第三十三話
城塞都市リノン郊外
蒼龍国遠征軍
エレスティアとダルティアにおける反撃作戦が開始されたころ、バスティア要塞攻略を目指す蒼龍国派遣軍でも大攻勢を仕掛けてきたインペリウム教皇国軍、神の使いし軍団との戦闘が続けられていた。
『最終弾ちゃーく……今ッ!』
『こちら第三十八擲弾兵連隊、最終弾着を確認した。これより前進を開始する』
『第十二装甲師団、前進を開始する!』
攻め落とした四つ目の城塞都市リノンで態勢を整えていた遠征軍は、刹那の狙撃と王都エレスティアへの奇襲侵攻、それに呼応した蒼龍国遠征軍の重要拠点でもあるダルティア基地への奇襲攻撃の報告に混乱していた隙を突かれて攻撃を受けて一時は苦戦を強いられていた遠征軍だったが、すぐに態勢を立て直し戦況は蒼龍国軍有利に傾いていた。
「二時の方向から教皇国軍の隊列!オークやゴブリンなどの怪異たちを先頭に接近!」
「焦るな!怪異たちを近づけさせたら厄介だ。総員、射撃用意。キャリバーを前に出せ!落ち着いて狙え」
第三十八擲弾兵連隊隷下の第五十二中隊の目の前に現れた盾を構えながら前進する教皇国軍の兵士たちと彼らの前を奇声を上げながら突進する怪異たちの姿に怯む兵士たちだったが、中隊長の命令を受けて装甲版とM2重機関銃を搭載したM1151やM1126ストライカーICVが前面に出され、兵士たちが迎撃態勢を整えるのと同時に敵隊列に銃火が浴びせられた。
「キャリバー、怪異たちを優先的に狙え!小銃では仕留めきれん」
「了解!」
小銃の弾雨を物ともせずに奇声を上げながら中隊に迫っていた怪異たちだったが、中隊長の命令を受けたM2重機関銃の射手が銃口が怪異たちに向けられて銃弾が放つと、突進していた怪異たちは鮮血をまき散らしながら絶命していった。
「第一小隊、擲弾装着!敵隊列の真ん中に集中させろ!」
盾を構え、仲間の死体を踏み越えてこちらとの間合いを詰めようとする教皇国軍兵に埒が明かないと感じた中隊長の命令で第一小隊の兵士たちは〇六式小銃擲弾を取り出し、銃口に装着すると隊列の真ん中に次々と撃ち込んだ。
「ギャァアアア!」
「う、腕が、俺の腕がぁああ!」
数十発の擲弾が隊列に着弾したと同時に爆発に巻き込まれた教皇国軍兵の断末魔の悲鳴が聞こえてきたが、中隊の兵士たちは続けて銃撃を加えて続けて手榴弾も投げ込まれてさらに被害を大きくさせていく。
「このままいけば敵を殲滅できるな」
「あぁ、怪異たちが出てきたときはビビったが、倒してしまえばこっちのものだ」
「おい、そこ!油断するな!奴らがどんな隠し玉を持っているかまだ分から―――『パンツァーシュレックだ!』―――伏せろっ!?」
ほぼ敵の掃討という形になってきた戦闘に楽観的な会話をしていた二人の兵士を中隊長が嗜めていたとき、別の場所で銃撃していた兵士が大声で叫んだ。
兵士の叫び声に全員が反射的に伏せた瞬間、M2重機関銃の射撃を続けていたM1151にパンツァーシュレックの弾頭が着弾し、M1151が吹き飛ばされた。
「クソたれがッ!全員、警戒しろ!」
「また来るぞぉおお!」
破壊されて炎に包まれるM1151を見て悪態をつく中隊長だったが、再び別の兵士の叫び声に身を伏せるとM1126が吹き飛ばされた。
「クソッ!今の攻撃で何人がやられた!?」
「M1151、M1126で射撃を行っていた射手と運転手の合計四名がやられました!両車輌の周囲で戦闘中だった兵士も多数負傷しています」
「通信兵、司令部に連絡!敵の反撃を受け負傷者多数。至急増援を願う!」
「了解!」
中隊長からの命令を受けた通信兵は背負っているJTRS-HMSの受話器を手に取り、司令部へと連絡を取り始めた。
