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失うものは何もない

作者: とんぼ
掲載日:2026/04/20

ふと思いついた話を勢いのままに書き殴りました。

書きながら「そんなことある?」とは思いましたが、思いついちまったのはしょうがない(諦め)

深く考えずに読んでいただければ幸いです。



デビュタント。

令嬢にとっては結婚相手を得るまたとない『着飾りポイント』であり、王族と言葉を交わせるまたとない機会。

故に、二言三言話そうという貴族たちから聞くのは『おべっか』であると国王と王妃は知っていた。


ただ、今回ばかりは違っただけだった。


エスコートなしに目の前に立つ少女だった女性は、端的に言えばみすぼらしい格好をしていた。

流行をとうにすぎたドレスであるだけでなく、色褪せほつれ、到底『婚約OK』の者がする格好ではなかったが、招待状を持っていたこととその立ち振る舞いから『王宮立ち入りの品格あり』と門番が押しきられたのであろう。

まあ、招待状をもっているなら良い余興であろう、と目配せしてほんのり笑った王と王妃は、次の瞬間凍りついた。


「鉄と、煙と、血と、命。それら全てに飾られた玉座はさぞ座り心地が良いでしょうね」


恭しく成人を祝う言葉を受けた少女だった女性が歴戦の戦士かのような声を突き出したのに、王と王妃だけでなく側近として侍っていた者全てを硬直させた。


王都は知らない、と少女は言う。

血が流れ、焼き尽くされた土地は向こう数十年の作物が毒になることを。

王宮は知らない、と成人したばかりの少女は言う。

国境で歴史を積んだ家が何に重きを置き、何を捨てるか。


「戦が何を生みます」

「未来の国を育てるはずの若者がみんな、徴兵で死にました」

「尊敬する父も、よく語り合わないまま戦死しました」

「感謝している母も、最後は正気を失い何を言っているやら」

「そんな折に、パーティーの招待状が届きました。あなた方は、私の両親の喪が明けていないのに私の成人を『祝え』とおっしゃる。実に、まあ、まあ、良いご趣味(・・・・・)で」

「侵略されたならまだしも、我欲を優先して国境に血の雨を降らすなど、馬鹿馬鹿しいにもほどがございましょう。誰も止めず、誰にも止められなかったので?」

「おやまあ、なんて、ふふっ、情けない。いえ違いますわね、ええと、そう、両陛下はなぜ青ざめたお顔をなさっているので?天下は全王国のものと豪語していたお口を開いて、今こそ『我が国に勝利あり』と叫んでくださいまし。最前線の国境領地である土地の、若すぎる領主である私に、面と向かって、どうぞ一声。おや声が小さくて広間に響き渡りませんね。ほらもっと!先祖から何を教わった!背筋を伸ばして腹から声を出せ!」


国は国境を諦めましたと言え!!


その発言に、王宮の大広間は静まり返った。


◾️


ここまで言えたのには理由がある。

『失うものは何もない』

一言一句、文字通りそのままであった。


父が戦死した


もっと丁寧に、武勇を語る着飾った言葉に彩られていた気もするが、領地屋敷に届いた軍からの一報は、つまるところそういう意味だった。

その一報によって、ただでさえ不安に思っていた全ての領民は落胆し、誰一人、そう、誰一人として、唯一残った嫡女を思いやる視線は投げなかった。


事実を並べればそんなものである、と思った


なんせこの領地屋敷に私が滞在していたのは3歳まで。

4歳からは王都にいる祖父母に預けられ『良い婿を迎えますよう』と期待されて教育三昧だったので両親に会ったのは片手で数えられる程度であったから、領地屋敷にいる人たちと会ったのは同じ回数なのだ。


