表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒼龍国奮戦記  作者: こうすけ
10/42

第九話

アクリシア王国 王都:エレスティア

王城 客間



「ふぅ、女王との会談は緊張したが、何とかなったな……」


 アネットが部屋を後にしたのを確認すると、祐樹は豪華な装飾のされたソファーに身を預けた。


「ご苦労様です、マスター」


 ソファーにもたれ掛かりながら溜息を付く祐樹に対して、刹那は飲み物の入ったグラスをそっと祐樹の目の前にある机に置いた。


「有難う、刹那」


 目の前に置かれたグラスを祐樹は刹那に礼を言ってから手に取り、一口飲むと、再びグラスを机に置いて自分の傍らに立つ汐里に視線を向けた。


「汐里、第一統合打撃群の状況は如何だ?」

「はっ、第一統合打撃群は順調に予定通りの航路でエレスティアに向かっております」

「到着時刻に変更は……?」

「ありません」


 汐里のその言葉に祐樹は満足そう何度も頷くと、今度は自分の目の前に立つ刹那に目を向けた。


「刹那、そろそろ頃合いだろう。“彼女”を呼んでくれ」

「分かりました。小夜、来なさい」

「はっ……」


 祐樹の言葉に頷き、刹那が“彼女”の名を呼ぶと刹那の後ろから親衛軍特務執行部の制服に身を包み、刹那と同じ様に黒髪を腰まで伸ばしている女性が現れた。


 刹那から小夜と呼ばれたこの女性が、「親衛軍特務執行部」部隊長である森保小夜特務中将だった。


 彼女が率いる「親衛軍特務執行部」とは主に諜報戦や特殊作戦を担当する部隊で、諜報や暗殺を担当する第一課は二千名、特殊作戦を行う第二課は五百名を擁している。特に諜報、暗殺戦を担う第一課はハニートラップを仕掛ける事もある為、親衛軍の中でも選りすぐりの美人が揃っている。


「主様、黒城小夜、参上しました」

「うん。久しぶり、小夜。元気だった?」


 祐樹の前で片膝を付きそう告げる小夜に対して、祐樹は笑みを浮かべながら小夜にそう声を掛けた。


「は、はい。主様もお変わりなく……」


 祐樹にそう言葉を掛けられた小夜は、その端正な顔を真っ赤に染めながら祐樹の言葉に頷いた。


「小夜、用意した物をマスターに……」


 刹那がそう言うと小夜は静かに頷き、祐樹にファイルを手渡した。


「主様、このアクシリア王国に関する資料になります」


 小夜の言葉に頷き、手渡されたファイルに目を通し始めた祐樹は、暫くして顔を顰め始めた。


「酷いな……殆どが貴族の汚職の報告じゃないか……」

「主様、その報告書に記されている貴族は全員が宰相派の貴族になります。対抗勢力の女王派にはその様な報告はありませんでした」


 小夜の報告に祐樹は頷くと、ファイルを机の上に置いた。


「それじゃあ、会議の様子を見てみようか……小夜、玉座の間に隠しカメラと盗聴器は仕掛けているか?」

「はい、余念はありません」


 祐樹の言葉に小夜は頷いて答えると、持って来たタブレット端末を差し出し、祐樹は満足そうに頷いてタブレット端末を手に取った。


「相手には悪いが、こちらも相手を完全に信じている訳ではないからな……」


 確かに、これから同盟締結に向けた交渉を行う相手に対して無礼極まりない行動だとは思うが、祐樹のいた前世界でも、1921年に行われたワシントン会議では日本政府から代表団への暗号電をアメリカが傍受、解読し、交渉を有利に進めたと言う例もある。


『何を言っているか!?聞くところによると奴等の国は、最近出来た振興国らしいではないか。建国して百五十年の歴史を持つ我々が何故そんな新興国の蛮族と手を組まねばならんのだ!?』


 タブレット端末の電源を付けると、玉座に座るヒルデガードの前で肥え太った腹を揺すりながら同盟反対締結派の意見を述べる貴族の姿が映し出された。


『―――総帥を殺してしまえば、奴らも混乱する。その混乱に乗じて、攻め滅ぼしてしまえばいいのだ!』


「フフッ、この男は何を言っているのでしょう?マスターを殺す?可笑しな事を言いますね……」

「刹那様、私にこの馬鹿げた男を殺す命令を出して下さい。確実にこの男を闇に葬って見せましょう」


 タブレット端末を見ながら黒いオーラを出し始めた刹那と小夜に対して祐樹は苦笑していたが、部屋にいる親衛軍の兵士達からも刹那や小夜ほどではないが、殺意が漏れ出ていた。


