2 思慕
良桜はソファで目を覚ました。
赤佳には、服を提供する代わりに一晩泊まるように請われ、二階にあるずいぶんと立派な部屋に案内されたが、良桜は服だけ着替えると、最初に通された客間に降りてきた。
ハイネックの白いシャツに、同じ素材のスカートはタイトロングで、右側にスリットが入っている。その上からオーバースカートをベルトで締めていた。
服はありがたく頂戴したが、部屋をあてがわれる理由はない。話があるのならここで聞くと良桜は言ったのだが、赤佳はただ微笑むだけだった。
「良かった。その服、とてもお似合いです。貴女がここで良いとおっしゃるなら、無理強いはしません。僕もここにいます」
そして良桜の向かいのソファに座り、それきり口を開かなかった。
ただじっと黙って見つめられているだけというのも気になったが、良桜はあえて自分から何か言おうとは思わなかった。頬杖をついて視線をそらし、あまりにも無為に時間が過ぎていくので、そのまま目を閉じて、座ったまま眠ってしまった。
目を覚ました良桜が見たものは、昨晩と同じくただじっとこちらを見つめている赤佳だった。
赤佳が何か行動を起こしていれば、良桜はすぐに気づいたはずであるから、赤佳もまた一晩中じっと座っていただけなのだろう。
視線が合うと、赤佳は身を起こした。
「朝ですね。食事を用意します」
眠った様子は見られなかったが、平然とした動作で席を立った。
パンと紅茶と果物、という簡素な食事が運ばれる。
良桜は遠慮なくそれらを口に運び、食べ終わってやっと口を開いた。
「さて、そろそろ用事を聞かせてもらおうか」
ソファに背を預ける。
「急いでおられるのですか?」
新しく紅茶を注ぎながら、赤佳は尋ねた。
「急いではいない。しかし冬が来る前に北部は抜けるつもりだ」
新しく注がれた紅茶には手をつけず、良桜は答える。
「急いでおられないのなら、この村で冬を越されてはどうですか?」
その方が旅は楽だ。
「貴女のお仲間も、この城に滞在していただいて構いませんし」
「退屈だ」
しかしそれが本当の理由ではないだろうと、赤佳は思った。良桜の視線は強すぎる。嘘やごまかしを受け付けない目だ。
赤佳はため息をついた。
「わかりました。仕方ありませんね。それでは一つお願いです。
……僕を、殺してください」
宿泊させてもらった家から出ても、することはない。
とうとう食堂で撃沈した和泉を抱えて、宮麗は部屋に戻った。
窓辺でぼんやりしている宮良を見やってから、雷奈は台所で洗い物をしている主人を窺う。
雷奈は少しだけ、近寄った。
「あの。さしつかえない範囲でいいので、あのお城のこと、何か教えてくれませんか?」
主人は振り向いたが、視線は合わさなかった。
「すまない、嬢ちゃん。言えることはほとんどないんだよ」
「でも良桜さまが」
ゆるむ涙腺に、歯をくいしばる。
「あのお城に行ったきり、帰ってきません」
「まだ一晩のことじゃないか」
主人はやっと雷奈を見た。そして顔をほころばせる。
「大切な人なのかい?」
雷奈はこくりとうなずいた。
「二百年近く昔の話だから、私も詳しいことはあまり知らないのだよ」
主人はエプロンで手を拭きながら、台所から出てきた。
「さしさわりのない話、ね。吸血鬼族についての話でも、退屈しないかな?」
「……はい!」
いたずらっぽく笑う主人に、雷奈は大きく首を振った。
「吸血鬼族は不老長寿と言われている。王家に並ぶとまでね」
いつの間にか部屋から降りてきた宮麗が、適当な椅子に座る。宮良も主人に顔を向けていた。
「間違いではないけれど、私たちだって年はとる。ご老人、と呼ばれる人たちもいるのだよ」