同情しろ、と言う方が無理がある。


国境の小さな小さな領地、そこを収める伯爵家。

いくらその血筋が由緒正しく古くとも、土地が豊かでもなければ資源が眠っているわけでもない。

それでも私を育ててくれた領地で、いつか私が受け継ぐ地だ。

戦の真っ只中になっても飢え死にだけは絶対にさせないと決意して、たとえ両親と違って『王都からやってきたお嬢さん』と言われようとも、何かできないかと考えた。

……結局、開発も発展もできず、現状維持にするしかなかったのだけれど。


ギリギリなんとか領主の顔をできるだけの、そこそこ善良でそこそこ冷たい、ごくごく普通の領地に『戦争』の色が濃くなってきたのは3年と半年前。

11歳の私は貴族学校に通い始めたばかりで、14歳で卒業するまでに知識を蓄えようと意気込んでいた頃だった。

祖父母が相次いで亡くなったのが3年前。

『王都にいろ、帰ってくるな』と領地にいる両親から言われて2年と半年前。

国が正式に『隣国と交戦中』と発表したのが2年前。

『領地に帰る』と両親に手紙で伝えても、拒否する、の一言だったのも2年前。

私が王都の貴族学校を飛び級で卒業したものの、婚約していた格上の家から解消を求められて、なす術もなく解消となったのが1年半前。

王都屋敷に居場所はなく、馬車を使ってえっちらおっちら領地屋敷にたどり着いた時、真っ先に通されたのは病床の母の部屋で、これもまた1年半前。

同時に、父と、領地を守る数少ない騎士たちまでも国に徴兵されたと知らされた。

当然だった。私たちは貴族なんだから。

国と、民を、守る義務がある。

教えてくれても、と思っても私がやらなきゃいけないことは変わらなかった。

決意と共に祖父母と、父と、母と、すべての領民の代わりに王都へ、王宮へ、領地の帳簿と願いを届け始めたのが1年と数ヶ月前。


追いつかなかった。

やり方がわからなかった。

王都で習った全てとやり方が違った。

数字が合わなくなり赤字になって使用人を減らした。

次に文官を減らした。

ついには全ていなくなってしまった。

武官はもともと徴兵され、私しかいない屋敷に領主の役目ができるのは私だけ。

やらなきゃいけないことをやったつもりだった。

敵国から攻められようと我が領地はまだ落とされておらず、国境は変わることなく、王都で学んだ『永遠の国』は変わらなかったから。


国境の戦いは膠着状態で、近いけれど国にとって価値のない領地の現状を救う余裕はない。

領主代理としての嘆願は、祖父母からの『王を信じよ』の教えは、綺麗な言い訳で彩られた返書に打ち砕かれた。


ーーそれがつい、2週間前のことである。


父が戦死した。その知らせは1週間前。

よりにもよって屋敷の内側ではなく、門前で宣言されてしまったものだから『ポッと出のご令嬢より、大切にしてくださった領主のために』と耐えていた領民たちの全てが爆発した


◾️


手に握ったのは一枚の紙。

我が領地屋敷に、王宮で行われるパーティーの招待状。

名目は『デビュタントを終えていない令嬢の披露目』だが、実のところ、地方貴族の信を問う『召喚状』だと予想できた。


王都は、王宮は、見なかったのだろう


母が死んだことも父が戦死したと報告したことも、法に従って私のような小娘が伯爵家当主になったことも。

これ以上、王都へ許可を得る必要はないと思い、反乱のために屋敷の前へ武器と呼べない武器と共に集った領民へ告げたのだ。


「中にある家財、絵画、陶芸、衣服、食料から調味料まで」

【、?】

「全て持って、逃げなさい」


この国には見捨てられました


そう私が言った時、正直なところ領民の表情はわからなかった。


領主屋敷に思い入れはない。

家族の肖像画がぞんざいに踏み抜かれていくのにはちょっと眉を顰めたけれど、怒りの気持ちは私以上だろうと知っていたから。

むしろ、領主屋敷の中身がすっからかんになっていく前で静かに立ち尽くしているのに誰にも襲われていないのは幸運であろう。


どんどん消えていく屋敷の全てをぼんやりと眺めているが、私に見えていたのは、亡くなった祖父母の頭を下げる幻と、静かに頷く母の幻と、背中しか見せてくれない父の姿。

私は間違っていませんか、と子どものように願う。

私はお家の品位を保ちます。と大人ぶりたい子どもが手に握った招待状を見て決意する。


向かう先はただ一つ。

今代で1番光輝く、王宮大広間。


幻の祖父母も母も『もう良い』と言うけれど、幻の父の背中が語るのだ『一矢報いよ』と。

だから止まらない。止まれない。

王族からのデビュタントの祝いを受ける順番を待ち、武器を持たず、けれど圧には負けず。


言い切った。言い切ってやった。

よくも私たち家族を見殺しにしたな、と同じ言葉を。


途端、腹部を貫く冷たい感触があった。

王になんという!不敬罪だ!領民にはさらなる厳罰を!と叫び声は聞こえたが、領民なんていやしない。

あの焼け野原を知らないのだろうか。

焼け落ちた木の柱から漂う血の匂いを、骨と皮になっているのになぜか腹だけふくれている民の姿を、盗賊に落ちた他領の兵士を、国を裏切って情報を流した騎士を。

知らないんだろう。知ろうとしなかったんだろう。

父が最前線で奮闘し、国境を守り、兵たちからは『英雄』と呼ばれていたことも。

母が英雄の父を支える『賢者』であると言われていたことも。

だからこそ唯一の子どもである私は王都で暮らし、安全に、健やかに育ちますようにと願われていたことも。


「、ととさま、かかさま」


小さい小さい領地だった。

それでも全てそこにあった。

少なくとも私はそう思っている。

謝りたかった。領地を守れずすまないと。

誇りたかった。民たちだけは逞しく生きるだろうと。


あとは、あとは、………そうだ


「ご褒美、なで、て、」


ぼやけていく血溜まりの視界の中、背中を向けたままだった父が振り返り、母が私に寄り添い、抱きしめてくれた気がして。

罪のない民を巻き込んで申し訳ないと思うと同時に、今この瞬間、家族がようやく揃った気がして、この後地獄に落ちても悔いはなかった。


◾️


晴れの日であるデビュタントは、国境を領地に持つ娘が流した血のせいで大変な騒ぎになった。

剣が体を貫く様を見慣れていない女たちは叫び、血を見慣れていない男たちは吐き気を催し、混乱の空気に飲まれた子どもたちは泣き喚いた。

正面から堂々と『愚か者』と言われた国王は怒りに任せて目の前に倒れる娘の首を刎ねようとしたが、満足そうに、まるで子どものように無垢に笑って息絶えているのを見て振り上げた剣を下ろした。

玉座に続く赤い絨毯が、赤黒く染まっていく。

娘が言った通りに、血で彩られ、鉄の匂いのする玉座になっていく。


国は国境を諦めましたと言え!!


