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第1話 ‐導入‐ 蜘蛛の巣

 この作品をご覧になっていただき、誠にありがとうございます。

 この作品には、過激な性描写、血液や内臓といったもののグロテスクな描写、虐待や苛めなど暴力シーンなどの描写がある可能性があります。また、メインヒロインであっても酷い目にあう可能性がありますので、その類が苦手な方もご注意ください。


 また、この小説は『狂気』といういわゆる厨二要素を中心にした小説です。なんのメッセージ性もありません。書きたいキャラに書きたいセリフを言わせただけの内容です。リアルな犯罪、グロの描写に関しても、その期待には応えることはできないかもしれません。


 これら二つを留意して、読み進めてください。


 長々と失礼しました。


 蜘蛛の巣に、蝶がかかっていた。


 蝶は自由の効かない身体でもがくが、もがけばもがくほど糸は絡まり、身体はさらに自由を奪われていく。

 蜘蛛は、その蝶に迫っていく。

 いずれ蝶は蜘蛛の毒牙にかかり、当然の帰結として捕食されるだろう。

 俺は、それをただ見ているだけ。

 当たり前だ。俺には蝶に恩があるわけでもなく、蜘蛛に恨みがあるわけでもない。

 かわいそうだと思うような感慨も、俺にはもうない。そもそも、虫如きに憐れみを抱く必要を感じない。

 あの人なら、人間でも同じことを言いそうだが。


 ここには、俺一人しかいない。

 住宅街の外れにある公園。夏休みのはずなのに、人は誰一人としていない。俺以外は、子どもはもちろん、人気のない公園でキャッキャしようという爆発するべき人種もいない。

 静寂に包まれた公園というのも悪くない。

 家に帰ってもすることなどないし、バイト先に行っても上司の面倒事に巻き込まれるだけだ。長期休暇にわざわざ会って遊ぶような友人もいない。

 ならどうしようかと思い至ったのが、散歩。その終点がこの公園だった。

 ここには何度か来たことがある。その時は、俺も爆発するべき人種だったのだろうが、今では相手のことを思い出しただけで、冗談抜きで吐き気がする。あんな光景はもう二度と見たくない。あの後二週間近く肉が食べられなくなったのだ。今でもフラッシュバックすることが多々ある。一ヶ月程度では記憶は薄れない。

 とにかく、今はそいつもいないし面倒事をインフルエンザウィルスの如く撒き散らかすあの人もいない。最近ではこんな安寧の時間を過ごすこともなかった。一人がこんなにも落ち着くものなのかと、改めて知る。

 基本的には、孤独だというのに。

 ここ数カ月は、一人で過ごす時間もなかった。

 わざわざ校外で会って遊ぼうというような友人はいないし、恋人もわずか一ヶ月で失った。

 家族とは離れて暮らしている。高校に入ってからだから、もう一年半近くは会っていない。母親(と呼びたくもないが)が実家にいる限りは、帰りたくなることはないだろう。妹のことが心配ではあるが、それ以上にあの人には会いたくないという気持ちの方が大きい。

 そういうわけで、俺は一人だ。

 いや、一人だった、と言い換えるべきかもしれない。

 今や、人の心に泥まみれの土足で躊躇なく入り込んでくるような奴に、目を付けられてしまった。もう、孤独を満喫することも、孤高を気取ることも、できやしない。

 独りが好きというわけではなく、頼んでもいないのに面倒事に巻き込んでくるあの人の相手をするのに疲れてきたというだけだ。

 好きでもない人間と強制的に同じ時間を共有させられるあの苦痛と疲労感。高校生にもなれば誰もが味わったことがあるはずだ。味わったことのない人は今までの自分の幸運に感謝するといい。


 蜘蛛の巣を見て、俺は一つの話を思い出した。

 それは、こういった話だ。

 カンダタという地獄に落ちた一人の極悪人がいたのだが、そいつは生前、蜘蛛を助けるという善行を行っていた。それを知っていたお釈迦様は、その男に助けるチャンスを与えるため、極楽から蜘蛛の糸を一本、地獄へ垂らした。当然カンダタはそれを伝って登ろうとする。だが、自分の下に他の罪人も蜘蛛の糸を登ってきていることを見ると、すぐに降りろと叫んだ。すると、蜘蛛の糸は切れ、他の罪人もろともカンダタも地獄に再び落ちてしまった。という話である。