ただ年をとると、めったに外に出てこないというだけのことだ。寿命は長い。おそらく王家に並ぶか、もしくはそれ以上に。
「種族の掟というものは、どの種族にもあるのだろう。それは大概、他種族には明かせないことだ。我々にも、もちろんある」
それは雷奈も承知していた。だから昨日、あえて夫人につっこんで尋ねようとは思わなかったのだ。
種族の掟は種族の秘密に通じている。だから、他種族にはやたらと教えることはできない。
「我々の掟を破った者は、あの城に閉じ込められる決まりだ。ただ一つわかっておいてほしいのは、あの城にいるのは我らにとっての罪人であって、他種族の方からどう見えるかはわからないということだ」
どんな罪を犯したのか。それを言うことはできない。しかし良桜にとって危険ではないと判断されたから、城に行ってもらったのだ。
もし種族を越えて危険な人物ならば、それが本人の望みだからと、かなえられることはないだろう。
「あの城に入る罪人については、長老たちが詮議する。赤佳についてももちろんそうしただろう。その結果、彼の望みは聞いてやれと言われたんだよ」
赤佳の望み。それは、もし良桜がこの村を訪れることがあったら、城に呼んでほしいという、言ってみればただそれだけのこと。
吸血鬼族にとっては、第一級の罪人。しかし雷奈たちにとっては。
「ただ、良桜さまに会いたいと願っていたひと、というだけのことなんですのね……」
心配が消えたわけではない。危害を加えないという保証はないのだ。
しかしいみじくも宮麗が言った通り、良桜に危害を加えるのはなまなかなことではない。ただ……、良桜の方には、あえてその害意を受けるのではないかという心配はつきまとう。
それでも……。
雷奈はその赤佳という人物に、害意があるとは思えなかった。
それはまったくの勘でしかなかったのだけれど。
「吸血鬼族にとって、血液は嗜好品です」
赤佳は立ち上がり、窓辺に寄る。
「当然、動物の血です。けれど僕は、同族の血を飲んだ」
殺してくれと言われた時も、今の告白にも、良桜は特に反応を返さなかった。
ただじっと、ソファに座っている。
「同族の血を飲むことは、大きな禁忌です。この罪を犯した者は、この城に閉じ込められる」
窓の外に目をやり、赤佳もまた静かに話していた。
「なぜなら……、同族の血を飲んだ者は、不老不死になるからです」
良桜は初めて、その背に視線を向けた。
良桜には、大まかな筋が見えてしまったのだ。
目を閉じ、静かに息を吐く。
「不死の者を、どうやって殺せというのだ」
「頭か心臓をつぶすとか、首を切るとか、どうあっても生きることが無理な状態にしてもらえればいいんです」
そこでふと、赤佳は良桜を振り返った。
「ああ、すみません。そうすると、せっかくプレゼントした服が、僕の血で汚れてしまいますね……。でも貴女なら、大丈夫でしょう?」
伏せていた瞳を上げて尋ねる。それは、ただの勘というにはあまりに確信に満ちた瞳だった。
返り血を浴びずに赤佳を殺すことは、おそらく可能だ。しかし気は進まない。
「僕の話を、聞いてもらえますか?」
その笑顔は、まるで泣き顔のようだった。
それが一目惚れだったとは思わない。
それが恋かどうかすら、いまだにわからないのだから。
ただその圧倒的な光に焦がれた。
初めに見た時、赤佳には、光が人の形をとっているように思われたのだ。
自分たちの金髪よりなお濃い、輝く黄金の髪。
大理石のように白い、きらめく肌。ただ唇だけは、血が通って赤く。
そして北部ではめったに見られないような空の色、サファイアンブルーの瞳。
そのどれもが強い輝きを放ち、完璧な貌を造っていた。
