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婚約破棄して私の成果を壊したのに、復讐を受けないとでも?

掲載日:2026/04/03

私は長らく開発と改良に時間を費やし、やっとクロワッサンが綺麗に焼ける最新の機械を完成させた。


ひとまず世界に一台しかない。


ここから機械職人に部品や機械の仕組みを見てもらって、増産体制に入る。


王立食品協会の技術部門に下っ端貴族として入った私が、ついに大きな成果を出したというわけだ。


なのに……。


私と婚約予定となっていたベイル。


そいつが大変乱暴な男だった。


残念なことに、私はベイルと政略結婚させられる予定となっていた。


ベイルは毎日酒を限界まで飲む自制心のなさを誇っていた。


それが故に、毎日酔って帰ってくる。


あの日は一際フラフラかつ乱暴で……


結果として私が作った、クロワッサンが綺麗に焼ける機械に激突し、その後なぜか敵と認識して殴り始めた。


私が止めても意味なし。


結果、まだ世界に一台しかない状態だったのに、機械が壊れてしまった。


長年の努力が壊されたので、わたしは怒ったし、ひとまず弁償を請求した。


しかし……


「もうお前とはやっていけない。婚約破棄して縁を切らせてもらう」


だそうです。


逃げやがりました最低な男ベイル。


そしてなんと、ベイルが機械を壊したという証拠を私は用意できなかった。


ベイルの指紋が残ってても、たまたま触っただけ。壊した張本人がベイルだという証拠はない。


だから目の前でベイルが壊したのを見たのに、ベイルは法的に許されることとなってしまった。


ひどい。


私のことを信じてくれる人も少なかった。


ベイルは酒を通して広げた人脈を持ち、偉い人の前でのみ酔っても正気を保ち、そして外向けの取り繕った態度と容姿のレベルは高い。


一方私は、地味に機械いじりをする下っ端貴族。


だから私の方が人望がないわけ。


でも、私のことを信じてくれる人が身近にいた。


それはクロワッサンが売りのパン工房の所長のレルナードだった。


私がクロワッサンを綺麗に焼く機械を開発するにあたり、クロワッサンの生地をたくさん作ってくれた、国公認の伝統的なパン工房の所長。


彼は優しかった。


「なんでみんな君を信用しないんだろうな。ちなみに機械の修理は大丈夫なのか……?」


「また少し時間をかければなんとかね。ただ、またクロワッサンの生地の注文をさせてもらうわ。何回か試運転もしないと」


「大変だね。もちろんクロワッサンはいくらでも用意するから安心してほしい」


「ありがとう。心強いわ。精神的にもね」


「それにしても、君の目の前で罪を犯したのに法的に許されているベイル……ズルすぎるな。許せないな」


「本当よね」


「僕は……結構疑っているんだ。ベイルは酔って乱暴になったから機械を壊した。これより深い理由がないのかってね」


「どういうこと?」


「なんらかの権力者がベイルに金を渡し、ベイルに酔って乱暴になった振る舞いで機械を破壊するように命じた可能性があるかなと」


「そ、そんなこと考えてもなかった」


「でもあり得るんじゃないかと思うだろう?」


レルナードが探偵か警察のように見える。


うん、レルナードの言う通りだ。


その可能性はある。


だってベイルはあの日、いくらなんでもいつも以上に暴れていたし、あいつは機械を敵と思って殴っていたけど、クロワッサンを綺麗に焼く機械は、全然人には似ていない。


むしろ人よりも背丈は低くて、平たい機械なのだ。


……不自然だよね。


だから私は、


「レルナードの言う通りかもしれない。その可能性、私も結構あると思う」


そう返した。


「なら、クロワッサンを綺麗に焼く探究と同じように、今回の件の調査も、一緒に協力してやるのはどうかな?」


レルナードが提案する。


