第三十二話
バレンシア大陸沖
第二航空打撃群旗艦:「ジョン・F・ケネディ」
「準備が完了した機は打ち合わせ通りにカタパルトに進め!」
「時間がないぞ!早くしろ!」
王都襲撃とダルティア基地襲撃の報告を受けた第二航空打撃群所属空母の飛行甲板ではデッキクルーたちが慌ただしく動き回り、各作戦機に燃料や各種ミサイル、誘導弾の搭載が進められていた。
「全機が行動圏内に到達するのにあと何分かかる?」
第二航空打撃群旗艦である「ジョン・F・ケネディ」の戦闘群司令部指揮所の一角に設置されている司令席に座る凛々しい顔立ちの女性―――第二航空打撃群司令官、エレノーラ・シェンフィールド中将がそう尋ねた。
「あと三分で全機が行動圏内に入ります」
シェンフィールドの問い掛けに、彼女の背後に控える副司令のブレット・サムウェル少将が幕僚の一人から受け取った報告書に目を通しながら答えた。
「そう……行動圏内到達から何分で全機の出撃が可能かしら?」
「すでに第一次攻撃隊の発艦準備は完了しています。司令の出撃命令が下れば、三十分以内に発艦できるでしょう」
「―――報告します!艦隊が作戦機の行動圏内に入りました!」
「全空母に通達!第一次攻撃隊、発艦始め!続いて第二次攻撃隊は発艦準備に掛かれ!」
シェンフィールドの命令は全ての空母へと伝えられ、戦闘群司令部指揮所の大型ディスプレイには「ジョン・F・ケネディ」の飛行甲板で今か今かと出撃命令を待っていたF/A-18E/FやF-35Cが電磁カタパルトによって射出される様子が映し出されていた。
「第一次攻撃隊の目標はダルティア基地に攻撃を行っている敵地上軍の爆撃と制空権の奪還です」
各空母から第一次攻撃隊が全機発艦したのを確認したシェンフィールドは副司令や幕僚たちと作戦台を取り囲み、作戦参謀から改めて今回の作戦の説明を受けていた。
「すでにダルティア基地の制空権は敵に奪われていますが、第一次攻撃隊によってこれを一時的に奪還し、ダルティア基地の航空戦力が発進する隙を作ります」
「ダルティア基地の航空戦力は健在なの……?」
「はい。ダウルティア基地との通信では一部の格納庫と滑走路に被害は出たものの、航空戦力は健在だそうです。ですが、敵地上軍の攻撃も激しく厳しい状況だと……」
「そう……なら時間との勝負になるわね……」
作戦参謀の言葉にディスプレイに表示される第一攻撃隊の位置をみながらシェンフィールドはそう呟いた。
アクリシア王国領 ダルティア
蒼龍国派遣軍ダルティア基地
インペリウム教皇国軍と神の使いし軍団の奇襲を受けたダルティア基地は善戦していたが、敵がシュトルムティーガーなどの対要塞兵器を投入されたことによって少しずつ苦境に立たされていた。
「クソッ、弾!弾が切れた!補給科は何をしている!?」
「三名負傷!三名負傷!衛生!衛生!」
「しっかりしろ!―――ウッ!?」
兵士たちの絶叫や射撃音が響く中でダルティア基地の四つある正面ゲートの一つである第三正面ゲートでは、守備兵たちは多くの血を流しながらも援護射撃を受けながら装甲車輌を楯にして基地内に侵入しようとする敵を必死で食い止めていた。
「いくら装甲化されているゲートでもこれ以上砲撃を受けると崩れちまうな……」
「砲撃が来るぞぉおお!」
「総員退避ぃいい!」
一人の兵士の言葉にゲートに接近する敵兵士を小銃や機関銃で射撃していた兵士たちは、蜘蛛の子を散らすように退避した瞬間、敵のパンターから放たれた砲弾によって銃眼やトーチカが破壊された。
「クソッ、これ以上の砲撃を受けたらいくら装甲化しているゲートでも持たないぞ!」
「LAMを持って来い!あのクソッタレな戦車を黙らせろ!」
「了解!」
砂埃を払いながらそう告げた守備隊長の言葉でLAMを担いだ兵士が砲撃したパンターにLAMを発射し、砲塔を吹き飛ばして沈黙させた。
「弾薬の補給は!?弾薬はまだ来ないのか!?」
「司令部!第三正面ゲートはもう限界です!後退…後退の許可を!」
「衛生!衛生はまだか!?」
ゲートへと迫る敵兵士に向けて銃撃を続ける守備兵たちだったが、敵からの激しい砲撃や銃撃によって発生した負傷者は応急処置を受けて至る所に寝かされ、小銃の残弾を全て撃ち尽くした兵士は拳銃を撃ちながら補給を叫んでいた。
「状況は少しずつですが酷くなっています……」
砲撃や銃撃の音が響く中、ダルティア基地の司令部で開かれた戦況報告会で作戦参謀が開口一番にそう告げた。
「作戦参謀、もう少し詳しい報告を」
「現在、敵は我が基地の四つあるゲートに波状攻撃を仕掛けてゲートを突破しようとしています。今のところはゲートは耐えていますが、破壊されるのは時間の問題かと……」
「兵士たちの状況は?」
「昼夜を問わない敵の攻撃で兵士たちの疲労もピークに達しているかと思われます」
「医療室と衛生兵も限界です。現時点で防衛部隊の三割が死傷しています。増援を送ることも不可能です」
「司令、第三正面ゲートから後退要請です!そのほかのゲートからも限界だと報告が……」
コンソールに向かって各防衛線からの報告や状況をまとめていたオペレーターが、第三正面ゲートからの報告を大原たちに伝えた。
「ゲートも限界ですか……基地内の防衛線の準備は?」
