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蒼龍国奮戦記  作者: こうすけ
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第十三話

アクリシア王国領 ラッテ街道

襲撃地点



 祐樹達がクーデターの知らせを受けて秘匿通路を使って王城へ引き返した頃、隊列襲撃地点にはダディスの連絡を受けた教皇国軍の襲撃部隊百名が待機していた。


「そろそろ隊列が来ても良い頃だな……」

「隊長、アクリシア王国の女王は殺して、蒼龍国とか言う国の王は生け捕りでしたよね?」


 茂みに身を隠しながら辺りを見渡していた襲撃部隊隊長がそう呟くと、その隣にいた兵士の一人が隊長にそう尋ねた。


「あぁ、その通りだ。何でも、蒼龍国の王は脅してアクリシア王国の属国にするらしい」

「成程。なら、女王は殺す前に楽しんでも良いですか?アクリシア王国の女王と言えば、神秘的な美しさで、有名じゃないですか」

「おぉ、それは良い話だ。隊長、殺す前に楽しむとしましょうぜ。俺達には一生縁の無い女と楽しむチャンスだ」


 兵士の話しを聞いていた周りの兵士達もその提案に賛同し、下卑た笑みを浮かべて隊長に迫った。


「分かった、殺す前に楽しめ。それと話によれば、蒼龍国の護衛も美人揃いらしいぞ」

「本当ですか!?蒼龍国の王は羨ましいな!」

「まったくだ!蒼龍国の王様は毎晩毎晩お楽しみ何だろうぜ」

「はははっ、違いない」


 隊長のその言葉に兵士達はさらに盛り上がり、視察の隊列が襲撃地点に早く来るのを心待ちにしていたからか、自分達の背後から迫る気配に気が付く事が出来ず、背後から口を覆われた。


「っ!?―――!―――!」


 最初は仲間の誰かが退屈しのぎにふざけてやっているのだろうと思い、抗議の声を上げようとしたが、自分の後ろにいるのが自分達の知らない服装をした敵だと言う事に気付き、反撃をしようとした時には遅く、頚部にナイフを深々と差し込まれた。


「あっ…がっ……」

「総帥を侮辱した罪、その身で償え……」


 突然の自分を襲った激痛に悲鳴を上げようとするが横隔神経を切断された事で声を発する事が出来ず、地面に転がされたこの兵士が息絶える最後に聞いたのは憎悪の含まれた女性の声だった。



アクリシア王国領 秘匿通路

領地視察隊列



 ヒルデガードの道案内によって王族しか知らない秘匿通路を通り、祐樹達は王都の第二城壁内に侵入成功していた。因みに、ヒルデガードは第一近衛騎士団と祐樹の護衛二十名に守られて王都外で待機している。


「―――了解。直ぐに現地点から離脱しなさい。回収地点にヘリを向かわせる」

「始まったか……」

「はい、主様。襲撃部隊を執行部隊が完全に無力化しました」


 教皇国軍襲撃部隊の無力化を行った執行部隊員からの報告を受けていた小夜に祐樹が呟く様に尋ねると、小夜は頷いて襲撃部隊を無力化した事を告げた。


「よし、俺達も動き出すとしよう。小夜、王都に潜入している執行部員に集結命令を出せ」

「了解。王都潜入中の全執行部員へ通達。監視任務を中止し、集結地点へ集合せよ。繰り返す。集結地点へ集合せよ」


 祐樹の言葉に小夜は頷くと、無線機で王都各地に散らばっている執行部員に事前に決められていた集結地点に集合する様に告げ、自分達も装備の点検を始めた。


「刹那、汐里達の状況はどうなっている?」

「はっ。王城内でも戦闘が開始され、汐里達は客間の調度品でバリケードを構築。先程、敵の第三波を撃退したと報告がありました。港の方も敵の第二波を撃退したと連絡が入っています」

「そうか…全部隊にもう暫くの辛抱だと伝えてくれ」

「了解」


 装備の点検を終えた祐樹達も集結地点へ到着すると、執行部のエンブレムを付けた制服を着ている兵士達が整列していた。


「総帥に対して、敬礼!」


 小夜の号令でFN SCARを持って整列していた執行部員達は、一糸乱れぬ動きで祐樹に敬礼を行った。


「直れ。全員分かっているだろうが、これより我々はアクリシア王国女王ヒルデガード陛下の要請を受けてクーデター鎮圧作戦『エクソダス』を発動する。第一班は城内で戦闘を続けている海幕長達の救援。第二班も港の防衛部隊に加勢しろ。第三から第五班は、城内の制圧とダディスを含めた宰相派貴族の拘束が最終目標だ。以上、状況開始!」