幼い赤佳にはそれを仰ぎ見ることしかできず……、税の徴収係は二人と聞いていたのに、その人物しか見えていなかった。
それなのに、その人物が隣に視線を移した途端、まるで雲が晴れたかのように、赤佳にもその隣の男性が見えたのである。
彼女と同じ髪、同じ肌、同じ瞳。
彼女が光なら、その男性は春の日だまりだった。
その男性が、足下の赤佳に気づいて腰を落とす。
「僕は綺羅。君は?」
落ち着いた、優しい声。それでも赤佳は緊張していた。
「しゃっか」
なんとか、その一言をしぼり出す。
「赤佳。お手伝いかい? 偉いね」
自分のつたない名乗りを正確に理解して、綺羅と名乗った男は赤佳の頭をなでた。
「きれいなひとですね」
「うん。良桜だよ」
彼女を見上げて、男はとても嬉しそうに、その名を教えてくれた。
「ごきょうだいなのですか?」
「違うよ。許婚なんだ」
「いいなづけ?」
「将来結婚することを誓ったひとだよ」
「うらやましいです」
「ありがとう」
にこにこと笑うその人が、本当にうらやましかった。だからそれは、本当に純粋な疑問だったのだ。
「僕には最初、あなたが見えていませんでした。でもあのひとが……、良桜、さんがあなたを見たとたん、僕にもあなたが見えるようになったんです」
今思えば、それはとても失礼な台詞だっただろう。あるいは理解しにくい、感覚的な話だったかもしれない。
しかしその男は、本当にうれしそうに微笑んだ。
「すごいね、君は。確かに僕は良桜のための存在だから、良桜に見てもらって初めて形を作ることができるんだよ。君にはわかるんだね」
多少、簡単な言い回しは使っている。けれども、相手が子どもだと侮らないで、真剣に受け答えてくれた。対等に扱ってくれている。それは何よりも赤佳を幸福な気持ちにさせた。
「じゃあ綺羅さんは、良桜さんのいないところでは形がなくなるの?」
「周りからはそう見えるかもしれないけれど、僕自身はいつも良桜を感じているから、僕が、自分の形をなくすことはないんだよ」
「でも僕、最初は良桜さんのこと光だと思った。光って、形のないものでしょう?」
「確かに良桜は光だけれど、光にも形はあるんだよ」
「綺羅」
「ああ、ごめん。ごめん、赤佳。僕も自分の仕事をしないと」
にっこりと微笑み、赤佳の頭をなでて立ち上がった。
「綺羅」と良桜が呼んだ。良桜の声を聞いたのは、それだけ。
けれどあんなふうに自分の名前を呼んでもらいたいと、赤佳は強く願った。
それからしばらくして、聖悪魔族が滅亡したという話を聞いた。
様子を見に行った大人たちが、難しい顔をして話し合っていた。
麗宮王に滅ぼされたのだと聞いたのは、それからかなり時間が経ってから。
そして『予言』を聞いたのは、村の大人たちがすでに聖悪魔族のことを忘れ始めていた頃だった。
赤佳はずっと、忘れなかった。
聖悪魔族とは皆、あんなふうにきらきらしいのだろうかと思っていた。
あんなに美しいものを、なぜ王は滅ぼしてしまったのだろうかと。
そして気づいてしまったのだ。
もう二度と、良桜には会えない。
良桜は生きている。いつか麗宮王を倒すのだろう。でもそれはいつの話だというのか。
良桜が生きているということも、いつか麗宮王を倒すのだろうということも、赤佳は少しの疑いも持っていなかった。だが自分が麗宮王よりも長生きできる保証など、どこにもないのだ。
大きくなったら、自分もまた税の徴収係になって、いつか聖悪魔族の村に行こうと思っていた。
その時にはもうあの二人は結婚していて、子供も産まれているかもしれない。
二人の子供と仲良くなれたらいいな、と夢見ていたのに。
