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蒼龍国奮戦記  作者: こうすけ
31/42

第三十話

蒼龍国 首都:蒼龍府

統合参謀本部 統合作戦指揮所



 「ジェラルド・R・フォード」から発艦した祐樹たちを乗せたMV-22BはF/A-18Eに護衛されて無事に統合参謀本部屋上のヘリポートへ着陸すると、出迎えの一個分隊にヒルデガードたちを任せて身辺警護隊に護衛されながら統合作戦指揮所へと入室した。


「総帥、入られます!」

「そのままでいい。自分の職務に戻れ。優奈、状況の説明を頼む」


 統合作戦指揮所に祐樹が入室したことを告げる声が響くと同時に各幕僚長や幕僚、コンソールに向かっていたオペレーターが一斉に立ち上がり祐樹に敬礼を行おうとしたが、祐樹はそれを制して自分の仕事に戻らせると、統合参謀本部議長である優奈に状況の説明を求めた。


「はっ。現在の状況をモニターに出せ」


 優奈の言葉にコンソールの兵士が端末のマウスを数回動かすと、正面の大型有機ELモニターに祐樹たちが脱出したエレスティアと派遣軍の拠点であるダルティア基地の地図が映し出された。


「統合作戦指揮所で把握している情報によりますと、王都エレスティアには一万から二万ほどの神の使いし軍団とインペリウム教皇国軍の侵攻が確認されています。また、ダルティア基地にも数十万規模の敵が攻撃中です」

「……なぜエレスティアとダルティアに敵が出現した?敵との前線は真田大将が率いる侵攻軍のいる城塞都市ではないのか?」

「現在確認中ですが、アクリシア王国から派遣された魔導士の予測では転移魔法の可能性が高いということです」

「転移魔法……?」

「魔導士よると、位置の座標を指定することによって人員や物資を移動させることが出来る高位魔法だそうです。ダルティア基地からの報告でも基地正面に巨大魔法陣が展開されたのが確認されています」


 優奈の言葉と同時にモニターに別ウィンドウが開き、ダルティア基地から送られたであろう巨大な魔法陣の写真が映し出された。


「転移魔法か…現在の味方の状況は……?」

「王城では、我が軍の駐留部隊や憲兵隊、近衛騎士団が防衛線を構築して貴族を守りつつ敵と戦闘中です。ですが、敵の航空機に制空権を取られています」

「……ダルティア基地は?」

「こちらも敵部隊を迎撃中ですが、敵航空機や竜騎兵に制空権を奪われている状況です。また、敵にはシュトルムティーガーを確認したと……」

「シュトルムティーガー、だと……」


 優奈の口から出たドイツ国防軍の対建造物、要塞兵器の存在に祐樹はたまらず驚きの声を上げた。


「シュトルムティーガーがいるのなら、ダルティア基地も危険だな……城塞都市いる侵攻軍の状況は……?」

「タイミングを合わせるかのように敵軍の大規模な迎撃を受け、救援に向かわす戦力は出せないそうです……」

「王都とダルティア基地に対する増援として派遣できる部隊は?第一統合打撃艦隊はどうした?」


 戦艦「大和」を旗艦として強力な打撃力を持つ第一統合打撃群の所在を祐樹が尋ねると、海上幕僚長である汐里が申し訳なさそうに祐樹に説明を始めた。


「現在第一統合打撃群は、艦のメンテナンスや補給を行うために本土に帰投中です……第一航空打撃群も刹那様を乗船させているため、安全圏まで退避しています」

「……ということは、現在アクリシア王国付近に展開している海上戦力は無いということか?」

「残念ながらその通りです……」

「現時点で出せる戦力は?」

「第一海兵遠征団に出撃待機命令を出し、三十分以内に第二統合打撃群と共に出撃できます。さらに一日後には二個海兵師団の出撃が可能です。また、情報を受けた第二航空打撃群が現場へ急行中ですが、作戦可能には二日ほどかかります」