 ここまで聞けば誰の何という作品か、わかる者も多いだろう。答えは言わないけど。

 小学校の道徳で学んだりしたのなら、自分勝手な考えはやめましょうとか、自業自得は怖いものなのですとか、もっともらしいことを言われておしまいだろうが、俺は少し捻くれた解釈をしてみる。

 別に、蜘蛛の糸に人がぶら下がって無事なわけがないだろうとか、蜘蛛を助けた(といっても実際の話の中では殺そうと思ったが寸でのところで思い止まっただけ)くらいで殺人を犯すような罪人が極楽に行けるのかとか、そんな幼稚な揚げ足を取るようなことをしようというわけではない。

 ただ単純に、罪人は所詮、罪人なのだ、という風に解釈をした。一度罪を犯すと、それは一生自分に付きまとう。

 俺に当てはめれば、一度狂ってしまうと、もう後戻りはできない、ということだ。狂気は、死ぬまで自分を蝕み続ける。

 結局、人は変わってしまうと元には戻れない。元に戻りたいのなら、もう一度自分の思う元の自分に変わらなければならない。だが、完全には戻れないから、無理に戻ろうとすると、人はどんどんねじ曲がっていく。

 そうして人は、狂気を育て、狂気に絡め取られていく。

 それに、他人が干渉するなど以ての外。

 俺は一か月前、それを、身を以て経験した。




………………………………


………………………


………………


 携帯が鳴る。ディスプレイに表示された名前を見て、溜息をつく。


「…………メンドくさ」


 なんで飯を食う時間すらくれないのかね、あの人は。蜘蛛ですら、飯にありつけているというのに。

 蜘蛛の巣の前でボーっとしていた自分のことは棚上げにして、俺は心の中でそう毒づいた。

 最後に、蜘蛛の字の虫偏を取ると懐かしくも思い出したくない名前になるな、などと無意味に考えて、最悪の気分でその公園をあとにした。




◇◇◇◇・◇◇◇◇




「おはよう。そしてこんにちは。とても清々しく晴れた、クソッタレな天気だね、今日は」


 俺がその店に入ると、カウンターで何やら分厚い本を読んでいた女性が、いつも通りの挨拶を向けてきた。俺もそれに、いつも通りに返す。


「こんにちは。なんなんですか、いきなり」


 こっちは腹へって倒れそうなんですけど。そんな愚痴を込めて女性を睨みつけると、そいつは読んでいた本を投げ捨て、カラカラと笑った。床に落ちた本が、ドスン、と重厚な音を立てる。なんでわざわざ投げたんだろう。


「いやいや、別にこれといって君じゃなきゃいけないような用事はないんだけどね」


 じゃあ帰りますよ。

 なんて言っても帰してくれないことはわかっているので、思わず言いそうになったセリフを飲み込み、別のセリフを探した。


「じゃ、なんで呼んだんですか」


「んー?退屈だったから?」


 俺の質問になぜか疑問形で返した彼女は、再び笑い始めた。この人、こんなに笑う人だったっけか?っていうか殴っていいですか?

 だが俺は、思い至る。


 ……あぁ、もしかして。

 …………また、ですか。


 と。

 悪い予感ほど当たりやすい、などという迷惑千万な法則に今回こそサボってくれと願いつつ、俺は訊きたくないが訊かねばならないことを、意を決して訊いた。


「何か、あったんですか?」


「何か?……うん、何か、ね。あったよ、何かが。何かが、ね。そう、起こった、と言い換えてもいい。いや、言い換えるべきだ。起こったのさ、何かが、ね」


 また始まったよ。なんだよ、この人。メンドくさいにもほどがある。まだ一ヶ月しか働いてないけど、もう辞めたいね。

 しかし、そんなことをこの人が許してくれるはずもなく、俺自身、自分のことについて未だに困惑している状況なので、辞めたくても辞められない。少なくとも今は、この人がいないと、俺は狂う。……いや、もう狂っているらしいが。


