰るぞ!」


 ウィシャートとの会話を打ち切った宮崎は装備の点検を終えて待機していたMH-6Mで城壁に降下する先遣隊の隊員たちに命令すると、自分も中庭を制圧する本隊を連れて飛行甲板で待機しているMH-60Lへと向かった。




「―――了解しました。こちらも行動を開始します」

『くれぐれも慎重にな』

「分かっています。全員聞いたな、各自五分以内に装具をまとめて集合。防衛線の部隊にも通達しろ」

『『『『『了解』』』』』

「全防衛線へ通達、味方部隊の救出作戦が開始された。各部隊は装具をまとめ撤退準備を整えろ」


 蒼龍国軍と近衛騎士団が守る防衛線内側の一室に設置されている防衛線司令部では、第二課を主力とした救出部隊が出撃した報告を受けた是枝の命令によって防衛線を警戒する兵士たちには無線で通達され、部屋で休息を取っていた兵士たちも一斉に装備をまとめて撤退準備を始めた。


「コレエダ二佐……」

「アネット隊長、救出部隊が来ます。貴族の皆さんにも集合するように伝えてください」

「分かりました。すぐに伝えます」


 是枝の言葉に頷いたアネットは足早に司令部を出て貴族たちが避難している部屋へ入り、怯えている貴族たちに救出部隊が来ることを伝えて最低限の荷物だけを持たせて再び司令部へと向かった。


「皆さん、あと数分で我が軍の救出部隊が到着します。皆さんは我々の指示に従って静かについて来てください」

「コレエダ二佐、本当に無事に脱出することが出来るのか?」


 女王派貴族の中でも有力貴族の一人であるアルキス・ラ・ダルクール侯爵が不安そうな表情を浮かべながら是枝にそう尋ねた。


「ご安心ください。救出に来るのは我が国でも精鋭と名高い部隊です。必ずや皆さんを脱出させます」

「そうですか…なら、私たちは指示に従うとしよう」

「協力に感謝します……全部隊にサプレッサーを装着するように通達。行動を開始せよ」


 是枝の命令によって各防衛線で撤退準備を終えて待機していた兵士たちが一斉に動き始め、慎重に周囲の安全を確認しながら中庭まで階段までの通路を確保した。


『こちら第二十一小隊、中庭まで続く階段を確保した。周囲に敵影なし…引き続き警戒しこの場を保持する』

『第三十八小隊第二区画を確保。引き続き警戒する』

『第四十二分隊、第二十一小隊と合流、警戒する』

「こちら司令部、各部隊は引き続き各ポイントを警戒せよ」


 救出作戦に合わせて各小隊は貴族たちを安全に避難させるために必要な通路を素早く確保し、周囲の警戒を続けながら第二課の到着を待つのだった。




 救出部隊の先遣隊二十名を乗せた第160特殊作戦航空連隊―――通称ナイトストーカーズ所属のMH-6Mリトルバード五機はAH-64D二機の護衛を受けながら王城中庭城壁に向かっていた。


『降下まで二分……!』


 強襲揚陸艦「キアサージ」を発艦したMH-6Mの気泡型機体の外側に装着されたベンチに腰を下ろして降下の瞬間を待つウィシャート一尉は、機長の言葉を聞きながらAN/PSQ-20を装着した黒く塗装されたヘルメットを被り直しAN/PSQ-20のスイッチを入れるとHK416の銃把を握った。


「真っ暗ですね……篝火も焚いていませんよ」

「そうね……我々を警戒している証拠かしら。全員、暗視装置は忘れてないわね?忘れ物があっても取りに帰れないわよ」

「大丈夫ですよ、一尉。忘れ物は一つもありません」


 ウィシャートの言葉にほかの三つのベンチに座っていた隊員たちは、ウィシャートの言葉に答えながらヘルメットに装着されたAN/PSQ-20のスイッチを入れた。


『城壁に見張りと思われる弓兵五人を確認……排除を頼めるか?』

「了解……」


 城壁の上に眠そうにしながら立っていた見張り兵士の姿を確認した機長からの要請を受けたウィシャートと三人の隊員は暗視装置で弓兵の姿を確認し銃を構えて引き金を引くと、サプレッによって抑制された銃声と共に銃弾が放たれた。


