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蒼龍国奮戦記  作者: こうすけ
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第十六話

アクリシア王国領 ダルティア

蒼龍国派遣軍 ダルティア基地



 祐樹が前線視察を告げてから二日後、ダルティア基地飛行場の滑走路にVC-25エアフォースワンが着陸し、エプロンに移動してタラップが降ろされると、機内から身辺警護隊の二名が現れ、周囲の安全を確認すると、四名の身辺警護隊に囲まれた祐樹と刹那が姿を現した。


「お待ちしておりました。祐樹総帥閣下、更衣副総帥閣下」


 身辺警護隊に守られながらダルティア基地司令部に入った祐樹をそう言って出迎えたのは、基地司令の大原詩乃少将だった。


「大原少将、暫くの間世話になるぞ」

「はっ。今回の目的は、前線陣地の視察という事で宜しいでしょうか?」

「あぁ、その通りだ」

「では、会議室にご案内します」


 祐樹がダルティア基地に訪れた理由を確認した大原は、祐樹達を会議室へと案内すると、部下に指示を出してプロジェクターを起動させた。


「既に報告書で把握していると思いますが、我が派遣軍とインペリウム教皇国軍はガリシア平原で主力同士が膠着状態となっています」


 大原は、スクリーンに映し出されるガリシア平原の衛星写真にレーザーポインターを使用しながら、報告書に書かれている部分は軽く説明し、新たに確認された事項について重点的に説明を行った。


「――偵察機と偵察衛星を見ますと、新たに大砲陣地が構築されていることが分かります。しかし、我が軍の陣地はこの大砲の射程距離から十分離れた所に構築されていますので、心配はありません」

「大原中将、神の使いし軍団の火砲に対しての対策はどうなっている?」

「ご心配には及びません。執行部から送られた情報を基に、神の使いし軍団の火砲も射程外になっています」


 祐樹の言葉に大原は部下に命令して、陣地と敵火砲の射程距離の書かれたスライドに変更させると、その図を使用して、陣地が射程距離から外れている事を説明し、すべての説明が終わった所で、親衛軍の兵士が一人会議室に入室した。


「失礼します!前線陣地に向かう準備が整いましたので、お呼びに参りました」

「ご苦労。マスター、行きますか?」


 準備が整ったことを報告しに来た兵士に刹那は一言そう言うと、祐樹に向き直り、祐樹にそう尋ねた。


「あぁ、そのために来たからな。大原中将、説明ご苦労だった」

「はっ。総帥閣下もお気を付け下さい。総帥自らが前線陣地を視察なされば、兵士達も喜び、士気も上がるでしょう」


 大原の言葉に祐樹は頷いて、刹那と身辺護衛隊を伴って司令部を後にすると、親衛軍が準備した装甲車に乗り込むと、ガリシア平原の前線陣地へと向かった。



ガリシア平原

蒼龍国軍前線基地 野戦司令部



「敵に何か動きはあった?」

「いえ、敵に動きは全くありません。いつも通り静かなものです」


 野戦司令部で、壁に貼られたガリシア平原の地形図を見つめていた蒼龍国陸軍第一軍集団司令官、真田加奈大将の言葉に、隣に立っていた第一軍集団参謀長である広瀬智明一佐が答えた。


「そろそろ、敵軍も動き出すと思ったのだけれど、まだ動かないという事は、敵は何かを待っているのかしら?」

「恐らく、執行部からの報告でもあった軍団を待っているのでしょう」

「あぁ、神の使いし軍団ね……執行部の報告によれば、保有している装備はナチスドイツ軍の装備だから、余り脅威にならないと思うけど……」

「いや、そんな事は無いと思うぞ」

「誰だ……!?……そ、総帥閣下!?」


 野戦司令部の中に突然響いた声に反応した司令部要員は、一斉にホルスターからUSPを抜き取り、入り口に向けたが、司令部テントに入って来た祐樹の姿に真田と広瀬は驚きの声を上げ、野戦司令部にいた司令部要員は銃を再びホルスターに収め、敬礼を行った。