「と、いうわけだよ、瑠樹くん。早速向かうとしよう」


「…………了解しました」


 今の俺には、事情を一切話してもらえなくても、この人についていくという選択肢しか、ない。

 だから、俺はせめて、と思い、こんなことを進言してみた。


「……その前に、腹ごしらえ、行きません?」


 真夏なのに漆黒のコートを羽織る彼女は、無邪気で、意地悪な笑顔を浮かべていた。

 俺はその瞬間、今日の昼食を諦めた。




◇◇◇◇・◇◇◇◇




 俺の名前は、一之瀬瑠樹いちのせるきだ。いたって普通のただの一般的な何の変哲もないそこら辺にいるような特徴と言える特徴のないごく平凡な狂ってしまった高校生だ。そして、今は学生のシンボルともいえる夏休みという最長の長期休暇を満喫しているところだ。

 いや、そのはずだった。

 この人さえ、いなければ。


「いやー、暑いねー。ほんと、暑いねー」


 さっきから録音されたかのごとく同じことばかり繰り返しているこの人は(んなコート着てりゃ暑いのは当然だ)、篠崎瀬奈しのざきせな。客観的な意見だけを言うと、かなりの美人だ。顔はもちろん、スタイルもいい。手足は欧米人並みに長く、身体と脚の比率も日本人離れしている。その身体の上に乗っかる頭は非常にちっこい。余裕で八頭身はある。顔だって、目は猫のようにアーモンド形に近くて大きいし、鼻は高くはないものの形がよくて逆に可愛らしい。その、どちらかと言えば幼く見える顔に浮かぶ表情が大人っぽく、妖艶だったりアンニュイだったりするから、大人の部分と子どもの部分をバランスよく兼ね備えていて、男の俺から言わせてみれば完璧な美人である。

 性格さえ、良ければ。

 性格さえ、なんとかなれば。

 ふざけんなと言いたくなるくらいに性格が適当なのだ。

 俺がさっき向かった店だって、本当はこの人の経営する古本屋なのに、商品である本を読みあさり、読んだらその辺にポイッと投げ捨てる。読むだけなら別に構わんが、それを投げ捨て、しかもいつになっても片付けないとは、一体どういう神経をしているのか。俺にはちと理解できん。

 しかも、そのくせに、自分の好きな分野の面倒事には嬉々として首を突っ込む。で、自分自身が面倒事になって、他人を巻き込んでいく。最近の巻き込まれる他人は、ほとんど俺だ。それ以前は、知らない、知りたくもない。

 だから、夏休みを満喫する暇など、到底ありえない。

 俺だって健全な男子高校生だ。夏休みにしたい遊びならいくらでもある。ちいとばかしの火遊びぐらいなら体験してみたいとも思う。一回やって、大火傷を喰らったけども。

 だが、俺はこの人のせいでこの街を離れられない。しかも、さっきから同じ高校の生徒を何人か目にしている。こんな見た目美人な人と一緒に歩いているのを見られれば、決して甘い関係になかったとしても、それを伝える手段がないのだから誤解はされる。誰も、遊びに誘ってくれたりはしない。つまり、孤独。…………この人を火遊びの相手にする?おいおい、大火傷通り越して火だるまになるどころじゃ済まないぞ、それは。

……………………

 あぁ、この空が憎々しい。降り注ぐ太陽光が腹立たしい。八つ当たりしてみても空しいだけである。


「あー、ほんと、あの冬の慎ましさはどこにいったのかねぇ。こんなに張りきらなくてもいいのにねぇ、太陽」


 妙なところでこの人とシンクロしてしまった。死にたい。


「でさ、瑠樹くんや」


「…………はい?」


 返事が遅れたのは、この人に対する罵詈雑言を50個並べてみようと挑戦していて、24個目を考えていたからだ。割とどうでもいいので、中断する。


「どう思う?今回の事件」


「さあ…………、どうでしょうね」


 事件とはまた、大袈裟な単語を使う。

 俺たちは今、あの店からいくらか離れた市街地に来ている。昼間だから、仕事中のサラリーマンやOL、夏休みを謳歌する学生が大勢行き来する。近くにはショッピングモールもあるし家電量販店もあり、レストランや喫茶店が点在する地域だから、人の往来は特に激しい。横に並んでいる人が、外見、服装含め、かなり注目されているが、俺は無視することにする。

 で、ここに来るまでに、俺はこの人に色々と聞かされたんだが、その内容というのが、非常に面倒、かつ非常にどうでもいい類だったので、ついさっきまで頭の中からすっぽり抜けていたのだ。

