第三十一話
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エレスティア沖
蒼龍国海軍 強襲揚陸艦「キアサージ」
二隻の「ワスプ」級強襲揚陸艦へと乗艦した親衛軍第一混成旅団三千名は、第一水上打撃群に護衛されながら無事に王都エレスティア沖百キロの海域まで進出し、両艦のウェルドックではAAV-7やLAV-25、EFVなどが出撃準備を整え、LCACにはM1A3エイブラムスや人員輸送モジュールの搭載が行われていた。
「全員、揃っているな!これから作戦の説明をする。一回しか言わないからよく聞け!」
兵士たちがウェルドックで準備を進めている頃、強襲揚陸艦「キアサージ」のブリーフィングルームでは強襲揚陸艦「バターン」に乗艦する各隊長も招集されて第一混成旅団長、遠原忠秀少将によって王都奪還作戦の説明が行われていた。
「我々は今から…正確に言うと一時間と二十分後に王都エレスティアに対して強襲上陸作戦を決行する」
遠原の言葉にブリーフィングルームに設置されている椅子に座っていた部隊長たちからは軽いどよめきが起こった。
「静粛に!我々が上陸する場所はここ、エレスティア西側の最大の港であるミスラータである」
遠原の言葉と同時に室内の照明が落され、プロジェクターが起動するとスクリーンに本土から送られたエレスティアの衛星写真がスクリーンに映し出された。
「この画像から見ても分かるように、敵は海側に向けて多くの野砲や機銃、機関銃を配備している」
遠原の説明に合わせるようにスクリーンに映し出されている写真が港一帯を拡大した写真へと変わり、砲身や銃口を海へ向けた野砲や機銃、機関銃の画像を各隊長たちは真剣な眼差しで見つめていた。
「我々はこの未開発区となっている砂浜に上陸。上陸地点を確保し、橋頭保とする。敵の激しい抵抗が予測されるが、諸君らの実力を考えれば不可能ではないと思っている。まぁ、少しだけ過酷なピクニックだと思ってくれ」
親衛軍の中でも最精鋭の兵士たちで編成された第一混成旅団の隊長たちは、遠原の言葉に苦笑を漏らした。
「―――話を戻すが、我々は港の奪還成功後は港の確保と城下内の敵軍の掃討を行う」
「王城の救援は行わないのですか?」
「余力があったら行いたいが、一部の貴族とアクリシア王国軍も敵に内通しているために王都の敵の総数は三万を超えると報告を受けている。本格的な掃討作戦は三日後に到着する主力部隊と行うことになるだろう」
「アクリシア王国軍からも裏切が……?」
アクリシア王国軍からも裏切が出たことに驚きを隠せない小隊長の一人が遠原に尋ねると、遠原は深く頷いた。
「信じられないことだが、確かな情報だ。すでに各地に展開していたアクリシア王国軍の一部が神の使いし軍団の武器を装備して各主要都市や道路の制圧を行っている」
「裏切った王国軍兵士の対処は……?」
「敵軍の兵士と同じだ。裏切った王国軍兵士から攻撃されたら躊躇わずに撃て。今回の総帥暗殺未遂、副総帥狙撃にもこの裏切った貴族たちが関与しているらしい……」
遠原がそう告げた瞬間、ブリーフィングルームに集まっていた隊長たちから凄まじい殺気が溢れ出した。
「これは我々親衛軍にとっても許し難いことである。遠慮はいらん、裏切った貴族どもと敵に我々を本気で怒らせたらどうなるかを思い知らせてやれ。解散!」
遠原から解散の号令が掛けられると隊長たちはブリーフィングルームを後にし、それぞれの部隊の下へと向かった。
蒼龍国 首都:蒼龍府
統合参謀本部 統合作戦指揮所
「第一混成旅団、エレスティア沖に展開完了。出撃準備中」
「第二統合打撃群、第二航空打撃群が航空隊の作戦圏内に到達。出撃準備に入りました」
「アクリシ王国叛乱軍の進出地域の特定を急げ!」
蒼龍国本土の統合参謀本部内にある統合作戦指揮所では指揮所要員がコンソールに報告される様々な情報を入力し、正面の大型有機ELモニターに映し出されている味方符号の情報が逐一更新されていく。
「主様、容態が安定した刹那様の軍病院への移送が完了しました」
「そうか……」