 祐樹がそう告げると、各班は作戦計画で自分達に割り振られた場所へと静かに行動を開始した。



王城 客間



「海幕長、第三波を撃退した時点で弾薬が尽き掛かっています。第四波が来たら、持ち堪えられるかどうか怪しいです……」


 客間でバリケードを構築していた汐里達もクーデター部隊の攻撃を三回とも撃退していたが、遂に弾薬が尽き掛かっていた。


「総帥達も行動を開始しているわ。増援が来るまでもう少しだから踏ん張りなさい」

「分かりました」


 汐里の言葉に頷いた兵士は、汐里に一礼して自分の持ち場に戻るのを確認して自分の銃の点検を行っていると、通信兵を伴った紅葉が隣にやって来た。


「何?」

「総帥達が『エクソダス』を発動したわ。そろそろ、こっちにも増援が来るはずよ」

「そう…なら、もうひと踏ん張りね」

「敵襲!第四波が接近!総員、戦闘配置!」


 紅葉と話していると、入口で警戒していた兵士が敵の来襲を告げながらバリケードへと入って来た。


「弾薬が尽きるか、増援が来るか…どっちが早いかしら……」


 点検し終わったHK417に弾倉を装着するとバリケードに身を隠した汐里は一人そう呟いた。


―――ババババババッ


「ギャァアアア!」

「グアッ!」


 敵が来るのを待っていた汐里達だったが、扉の外からHK417の銃声とは違う銃の音と客間に迫っていた兵士達の絶叫が廊下に響き渡り、銃声が止むと客間に親衛軍の制服に執行部のエンブレムを付けた女性達が姿を現した。


「特務執行部です!加藤海幕長、宮本空幕長、総帥の命により救援に参りました!」

「特務執行部……どうやら間に合ったようね。ご苦労様。弾薬の補給がしたいのだけれど、弾薬はあるかしら?」

「はい、持って来ています」


 執行部の隊員達からアーモ缶を受け取ると、既に携行していた全弾を撃ち尽くした兵士に対して優先的に分配させ、手短に準備を終わらせると執行部の隊員と共に城内の制圧を開始した。



王城 廊下



「クーデターも無事成功したな」

「あぁ、閣下が国王になれば、俺達も優遇される」

「残念だが、あのジジイが国王になる事は無いぞ」

「何だと!?―――ングッ!?」

「何者だ!?―――グッ!?」


 二人の衛兵は背後から聞えた声に慌てて後ろを振り返り確認しようとした瞬間、何者かに背後から口を覆われるとナイフで喉を掻き切られ、一言も発する事が出来ず血を噴き出しながら床に倒れた。


「―――了解。そのまま、任務を続行しなさい。マスター、第一班が加藤海幕長達と無事に合流し、王城制圧に移行すると連絡が入りました」

「分かった。それにしても、衛兵達も完全に緩みきっているな……ここまで簡単に制圧出来るとは思わなかった……」


 第三班を率いている祐樹は、血を流しながら床に倒れている衛兵二人を見てそう呟いた。既に祐樹の率いる第三班を含めたクーデター鎮圧部隊は、警備している衛兵達を無力化しつつ王城のほぼ全てを制圧していた。


「主様、ダディス宰相と宰相派貴族は玉座の間に集まり、クーデター成功の祝杯を上げている様です」

「おめでたい連中だな…第四班に玉座の間に向かう様に連絡しろ。第三班もこれから玉座の間へ向かう」

「はっ。第四班は直ちに玉座の間へ急行せよ。第三班と合同で、ダディス宰相と宰相派貴族の身柄を押さえる」

『四班了解。玉座の間へ向かいます』


 祐樹の言葉に頷いた小夜は、無線で第四班に玉座の間に向かう様に告げ、第三班も周囲を警戒しながら玉座の間へと向かった。



王城 女王派貴族監禁室



 ダディスのクーデターにより衛兵達に捕らえられた女王派貴族五十名は、王城の一室に家族と共に監禁されており、クーデターの成功をダディスが民衆達に宣言すると同時に、女王派を売国奴として宣伝し、王国一の監獄であるパスカゴーラ監獄に移送される事になっていた。


「オルトン卿?そこにおわすのはオルトン卿ではないか!?」

「おぉ、ダスティン伯爵ではないか!?良かった、無事でしたか」


 監禁室の中で女王派貴族達は見知った顔をいくつも見つけると、肩を叩き合って互いの無事を喜んでいた。


「諸君らも無事で何よりだ」

「うむ。衛兵の連中も大人しくしている者には乱暴はしなかった様だが、最後まで抵抗していたランバート公爵が残念ながら……」

「ランバート公爵が…痛ましい……」

「いずれにしても、我々も逆賊の汚名を着させられて殺される事は目に見えて分かっている。何か行動を起こさなければ……」

「確かにその通りだが……」


 オルトンの言葉にダスティンも頷くが、この監禁室の扉の前には十名以上の槍を持った衛兵達が警備しているのをダスティンは監禁室に入れられる時に確認していた。


「丸腰の我々にはどうする事も出来ない」

「しかし、このまま殺されるのを待つと言う訳にもいかん」

「オルトン卿の言う通りだが、一体どうすれば……」


 ダスティンがオルトンの言葉にそう答えた時、ダスティン達は扉の向こうが騒がしくなっている事に気が付いた


―――バンッ


―――バババババッ


『止まれ!貴様、何者か!?……ギャッ!?』

『貴様等、何をするか!?』

『敵襲!敵…グアッ!』

『ギャアァァァー!』


 突然起こった何かが弾けた様な破裂音と怒声や断末魔の叫び声が静まって直ぐに監禁室の扉が開き、自分達の死を感じて恐怖で身を強張らせた貴族とその家族達だったが、室内に入って来たのは槍を持った衛兵では無く黒い服を着た女性だった。