 曰く、何人かの人が、続けて同じ場所を負傷している。

 曰く、それらの人は、負傷する直前になんらかの接触を行っている。

 曰く、その負傷した場所というのは小指であり、全員、その小指の爪が丸々剥がされていた。

 纏めるとこんな感じだ。正直、だからなんだと言いたくなる。

 都市伝説にしては陳腐だし、事件だと言われても規模が小さすぎるだろう。何かのまじないでも流行っているのでは、と思ったほうが筋は通る。まあ、呪いにしては、爪を剥がすというのはやりすぎ感があるが。

 ともかく、この人が興味を持ってしまったのが運の尽きだとしか言いようがない。俺は観念して、この人についていくことになったのだ。これから関係者に話を聞きにいくらしい。なんでこんな人に依頼したのかがわからんし、それ以前になぜこの人のことを知っているのかも不思議だ。一応、古本屋として経営してはいるが、こういうことに関する調査をしているとはどこにも書いていないはずだ。

 まあ、それも会えばわかるかもしれない。今回はそれを訊くことはないが。


「お、ここだ、ここ」


 立ち止ったのは、ある一つの喫茶店。店名はフランス語のようなドイツ語のような……、とにかく俺には読めなかった。

 しかし、喫茶店なら軽食くらいならあるだろう。グッジョブ関係者、などと思いながら、店内に入る。

 が、


「……っ」


 入った瞬間、背筋に怖気が走った。

 クーラーが効きすぎているとか、そんなことではなく。

 これは精神に起因する寒気だ。まるで冬の外に長時間いた人の手で背中を撫でられているかのような、しかしそれでいて、皮膚の内側に何かが這っているような感覚があり、それは首の辺りに来た途端に消える。しかしまた、背中の中ほどから、その嫌な感覚は生まれて背中を這いあがってくる。

 寒くはない。むしろ、クーラーは環境に配慮してか、あまり効いていなかったが、心臓を毛虫が這いまわるような寒気と生理的な嫌悪感はどうやっても拭えなかった。

 と、


「早く入りな。店に失礼だろ?」


 瀬奈さんがそう言いながら俺の肩を叩いた瞬間、寒気は一気に消え去った。あれは錯覚だったのではないか、と思えるほどに、あっさり消えていった。

 思わず、あれは一体なんだったのか、と俺が考えている間に、瀬奈さんは奥の窓際の席に向かっていた。慌てて、俺も後を追う。

 追いついて見てみると、そこに座るのは、一人の少女。多分、中学生くらいだろうか、色素の薄めなショートヘアにヘアピンをつけ、着ているのは薄地のブラウスにプリーツスカート。俺の横に立つ黒コートより、比べるべくもなく夏らしい服装だった。

 その子は、俺たちが近づくと、瀬奈さんの姿に多少驚いた顔をしたものの、すぐに立ち上がって頭を下げた。


「あ、あの、お二人が、解決してくださるっていう……」


「ああ、そうだよ。よろしく。可愛いね」


「君が関係者の“紺野晶子こんのしょうこ”さんですか?」


「あ、はい。そうです」


 後に付け加えたどうでもいい感想にかぶせるようにして訊ねると、彼女は頷いて、もう一度会釈を繰り返した。礼儀正しいというよりは、気が弱いという印象を受けた。

 どうでもいいけど睨むのやめてもらえませんかね、瀬奈さん。


「座ったら?」


「あ、はい。では……」


 促してやっと座った彼女は、やはり、あまり社交的なほうではないようだ。本題に入る前に、瀬奈さんはいつも自己紹介の後にいくつか世間話をするのだが、その際も、彼女の口数はあまり多くなかった。

 そして、瀬奈さんが犬派と猫派の違いついて熱弁し、彼女の目を白黒させたところで、本題に入った。いつもながら、このよくわからない流れはどうなんだろうか。


「訊きたいことは、まず一つ。そこから色々派生していくだろうから、もっと訊くことになるけどね」


「……はい」


 頷いた晶子に、瀬奈さんも満足げに頷き返して、続けた。


「じゃ、一つ目。君はいつ、“そのこと”に気付いた?」


 “そのこと”、つまり、小指の爪がなくなっていることに、いつ気付いたのか、という質問。見れば、彼女の小指の指先には包帯が巻かれていた。どうやら、彼女自身が当事者らしい。見せろというのは酷だろうか。

