第二十五話
アクリシア王国領ダルティア
蒼龍国派遣軍 ダルティア基地
夜明けまでには未だ時間があるが、ダルティア基地の空軍地区では大勢の整備兵達によってエプロンに並べられているF-22やF-15Eに対空ミサイルやJDAMなどの誘導弾の装着作業が進められていた。また機体に乗るパイロットは全員がブリーフィングルームに集められ、同じ隊の同僚や他の隊の同僚と談笑していた。
「全員、集まったな?ブリーフィングを開始するぞ!」
ブリーフィングルームに集まっている作戦に参加するパイロット達が他のパイロットと談笑していたとき、不意に響いた号令に全員が入口に視線を向けると、各隊の飛行隊長を連れて部屋に入る一人の佐官―――蒼龍国派遣空軍司令官、新嶋涼司少将の姿が目に入り、談笑していたパイロットも各自の席に着くと、室内の照明が落されてプロジェクターを起動させて今回の作戦の目的と爆撃を行う敵拠点の情報と攻撃を行う部隊の説明が行われた。
「―――以上が今回の作戦となる。お前達も分かっているだろうが、今回のこの作戦は我が蒼龍国軍の大規模反攻作戦となっている。前回の反攻作戦では、陸軍が主体となったために我々はあまり出番が無かったが、今回は違う。陸軍の支援という点では変わりないが、一部の敵拠点の爆撃が我々の主任務となる。蒼龍国空軍の実力を敵にも味方にも見せつけてやれ!諸君らの戦果を期待する。解散!」
「よし、クソッタレ共を爆撃しに行くぞ!」
「全員、後れを取るな!」
新嶋からの作戦命令と訓示を聞き終えたパイロット達はフライトヘルメットを手に取り、隊ごとに集まると意気揚々とブリーフィングルームを後にし、整備班がこの日の為ために入念に整備した愛機を自分の目でも確認し、一通りの確認作業を終えてコックピットへと乗り込んだ。
「隊長、やっと我々の活躍するときが来ましたね!」
F-15Eを擁する第二〇八飛行隊隊長の浅井香澄一等空佐がブリーフィングルームを出ると、彼女の周りに二〇八飛行隊の隊員たちが集まって来た。
「えぇ。全員、気合を入れなさい。敵の陣地に正確に爆撃を行って、陸軍の侵攻を円滑に進めるのよ」
「「「「「了解!」」」」」
自分の言葉に全員が頷き、機体の点検と武装の搭載が完了してエプロンで待機している機体へと走り、コックピットへ乗り込むのを見送った浅井もタラップを登って愛機のコックピットへと乗り込みヘルメットを被ると、管制塔からの通信が入った。
『ダルティアタワーより全攻撃隊へ離陸を許可する。各飛行隊は打ち合わせ通りの順番で各滑走路へと進入せよ』
その指令が下るのと同時に待機していた各飛行隊の機体が滑走路へと進入すると、未だ闇の支配する空へと舞い上がり打ち合わせ通りの高度に上昇すると、飛行隊ごとに編隊を組んで攻撃目標へと向かった。
『二〇八へ通達。第二滑走路へ進入せよ』
「了解。二〇八全機へ、行くわよ……」
浅井がそう告げると第二〇八飛行隊は、ブリーフィングで指定された滑走路へと進入し他の飛行隊と同じように闇が支配する空間へと舞い上がった。
「各機、指定高度へ上昇。編隊を組み終わり次第、目標へと向かう」
『『『『『了解』』』』』
浅井の通信から三分後、指定された高度で全機が集合し編隊を組んだ二〇八飛行隊二十四機は、AWACSの指示を受けながら攻撃目標へと向かった。
『二〇八全機へ、攻撃目標上空まであと二十マイル』
ダルティア基地を発進してから十五分が経過した頃、AWACSから自分たちの攻撃目標が近づいていることが知らされた。
「了解。各機、兵装システムの最終チェックを行え」
『『『『『了解』』』』』
AWACSの報告を受けた浅井は、各機に対して兵装システムの最終チェックを行うように告げた。
「川北、兵装システムのチェックは完了した?」
『はい。兵装システムオールグリーンです』
浅井が後席に座る兵装システム士官である川北奈緒二等空尉にシステム状況を尋ねると、異常なしの報告が入った。
「システムに異常があった機はいるか?」
『『『『『異常ありません』』』』』
浅井たち二〇八飛行隊が爆撃するのは、陸軍が第二侵攻線と定めているラインの最もお近くにあり敵歩兵部隊の隊舎と翼竜騎兵の隊舎で、敵航空戦力の撃滅からも重要視されている拠点であった。
「作戦を開始する。第三、第四小隊は翼竜騎兵隊舎をやりなさい。第二小隊は第一小隊と共に敵歩兵隊舎をやります」
『『『『『了解』』』』』
浅井が命令を発した瞬間、後方を飛行していた第三、第四小隊のF-15Eは別方向から侵入し、目標である翼竜騎兵隊舎を爆撃するために編隊を離れた。
『一佐、爆撃目標が見えました……』
「えぇ、見えているわ」
川北からの報告に浅井は頷くと、追従している機体に高度を下げて爆撃針路へと移行することを告げた。
「川北、兵装をJDAMに……」
「完了しています」
HUDには近付いてくる敵歩兵隊舎が赤色のマーカーで示され、浅井はマーカーと距離を確認しながら投下するタイミングを計る。
「……投下!」