『十時方向から神の使いし軍団の兵士!少なくても一個中隊が装甲車輌と接近中!…….装甲車輌の中に突撃砲と思しきものを多数確認!』
「このクソ忙しい時に!第三、四班は神の使いし軍団に攻撃を集中!生き残っている車輌は防御陣形!」
兵士を満載したハーフトラックや長砲身の七十五ミリ砲を搭載したⅢ号突撃砲などが中隊に迫り、生き残っているM1151やM1126は中隊長の命令に従って円形の防御陣形を形成した。
「教皇国軍にも増援を確認!数は少なくても千以上!」
「九時方向から突撃砲が来るぞ!」
「LAMで吹き飛ばせ!」
「……グアッ!」
「一名負傷!一名負傷!」
「突撃砲を優先的に潰せ!一発でも撃たれたら車輌が吹き飛ぶぞ!」
「こっちに人員を回してくれ!」
「中隊長、司令部から二十分で増援が到着すると!」
「こんな状況で二十分も持つのか……」
防御陣形を形成した車輌の内側に退避した兵士たちは恐怖に耐えながら自分たちに迫る教皇国軍と神の使いし軍団の攻撃を防いでいたが、敵の数が多い。いや、多すぎた。
神の使いし軍団の援護射撃によって教皇国軍もはじわじわとこちらとの距離を詰め始め、接近を防ごうとする味方は徐々に損害を増やして衛生兵が行う応急処置も間に合わなくなっていた。
「十時方向から突撃砲!LAMだLAMを持って来い!」
「LAMがない!全て使い切った!」
「チキショウ!砲撃が来るぞ!」
「二十分は持たない…ここまでか……」
装甲車輌に唯一対抗できるLAMを使い切ったことで、増援が到着する二十分まで持たないことを感じ取った中隊長がこちらに砲身を向けながら近づく突撃砲をにらんだ瞬間、近づいていた突撃砲の一輌が突如飛来した対地ミサイルによって爆発し轟音とともに炎に包まれてその動きを止めた。
「あ、アパッチ・ロングボウ……」
対地ミサイルが飛来した方向を見た中隊長の目に映ったのは、ローター音を轟かせてこちらに向かって来る三機のAH-64Dアパッチ・ロングボウの姿だった。
『遅れて済まない。他の所で手間取ってしまった。これより援護を開始する。装甲車輌の相手は任せときな』
「頼もしいな…存分に暴れてくれ」
『了解』
AH-64Dの兵装パイロンから立て続けに発射されたAGM-114Lロングボウ・ヘルファイアは、突然の空からの攻撃に混乱する突撃砲部隊に襲い掛かり一瞬にしてその戦闘能力を喪失させた。
「全員、攻撃の手を緩めるな!増援もあと少しで到着する。敵にさっきまでのツケを利子を付けて返してやれ!」
「撃ちまくれ!突撃砲が潰されたことで敵は浮足立っているぞ!」
アパッチ・ロングボウの登場によって装甲車輌の脅威が去ったことで、防御陣形に隠れていた中隊は装甲車輌が全て破壊されて混乱する敵兵士たちに重機関銃や小銃の弾丸の雨を浴びせた。
突撃砲の全滅を確認したアパッチ・ロングボウ三機もハーフトラックや敵兵士に切り替え、ハイドラ70ロケット弾や三十ミリチェーンガンによる掃討を開始した。
『遅くなって済まない!これより中隊の攻撃に参加する!』
「増援に感謝する!キャニスター弾を教皇国軍の隊列に撃ち込んでくれ」
『了解した』
空と陸からのロケット弾や銃弾の雨を受けて混乱する教皇国軍と神の使いし軍団に増援として到着した三輌のM1128 ストライカーMGSに搭載されている百五ミリ砲からM1040キャニスター弾が放たれ、損害を増やしながらも隊列を組んで進む教皇国軍兵士たちの命を一瞬にして奪い去った。
「ひっ、ひぃいいい!?」
「だ、誰か、誰か助けてくれ!痛い!痛い!痛い!」
「足が!俺の足がぁああ!?」
「た、退却だ!退却しろ!」
放たれたM1040キャニスター弾は集団で隊列を組む教皇国軍兵たちに十分な威力を発揮し、着弾した周囲には腕や足を吹き飛ばされて絶叫する兵士や臓物を撒き散らして絶命する味方の姿に怯える兵士たちの姿があった。
