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蒼龍国奮戦記  作者: こうすけ
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第二十二話

ガリシア平原

蒼龍国派遣軍第八装甲師団



『最終弾着を確認!各師団は作戦を開始せよ!』

「了解。第八装甲師団、これより作戦を開始する。全車輛、前へ!」


 第八装甲師団師団長、吉川省吾少将が司令部の進撃命令を受けて無線機でそう告げると、戦車掩体を出て待機していた数百輛の一〇式戦車が一斉にディーゼルエンジンを吹かして黒煙を上げているインペリウム教皇国軍陣地へと進み始めた。


「我々が制圧するのは、神の使いし軍団陣地だ!油断しているとこっちが殺られる。全員、気を引き締めて掛かれ!」

『『『『『了解!』』』』』


 今回の総攻撃には、ガリシア平原に派遣されている蒼龍国派遣軍五個擲弾兵師団、四個装甲擲弾兵師団、三個装甲師団のうち、陣地防衛を任されている第二十三擲弾兵師団、第十二装甲師団以外の四個擲弾兵師団、四個装甲擲弾兵師団、二個装甲師団が攻撃を仕掛ける事になっており、その中でも第十三擲弾兵師団と第十八擲弾兵師団、第十二装甲擲弾兵師団、第十五装甲擲弾兵師団、第八装甲師団、第十五装甲師団は敵で唯一近代装備を保有している神の使いし軍団陣地の制圧を命令されていた。


『十時の方向、戦車集団!数十二、こちらに向かってきます!』

「第二小隊、迎撃するぞ。他の部隊は敵陣地に向かえ」

『了解!』

「笹川、二時方向に進路を変更。水谷、第一目標、前方一時に照準。弾種、徹甲」


 部下からの通信を受けた吉川がそう告げると、敵陣地に向けて進撃していた中から吉川が率いる第一小隊と第二小隊が進路を変更するのと同時に百二十ミリ滑腔砲内に装弾筒付翼安定徹甲弾が装填され、近付く敵戦車集団に照準が合わされた。


「徹甲装填よし!照準よし、何時でも撃てます」

「撃てぇ!」


 吉川の命令によって一号車が放った装弾筒付翼安定徹甲弾《A P F S D S》は初弾で接近するパンターの砲塔部分に命中すると、いとも簡単に厚さ百十ミリ、十一度の傾斜を誇る砲塔の装甲を貫通し、炎上させた。


「第二目標、九時方向!」

「徹甲装填よし!」

「……撃てぇ!」


 敵戦車の迎撃に向かった第一、第二戦車隊は一〇式戦車の誇るスラローム射撃によって一方的に敵戦車を撃破し、車体や砲塔から炎を上げるパンターの間を通り抜けながらさらに敵戦車を撃破していく。


『師団長、敵戦車の全滅を確認しました』

「……よし、本体と合流。敵陣地の攻略に移る!」


 敵戦車全滅の報告を受けた吉川は、キューポラから顔を出すと自分でも敵戦車が全滅したことを確認し、敵陣地を目指している本隊に合流するように告げた。




インペリウム教皇国遠征軍



「全バリスタ、槍の装填完了!」

「バリスタを放てぇー!」


 敵の鉄トンボから始まった敵軍の攻撃によって、大半の兵器が破壊されてしまったインペリウム教皇国遠征軍だったが、何とか攻撃を免れたバリスタなどの兵器を引っ張り出し、陣地に近づく敵軍に向けて一斉に放つが、敵が乗っていると思われる鉄の箱は槍を弾き返し、悠々とこちらに迫って来る。


「こ、効果なし!隊長、もう駄目です。退却しましょう!」

「馬鹿野郎!蛮族に恐れをなしてどうする!?もう一度、攻撃を仕掛ける。槍を装填せよ!」

「槍!槍を持ってこい!」


 恐慌状態に陥りそうな兵士達をバリスタ隊の指揮官が一喝し、兵士達は恐怖で震える手でバリスタに槍を装填する。


「装填完了しました!」

「よし、放て―――」


 全バリスタに槍が装填された報告を受けた隊長は頷き、近づく敵軍団に向けて発射命令を出そうとした瞬間、一列に並んでいた八門のバリスタが装填手やほかの兵士達諸共吹き飛ばされた。


