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蒼龍国奮戦記  作者: こうすけ
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第十五話

蒼龍国 首都:蒼龍府

蒼龍国軍統合本部 総帥執務室


 同盟締結パーティーを終えた一週間後、祐樹は自身の執務室で各方面から送られてくる書類に目を通し、自分が確認したことを表す印を押して確認済みの書類の上に積み重ねていく作業を隣の机にいる刹那と共に続けていた。


――コンコン


「誰だ?」

『技術省長官、園崎優佳技術中将であります。アクリシア王国から提供された鉱物のご報告に参りました』

「そうか。入っていいぞ」

『はっ。失礼します』


 祐樹から入室の許可を得た園崎は入室すると、祐樹と刹那に対して敬礼を行ってから祐樹と刹那に鉱物の詳細が書かれている報告書を手渡した。


「じゃあ、早速報告してもらおうか」

「はっ。では、魔法石と呼ばれるアルテマイトからご報告をさせて頂きます。アルテマイトはアクリシア王国から派遣してもらった魔導士の協力もあり、無事に完全な結晶化に成功しました。現在、第五研究施設でどの様な物に使用できるか研究中です」

「ラグナタイトの方はどうなっている?」


 報告書に添付されている綺麗な青色に結晶化したアルテマイトの写真を見ながら、祐樹は園崎に尋ねた。


「ラグナタイトですが、あれは凄すぎる鉱物でした」

「……具体的に言うと?」

「強度はタングステン以上、モース硬度ではダイヤモンドと同等の『十』ですが、重さは何と七分の一です。これを使えば、より防御力の高い兵器を製作する事が可能です」

「成程……技術省は引き続き研究を続行しろ。特に、アルテマイトを使った動力炉の実用化と兵器の開発を急げ」

「了解しました。では、私はこれで失礼します」


 一通りの説明を終えた園崎は、再び祐樹と刹那に敬礼すると執務室を後にした。


「とんでもない鉱物をアクリシア王国は提供してくれたな……」

「ですね。まさか、そこまで凄い鉱物だとは思ってもいませんでした」


 園崎が執務室から出て行った後、祐樹と刹那は顔を見合って提供された鉱物の凄さに改めて驚いていた。


「そう言えば、本土で取れる鉱物資源の状況はどうなっている?」


 祐樹が刹那に対してそう尋ねると、刹那は自身の机の上に積み重ねられている書類を漁って一枚の書類を取り出した。


「鉱物資源の状況ですが、鉄鉱石やボーキサイト、レアメタル等の採掘も順調に行われています」

「油田の方はどうだ?」

「本土の油田施設からの掘削作業も順調に進み、本土から五十キロ離れた海底からも油田が発見されたので、海上プラントの建造を始めています」


 技術省の資源部門から送られた報告書を読み上げる刹那に祐樹は頷くと、自分の机に積み上げられている書類の一枚を手に取って目を通し始めた。


「ICBM、SLBMの配備も完了したようだな」

「はい。既に戦略原子力潜水艦も作戦行動に入っています。勿論、マスターの指示通りICBM、SLBMの弾頭に核は搭載されておりません。但しICBMは、万が一のことを考えて取り付け出来るようにはしています」