「八割方が完成しています」
「第二航空打撃群からの増援は……?」
「先程、第一攻撃隊全機が出撃したと報告がありました」
「各防塁で戦闘中の守備部隊に通達!防塁は放棄。すぐに基地内の第二防衛線に後―――っ!?」
作戦参謀の報告を受けた大原は、通信に守備兵たちに防塁を放棄して基地内に設置した第二防衛線に後退することを伝えた瞬間、これまでの爆発音よりもひときわ大きな爆発音が司令部内に響いた。
「な、何が起こったの!?」
「報告します!ゲートが破壊…敵が第一、第三正面ゲートを破壊しました!」
「すぐに各守備隊に後退を伝えなさい!後方に展開している兵士たちは守備隊の援護を!」
基地の守りの要であった正面ゲートが破られた報告と同時に、レーダー画面を見ていた兵士からも続けて報告が入った。
「―――報告します!敵航空機の集団を探知しました!数二百」
「また空襲ですか……航空参謀、勝算は……?」
「厳しいですね…防塁を放棄することで、主な対空兵器は喪失しました。敵の攻撃を完全に防ぐことは難しいでしょう」
「そう……残存している対空部隊に戦闘命令を。第一次攻撃隊も向かってくれているはずです。少しでも多くの敵に打撃を与えなさい」
レーダー画面には敵航空部隊を示す赤い輝点の群れが基地へと迫るのが映し出されていたが、不意にレーダーの端から現れた多数の青い輝点が赤い輝点と交差した瞬間、次々とレーダー画面上から消えていく。
「な、何が起こったの……?」
基地に迫っていた敵編隊の一部がいきなり撃墜されたことに呆然とする大原たちだったが、すぐにレーダー画面上に味方であることを示す青い輝点が多数現れるのと同時に通信が入った。
『―――ダルティア基地司令部へ、こちらは第二航空打撃群第一次攻撃隊!応答求む!』
「こちらダルティア基地司令、大原詩乃だ。よく来てくれた」
『パーティーに遅れてしまい申し訳ない。これより制空権の奪還と敵部隊への空爆を開始する』
「救援に感謝する。思う存分やってちょうだい。こちらもすぐに部隊を発進させる」
『了解!』
「空軍は出撃用意!準備が出来た機から発進させなさい!」
「「「「「了解」」」」」
救援部隊の到着と大原の言葉によって不安な表情だった幕僚や兵士たちも慌ただしく動き始め、すぐに命令が空軍地区で待機している整備員やパイロットに通達されると、燃料、弾薬を搭載して待機していたF-22やF-15Cが滑走路へ出されて発進していった。
『ギリギリでしたね隊長』
「そうだな…爆撃隊は敵地上軍の爆撃を開始しろ。制空隊も敵航空部隊に攻撃開始!」
総隊長の命令に従ってF/A-18FとF-35Cを中心とした爆撃隊は高度を下げると、基地の外に展開していた敵集団の上空でMk.83通常爆弾を投下し、敵兵士だけではなく戦車や装甲車などの戦闘車輌も吹き飛ばした。
「爆撃隊も派手にやっているな……我々も派手にやるぞ!フォックスツー!」
総隊長の号令の下、ダルティア基地に迫る敵編隊に向けてF/A-18Eを中心とした制空隊は一斉に搭載しているAIM-9X-2を発射し、発射してから数十秒後にはそれぞれの目標に弾着したことを炎の花が大量に咲いた。
「全機、格闘戦に移行する。それぞれ、味方の航空機の位置は逐一確認するように」
『『『『『了解!』』』』』
すでに中距離はもとより短距離空対空ミサイルが用をなす距離ではなくなったことから制空隊は速度を上げると、サイドワインダーによる先制攻撃を受けて混乱している敵編隊に襲い掛かった。
「全機、残弾の確認は怠るな。撃ちすぎるとすぐに弾切れになるからな」
五機目の敵機を撃墜した総隊長は、自身の残弾数を確認しながら優位に戦闘を続ける部下たちに指示をだした。
『隊長、敵の数が多くて弾が足りません』
『こちら第四小隊、同じく弾が足りません』
「俺もそろそろ弾が切れるな……一度母艦に戻りたいが……」
『―――第一攻撃隊、こちら第三〇八制空飛行隊。貴官らの救援に感謝する。これより我々も戦闘に参加する。それと司令からの伝言だ。弾薬が無くなった機体は基地で補給を行う準備があるといことだ』
「心遣いに感謝する。全機聞いたな。弾薬が無くなった機体から基地へ着陸して弾薬と燃料の補給を行え」
総隊長の命令を受けた第一攻撃隊は、残弾が尽きた機体から残弾と燃料の補給を行うために基地へと向かい、攻撃隊と入れ替わるように基地から発進したF-22やF-15Cの編隊が残った敵機へと向かっていった。
「三〇一全機へ、海軍さんだけにいい格好をさせるなよ!敵を一機も逃がすな!」
『『『『『了解!』』』』』
第三〇一制空飛行隊は、損害の大きさから撤退を始めた敵航空部隊に襲い掛かるとこれまでの恨みを晴らすように敵機を撃墜し、燃料と弾薬の補給を終えた第一攻撃隊が戦線に戻った頃には敵機は全て撃墜されており、ダルティア基地上空の制空権はインペリウム教皇国軍から蒼龍国軍に奪還された。
更新が遅くなってしまって申し訳ありません。大学のテストに手一杯だっただけで自然消滅したわけではないのでご安心ください。
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