今では、会うより先に、自分が果ててしまう可能性の方が高かった。
それでなくても麗宮王の圧政はすさまじく、いつ、どんな理由で、今度は吸血鬼族が滅ぼされるかもわからないというのに。
赤佳にはただ一人、友人がいた。彼だけが、赤佳の恐怖を理解してくれた。
だから――、彼が教えてくれたのだ。
同族の血を飲むと、不老不死になるのだと。
同族の血を飲むことは最大の禁忌であるということは、吸血鬼族の者なら誰でも知っている。
しかし、その理由は知らされていなかった。
それはそうである。いつ、どこで誰が、欲にかられて無茶をするか知れたものではない。
血を飲む一族であるが故に、その禁忌はごく普通に根付いた。血も、肉と同じもののように見なしていたのだ。人が人の肉を食らうことに禁忌を感じるのと同じように、吸血鬼族は人の血を飲むことを忌み嫌った。
しかしそれだけでは、怪我をした同族の血に、誤って口をつけてしまう者も出るかもしれない。
それ故に、「掟」というさらに厳しい縛りを課したのだった。
それでも歴史をひもとき、調べれば、その禁忌の理由を知ることはできる。友人は、赤佳にあきらめさせるために、そのことを教えたのだ。
当時、赤佳に心寄せる娘がいることを、友人は知っていた。一途に赤佳を想う彼女には、赤佳に身を投げ出す危険性があった。
それを止めたかったのだ。
だが彼にも誤算はあった。赤佳の目には、自分を慕う娘の存在など、はなから映ってはいなかった。
赤佳にあったのは、良桜に対する深い想いと、目の前の友人。
赤佳は友人の頸に噛みついた。
「な……ぜ……。誰もが恐れる真実だと……。
……そうか……、事実は、真実よりも残酷なのだな……」
それが最期の言葉だった。彼は笑っていた。
赤佳の心には、どんな感情も湧いてこなかった。ただ無心に友人の血を啜った。
現場を見つけた彼女の悲鳴で村人が集まり、赤佳は捕らえられた。
すべては秘密裏に行われた。
赤佳の胸に槍が突きたてられる。しかしその傷は瞬く間に癒え、赤佳が不死になったことを証明した。
赤佳は城に閉じ込められた。
取り調べの際、赤佳は一言だけもらした。
「良桜に会いたかったんだ……」
良桜は赤佳の前に立つと、その紅い瞳を見上げた。
そして目を伏せ、さらに近づき、淡く光る右手を赤佳の胸に当てる。
「貴女に、会いたかったんです……」
目を閉じて、赤佳は微笑む。
「ごめんなさい……」
優しいひとだと知っていた。だから良桜は自分を殺す。
良桜はその右手を赤佳の胸に刺し入れ、そして心臓を握りつぶした。
赤佳は己の血で良桜が汚れることを憂いていたが、良桜には血を浴びずに赤佳を殺すことなど、できなかった。
自分だけ、綺麗なままではいられない。
ただその意は汲んで、返り血は浴びないように、素早く赤佳の正面から背後に回る。
そして赤佳をソファに横たえると跪き、黙祷した。
安らかな死に顔だった。
良桜はそれから雷奈たちが宿泊している家には帰らず、長老宅を訪ねた。
右手を血に染めた女を見て、長老はすべてを悟ったようだった。
「あなたには、辛い役目を押しつけてしまったようだ」
しわ深い手で良桜の右手を押し頂く。
「この血の罪は、我らが背負うべきもの。どうかあなたは、その手と服を浄めてください。湯を用意させますので」
家人を呼んで言い含めると、長老は城へと向かった。
そして――、弔意の鐘が鳴った。
村に鐘の音が鳴り響く。
雷奈と話していた主人は立ち上がり、夫人は奥から出てきた。
「誰か亡くなったようだ」
主人の言葉に、雷奈は顔を曇らせる。
「お客さんを放って行くのは心苦しいのだけれど、少しの間、抜けてもいいかね?」
「あ、はい。もちろんです。あたしたちなら平気です」