「私としては本当にありがたいけど、レルナードはパン工房のこともあるし……」


「全然大丈夫。僕も真剣に調べたいんだよ。だってクロワッサンを綺麗に焼く素晴らしい成果が壊されたんだ」


「ありがとう。じゃあ協力、お願いします」


「おっけー。そうとなれば、まずは、クロワッサンが綺麗に焼けると困る人を考えよう。そうでないと動機がない」


「クロワッサンが綺麗に焼けると困る人? そんな人いるの?」


私は考えてみた。


クロワッサンが嫌いな人も中にはいるかもしれないけど、好きな人が食べればいいのがクロワッサン。


そして、クロワッサンが綺麗に焼けたら、クロワッサンを食べる人はそりゃ嬉しいんじゃないのかな?


うーん。みんなが興味ないから喜ぶかのどっちかで、多分クロワッサンが綺麗に焼けても困らないと思うけど……。


あ、でも……クロワッサンのライバル的なパンを作って、それを売りにしているパン工房があったとしたら……そこは、クロワッサンが綺麗に焼けると、かなり困るかもしれない。


だって、パン工房が繁盛しなくなっちゃうもの。


「わかった! レルナードのライバル! クロワッサンを売りにしてないパン工房!」


「僕と同じ考えだね」


「やったね!」


「と言うわけで、心当たりのあるパン工房を、今ここで書き出していこうと思う」


「書き出すほど何個もあるの?」


「いや、いざ書き出そうとすると、三個くらいな気もしてきた」


「ふふっ」


でもとりあえず書き出してもらった。


やっぱり三個だった。


「一番怪しいと思うのはどれなの?」


「ここのパン工房かな。ここの所長は、クロワッサンはパンではないと主張している」


「過激な考え方ね」


「ちなみに僕は全てのパンの頂点がクロワッサンだと思っている」


「それはそれで過激ね」


「でも僕は他のパンもパンだとは思ってるし、リスペクトとしてるから」


「はいはい。そこのパン工房の所長とは違うってことね」


「そういうこと」


私はそこの所長に顔を知られていないので、とりあえずそこのパン工房にパンを買いに行ってみることにした。


レルナードからもらった地図の通りに歩いてくると、確かにパン工房があった。


パン売り場に入ると、確かにクロワッサンはなく、全体的に柔らかそうなパンが多かった。


さて、ここの所長とベイルが繋がっているなんて、どうやったらわかる……あっ。酒瓶。


店の奥に飾ってある酒瓶。


ベイルが大好きなお酒と同じだ。


確か、少しお高めで、港町の酒場で出されているとか言ってた気がする。


急いで帰って、それをレルナードに報告した。


「よし、なら港町の酒場で彼らは出会った可能性が高い。まだ向こうは僕たちがこんなに疑ってるなんてことは全然知らないだろうからね。港町の酒場で安易に接触してくれるかもしれない」


「行ってみましょう…その酒場に」


「ちなみに、君はお酒は強いのかい?」


「強いわ。小柄な割にはね」


「ならよかった。ちょっと飲んで判断力が鈍ると良くないからね」


「ええ、そこは大丈夫ですわ。ただ私は、ベイル、あなたは容疑のパン工房の所長に顔を知られてるのよ」


「変装するか」


「変装ですって!」


「君は……どう変装したらいいだろうか」


「ちょっと老けたメイクでもしたらいいかしらね?」


「いや……逆に、派手なお嬢様と、ボディーガードみたいなコンビは……」


「それ普通に目立つでしょ!」


と色々騒がしく話し合った結果、なんと漁師のフリをすることになった。


「行けるかな……そんな細い漁師あんまりいないからな……」


「大丈夫よ。私着痩せするけどそんなに細くないですから」


「あ、そう……だね」


自分から二の腕見せたのが悪いんだけど、同意された。少しムカつく。


で、とりあえず各々作業服っぽい服に着替えてみた。私は作業服っぽい服を持っていなかったので、レルナードに貸してもらった。



で、夜に港町の酒場に乗り込む……!