 ともかく、晶子は、意外にもはっきりした口調で話してくれた。


「朝、です。起きてから、パジャ……寝間着から着替える時に、気付きました」


 別にパジャマって言ってくれてもいいんだけど。

 今更やってきた店員に、ホットケーキを注文する。晶子は紅茶を、瀬奈さんは店員を無視した。苦笑いする店員が少しかわいそうだった。


「なるほど。んじゃ、その日の前の夜、何か変わったことは?」


「特には…………」


「それじゃあ、その日の、つまり爪がなくなる前日の、起きてから寝るまでの行動を教えてくれるかな?なるべく時間も付けて。もちろん、可能な範囲でいいから」


 晶子の目が、俺に移る。察して、席をはずそうとするが、瀬奈さんが「ここにいろ」と俺の腕を引いた。いいのか。


「君にも聞いておいてもらわないといけないからね。安心しなよ。こいつはあたしのもんだ。何を言っても君には興味の片鱗すら見せないから」


 おいこら。事実を捻じ曲げた挙句、何気に両方に失礼なことを言いやがりますね、この人は。俺はあんたのもんじゃないし、この娘に好きって言われたら考えますよ?

 とは、状況が状況なので言えず。俺は頷いて、先を促した。


「プライバシーは守ります。得られた情報も仕事目的以外には使いません」


 晶子も納得したようには見えなかったが、一応話し始めてくれた。今日初対面の相手に自分の生活を教えるってのも不用心な気もするが。

 その可愛らしい口が控えめに開く。


「えっと……、その日は朝7時に起きて……」


「健康的だね。好きだよ、そういう娘」


 口を挟むな黙ってろ。


「はは…………、えっと、それで、朝ごはんを食べて、お姉ちゃんを起こしにいって―――」


「へえ、お姉さんもいるんだ。何歳?」


 いいから黙ってろ。


「16です」


 そして答えるな。


「ほほぉ……、あと2年か……」


 あんたの命がね。


「ま、それは置いておいて、続けてくれるかな?」


 それはあんたが…………、もういい。当分、地の文はないものと思ってくれ。疲れた。


「あ、はい。お姉ちゃんを起こしにいって……、あ、その時は多分8時ごろだったと思うんですけど。それで、起こして、お姉ちゃんの分の朝ごはんを作ってから出かけたんです」


「ふむ。出かけたのは、どこに、誰と、どうやって?答えられるものだけでいいよ」


「えっと、友達二人と、この辺りをぶらぶらしようかなって。もちろん、徒歩で、です」


「その友達と一緒にいたのはどのくらいの時間?」


「えー……っと。家に帰るまでだから、7時間くらいです。9時に待ち合わせして、4時過ぎくらいに帰りましたから」


「結構長いねぇ。……じゃ、その間、立ち寄ったお店、全部覚えてる?順番に言ってみて」


「お店、全部ですか……。あ、最初に入ったのは、喫茶店です。待ち合わせに使いましたから」


「ここじゃないよね?店名は?」


「B.A.K.ってお店なんですけど……」


「笠良木中央交差点の近くのあれだね。それで?」


「はい。それで、揃ってからお店を出て――――――」


 それからは取るに足らない中学生の休日といった感じの行き先が、つらつらと並べられていった。宣言通り、プライバシーを守るためにそれらは公表しません。約束は守るものである。

 俺が聞いた限りでは、特に重要そうな情報はそこにはなかった。

 友人と別れて家に帰ってからは、夕食まで姉とテレビを見て、夕食後、風呂に入ってから歯磨き、就寝、という流れだったらしい。


 ちょうど話が終わったころにホットケーキは来た。


 その後、いくらかダミーにも思える他愛もない質問をしてから、俺たちは晶子と別れた。


 その喫茶店を出る時は、瀬奈さんに肩を持たれたまま出たため、入る時の悪寒はなかった。本当に瀬奈さんが原因かはわからないが。





 第1話を読んでいただき、ありがとうございます。

 現在「Silent Lyric~疵だらけの魔術師~」の執筆中ではありますが、異なるジャンルのものも書いてみようということで、この作品を投稿した次第です。といっても、ギャグのほとんどない暗いアレは変わりませんが……


 ともかく、数ある作品の中から私のこの拙作を選び、読んでいただいたことに、最上の感謝を表したいと思います。並行して書いている作品もあわせてきちんと続けていく予定ですので、これからもよろしくお願いします。




 キャラクターや設定等の下地は、友人より指定を受けて書かせていただきました。作者独自の解釈も少々ありますが……

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