「いきなり来てしまって、すまないな。真田大将」

「い、いえ、ようこそお越し下さいました。今、お席を用意します」


 祐樹の突然の登場に慌てながらも、席を用意しようとする真田と広瀬の二人を祐樹は手で制した。


「今日の目的は、前線陣地の視察だ。皆は、普通にしていればいい」

「そうでしたか。須藤、こっちへ来なさい」

「はっ!」


 祐樹の言葉に真田は頷くと、指揮所にいた一人の女性佐官を呼ぶと、彼女を自分の横に来させた。


「作戦参謀の須藤香織一佐です。陣地の案内は彼女に任せますので、気になる事があれば、彼女に尋ねて下さい」

「第一軍集団作戦参謀、須藤香織一佐です!」

「須藤一佐、今日はよろしく頼むぞ」

「はっ。お任せ下さい。では早速、小銃掩体と戦車掩体にご案内します」


 須藤の言葉に祐樹は頷き、身辺警護隊と刹那に守られながら彼女の後に続いて司令部テントを後にすると、小銃掩体へと向かった。




「気を、つけっー!」


 小銃掩体に到着すると、須藤の凛とした声が掩体に響き、掩体内で休息を取っていた兵士達は、状況がよく飲み込めないまま、その声に弾かれる様に立ち上がると直立不動の姿となった。


「全員、直れ。楽にしていいぞ」

「そ、総帥閣下!?」


 須藤の声に続いて掩体内に響いた祐樹の声と祐樹の姿を見た兵士達は、突然の国の指導者の登場に驚きの声を上げる姿に、祐樹は苦笑しながら兵士達に話し掛けた。


「全員、この陣地に何か不満はあるか?」

「いえ、この陣地は快適です。不満があるとすれば、敵が攻めて来なくて暇を持て余している事ですかね」


 祐樹の問い掛けに答えた兵士の言葉に、掩体内にいた兵士達からは笑い声が零れ、祐樹もその雰囲気に釣られて笑みを見せた。


「敵が攻めて来たら、遠慮はいらない、腹一杯になるまで敵に銃弾の雨を食わせてやれ」

「「「「「はっ!お任せ下さい!」」」」」


 小銃掩体の視察を終えた祐樹は、一〇式戦車が鎮座している戦車掩体へと歩いている途中、陣地前方に二重、三重に偏執狂的にまで打ち込まれている鹿砦を眺めながら、前方を歩いている須藤に声を掛けた。


「須藤一佐……」

「はっ。何でしょうか?」

「陣地前には鹿砦以外にも何か配置しているのか?」

「いえ、鹿砦以外は配置されていません。当初は、対人地雷、対戦車地雷を設置する予定でしたが、我が軍の進撃が出来なくなる可能性があったので、地雷の設置は中止になりました」