浅井がそう告げた瞬間、四発の千ポンド爆弾が投下され、他の機体もそれに従って四発ずつ合計三十二発の千ポンド爆弾が敵兵の眠る隊舎へと降り注ぎ、数秒後には爆発と黒煙が上がった。
『敵隊舎に命中。効果は大だと思われます』
「そう。なら、別働隊と合流すると―――っ!?」
川北からの報告と黒煙が上がる敵拠点の姿を見て翼竜騎兵の隊舎の攻撃に向かった部隊との合流をするために機体の針路変更しようとした瞬間、敵拠点とは別の方向から複数の赤い花が暗い空へと咲き、それと同時に対空機銃と思われる無数の曳光弾の雨が浅井たちを襲った。
「対空砲!?」
『隊長、敵対空陣地を確認しました!二時の方向の森の中に高射砲と対空機関砲を複数確認!』
「了解。第一小隊はこれを撃滅せよ」
『『『『『了解!』』』』』
予想していなかった敵の対空砲火に動揺するパイロットたちだったが、攻撃を受けなかったパイロットが対空陣地の位置を確認し、浅井が率いる第一小隊四機が報告された対空陣地へと向かう。
「……投下!」
敵対空砲が弾幕を張る中を突破した四機は、念のために温存していた千ポンド爆弾二発を敵対空陣地に向けて投下した。
『敵対空陣地の沈黙を確認』
「作戦完了。全機、燃料と弾薬の補給のために基地に帰投する。川北、基地司令部に対空陣地の存在を報告しなさい」
『了解です』
敵拠点と敵対空陣地を破壊した二〇八飛行隊は、機関砲弾を受けた機があったものの一機も撃墜されることなく基地への帰路についた。
ガリシア平原
蒼龍国派遣軍 第十二装甲師団
「真田大将、ダルティア基地からの連絡です。全攻撃飛行隊の発進が完了したと……」
「そう。なら、こっちも始めるとしましょうか…通信、全部隊に通達!これより作戦を開始する。全部隊は侵攻を開始せよ」
「全部隊へ通達。作戦開始。侵攻を開始せよ」
ガリシア基地を出てそれぞれの侵攻地点で待機していた各師団は、通信を受けて作戦発動の命令を受けて一斉にエンジンを轟かせて敵勢力圏への侵攻を開始し、真田が率いる第十二装甲師団もディーゼルエンジンを轟かせながら侵攻を開始した。
『第二擲弾兵師団、第一侵攻線を突破!これより第二侵攻線へと向かう』
『第八装甲師団も第一侵攻線を突破!第二侵攻線へと進撃を続ける』
「全ての部隊が侵攻を開始しました。どの部隊も敵からの妨害を受けることなく第一侵攻戦を突破、敵の防衛陣地が集中している第二侵攻戦へと進撃中です」
八二式通信指揮車の中にある折り畳みテーブルの上に置かれた作戦図に広瀬が通信へ殻の報告を次々と書き込んでいく。
「第一侵攻線でも少なからず戦闘が起こると予測していたけれど敵はいなかったのかしら?」
真田が率いる第十二装甲師団も第一侵攻線を何の抵抗も受けることなく突破し、第二侵攻線に向けて進撃を続けていた。
「はい。敵はすでに第二侵攻線まで後退しており、戦力の再編と防衛線の強化を行っているようです」
「戦力再編と防衛線の強化……敵の指揮官もこれまでとは違って無謀な攻撃を仕掛ける指揮官ではないようね……空軍の攻撃隊がどれだけ減らしてくれるか……」
「マンシュタイン大将の情報によれば、第二侵攻線の各陣地には神の使いし軍団が提供した兵器や野戦電話が設置されているそうです。また、拠点爆撃のために出撃した飛行隊が対空陣地を確認したと報告がありました」
「なら、時間との勝負になるわね……」
広瀬からの報告を受けた真田がそう呟いて作戦図を見つめ、第二侵攻線の十キロ手前まで来たとき、先頭を進んでいる部隊から戦車の砲声が上がり、無線から報告が入った。
『こちら第四戦車中隊、敵の対戦車陣地と遭遇した!現在交戦中。至急、装甲擲弾兵の増援を送られたし!』
「了解。第二装甲擲弾兵大隊は、第四中隊の増援に向かいなさい。それ以外の部隊は進撃、敵の対戦車陣地がまだあるかもしれないから各部隊との連絡を密にするように」
「敵さんもここを決戦場とするつもりでしょうか?」
敵との交戦開始の通信を受けた広瀬が指示を出し終えた真田に対してそう尋ねると、真田は首を振った。
「敵は点々としている防衛線で少しでも私たちの戦力を削って、バスティア要塞一帯で最後の決戦を仕掛けるつもりよ」
「漸減邀撃ですか……ならば、我々はここでどれだけ戦力を削られないようにするかということですか…険しい道になりそうですね……」
各師団から報告される敵との交戦開始や敵防衛線突破の無線を聞きながら、この侵攻作戦の道のりが険しい作戦になることを感じていた。
最近の更新が遅くなってしまって申し訳ありません。リアルでの生活が一気に忙しくなってしまったのと、少し長いスランプに陥っていました。今年はこれで最後の投稿になります。
決して自然消滅はしないので、読者の皆様には更新が遅くなっても気長に待っていてもらえれば幸いです。最後に、今年も蒼龍国奮戦記をご愛読いただきありがとうございました。これからもよろしくお願いします。
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