「小夜、親衛軍で出撃できる部隊は?」

「親衛軍の中から即応旅団として第一混成旅団が編成完了。出撃可能です。海兵隊と同じく一日後には一個師団が派遣できます」

「よし、増援を派遣する。海兵遠征団はダルティア基地に、親衛軍はエレスティアに向かわせろ。第二統合打撃群と第二航空打撃群は両地域の中間地点に位置し、迅速な航空支援と制空権の奪還を目指せ」

「「「「「はっ!」」」」」


 自分に視線を向けて指示を待つ各幕僚長に指示を出すと、三人の幕僚長はその指示に力強く頷いて幕僚に細かい指示を出し始めた。


「ここから増援を派遣してもエレスティアは最短で二日、ダルティアには三日はかかる……何とか耐えてくれ……」

「主様、技術省から要請が入っています」

「要請……?」

「教皇国軍の魔道兵器を解析して開発した戦術人型機動兵器―――『キャンサー』の出撃許可を求めています」


 小夜が口にした戦術人型機動兵器『キャンサー』とは、インペリウム教皇国軍から鹵獲した魔道兵器を解析して開発された全長三メートルの人型機動兵器で、武装としてはブッシュマスターⅢを改良した小銃が配備されている。


「試験中だと聞いていたが、実戦に使用しても問題ないのか?」

「技術班の話では実戦に出しても問題は無いそうです。すでに一個大隊五十機が出撃可能とのことです」

「……分かった。汐里、海兵遠征団に加えても構わないか?」

「構いません。司令部にも伝えておきます」

「頼んだ」


 祐樹から指示が発せられてから一時間後には第一海兵遠征団二千五百名と試験大隊三十六機、第一親衛混成旅団三千名がダルティア基地とエレスティアに向け出撃し、三日後に第一統合打撃群と入れ替わりで出撃予定だった第二統合打撃群も予定を繰り上げて出撃した。




アクリシア王国 王都:エレスティア

蒼龍・近衛騎士団防衛司令部



「敵襲ぅー!第二区画に敵襲だ!」

「第三区画からも敵が接近!」

「総員、戦闘配置!戦闘配置!」


 祐樹たちが王城を去って一夜が明けた頃、王城内に展開された防衛線では敵の姿を確認した見張りの兵士が叫び、休息を取っていた蒼龍国軍の兵士や憲兵、近衛騎士団たちが小銃やサブマシンガンを持って分担されている防衛線へと向かう。


「これで十五回目か…弾薬はあとどれくらいだ……?」

「まだ大量にありますと言いたいところですが、正直厳しいのが実情です……」

「そうか……」


 各防衛線へと走る兵士たちの姿を見ながら本部で指示を出す是枝が副官に弾薬の状況を確認すると、副官は厳しい表情を見せてそう言うと詳細が書かれた書類を差し出した。


「随分と厳しいな……まぁ、派手な銃撃戦を考慮していないから当然と言えば当然か……」


 王城内の武器庫にある各種弾薬と食料は敵との戦闘も考えられて一ケ月分は備蓄されていたが、それは以前のクーデターのようにこの世界の兵士が持つ剣や槍などの武器を考慮したものであり、神の使いし軍団の持つ小銃などの現代兵器を持つ相手との戦闘は考えられていなかったので備蓄している弾薬の消費量は想定の倍近くになっていた。