酒場について早速入ってみると、たくさんの人で賑わっていた。


「よお。見慣れない漁師だね。遠くから漁に来たのかい?」


「あ、ああ。まあそんな感じさ」


「とってもこの町は素敵ですわね」


「だろう? じゃあ早速魚とワインと行くかい?」


「それで頼む」


その後席について、一旦ひそひそ話す。


「とりあえず漁師で通ったわね」


「よかったよかった。それで、所長がいるか僕は探すから……」


「私はベイルを探すわ」


二人で変に思われないくらいキョロキョロする。


すると、かなり運がいいことでしょう。ベイルがいた。


離れてるけどこの席から見える。ナイスな位置よ!


一方、レルナードも所長を発見。


ただ二人は今別のテーブルで別の人間と酒を交わしているようであった。


だけどこのままずっと見張ってれば……二人に関係があるなら何かしら接触するでしょ!


と思っていたが……確かに常連ぶってる男たちの集団に二人は属していて、席も移動しまくっていた。だけど、二人が話すことはなかった。


「二人の間に伝言役がいて、そこで意思疎通をしている可能性がある」


レルナードがつぶやいた。


「なるほど。それなら、ベイルと所長の二人の両方と話している男もマークしないと」


ますます真剣に観察することにしたが……なんとそのような人がいなかった。


常連にも何グループかあって、二人は別のグループなようだ。


「でもお手洗いには行くだろ。他にも色々接触の方法はある」


「確かに」


でも証拠がないと……。


私は目の前で機械を壊されたのに証拠がなかった悔しさを思い出した。


なんとかして証拠を……あっ!


「レルナード、所長が封筒を……」


「金か……?」


「机の裏に貼った!」


「よく見ていたな。もう封筒は見えないぞ」


「でも確かに貼ってたよ」


「なら……」


「ベイルがそれを回収しにくる。そこでお金の受け渡し完了ってことよ」


「そういうことか……よし、それならベイルがあの机の下にふらっとやってきて手を入れた時に現行犯だ」


「うん!」


やがて、また常連たちは席を移動したりし始めた。しかしやはり二人は違うグループ。でも、ベイルが例の机の隣の机に酒を置き……ふらっと机の裏に手を伸ばした!


「よし、行こう」


私たちはベイルを挟みうちする感じで立った。


ベイルはまず私に驚いていたけど、その後すぐに、迫力のあるレルナードにびびっていた。


「な、なんだ? お前らは、な、なんだ?」


「狼狽えてるようだけどね。目当てはその封筒なのよ」


「確認させてもらう」


ベイルから封筒を取り上げるレルナード。


レルナードがその場で封筒を開けると、お金が出てきた。


一番高い札束が続々と現れる。


「これはなんだ? さっき、そこにいるパン工房の所長が机の裏に貼り付けていた封筒だよな?」


もうベイルは言い訳できないとわかったのだろう。


容疑の所長と目配せして……裏口からの逃走を試みた……!


しかし、その裏口。港町の酒場だけあって、満潮の今は……。


ばしゃーん。


海の上らしいんですよね。レルナードが教えてくれた。


二人は海で情けない泳ぎ方を見せて、こちらに上がろうとするも、こっちには腕組みしてレルナードがいる。


そのまま彼らは溺れたまま、警察の到着を待つしかなかった。


 ☆ ◯ ☆



それから一年後。


「牢獄から注文? 珍しいわね」


「でも、彼らのいる牢獄だそうだよ」


「そうなの?」


私はレルナードと婚約し、今は一緒にパン工房をやっている。


もう牢獄にいる時点で、彼らへの復讐は終わってるのかもしれないけど、自然と復讐になってしまうのなら、復讐の追加も仕方ないわよね。


というわけで……


「レルナード。とっても丁寧に機械で焼いたのを届けてあげましょうよ」


「ああ。世界一綺麗な、クロワッサンを」


お読みいただきありがとうございます。

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