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蒼龍国奮戦記  作者: こうすけ
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第二十九話

地震凄いですね……私も初めて震度四や五を経験しました……熊本在住の方は余震には十分お気を付けください。

バレンシア大陸沖

第一航空打撃群旗艦:「ジェラルド・R・フォード」



「副総帥を急いで手術室に!副総帥の容態は?」

「血圧下がっています!脈拍五十一!」

「手術室の用意は?」

「すでに完了しています!輸血の用意も完了です」

「よし!急いで運ぶぞ!」


 緊急離陸によって王城を離脱した祐樹たちの乗るVH-60Nプレジデントホーク二機は、四機のAH-64Dアパッチ・ロングボウに護衛されて無事に第一航空打撃群の旗艦「ジェラルド・R・フォード」へと着艦し、担架に乗せられた刹那は甲板で待機していた医療チームによって手術室へと運ばれた。


「刹那、刹那!すぐに助かるぞ!しっかりしろ!」

「総帥、総帥でもここに入ることは許可できません。外でお待ちください」


 手術室へと運び込まれるまで傍を離れず声を掛け続けていた祐樹も手術室には入ることが許されず、手術室に続く扉の前で待たされた。


「……主様」

「小夜か……」


 手術室前で呆然と立っていた祐樹に、王城からの緊急連絡を受けて蒼龍国本土からMV-22Bオスプレイで「ジェラルド・R・フォード」に降り立った小夜が声を掛けた。


「……蒼龍国憲法第二十条により現時刻を以て副総帥権限が私に委譲されました」

「そうか……」


 蒼龍国では、アメリカ合衆国憲法の第二条第一節や修正第二十五条のように総帥である祐樹や副総帥の刹那が執務不能になったら次席の者がその職務を執り行うようにされており、刹那の次席には親衛軍特務執行部隊長である小夜が副総帥の職務を継承することになっていた。


「すぐに緊急戦略会議を開きますので、主様はすぐに私と共に蒼龍国本土の統合作戦指揮所へお戻りください」

「刹那は…刹那はどうなる……?」

「刹那様は容態が安定してから蒼龍国本土へと移送します」

「なら、俺はここにいる!刹那の傍を離れたくはない!」

「総帥、あなたは一国の国家元首なのです。ご自分の責務を果たしてください」

「そんなの知ったことか!今から全ての権限を小夜に一任する!小夜、君が全軍の指揮を執れ!」

「……お許しください」


―――パンッ!


 小夜の言葉に祐樹は怒鳴るようにそう言うと、小夜は無言で祐樹に近付き一言謝罪の言葉を告げてから祐樹に平手打ちをした。


「いい加減にしてください!ここに主様がいても刹那様は目覚めませんし、主様がここにいても邪魔なだけです!もう一度言います。ご自分の責務を果たしてください!」


 祐樹の傍で警戒していた身辺警護隊も突然のことに呆気にとられたが、小夜は平手打ちに続いて祐樹の礼装の胸倉を掴むと壁に押し付けて珍しく声を荒げてそう告げた。


「……すまない。刹那が撃たれて気が動転していたみたいだ……」

「いえ、こちらこそ失礼しました。主様に対して酷いことを…どのような罰でも主様の命令に従う所存です……」

「いや、小夜は間違ってはいない。よって、今回の件は不問にする」

「主様の寛大なお心に感謝します……」


 冷静さを取り戻した小夜が深く頭を下げると、祐樹は首を左右に振って小夜の行動を肯定して一度だけ手術室に視線を向けて刹那の無事を願い手術室前を後にした。


「すぐに本土へ戻る。各幕僚長や幕僚の招集は……?全員揃っているのか……?」

「はい。陸海空の幕僚長、幕僚は統合作戦指揮所に待機しています」


 祐樹は自分の後ろを歩く小夜に状況の確認をしながら飛行甲板に上がると、小夜が乗って来たMV-22Bに身辺警護隊とヒルデガード、オルトンと共に乗り込み、蒼龍国本土へと向かった。




アクリシア王国領 ダルティア

蒼龍国派遣軍ダルティア基地



「総帥は無事に『ジェラルド・R・フォード』を発艦。本土へと向かわれました!」

「総帥がご無事で本当に良かった……」


 蒼龍国派遣軍の最大拠点であるダルティア基地でも刹那銃撃の緊急報告を受けて指揮所は一時騒然としていたが、無事に蒼龍国本土へ向かった報告を受けて基地司令、大原詩乃少将は安堵の声を漏らした。