「て、鉄トンボ……」


 次第に遠のいていく意識の中で指揮官が最後に見たものは、自分達の上空を悠々と飛行する敵の鉄トンボの姿だった。


「迎撃していた臨時第一バリスタ隊壊滅しました!第四、第八百人隊も全滅!」

「第二陣地が陥落!」

「竜騎兵陣地の確認に向かった伝令が先程到着。竜騎兵陣地は跡形も無く吹き飛ばされていたと……」

「迎撃に出た第十八軍団全滅!第三軍団も撤退を開始!」


 敵主力と思われる部隊の侵攻が始まると、敵の鉄トンボによって甚大な被害を受けていた軍の被害はさらに広がり、この前の増援によって夜戦によって減衰戦力から再び十五軍団に回復し、態勢の立て直しを図る前に敵の総攻撃を受け、戦力は夜戦後以上に減っていたが、総指揮官が戦死したため、臨時で遠征軍の指揮を執るダリルも戦況の厳しさに顔を顰めていた。


「敵軍の迎撃に成功した軍団は無いのか!?」

「駄目です。どこの部隊も敵の兵力に押されて撤退を開始し、全滅した軍団も五個を数えています……」

「……陣形を中退歩兵陣形へ!敵をこの本陣を中心にして迎え撃つ!残っているバリスタや投石器をこの本陣へと集めろ!」

「了解しました」

「これでどうにかなればいいが……」


 命令伝達のために伝令を走らせたダリルは、炎と黒煙を噴き上げる陣地と呻き声を上げる味方兵士達の姿を見てそう呟いた。




「第三塹壕通信途絶!迎撃に向かった第二十三戦車中隊も全滅が確認されました!」

「第二防衛線、第十二塹壕から援軍要請です。現在、敵歩兵部隊と交戦中!」

「第三十八中隊を増援として行かせなさい!第三十八中隊の穴は司令部防衛をしている第二中隊を向かわせなさい」

「副司令、もう駄目です。敵の戦力が圧倒的で、各防衛線も持ち堪えるのが精一杯です……」

「司令官からの命令は……?」

「相も変わらず、陣地を最後の一兵まで戦い死守せよ。これの一点張りです」

「そう……」


 敵の総攻撃が始まる一日前に侵攻拠点バスティア要塞に戻った高木からの命令を受けた通信兵の言葉に表情を暗くした高木の副官は、濁流のように迫る敵の侵攻経路が書き込まれる作戦図に視線を落とした。


「……第一防衛線は破棄します。第一防衛線で戦闘を行っている兵士達にも通達」

「防衛線の破棄…ですか……」

「残存戦力を第二、第三防衛線に集中配備して守りを固めます。ここを守っている第一大隊と第一戦車大隊にも第三防衛線へ向かうように連絡しなさい」

「了解しました!」


 副官の言葉を受けた幕僚達は慌ただしく動き、第一防衛線で戦闘を行っている兵士達に第二防衛線に後退するように伝えるよう通信兵に命令を出すのと同時に、本部テントの防衛を担っていた第一大隊、第一戦車大隊に第三防衛線の増援に向かうように告げ、幕僚達も自ら生き残った武器庫から取って来た小銃や拳銃で武装した。




蒼龍国軍 第十八擲弾兵師団



「総員、降車!直ぐに散開しろ!」


 九六式装輪装甲車の後部ランプドアが開き、室内で待機していた兵士達が弾かれたように外へ飛び出し、訓練通りの素早い動きで周囲に散開すると敵塹壕へ銃口を向け、一斉に銃撃が開始された。


「敵は旧式と言っても近代兵器を持っている!絶対に油断するな!」


 九六式装輪装甲車の群れから降車して銃撃を続けていた歩兵達は、指揮官の言葉を受けながら九六式装輪装甲車に搭載されているM2の支援射撃を受け、敵の塹壕へと前進を開始した。


「おかしいな…敵の反撃が全くない……」

「油断するな。どこかに隠れて俺たちを狙っているかもしれん」


 分隊ごとに前進を開始した各部隊は、四方に銃口を向けて警戒しながら目標である塹壕へと向い、慎重に塹壕の中を確認するが、目に入ったのは体中から血を流し軍服を煤煙と血で汚した敵兵士の死体の山だった。