統合作戦指揮所に設けられている総帥席に座る祐樹に各所からの情報をまとめて再び統合作戦指揮所に入室した小夜から刹那が本土にある軍病院への移送が完了されたことが伝えられた。
「主様、刹那様の様子を見に行かれますか?」
「……いや、俺はここにいる」
小夜の言葉にそう答えた祐樹だったが、報告を受けた瞬間から落ち着きがなくなった祐樹の姿に小夜は穏やかな笑みを浮かべると、祐樹にそっと耳打ちした。
「指揮は私が引き継ぎますので、主様は見に行って大丈夫ですよ。緊急の要件が発生すればすぐに報告します」
「……すまない。すぐに戻って来るが、それまでは小夜に一任する」
「はっ。了解しました」
祐樹は小夜にそう告げて傍らに立ち警護していた黒川を伴って統合作戦指揮所を後にすると、隣接している軍病院へ向かった。
「容態は安定していますが、意識はまだ回復しておりません。意識が回復するにはまだ時間が必要だと思われます……」
軍病院の刹那が運ばれた病室で主治医の説明を受けながら祐樹は、ベッドの上で規則的な呼吸で眠っている刹那に視線を向けていた。
「もう一度聞いて悪いが、刹那は大丈夫なのか……?」
「はい。心拍数、呼吸も安定しているので、峠は越えたと考えていいでしょう」
「そうか……刹那……早く目を覚ましてくれ……刹那のことは頼んだぞ」
「はっ。お任せください」
「……指揮所に戻る」
眠る刹那の手を握りそう呟いた祐樹は主治医に刹那のことを任せると、もう一度だけ刹那の顔を見て統合作戦指揮所へと戻った。
エレスティア沖
蒼龍国親衛軍 第一混成旅団
王都エレスティア最大の港であるミスラ―タへの上陸を敢行せんとする上陸第一陣の兵士八百名を乗せたLCACやEFV、AAV-7、LAV-25の群れは、接近に気が付いた敵からの激しい砲撃を受けながらも作戦通り上陸地点に近付いていた。
『第一陣、上陸まであと一分!』
『総員、装備の確認!上陸直後の敵襲に警戒しろ!』
LCACの人員輸送用モジュールの中に入る兵士たちは、砲弾が海面に着弾する音を聞きながら無線から聞こえる上官の言葉に兵士たちは自分の持つFN SCARの最終確認を行い、全ての確認を終えた兵士たちは静かに上陸の瞬間を待つ。
『着岸!上陸開始!』
敵の銃撃を受けながらもLCACが砂浜に乗り上げたのと同時にブザーがなるとLCACの前部ランプ、人員輸送モジュールの扉が開かれ、一隻につき百二十名の人員か生存性を高めたM1エイブラムスシリーズの最新型であるM1A2SEPV3エイブラムス一両がLCACに搭載されているGAU-13やMk.19自動擲弾銃の援護射撃を受けながら砂浜に展開する。LCACに少し遅れてEFVやAAV-7、LAV-25が上陸し、後部ランプから武装した兵士たちが素早く周囲に展開し、牽制射撃を始める。
「敵火点を順番に制圧!港の奪還を図るぞ!」
敵の激しい銃撃を受けながらも上陸に成功し、態勢を整えるとM1A2SEPV3やEFVなどの装甲車輌を盾にしながら敵の機関銃陣地や野砲陣地に銃撃を加えつつ前進を開始した第一陣の上空を「キアサージ」、「バターン」から発艦したAH-64Dが通過し、野砲陣地を優先的に叩いていく。
『二時方向に敵野砲陣地!』
『三号車、対処せよ!』
兵士たちの盾になるM1A2SEPV3が敵の野砲陣地を発見すると、指示を受けた戦車が素早く砲塔を旋回させて野砲陣地に砲弾を叩き込んだ。
「敵の銃撃だ!各員、応戦せよ!」
「くっそ、熱烈な歓迎だな!」
港町に近付くにつれて敵の抵抗も苛烈になり、のどかだった港町は砂埃と硝煙によって満たされた戦場へと変わった。
「建物に敵が潜んでいる可能性もある!十分に警戒して制圧しろ!」
「二時方向の建物の二階に敵影発見!」
「狙撃手、排除しろ!」
『了解……排除しました』
敵の本部と思われる建物の二階の窓から機関銃を乱射する敵兵士に対して指揮官が後方に控える狙撃手に命令し、狙撃手によって機関銃を乱射していた兵士が脳幹を撃ち抜かれて銃座が沈黙すると、待機していた二個分隊が建物内に突入した。
『建物の制圧を確認!』