 前述しているが刹那が率いる親衛軍は、刹那や小夜に及ばなくても(刹那、小夜クラスの信奉者も隊長クラスにいる)全員が祐樹信奉者であり、祐樹を侮辱する者は自分達の敵となるのである。


「全員落ち着け。刹那、小夜も。俺の周りは常に刹那達が守ってくれているから大丈夫だ。全員早まらない様に」

「……はっ」

「……御意」


 祐樹にそう言われ、先程まで黒いオーラを出していた刹那と小夜は渋々頷き、他の兵士達も殺気を収めた。


「しっかし、面倒くさい事になりそうだな……取り敢えず、あちらの要求が気になるが、こっちの要求も考えるとするか……」

「そうですね」


 祐樹の言葉に刹那も頷き、机の周りに集まった蒼龍国首脳陣は、アクリシア王国に提示する条件の会議を始めるのだった。



翌日


アクリシア王国 王都:エレスティア

西地区 ミスラータ港



 平時はアクリシア王国最大の貿易港として大いに栄えているミスラータだが、現在はインペリウム教皇国との戦争によって貿易船が来航しなくなり閑散としていたが、今日に限っては、岸壁は多くの人で溢れ返り、港には蒼龍国海軍の艦を迎える為にアクリシア王国海軍の主力艦隊の戦列艦が停泊していた。


「キリカゼ総帥、あれをご覧ください。あれが、我が国の誇るアクリシア王国海軍旗艦である一等戦列艦『クロンメル』になります」

「あれが……凄い艦ですね……(小さな船……)」


 自信満々の表情でそう言うダディス宰相の言葉を適当に聞き流しながら、祐樹は適当に感想を告げると、自国の艦の大きさに圧倒されて言葉も出無いのだと勘違いしたダディスは更に自慢気に告げた。


「我が海軍は、百年の伝統を持つ海軍ですからな。貴国の海軍が何処まで我が海軍と戦えるか楽しみですな」

「ははっ、我が国の海軍は設立されたばかりなので、どうぞお手柔らかに……(言いたい放題言いやがってこのジジイ……)」


 尊大な態度で話し続けるダディスに対して軽く殺意を持ち始めていた祐樹は、その気持ちを何とか押しとどめながら努めて笑顔で受け答えしていたが、刹那や親衛軍の兵士達は自国の侮辱は、延いては祐樹の侮辱となる為、額に青筋を浮かべ、拳をワナワナと震わせていた。


「そ、そろそろ、蒼龍国海軍の艦隊が到着する時間ではないですか、キリカゼ総帥?」

「もうそんな時間ですか……それならば、見えても良い頃ですが……」


 ダディスの蒼龍国を見下すような発言の所為で殺気立つ蒼龍国の面々の様子に先程から冷や汗が止まらないヒルデガードは何とかして話題を変えようと祐樹にそう告げると、祐樹は自身の左腕に付けている腕時計を確認して、頷くと海の方に再び目を向けた。


「……あっ、マスター、見えました。第一統合打撃群です!」


 刹那がそう言って指差した先には、水平線から無数の黒点がミスラータを目指して向かって来るのが見えた。


「あれが蒼龍国海軍ですか……んっ?キリカゼ総帥、あの艦の数隻から黒煙が上がっていますが、火事が起こったのではないですか!?」

「黒煙ですと……?おぉ、本当だ。キリカゼ総帥、ここに来るまでに火事があった様ですな。いやはや、そんな海軍が本当に我々一緒に戦えるのですかな?」


 単眼鏡で港に近づいて来る蒼龍国海軍の艦艇を見ていたヒルデガードが祐樹に対してそう告げると、ヒルデガードの隣で同じ様に単眼鏡を覗いていたダディスもヒルデガードの言葉に頷くと、祐樹に対して再び見下すような言葉を掛けた。


「ご安心ください。あれは、火事ではありませんよ」

「えっ?で、ですが、黒煙が上がっていますよ?」

「まぁ…近くで見れば分かるでしょう」


 祐樹の言葉の意図が理解できないまま、ヒルデガードは艦艇が港に着くのを待っていたが、近付いて来る艦艇群に違和感を覚えていた。


 水平線から姿を現した無数の小さな艦影は、自分達がいる港に近づくに連れてその姿が大きくなっていく。特に、先頭を航行している艦は、自分がこれまで見て来た戦闘艦のどれよりも巨大だった。