「敵の隊列が崩れた!防御陣形を解け!これより掃討戦に移行するぞ!」
「よっしゃ、やられた仲間の仇を取るぞ!」
「全員、急いで乗り込め!」
「奴らに思い知らせてやれ!」
退却する敵を見た中隊長の追撃命令に円形の防御陣形を敷いていた車輌は負傷者を収容した二輌のM1126を残して防御陣形を解き、兵士たちを乗車させて背を向けて逃げる敵に全速力で向かった。
『これまでの怨み、思い知れぇええ!』
『やられた仲間の仇だ!』
ヘルメットに装着されている無線機のヘッドセットからは中隊の兵士たちの怒号が響き、重機関銃と小銃の銃弾が逃げ惑う教皇国軍兵や神の使い軍団の兵士の身体を貫き鮮血を撒き散らし、車輌が通り過ぎる際にお土産よろしく投げた手榴弾の爆発をもろに受けた兵士は肉塊と化した。
上空と地上からの苛烈な攻撃を受ける教皇国軍兵と神の使いし軍団の部隊は指揮官を失ったことで軍としての統率を失い、さらに追撃によって絶命していく味方の姿を見て恐慌状態に陥った兵士たちは次々と降伏の意思を示すのだった。
「第五十二中隊、敵包囲戦を突破。負傷者と敵捕虜回収のための増援要請」
「後方にいる第三十八中隊を向かわせろ」
「第二十六装甲連隊が敵左翼を突破。擲弾兵連隊の増援を求めています」
「現在動ける連隊は……?」
「第二十九擲弾兵連隊が動けます」
「なら第二十九擲弾兵連隊を増援として向かわせろ」
蒼龍国派遣軍の司令部となっている城塞都市リノンの城館では、派遣軍司令官である真田加奈大将と副官の広瀬智明一佐を含めた幕僚や司令部要員たちが慌ただしく動き回り各所で戦闘を行っている各部隊の戦況が逐一報告されていた。
「広瀬、現在の戦況を簡潔に報告してちょうだい」
「はっ。現在、第十二装甲師団を中核とした左翼部隊が敵前線を突破。右翼でもは敵部隊と交戦が続いています」
「味方の被害は?」
「神の使いし軍団のパンツァーファウストやパンツァーシュレックによって少なからず装甲車などに被害が出ています。死傷者の数は現在集計中ですが、2千以上になるかと思われます」
広瀬は自分の手元にある戦況報告書の内容簡潔に読み上げ終わると真田に報告書を差し出した。
「思ったよりも被害が大きわね……」
受け取った報告書に目を通す真田は、被害状況について書かれたページで味方の被害の大きさに顔を歪めた。
「敵もこちらの攻撃を研究しているようです。戦車など重装甲の戦闘車輌は大丈夫ですが、装甲車などに少なくない被害が出ています」
装甲車輌を前面に押し出して進撃する蒼龍国軍の戦術に対して、神の使いし軍団はパンツァーファウストやパンツァーシュレックなどの対戦車兵器を使用し、教皇国軍も魔導士を動員して装甲戦闘車輌の弱点である履帯やタイヤ部分を集中して攻撃することで装甲部隊の被害は以前と比べて多くなっていた。
「敵も一筋縄では行かせてくれないか……」
「我々も旧式兵器を使う敵と考えて気が緩み過ぎていたというのも考えられます」
「そうね……この攻勢が終わったら敵の認識を改めないといけないわね」
「はい」
それから四時間後、最後まで頑強な抵抗を続けていた敵右翼を第八装甲師団が突破することで敵の大攻勢は失敗に終わったが、この戦闘で初めて蒼龍国派遣軍は戦死者二百三十一名、負傷者三千二百三十八名と少なくない被害を出すことになり、この戦闘は敵に対する認識を改める戦闘にもなるのだった。
私情で申し訳ありませんが二週間ほど実家に戻るので、更新することが出来なくなります。
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