雷奈がうなずくと、主人は夫人と連れだって、外へと出て行った。
鐘が鳴る。
和泉は自分がベッドに寝ていることに気づき、飛び起きた。
「あっ! すみません、ボク、眠ってしまって……」
隣のベッドに座っている宮麗を認め、慌てる和泉を、宮麗は手を上げて制する。
「気にするな。おまえはもう少しずぶとくなった方がいいんだよ」
「すみません……。あの、この音は?」
「誰か亡くなったらしい」
「良桜さんは?」
「まだ戻っていない」
うつむく和泉に、宮麗は笑いかける。
「下に降りるか?」
「はい」
和泉はベッドを降り、立ち上がった宮麗の後に続いた。
夫婦はすぐに帰ってきた。
「あの、どなたが亡くなったのですか?」
「赤佳だよ」
雷奈の問いに、主人が疲れた声で答える。
「良桜さまは?」
「今は長老の家にいるよ。すぐに戻ってくるはずさ」
奥に入ってしまった主人を見送って、夫人がやはり疲れた笑顔で答える。
「あ」
ずっと窓際に座っていた宮良が声を上げ、腰を浮かせた。
良桜が戻ってきたのだ。
「良桜さま……!」
「大丈夫だ」
雷奈が駆け寄ると、良桜が片手を上げる。
確かに、服以外に特に変わったところは見受けられない。
「明日には村を出ていく。服と宿を、ありがとう」
良桜の言葉に、驚く気配があちこちに漂う。
「遠慮なんていらないんだよ? なんならここで冬を越してもいい」
夫人が声を上げると、雷奈もまた遠慮がちに口をはさんだ。
「あの……、お葬式、は……?」
「赤佳は罪人だからね……。村での葬式は許されない。身内もいないし、立ち会うのは長老だけだろうね。でもそんなことは関係ないじゃないか! あたしらは客人を歓迎するし、ここで冬を越すくらい、何の負担にもならないんだから」
声を励まして、夫人はなおも滞在を勧める。
「それならば少しお言葉に甘えて、食料をいただけるだろうか?」
「食料なら、いくらでも……」
良桜のどこまでも平淡な声と、無表情な態度に、夫人はこれ以上は何を言っても無駄なことを悟り、力なくうなずいた。
「ありがとう。それではあと一晩だけ、ご厄介になる」
軽く頭を下げ、良桜は二階へと向かった。
「あ! 良桜さま! 部屋に案内します!」
その後を、雷奈が追いかけた。
部屋には、良桜と雷奈の二人きり。
しかし良桜にかける言葉は見つからず、雷奈は、立ちつくしている良桜の背を見ていることしかできない。
それでも何か言わねばと、思いきって口を開いた。
「あ、の。良桜さま、心配しました。でもなんともなくて良かったですわ! その服もとてもお似合いです。あの、お城で何があったのかは存じませんけれど、良桜さまは絶対に悪くありませんわ! 明日には村を出るのだって、もともとこの村には冬服をもらいに寄っただけですもの。予定通りですわよね! 良桜さまが気に病まれることなんて、きっとないですよ! だって、良桜さまには関係のないこと…」
「確かに赤佳のことはまるで知らなかった」
止まらない雷奈の言葉を、静かに遮る。
「けれど知らなければ関係ないなんて、そんなことはない」
良桜の声は、あくまで静かだったけれど。
「ごめんなさい」
雷奈は一歩引いた。
良桜を一人にしておいた方がいいのだろうか? 本当は、良桜は泣きたいのではないだろうか?
「何故泣く」
振り返った良桜に問いかけられ、雷奈は初めて自分の涙に気づいた。
なぜかなんてわからない。でも理由はきっと。
「あたしは、良桜さまの代わりに泣くんです」
言葉にすると、涙が止まらなくなった。良桜は雷奈の前に立つ。
「良桜さまぁ……」
つぶやくと、そっと髪をなでられ、雷奈は良桜の胸で泣いた。