「こちら第三十四分隊、敵影は見られない。繰り返す、この塹壕に敵は存在せず!」

『戦闘指揮所より各師団へ、神の使いし軍団は後方へと後退している模様。各師団はこれを撃破せよ』

「敵さんは後方に戦力を集中させて戦闘を行うつもりか……全員乗車!」


 分隊長の言葉に従って、兵士達は塹壕から出ると再び九六式装輪装甲車に乗り込み放棄された敵の陣地を突破すると、上空を飛行している


「車長、あの塹壕の手前で停止してくれ」

「分かった」


 指揮官の指定した塹壕の目の前で停止した九六式装輪装甲車の群れが再び後部ランプドアを開き、そこから吐き出された兵士達は目の前の塹壕に飛び込むと、向かい側にある敵陣地から苛烈な銃撃が開始された。


「ようやく俺達にも猛烈な歓迎パーティーを催してくれたな」

「そうだな。嬉し過ぎて涙が出るぜ」


 自分達の被るヘルメットを手で押さえながら、敵の銃撃によって降りかかる砂や小石を防ぎながら兵士達は軽口を叩き合い、体勢を立て直した兵士達は六四式小銃を構え直し、敵陣地に向けて応射を開始した。


「こちら第五小隊、敵からの激しい銃撃を受けている。迫撃砲の支援を要請。送れ……!」

『こちら迫撃砲小隊。指定座標を送れ』

「座標C-18-B。送れ」

「確認した。これより射撃を開始する……」


 敵との銃撃戦を繰り広げていたとき、上空を裂くような迫撃砲から発射された砲弾の滑空音が周囲に響き渡ったと思ったら、最初の一発が着弾し、それから二十発の迫撃砲弾が敵の籠る塹壕に降り注いだ。


「全部隊、前へ!」


 盛んに銃撃を行っていた敵の攻撃が止んだことを確認した小隊長が命令を下すと、兵士達は塹壕を飛び出し、敵の塹壕へと向かう。比較的に軽傷だった敵兵が銃を構え直し銃撃を再開しようとするが、そんな隙は与えられず六四式小銃の一連射で射殺された。


「動くな、手を頭の後ろに!」

「手を上げて、跪け!」


 敵陣地の塹壕へと突入した兵士達は、迫撃砲の砲撃によって大部分が死傷していた敵兵たちの武装解除を開始した。


『こちら第八装甲師団、第二防衛線を突破!我々は第十二装甲擲弾兵師団と共に敵最終防衛線を包囲する!』

「了解。第十八擲弾兵師団も敵陣地の制圧を確認。これより、敵最終防衛線の包囲へと移行する。通信、各部隊に敵最終防衛線を各師団と連携して包囲する様に伝えろ」

「了解」


 八二式指揮通信車から第八装甲師団の報告を受けた第十八擲弾兵師団師団長、柳田和一少将は、通信士に各部隊に対しての命令を告げると折り畳み式のテーブルに置かれている神構図に視線を落とした。


「少将、第二空中戦闘団が敵の砦を攻略したそうです」

「ほう…もう少し時間が掛かると思っていたが、さすが総帥閣下が派遣した虎の子部隊だな。第一空中戦闘団は?」

「現在、陣地に戻って弾薬と燃料の補給を受けているとのことです。―――それは本当か!?―――あぁ、分かった。師団長、敵の指揮官がこちらに降伏を打診してきたと……」


 副官から告げられた驚くべき報告に、テーブルの上の侵攻図に視線を落としていた柳田は驚きの表情を顔に浮かべながら副官を見た。


「それは本当の話か……?」

「信じられない話ですが、どうやら本当らしいです」

「呆気ない幕切れだが、どうやら終わったようだな……」


 その後、陣地から送られて来た大量の輸送トラックにインペリウム教皇国遠征軍、神の使いし軍団の捕虜を乗せて、ダルティア基地までピストン輸送で運んだ後、輸送ヘリを使用して第十三管理島へと移送し、勝利した蒼龍国軍は第二空中戦闘団が占領した砦を拡張し、反攻作戦拠点としての準備を始めた。


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