「司令部、港の完全制圧を確認した!繰り返す、港を完全に制圧!」
『司令部了解。第一陣はそのまま港の確保を続行せよ。これより第二陣を出撃させる』
「了解」
敵を制圧した建物を前線本部とした指揮官は、テーブルに広げられた王都エレスティアの地図に視線を向けた。
「状況は……?」
「現在、港を中心として二キロの地点にある三つの通りを戦車などの装甲車輌で防衛線を構築しています」
「敵増援の存在は確認できているのか?」
「まだ確認されていません」
「防衛線の構築を急げ。遠からず敵の増援が来るぞ」
「了解!」
部下に指示を出した指揮官が窓から外を眺めると、強襲揚陸艦を出発した上陸部隊第二陣が港に近付いてくる光景が見えた。
「随分と静かだな……」
「そうですね……」
M1A2SEPV3やAAV-7などで通りをふさいで簡易的な防衛線を構築した第一防衛線では、戦車の後ろに身を隠しながら銃を構える兵士たちは、敵が港を奪いに来ないことを怪しく感じていた。
「戦力の集結をしているのか、取り返すつもりがないのか……」
「なら、戦力の集結中ですかね?」
「多分そうだろうな……港を奪われたらどうなるか敵もよく分かっているはずだ」
「第二防衛線に敵襲!第二防衛線に敵襲です!」
背負い式JTRS-HMSで各防衛線と連絡を取っていた通信兵が、自分たちの守る第一防衛線から五百メートル離れた第二防衛線に敵が襲来したことを告げた。
『こちらスカウト02、第一防衛線にαルートから敵集団が接近。数は二百以上』
「敵の歓迎パーティーが始まるぞ!総員、戦闘配置!」
通信兵の言葉に続けて上空から監視活動をしていたOH-1の報告を受けた指揮官が命令を出すと待機していた兵士たちは素早く態勢を整え、戦車や装甲車の砲塔も上空を飛ぶOH-1の指示のあった方向に向けられた。
『スカウト02より緊急連絡!敵竜騎兵と思われる部隊が王城内から離陸するのを確認した!各防衛線は注意せよ。繰り返す、王城内より敵竜騎兵が離陸するのを確認した。各防衛線は注意せよ。なお、本機は安全を考えて空域を離脱する』
「本部、対空車輌の派遣を要請したい。対空車輌の派遣は可能か?」
『こちら本部。現在、各防衛線にLAV-ADを二輌ずつ派遣した。あと3分で到着する』
「了解」
敵航空戦力の存在の報告を受けて迎撃態勢を整えていた兵士たちは、敵の接近を待ちかまえながらも不安な視線を上空に向けていたが、派遣されて来たLAV-25の対空型であるLAV-ADの姿に安堵の表情を見せていた。
「撃てぇー!奴らを近づけるな!」
指揮官の命令が下ると兵士たちが持つ小銃、戦車や装甲車に搭載されているM153 CROWⅡを搭載したM2重機関銃などが一斉に火を吹き、叫び声をあげて小銃を撃ちながら突撃する敵兵士の集団を薙ぎ払う。
「敵翼竜騎兵が見えました!」
「LAVに撃墜させろ!全員、敵を絶対に近付けるな!」
指揮官がそう叫び、防空用に派遣された二輌のLAV-ADが搭載しているGAU-12 イコライザーの鎌首を持ち上げると、接近する敵翼竜騎兵に向けて銃弾の雨を浴びせて空から地上に叩き落した。
『ナイト01から全防衛線へ通達。これより制空権の奪還を行う。ドラゴン退治は任せな』
全防衛線の合わせても6輌のLAV-ADでは敵の翼竜騎兵を全て相手するのは厳しかったが、「キアサージ」と「バターン」を発艦したF-35Bが発射したAIM-120 AMRAAMによって大半が撃墜されると、続けて装着された機関砲ポッドの銃撃を受けてみるみるその数を減らしていった。
「航空隊も到着した!空はもう大丈夫だ!」
「全員、油断するな!撃ち続けろ!」
空ではF-35Bが空域に到着したことによって甚大な被害を受けた翼竜騎兵達は王城へと撤退を始め、地上の各防衛線でも小銃や戦車、装甲車に搭載されている重火器からの激しい銃撃によって敵は前進することが出来ず、徒に兵士たちを死傷させるだけで撤退を開始するのだった。
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