「それでいい。俺の別命があるまで核は取り付けないように厳命しておいてくれ」

「分かりました。それとマスター、身辺警護隊の編成が完了しましたので紹介いて宜しいでしょうか?」

「いいぞ」

「ありがとうございます。身辺警護隊全隊員に通達する。五分後に総帥執務室前に集合せよ。繰り返す、身辺警護隊は五分後に総帥執務室前に集合せよ」


 祐樹に了解を取った刹那は、自身の机の上にある電話を手に取ると内線で身辺警護隊にそう告げた。


『副総帥、身辺警護隊全隊員、集合しました』

「入れ」

『はっ、し、失礼します』


 五分後、総帥執務室の扉がノックされて刹那が入室の許可を出すと、緊張した声音をした女性が数人の男女を伴って総帥執務室に入室すると、祐樹に敬礼を行った。


「身辺警護隊、隊長に就任しました黒川由依特務一佐です。誠心誠意、総帥の警護をさせて頂きます」

「同じく、浅見真帆特務一尉です」

「早見優佳特務一尉です」

「岡崎真二特務二尉です」

「矢野優斗特務二尉です」

「篠田真央特務二尉です」


 祐樹は敬礼をして自己紹介をする身辺警護隊の面々を見渡し、全員の紹介が終わったのを確認して口を開いた。


「皆、期待しているからこれから宜しく頼む」

「はっ、警護隊一同、命を懸けて総帥をお守りします」

「さぁ、全員は所定の位置に着きなさい」

「「「「「「はっ。失礼しました!」」」」」


 祐樹の言葉を貰った警護隊を代表して黒川がそう答え、刹那の言葉を受けて各自の持ち場へ戻った。


「さてと、後は執行部からの敵情報待ちだな。小夜の話だと今日中に持って来ると言っていたが……」

「……主様、敵情報を持って参りました」


 警護隊を見送ってから数分後、小夜が敵首都に潜入している執行部員から送られてきた報告書の束を持って総帥執務室にやって来た。


「待っていたよ、小夜。それで敵軍が派遣する増援の詳細は分かったのか?」

「はい、主様。潜入している部下達がしっかりと情報を集めてきました」


 祐樹の言葉に小夜はそう答えると、持って来た報告書の束を祐樹と刹那に手渡した。


「敵の増援兵力は五十万か……小夜、例の魔道アーマーや神の使いし軍団は確認されているのか?」

「はい。潜入班の報告では、魔道アーマーは最低でも二千機、神の使いし軍団は十万が確認されたということです」

「そうか。魔道アーマーは我々も研究をしたいから、最低でも百機は鹵獲したいな……」

「そうですね。上手くいけばアルテマイトとラグナタイトを使用して、敵の魔道アーマーよりも強力な物が開発出来るはずです」


 小夜から手渡された資料に目を通しながら祐樹がそう呟くと、同じ様に資料に目を通していた刹那が祐樹の呟きに同意する様に答えた。


「問題なのは、神の使いし軍団だな……第二次大戦中の兵器だと言ってもこの世界の軍隊には十分脅威になるぞ」

「その点については陸軍が対策を講じています。アクリシア王国軍しかいない小規模な防衛線にも最低でも一個師団を配備しています」

「航空戦力はどうだ?陸上戦力を揃えたとしても、航空戦力でやられ可能性があるぞ」

「その点についても抜かりはありません。早期警戒管制機とF-22、F-15SEが空中警戒待機を行っており、直ぐに駆け付けられる体制を整えています」

「それなら大丈夫だな。ガリシア平原の野戦築城の状況はどうなっている?」

「工兵師団の活躍もあって塹壕や小銃掩体、戦車掩体は全て完成し、現在は砲兵陣地と防空陣地の建設に取り掛かっています」


 刹那の説明に頷いた祐樹は手に持っていた報告書から目を離すと、自分の目の前に直立不動の姿勢をとっている小夜に目を向けた。


「執行部は引き続き敵首都で情報収集を続けてくれ。特に、神の使いし軍団の情報は優先的に収集する様に命令しろ」

「御意」

「刹那、二日後に俺も前線陣地の視察に行く。そのための調整を頼む」

「了解しました」


 祐樹の言葉に頷いた小夜は祐樹に一礼してから執務室を後にすると執行部の本部へ向かい、祐樹の隣に座る刹那は、祐樹が視察に行くための調整を行い始めた。



インペリウム教皇国 首都:ワグルード