「蒼龍国の者です!ヒルデガード女王陛下の要請と総帥の命により、あなた方を救出しに参りました!」

「陛下の要請だと……?」

「蒼龍国の方に尋ねたい、陛下は生きていらっしゃるのか?」

「ヒルデガード女王陛下はご無事でいらっしゃいます!現在は、我々蒼龍国軍と第一近衛騎士団が警護しています」

「陛下が生きておられる……良かった、本当に良かった!」

「これから、皆さんをここから脱出させます!行動を開始する際は、我々の指示に必ず従って下さい」


 ダディスからヒルデガードの死を知らされた事で絶望していた女王派貴族達は、ヒルデガードが本当は生きている事を知って喜びの声を上げると、執行部員達の指示に従って監獄室を出て王城を後にすると、蒼龍国軍が持って来ていた輸送トラックに乗り込み、要請により派遣軍よりも一足早く現地入りした蒼龍国陸軍第一擲弾兵連隊が安全を確保している地点に向かった。



王城 玉座の間前扉



「ウグッ!?」

「グッ!?」


 玉座の間へと続く扉を守る二人の衛兵を一瞬で無力化した執行部員達は、ハンドサインを使って予定の位置につくと突入のタイミングを計っていた。


「主様、玉座の間にはダディス宰相を含め貴族がおよそ三十名、衛兵六名の姿が確認出来ました。貴族達は武器を携帯しておらず、制圧は容易だと思われます」

「分かった。十秒後に突入し、衛兵達を無力化、宰相と宰相派貴族を拘束する」


 祐樹の言葉に刹那と小夜は頷き、ハンドサインを使い各隊員に突入のタイミングを知らせる。


「突入五秒前…四…三…二……突入!」


 祐樹がそう叫ぶと四人掛かりで玉座の間に続く扉を開き、待機していた執行部員達が玉座の間へ雪崩れ込んだ。


「動くな!」

「両手を上げろ!」

「両手を上げて跪け!」


 突然乱入して来た執行部員達に動揺して動けない貴族達だったが、訓練された衛兵達は槍を構えて侵入者を迎え撃とうとしたが、その動きを察知した執行部員達が銃撃を加え、六名の衛兵は侵入者に一撃も加える事無く無力化された。


「貴様等は何者だ!?ここが玉座の間と知っての狼藉か!?」


 突然玉座の間に乱入し、ダディスや宰相派貴族達に銃を向ける執行部員に対して、玉座に座っていたダディスは執行部員達を睨みつけると、怒声を上げた。


「ダディス宰相、部下達の無礼をお許し下さい」


 怒声を上げるダディスに対してその様な声が玉座の間に響くと、銃を構えていた執行部員の一角が左右に別れ、その出来た道の真ん中を祐樹がニヒルな笑みを浮かべながらゆっくりと歩いて玉座の正面に出た。


「き、貴様が何故……キリカゼ総帥!これは、我が国に対する敵対行動ですぞ!?同盟を締結したいのならば即刻、兵をこの場から退場させ『なりません!』――ッ!?」


 ヒルデガードと共に視察に向かった祐樹の姿を見たダディスは、あり得ない光景に動揺しながらも祐樹に対して怒声を上げ、兵を下げさせようとしたダディスの言葉を凛とした女性の声が遮った。


「へ、陛下……」


 第一近衛騎士団と蒼龍国軍の護衛を伴って玉座の間へ入って来たヒルデガードの姿に、ダディスは表情を強張らせた。


「私が生きている事が不思議ですか?ダディス、あなたの目論見は、キリカゼ総帥のお陰で最初から分かっていました。監禁していた貴族は蒼龍国軍によって助け出され、クーデターに呼応していた部隊や海軍も既に蒼龍国軍によって無力化されました。あなたの目論見は完全に潰れたのです」


 ヒルデガード睨みつけながらダディスにそう告げると、顔を真っ青にさせたダディスは力無く膝から床に崩れ落ちた。


「ここにいる貴族達も同罪です!全員、国家反逆罪で全財産、爵位を没収し、身柄を拘束します!」

「容赦はするな!一人残らず捕えろ!」


 ダディスが崩れ落ちる姿を呆然と見ていた宰相派貴族達も、祐樹の命令を受けた執行部員達の手によって手錠が掛けられた。ダディス元宰相を含めたクーデターを起こした宰相派貴族達はその日の内に全員が拘束され、ダディス達が計画したクーデターは、失敗と言う形で幕を閉じた。


 一週間後、国家組織の再編を終えたアクリシア王国側との同盟締結交渉によって蒼龍国、アクリシア王国間での同盟が締結された直後、蒼龍国本土で待機していたアクリシア王国派遣軍第一陣が出港した。


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次回の更新は4月12日になります

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