「基地の警戒レベルを上げなさい。それと、敵の攻撃を受けているエレスティアへ救援を派遣します。すぐに救援部隊の用意を」

「了解!」


 大原の命令を受けた指揮所にいる幕僚たちは慌ただしく動き始め、基地防衛のために駐屯している一個師団から戦力を抽出して王城への増援の派遣する準備を進めていたとき、基地の外に設置されている小銃掩体で警戒していた兵士からの無線が入った。


『こちら第八小銃掩体。基地正面、十キロ地点に謎の巨大魔法陣が複数展開しています!』

「何!?」


 兵士からの報告に大原と参謀たちは指揮所を飛び出して報告のあった方向を見ると、確かに基地正面に謎の巨大魔法陣が複数展開されていた。


「あれは一体何なの!?」

「わ、分かりません。とにかく、戦闘配置を命令するべきだと……」

「そうね…救援部隊の編成を一時中断。戦闘配置を―――」


 大原が幕僚の言葉に頷いて防衛部隊に戦闘配置を命令しようとした瞬間、魔法陣が青白く光り、魔法陣が消えると大量の戦車や自走砲、装甲車、自動小銃を構えた兵士たちが出現していた。


「て、転移魔法だと!?」

「全部隊に戦闘配置を命令!迎撃準備を整えさせなさい!」

「了解しました!」


 大原の言葉に頷き、幕僚が指揮所に戻ったのと同時に基地全体に敵襲を知らせる警報が鳴り響いた。


「武器庫を開放して防衛部隊以外にも武器を配りなさい!空軍もスクランブル!空対地誘導弾を搭載して航空支援を―――」

『司令、敵集団上空に再び魔法陣を確認!多数の航空機と竜騎兵が出現!こちらに向かってきます!』

「何ですって!?」


 指揮所に戻り幕僚たちに矢継ぎ早に指示を出す大原に、外で敵集団を監視していた幕僚から無線で報告を受けて急いで対空レーダーの画面を確認すると、大量の航空機が映し出されていた。


「対空戦闘用意!全ミサイル、機関砲を起動させなさい!航空幕僚、この短時間で機体を上げることは可能かしら?」

「残念ですが不可能です。対空ミサイルや空対地誘導弾、機関砲弾の積み込みを考えると、短時間で機体を上げることは出来ません……夜ですが、この基地の明るさで敵も迷わずここに攻撃を仕掛けることが可能ですから……」


 大原の質問に隣でレーダー画面を見ていた航空幕僚が、短時間での離陸が不可能であることを告げた。


「第一統合打撃群も本国へ帰還したばかりで、第一航空打撃群も航続距離範囲外……完全に制空権を取られた……」

「制空権は失いましたが、この基地の対空能力で敵航空機の攻撃のほとんどは撃退出来るでしょう」

「そうね…弾薬が尽きる前に増援が来るのを期待するしかないわ」

「敵航空機群が射程圏内への侵入を確認!迎撃を開始します!」

「絶対に小銃掩体や戦車掩体のある第二防衛線に侵入させるな!」


 正面の大型ディスプレイに映し出された敵のBf-109やJu-87、He111、竜騎兵の大群に向けて基地を取り囲む防塁に設置されているオート・メラーラ百二十七ミリ単装速射砲、VADS改、RIM-116 RAM、Mk.29 GMLSが鎌首を持ち上げ、一斉に対空ミサイルや砲弾を敵に浴びせた。


「プロペラ機などの旧式兵器で、ミサイルなどの最新兵器で固められたこの要塞を落とせるとは思えないけど、数で押されたらどうなるかは分からないわね……」


 ミサイルが次々と接近する航空機や竜騎兵に命中し、ミサイルの槍衾を必死の思いで抜けた航空機や竜騎兵も速射砲やVADS改の弾丸の雨によって基地に近付けず撃墜される映像を指揮所の大型ディスプレイで見ながら大原はそう呟いた。


「敵地上軍が前進を開始!規模はおよそ八個師団かそれ以上と思われる!また、後方にインペリウム教皇国軍らしき鎧を着た兵士と魔道兵器も確認。数は五万以上!」

「なっ!?何でそれだけの大軍が……」

「狼狽えるな!砲兵、敵がキルゾーンに入ったと同時に砲撃開始!総帥は絶対に救援を派遣してくれる。それまでこの基地を死守せよ!」

「「「「「了解!」」」」」




「おいおい、嘘だろ……」

「戦車に装甲車、自走砲までいやがる……」


 戦闘配置の警報で訓練通り交通壕で基地の外側にある小銃掩体へ入り、八九式小銃やミニミ機関銃の二脚を立て、M2重機関銃に弾丸を装填した兵士たちが指定の範囲から見える敵の数に驚愕の声を漏らしていた。