「そうか……」


 須藤の説明に祐樹は頷き、視線を鹿砦から戦車掩体に向けるとそこには、四十四口径百二十ミリ滑腔砲を敵陣地に向ける数十輛の一〇式戦車の姿を見る事が出来た。


「こちらが、第一戦車掩体群になります。この戦車掩体群の他にも五つの戦車掩体群が構築されており、鉄壁の布陣となっています」

「万が一、戦車掩体群に敵が侵入した場合の対策は出来ているのかしら?」


 須藤から戦車掩体群の配置の説明を祐樹と共に受けていた刹那が、戦車掩体群を眺めながら須藤に尋ねた。


「勿論です。各戦車掩体群には、一個擲弾兵連隊の小銃掩体も構築されていますので、敵の侵入を許してしまったとしても迎撃する事が可能です」

「そう……それなら大丈夫そうね」


 須藤の説明に刹那は納得する様に頷き、砲兵陣地へと向かおうとした瞬間、陣地に警報が大音量で鳴り響いた。


「っ!?須藤一佐、これは何事だ?」

「護衛隊、警戒を怠るな!」

「「「「「はっ!」」」」」


 突然鳴り響いた警報に身辺護衛隊も動揺を隠せない中、刹那の号令ですぐさま祐樹の周囲を固めると、鋭い視線を周囲に巡らせた。


「わ、分かりません。取り敢えず、司令部まで戻りましょう」

「そうだな……刹那、司令部に戻るぞ」

「分かりました。総帥が司令部に戻られる。もう一度言うが、警戒を怠るな」


 須藤の言葉に祐樹は頷き、周囲を身辺警護隊に守られながら最初に訪れた司令部に向かった。




「真田大将、一体何事だ?」

「はっ。先程、第一偵察隊と第二偵察隊から敵増援到着の報告が入ったので、警戒警報を鳴らしました」

「増援と言うと、例の神の使いし軍団か……?」

「その通りです。また、第二偵察隊からの報告によりますと、教皇国軍の増援も到着したようです」

「そうか……敵の状況を確認する事は出来ないか?」

「そうですね……一番前に構築している小銃掩体なら敵の様子を確認する事が出来るかもしれません」

「そうか。須藤一佐、案内を頼めるか?」

「はっ。分かりました」


 祐樹の言葉に頷いた須藤は、小銃や機関銃を持った兵士達が小銃掩体に入っていく中を、祐樹達も第一小銃掩体へと向かった。




「おぉ、良く見えるな。StG44を持った兵士が神の使いし軍団とか言う部隊か……?」

「マスターの言う通りで間違いないでしょう。戦車もパンターG型やティーガーの姿も確認できますね」


 祐樹と同じ様に小銃掩体から双眼鏡で敵陣地の状況を確認していた刹那が、陣地に展開を始める戦車の姿を確認した。


「敵軍も相当の数をここに集結させているな……空を飛んでいる翼竜も百体を優に超えているぞ」


 祐樹が敵陣地の空を見ると、長大な槍を持ち、鎧を纏っている兵士を乗せた翼竜達が舞っているのを確認する事が出来た。


「敵の戦闘機の姿は見えませんね……」

「恐らく、後方の基地に展開させているはずだ……須藤一佐、あれ程の数をこの陣地は防ぐ事は出来るか?」

「勿論です。あの程度なら、この陣地で十分防ぐ事が出来ます」


 須藤の言葉に祐樹も満足そうに頷いていると、隣で敵情の確認を続けていた刹那が、祐樹に声を掛けた。


「マスター、カール自走臼砲の姿を確認する事が出来ました。執行部の報告通り、数は三十輛です」

「あれは……五十四センチ砲搭載型だな……まぁ、あの砲の最大射程距離も考慮してこの陣地は構築されているからあの砲が届く事はない。そうだろう、須藤一佐」

「はい。あちらの砲が我が軍の陣地に届く事は決してありません」

「その言葉を聞いて安心した。それじゃあ、そろそろ司令部に戻るとするか」


 祐樹がそう言うと須藤と刹那も頷き、小銃掩体の中で待機している兵士達に労いの声を掛けて掩体を後にすると、野戦司令部へと戻った。




インペリウム教皇国遠征軍



 最初にガリシア平原に展開していたインペリウム教皇国軍五万に増援のインペリウム教皇国軍十万、神の使いし軍団八万が合流し、合わせて二十三万の大兵力となったインペリウム教皇国遠征軍は、野戦陣地の構築や兵士達が居住するテントの設営が行われていた。


 一通りの作業を終えると、軍の将軍達が軍議用のテントに集結し、自分達の目の前に立ち塞がる敵に対する軍議が開かれていたが、軍議では、二つのグループに分かれて論戦が続いていた。


 将軍達を中核とするグループの主張は、「敵の規模、戦力が分からないので、慎重に作戦を行うべきだ」と言う至極全うな主張だったが、この主張に反論したグループが司教将校達のグループだった。彼らの意見は、「蛮族の軍隊を恐れる事はない。我らの神の御加護があれば、敵など一蹴出来る」と言う無謀な案であったため、部下の命を預かる将軍達と真っ向から対立し、一触即発の空気になっている中に入って来たのが、神の使いし軍団を率いる高木治人だった。


「おやおや?一体どうしたのですか?」

「これはハルト殿。いや、この腰抜けの将軍達に我々の神の偉大さをもう一度教えていただけです」

「そうでしたか……将軍方、私の軍団が到着した今、何を恐れる必要があるのです?皆さんは、神の使いし軍団と共に敵陣地に突撃し、敵陣地を蹂躙すればいいだけの事でしょう」


 高木の言葉に司教将校達も、「ハルト殿の言う通りだ」、「神の使いし軍団に敵はいない」と口々に言い合っていたが、その言葉を受けても将軍達は苦い顔を崩さない事に高木は苛立ち、声を荒げた。


「もういい!『神命』として命じる!我々が放つ神の雷の後に続いて各将軍は、敵陣地に突撃し、蹂躙せよ!もう一度言うが、これは『神命』である!」


 高木が口にした「神命」とは、高木だけに認められている強制命令発動権の事である。この言葉に司教将校達は嬉々としていたが、将軍達は「戦いを知らない小僧の分際で……」とテントから出る高木を射殺す様な視線で睨み付けていたが、「神命」となってしまった以上、将軍達は兵の展開を始めた。


ご意見・ご感想お待ちしています。

次回の更新は、6月21日になります。

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