 アクリシア王国の面々は知る由も無いが、先頭を航行して港に近づいているのは、蒼龍国海軍第一統合打撃群旗艦「大和」だった。


 祐樹に召喚された旧日本海軍の建造、計画段階(八八艦隊や超大和型等)だった戦艦や空母、重巡、軽巡、駆逐艦は大規模な改装が行われており、例に洩れず「大和」も改装が行われていた。


 主な改装された点は、主砲を45口径46センチ三連装砲三基から45口径51センチ連装砲三基へ、副砲を廃止し、VLSを設置、SPY-1レーダーやその他電子機器の設置、高角砲と機銃を127ミリ単装速射砲と高性能20ミリ機関砲に換装、機関を原子力機関に換装等である。


 そんな改造のされた「大和」に率いられるアクリシア王国派遣艦隊として選ばれた第一統合打撃群は、戦艦「大和」を旗艦に姉妹艦の「武蔵」幻の四番、五番艦である「紀伊」「尾張」の戦艦四隻に、航空母艦「信濃」「大鳳」「赤城」「加賀」、武装やイージスシステムを搭載する等の改造を受けた高雄型重巡洋艦「高雄」「愛宕」「鳥海」「摩耶」、大淀型軽巡洋艦「大淀」「仁淀」、秋月型駆逐艦「秋月」「照月」「涼月」「初月」、イージス護衛艦「こんごう」「ちょうかい」「あたご」「あしがら」、補給艦「ましゅう」「おうみ」を合わせた二十五隻で編成され、今回はこれに五隻の輸送艦が組み込まれていた。


「あ、あんな大きさの船がこの世にあるなんて……」


 ヒルデガードが驚きの表情を浮かべたままそう呟き、港に押し寄せていた群衆や戦列艦の甲板で待機していた水兵達も見た事も無い巨艦の姿に慌てていた。


 この世界の外洋航行出来る船の全長はせいぜい三十メートルから四十メートルであり、ダディスが自信満々の顔で祐樹に見せ付けていた一等戦列艦「クロンメル」も四十五メートルしかない。それに対して、旗艦「大和」を筆頭とする大和型戦艦は三百二十メートルと四倍以上の大きさで、排水量に至っては五倍以上の違いがある。まして、全てが鉄で出来ている船と言うのがこの世界では規格外である。


 順調に港に入港した第一統合打撃群の艦艇は錨を降ろし、その堂々とした艦影を港に押し寄せている群衆に見せ付けている一方で、五隻の輸送艦は岸壁に接舷させると、側面のランプドアを降ろし、フォークリフトを使って積んでいた物資を降ろし始めた。


「ヒルデガード陛下、今、荷揚げされている物は、アクリシア王国に対する手土産になります。細かい説明は省かせてもらいますが、小麦八百トン、砂糖五十トン、塩五十トン、各香辛料が二十トンになります。どうぞ、貴国の民達の為にお役立て下さい」

「そ、そんなに……」


 輸送艦からフォークリフトによって荷揚げされていく小麦や塩、この世界では貴重な砂糖や各香辛料の山を目にしたヒルデガードや貴族達は出来たばかりの新興国と侮っていた国と自分達の国との間に隔絶した国力の差がある事に気付かされた。


「さて、そろそろ昼食の時間ですね。ヒルデガード陛下、昼食はあの艦の中で如何ですか?」

「船で食事ですか……?」

「えぇ、『大和』の食事は蒼龍国海軍の艦艇の中でも一番を誇りますから」

「……そうですね。船での食事は滅多に出来ない経験ですし――」

「ちょっと待って頂きたい!」


 そう言って祐樹の誘いを受けようと口を開いたヒルデガードに対して、ヒルデガードの隣で祐樹の言葉を聞いていたダディスがヒルデガードの言葉を遮った。


「陛下、船での食事は高貴な身分の我々には似合いませぬ。ましては、未だ同盟も締結していない国の戦闘艦で摂るとは言語道断です」

「ダディス宰相、総帥の前で口を慎みなさい。船での食事とは、中々出来る体験ではありません。キリカゼ総帥、昼食のお誘いお受けします」

「分かりました。迎えがもう少しで来ると思うので、暫くお待ち下さい」


 祐樹がそう言って暫くすると、停泊している「大和」から出発した長官艇が港の木で造られた桟橋に接舷した。


「総帥、お迎えに参りました」

「ご苦労。さぁ陛下、行くとしましょう」


 祐樹の言葉にヒルデガードは頷くと、不満そうな表情のままのダディス達宰相派貴族を連れて祐樹と共に長官艇に乗り込み、停泊している「大和」へと向かった。


ご意見・ご感想お待ちしています。


次回の更新は3月3日になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