教皇庁 教皇謁見室



「――それで、クーデターを計画していたダディス殿を含む宰相派の貴族は全員、処刑されてしまったと言うのだな?」


 豪華絢爛な装飾が施された謁見室に据えられている椅子に座るインペリウム教皇国教皇、レオナルト・ディ・ゼーヴァルト三世が側近からの報告を受けていた。


「はっ。我々が派遣した襲撃部隊も全滅し、隠れていた宰相派も全員、処刑されたようです」

「ふむ……あのような弱小国は直ぐに制圧できると思っていたが……」

「その事で密偵から報告が来ております。アクリシア王国の女王、ヒルデガードは、新興国であるソウリュウ国と言われる国と同盟を結んだようです」

「ソウリュウ国……?」


 側近から告げられた聞いた事もない国名に、報告を聞いていたレオナルトは訝しげな視線を側近に向けた。


「その様な国名の国を、儂は聞いた事がないぞ?それは、本当に確かな情報なのか?敵の欺瞞と考えられるではないか」


レオナルトの咎める様な言葉に、報告していた側近は冷や汗をダラダラと流しながら密偵から送られた羊皮紙を見ながら報告を続けた。


「密偵も最初は敵の欺瞞だと思っていたらしいのですが、同盟を締結したのは本当の事らしいです。実際、クーデター鎮圧を行ったのもソウリュウ国だと報告されています」

「その報告が正しければ、情報部はもう一度密偵達にソウリュウ国の情報を正確に送るように指示せよ」


 側近の報告を聞いたレオナルトはそう命令したが、命令を受けた情報部の長は申し訳なさそうに口を開いた。


「きょ、教皇様、残念ながらアクリシア王国に潜入させていた密偵とは、連絡が取れなくなってしまいました」

「何?アクリシア王国には十名以上の密偵を潜入させていると聞いていたが、その全員と連絡が取れないのか?」

「その通りでございます」


 インペリウム教皇国諜報部がアクリシア王国に潜入させていた諜報部員は、クーデター鎮圧直後、小夜率いる特務執行部によって秘密裏に排除されていた。


「そのソウリュウ国とか言う国の詳細が分からないのが残念だが、我らが神の前にどのような敵も勝つ事は出来ぬ。そうであろう、ハルト殿」


 レオナルトが視線を向けた先には、フィールドグレー親衛隊勤務服を着た一人の青年が柱の裏から姿を現した。


「教皇様の言う通りです。どのような敵が我々の目の前に立ち塞がろうとも、我らの神に掛かれば鎧袖一触。負かるはずがありません。では、自分も出陣の準備があるので、これで失礼します」


 レオナルトからハルトと呼ばれた青年はそう言うと、レオナルトに一礼して謁見室を後にした。



神の使いし軍団 軍団本部

軍団長室



「おい、出撃の準備は出来ているのか?」


 謁見室を後にした青年――高木治人は教皇庁の中に用意された軍団長室に入り、そう告げると一人の女性が治人に近づいた。


「お帰りなさいませ、治人様。既に、出撃する全部隊の準備は整っています」

「ほう、役立たずの貴様でも、少しは役に立つ時があるな。なら、俺も準備に取り掛かるとしよう」


 女性の報告に上機嫌に頷きながら、自分の準備を始めた治人に対して副官の女性が口を開いた。


「治人様、敵の詳細が不明なのに十万もの大軍を一度に出撃させて良かったのですか?もう少し、様子を見てから大規模な派兵を行ったほうが……」

「黙れ!貴様は俺が言う事を聞けばいい!絶対に、俺に意見するな!」


 治人に意見しようとした副官の女性に対して、治人は怒号を上げると女性を殴り倒し、倒れた女性に対して続けて女性の体を二、三回蹴り飛ばした。


「いいか、お前達は俺の手駒だ。俺とお前達は同等の立場ではないという事を分かっておけ!」

「は、はい。申し訳…ありませんでした……」


 女性は立ち上がると、殴られた所を抑えて痛みに耐えながらか細い声で治人に対して謝罪の言葉を述べ、フラフラとした足取りで団長室を後にした。


ご意見・ご感想お待ちしています。


次回の更新は、5月10日になります。

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