「敵兵の排除を確認。周囲に脅威なし!」

『こちらでも確認した。これより城壁上に降下する』


 城壁上の弓兵を一掃し周囲に脅威が存在しないことを確認した機長はそう告げると、機体を降下させて城壁に機体をぶつけないように慎重に近づく。


『よし、行ってくれ。無事を祈っている』

「行け、行け、行け!」


 城壁に限界まで降下し機長がそう告げた瞬間、ベンチに座っていたウィシャートは弾かれたようにベンチから飛び降りるとほかの三人と銃を構えながら城壁上に生存している敵兵士がいないことを確認する。


「こちら先遣、城壁制圧完了。現在地を確保。引き続き警戒する」

『了解。こちらは降下まで三分』

「敵の反撃がありませんね……」

「えぇ…ローター音で気付いていると思うのだけれど……」

「損害を出さずに制圧できたのは嬉しいですが、何か不気味な感じですね……」


 銃を構えて警戒を続けながら本隊到着を待つウィシャートたち先遣隊だったが、これといった反撃が無いことに不安を感じていた。


「戦力を集結させて反撃するのか、本当に気が付いていないのか……」

「前者なら我々にとって脅威になりますね」

「そうね……それよりも早く本隊が到着してくれれば―――来たわね……」


 城壁から中庭を見下ろす形で部下と話しながら警戒を続けていたウィシャートたちの耳にMH-6Mとは違うヘリのローター音が聞こえ、上空を見上げると救出部隊本隊五十名を乗せたMH-60Lブラックホーク五機が中庭上空に侵入した。


「本隊が降下を開始する!周辺警戒を厳とせよ!」


 中庭に侵入したMH-60Lが限界ぎりぎりまで降下しホバリングを始めると、両側のドアからファストロープが降ろされ機体に乗っていた本隊の隊員たちが素早くロープに飛びついて中庭に滑り降りた。


「―――っ!?敵襲!二時方向の回廊から敵集団が接近!」

「ようやくお出ましか…」

「総員、戦闘配置!降下の邪魔をさせるな!」


 本隊の隊員たちがMH-60Lからファストロープ降下を続けていると、城壁で警戒していた先遣隊の隊員が警告の声を発し城壁上にいた先遣隊の隊員とすでに降下して周辺を警戒していた隊員たちが警告された方向に銃口を向けた。


「突撃ぃいい!」

「神に仇なす敵を打ち取れぇええ!」


 神の使いし軍団から供与されたであろうGeW43半自動小銃やMP40を構えながら殺到する教皇国兵たちを迎撃態勢を整えた第二課の隊員たちのHK416から放たれる激しい弾幕が出迎えた。


「負けるなぁあ!撃ち返せぇええ!」

「神の武器を手に入れた我々に恐れるものは何もない!」


 一方的に銃撃され死傷者の数を増やす教皇国兵たちも指揮官の言葉で反撃が開始され、勇ましい雄叫びを上げながら銃を乱射して突撃する教皇国兵に対して迎撃態勢を整えていた隊員たちは慌てることなく冷静に敵に銃弾を浴びせた。


『敵の全滅を確認しました。周囲に敵影は認められません』

「各員、警戒は怠るな。救出ヘリが来るまでこの場を保持する」


 敵の全滅と中庭に飛来した五機のMH-60Lから全員が降下したのを確認したウィシャートは城壁を降りると隊員の人員掌握の報告を受けていた宮崎に近付いた。


「ウィシャート一尉、敵影は?」

「こちらに接近していた敵部隊の全滅を確認。敵影は確認できません」

「了解。これより本隊は王城への突入を開始する。先遣班は引き続き中庭の確保に努めよ」

「了解」

「本隊は王城に突入開始!同胞と女王派貴族を救出する!」


 ウィシャートからの報告を受けた宮崎はブラックホークから降下し待機していた本隊の隊員にそう告げると、本隊は王城内へと続く通用口から突入し味方が立て籠もる三階へと向かった。


ご意見・ご感想お待ちしています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