王としては、諦めていないつもりであった。

実際上がってきた戦の結果は『勝利』であり、大勢の兵士を失ったが、かねてより狙っていた土地を得たのだ。

これから国境に近い領地を気遣い、さらなる忠誠を得るはずであった。

だというのに、娘の忠誠は得られなかった。

堂々と、差し伸べた手をはたき落とされた。

なぜ、と王は考える。


ととさま、かかさま


幼子のようなか細い声が耳の奥に残っている。

父が死んだと言った。母が死んだと、この娘は言った。


ならば今は誰が当主だ?


その疑問に思い至った時、剣を握っていた手から力が抜け、カラン、と虚しい音が、大広間の叫び声にかき消された。


◾️


不忠(ふちゅう)の王


豊かな土地を巡った戦に勝利したという実績があっても、それが当代の王を冠する名前になった。

理由はデビュタントの場で貴族の娘が、いや、伯爵家当主を斬って捨てたから。

その伯爵家の先代が、先の戦の功労者だったから。

その伯爵家の領地は確かに重要視されていなかったが、国土は国土。

王都は、王は、どれだけ小さい領地だろうとも守ろうという姿勢と、間に合わずすまなかったと謝罪する姿勢を見せなければならなかった。

少なくとも、娘の必死の嘆願を『わがまま』と捨ててはいけなかった。

戦に婚約白紙。留めに両親の死。

手紙と早馬でのやり取りからくる情報伝達の違いが、この悲劇の一因である、と王家を庇うような報告は添えられたけれども。

度重なる『不運』の情報を精査していたなら、減税なり、援助なりできただろう。そう調査報告書には記載された。


『戦の功労者の家を没落させた王』

『父母の喪中にデビュタントの招待状を送った冷酷な妃』

『王太子ももしや』

『今の王家を信じて良いのか』


小さな不信の種はやがて大きな疑念となり、絶対王政の時代が終わった。

貴族議会の承認がなければ、王家主導の政策は進まなくなったのである。

これを機に不忠の王は退位し、軍病院を慰問する日を増やした。

父王を省みて王太子は公平な政を心がけ、即位後の治世は平和で、もう誰も戦を望まなくなった。

毎年、デビュタントの日が近づくと国境の一つの小さな村を現国王が訪れる。


『民と共に 気高き領主 ここに眠る』


そう彫られた墓石の前に花をそなえるのが今代から始める伝統である。

もう顔も覚えていない娘の声だけが今も男の耳に残っている。

墓地から出て村に入れば、去年来た時より賑わっており、家屋もどんどん建っていた。


「…人が増えたな」

「そうでございますな。聞くところによると、ここの出身者が家族を伴って戻ってきているのだとか」

「、家族と」

「はい。…旧領主からいただいた財で生き残った。だからこれからはせめて、」


お嬢様がもう寂しくないように、と


遠くを見ながらそう言った従者に「そうか」と頷く。

どこまでも続く青い青い空の上、あの領主は今は寂しくないだろうか。

そう思いながらそっと目を閉じ、もう二度とあんな悲劇は起こさないことを改めて誓った。




11歳〜14歳まで学校に行くところを飛び級して卒業した主人公は才女。

でも、戦争が始まる&国境の小さな領地を持っている、のダブルアタックで婿を迎える政略結婚相手としては不利な立場でした。

婿も捕まえられないし、と諦めて一人で領主になろうと決意して帰りましたが、父がいない&母が一人で切り盛りして疲弊中。

父母は『領地は終わり。せめて娘だけでも生きてほしい』と思って何も言わなかったのですが、知っちゃった娘さん、奮起。

若すぎる領主には流れでなってしまいましたが、やる気は十分。実力も十分。


ただ、本当に時勢が悪かった。


何も起きてない時ならば現状維持できたろうに、若者を戦争に取られるわ減税してもらえないわ父が亡くなるわで、経験を積んで立ち向かってやっとの局面に経験0でぶち当たってしまい、捨て身で王宮に乗り込みました


この話をなぜ思いついたのかは我ながら謎です()

「15歳で領主になり、そこからずっと孤独で…」というヒーローがよくいるけど「15歳でそこまでできちゃうの?」と思ったからかもしれません…

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― 新着の感想 ―
できるんですよね 新選組の最年少は16歳だと言われていますが16,7歳が結構いる。 新選組に入隊できる状態でこの年ということは武家の息子たちは推して知るべしで、昔の人の写真を見ると目つきが違いますし町…
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