『敵がキルゾーンに侵入。砲撃を開始する!』


 砲兵から通信が入った数秒後には後方に展開している榴弾砲掩体から一発の砲声が聞こえ、数キロ先で前進を続ける敵集団に着弾した。


『―――諸元の修正完了。これより効力射に移行する!』


 再び砲兵から通信が入り、今度は一発ではなく数十発の砲弾が陣地へ近づく敵集団へと着弾した。


『指揮所より各小銃、戦車掩体へ通達。敵が突撃を開始した。敵が突撃を開始した。各隊は迎撃を開始せよ!絶対に敵を入れるな』

「第九小銃掩体了解。迎撃を開始する。全員、撃てぇー!」


 砲兵隊の攻撃を潜り抜け、鉄条網と偏執狂的にまで並べられた鹿砦に前進を阻まれていた神の使いし軍団とインペリウム教皇国軍の兵士たちを襲ったのは、小銃掩体や戦車掩体から放たれる銃弾、砲弾の雨だった。


「弾幕を切らすな!撃ち続けろ!」

「くっそ!敵の数が多すぎる!弾が切れた!弾をくれ!」

『こちら第十八小銃掩体、五名負傷!』


 敵への迎撃を開始した当初は鉄条網や鹿砦などの障害物と小銃や機関銃の弾幕によって敵の進撃を阻んでいたが、敵も神の使いし軍団のパンターなどの装甲車輌と数の多さを前面に押し出すことによって弾幕による迎撃にも限界寸前になっていた。


「三時方向に敵戦車!」

「戦車の援護は!」

「敵戦車群迎撃中のために不可能とのことです!」

「くっそ…LAMを持ってこい!こっちで敵戦車を迎撃する!」


 無数の薬莢や弾倉が転がる小銃掩体の中でLAMを構えた兵士が接近する一輌のパンターに向けて発射した厚さ七十ミリの鉄板を貫通する威力を持つLAMの弾頭はパンターの車体正面に命中し、一瞬にしてその戦闘能力を奪った。


『全掩体に通達!敵の苛烈な攻撃に掩体での迎撃は不可能と判断。全部隊は基地まで後退せよ!』

「……全員聞いたな!基地まで後退する!各自、味方の援護をしつつ後退開始!」


 通信を受けた各掩体では各掩体指揮官の命令によって兵士たちは互いを援護しつつ交通壕で基地へ向かい、後方に展開していた戦車掩体や榴弾砲掩体でも基地に向かっての後退が開始された。




「各掩体の部隊、後退を開始。あと三十分で全部隊の収容が完了します」

「敵航空戦力の状況は……?」

「迎撃によって敵航空戦力の二十五パーセントを撃墜。敵航空戦力は一時撤退しました」

「報告します。敵地上軍が一時後退を開始しました!」


 指揮所では幕僚や指揮所のオペレーターが各種の情報をまとめ、各方面に指示を出す大原に報告していた。


「そう……敵が撤退してくれたなら、こちらもありがた―――っ!?」


 敵地上部隊の後退を報告する参謀の言葉に安堵した瞬間、基地内を大きな爆発音と衝撃が襲った。


「今の爆発音と衝撃は何だ!?武器庫が爆発したのか!?」

「現在、確認をしています。―――あぁ、今の爆発音と衝撃は一体何だ……」


 指揮所のオペレーターが状況確認に向かった兵士からの報告を受けると、その顔を青ざめさせた。


「ほ、報告します。爆発は防塁で発生したものでした。被害はそれほど酷くは無いそうですが、て、敵の陣地に……」

「どうしたの?早く報告しなさい」

「―――敵の陣地にシュトルムティーガーを確認したそうです」

「なっ!?」


 建造物や要塞への攻撃を考えて製造されたシュトルムティーガーの存在をオペレーターから知らされた大原を含めた指揮所にいる全員が驚愕の表情を浮かべた。


「これは厳しい戦いになるわね……総帥、出来るだけ早い増援をお願いします……」


 ダルティア基地を鉄壁の要塞と考えて大原たちは、対要塞兵器を持つ敵に厳しい戦いを強いられることを感じた。


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