「前線の兵士には申し訳ないが、弾薬を節約するように命令するしかないか……」

「現在の状況ではそれが一番の選択だと思います」

「総統も本土へ戻られ、増援を派遣してくれている。増援が到着する二日の我慢だ。絶対にここを死守するぞ」

「はっ」


 是枝の言葉に頷いた副官の声と同時に、各防衛線で敵味方の持つ小銃の銃声が連続して聞こえてきた。




「―――弾が切れた!補給!補給を急いでくれ!」

「―――グアッ!?」

「一名負傷!衛生!衛生!」

「突撃!奴らの防衛線を絶対に突破するのだ!」

「突げっ―――ギャッ!?」


 防衛線を突破せんとしてStG44を構えて突撃する神の使いし軍団の兵士と、防衛線を死守する蒼龍国軍の兵士たちとの間で激しい銃撃戦が繰り広げられていた。


「補給!補給はまだか!」

「お待たせしました!弾薬の補給です!」


 激しい銃撃戦が続いて各々が持つ残弾の数が少なくなり防衛線を守る兵士たちにも焦りが見え始めたとき、小銃弾の入ったアーモ缶を大量に乗せた台車を近衛騎士団の騎士二名が陣地まで運んできた。


「助かります!残弾が少ない兵士から補給を行え!弾幕は切らすな!互いをフォローしながらの補給だ」

「「「「「了解!」」」」」


 防衛線指揮官の言葉を受けて敵に銃撃を加えていた兵士たちは残弾の少ない兵士から弾薬を補給し、再び隠れる敵に銃撃を加える。


「敵部隊が撤退を開始!敵部隊が撤退を開始しました!」

『各防衛線へ通達。敵部隊は全防衛線から撤退を開始。繰り返す、敵部隊が全防衛線から撤退を開始した』

「やっと撤退したか……軍曹、兵たちに交代で食事と休息を取らせよう。このままでは兵士たちも体を壊しかねない」

「賛成です。見張りの兵を残して食事と休息を取らせましょう。中尉も食事と休息を取ってください」

「すまない。少し休むことにする」


 軍曹から差し出された戦闘糧食Ⅱ型を指揮官は受け取ると、感謝の言葉を告げてから兵士たちと一緒に休息を取るのだった。




「まだ敵の防衛線を破壊することは出来ないのか!?」

「敵の防衛線も激しく抵抗を続けており、神の使いし軍団でも突破は難しいそうです」


 神の使いし軍団と教皇騎士団によって制圧された玉座の間で部屋の中央に置かれている玉座に座るカザーフは、蒼龍国軍が守る防衛線を破れないことを自分の取り巻きに向かって叫んだ。


「まあよい。すでに王城の大半は我が手中にある。あそこにいる寡兵では王城の奪還も難しいだろう。それよりも、味方の状況はどうなっている?」

「はっ。公爵様の考えに賛同する新生アクリシア王国軍四万は城下へと展開し、治安維持を行っております。獣人などを中心とする亜人は王国郊外にある収容施設に移送させております」


 蒼龍国軍の協力によって早期に鎮圧されたダディス前宰相が画策したクーデターとは違い、今回の作戦の主力でもあるインペリウム教会と密に連絡を取り合いながら各種の情報をインペリウム教皇に流し、また内部工作によってカザーフの計画に賛同したアクリシア王国軍兵士を新生アクリシア王国軍として秘密裏に編成していた。


「ほかの地域に駐留している我が軍の状況はどうか?」

「はっ。王国の重要都市であるナルディア、フェル、テリノアには二万、各主要街道には一万の我が軍が展開しております」

「我が軍に従わなかった旧王国兵はどうなった?」

「防衛線にいる兵士を除き、全ての旧王国兵の武装解除が進んでいます。我が軍の奇襲と提供された神の使いし軍団の兵器に旧王国兵も容易に制圧できたそうです」


 カザーフに賛同した兵士たちには、神の使いし軍団から受け取ったKar98kやMP40などの兵器を装備させて旧式のマスケット銃や剣、槍しか持たない兵士たちを制圧、武装解除させていた。


「玉座の座り心地はどうですかな?」

「これはザイナス司教長!今回の計画へのご協力本当にありがとうございました。これで、我が新生アクリシア王国はまた伝統のある王国になれます。以後は、インペリウム教皇に忠誠を誓いましょう」

「そのお言葉、教皇様もお喜びになるでしょう」


 玉座に座るカザーフのその言葉に満足そうに頷いたザイナスは、カザーフに頭を下げてそう告げると玉座の間を後にした。


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