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怠惰は太陽に照らされる

 ——初依頼は、終わった。

 終わった、というより。

(強制終了させた、が正しいか)


 翌日、放課後の廊下を歩きながら、昨日の光景を思い出す。


向けられた視線。あからさまな敵意。


(あんな敵意は久しく浴びてないな)


 呆れられたり、変に思われたりすることは別に慣れている。しかしあそこまで明確に敵意を持たれることにはそこまで慣れているわけではない。しかしこれが1番省エネなのである。向こうも関わりを持とうとしなくなるし、こちらから絡む必要もなくなる。


 好かれるより、よっぽど楽だ。


「随分と満足そうね」


 隣を歩くすみれが言う。


「見えるか?」


「ええ。少なくとも反省している顔ではないわ」


「してないしな」


 即答する。


すみれは小さく息を吐いた。


「……あれは、解決とは言わないわ」


「だろうな」


 あっさり認める。


「でも終わった」


「……」


 言葉に詰まるあたり、納得はしていないが否定もできないらしい。


(まあ、そりゃそうだ)


「勝負、忘れてないでしょうね」


「忘れるわけないだろ」


 むしろ——


(あんな条件つけられて忘れるやついるかよ)


“価値のあるヒモ”。


 あの言葉が、妙に頭に残っている。


(ヒモに価値……ね)


本来なら矛盾しているはずなのに。


 なぜか、少しだけ引っかかる。


「私は私のやり方でやるわ」


 すみれが前を向いたまま言う。


「あなたも、好きにすればいい」


「俺が好きなようにやったらすみれは俺に勝てないぞ?」


「あら?いい度胸ね。なら次の依頼は全て私に任せてもらって良いかしら。」


「勿論嫌だね」


そんな軽口を言い合いながら歩いているといつの間にか部室につく。


「おー、良く来た二人とも」


 聞き慣れた声。


「初依頼、お疲れ様だぞ」


我らが顧問神崎かんな先生が、机に腰掛けながら手を振っていた。


「見てたんですか?」


「んー、途中まではな」


 にやりと笑う。


「なかなか面白いことしてたじゃないか、糸乃」


声は弾みを帯びて、言葉の隙間から楽しげな気配がこぼれ落ちていた。


(やっぱり見てたのかよ……)


「褒めてないですよね。それ」


 すみれが冷たく言う。


「褒めてる褒めてる」


 軽い調子で返す。


「少なくとも、“止めた”のは事実だ」


その一言に、すみれがわずかに反応する。


こいつはどうやら俺に負けたことが相当悔しいらしい。昨日解決したのを鑑みて今は勝負は俺が優勢だろう。


「ただし——」


 かんなは指を一本立てる。


「後味は最悪だけどな」


ペカーッ!!という擬音がぴったりな笑顔で神崎先生は言った。


「……」


(まあ、それは否定できないけどね!?その笑顔何なの!?逆に不気味ー)


そんな神崎先生の笑顔に内心俺が怯えているのも知らずに話は続く


「で、才上」


「何でしょう」


「お前はどうする?」


試すような視線。


すみれは一瞬だけ目を閉じて——


「次は、納得させます」


迷いなく言い切る。


「全員が、自分の意思で前に進める形で」


先生は少しだけ目を細めて。


「いいね」


満足そうに笑った。


(ほんと、この先生——楽しんでるだろ絶対)


 コンコン、と扉がノックされる。


「どうぞ」


すみれが答える。


 ゆっくりと扉が開いた。


「し、失礼します……」


入ってきたのは——見覚えのある顔だった。


(あれ……?)


「えっと……ここ、“よろず部”で合ってますか?」


 少し緊張した様子。


 でも、どこか明るさを感じる声。


(どっかで見たな……)


「ええ、そうよ」


 すみれが頷く。


「依頼かしら」


「は、はい……あの、その前に——」


 彼女の視線が、こっちに向く。


「糸乃くん、だよね?」


「……は?」


 思わず間の抜けた声が出た。


(なんで名前知ってる?)


「やっぱり……!」


 ぱっと表情が明るくなる。


「覚えてない? 中学のとき——」


そこで、不意に記憶が引っかかる。


(中学……?)


 雨の日。


 傘も差さずに立ち尽くしていた女子。


 周りは見て見ぬふり。


 面倒だったから——


(あー……あったな、そんなの)


「……あの時の?」


本当は顔なんて覚えていなかったけど必死で思い出したふりをした。我ながら完璧な演技だ


「そう!」


 嬉しそうに頷く。


「覚えててくれたんだ……!」


(か、かわいい)


自分のことを陰のものだと思ったことはない。人とのコミュニケーションは男女共に良好だし、運動だってそこそこできる。中学の時はどちらかといえば陽の側の人間だったほどだ。しかし、こうも純粋な笑顔を向けられては今の省エネの自分には効いた。


「傘、貸してくれて……そのまま帰っちゃったでしょ」


「……まあ」


 正直、深い意味はなかった。


 濡れてる女の子をほっとくのが嫌だっただけだし、あの場にいるのが面倒だっただけだ。


(あれ、助けたって言うのか……?)


「ずっとお礼言いたくて……!」


まっすぐな目。


(眩しいな、おい)


「……別に大したことしてない」


「そんなことないよ!」


 即否定。


思ったより食い気味に否定されてこの子実は意外と強い子なのかもと思ってしまった。


「すごく助かったんだから!」


(いや、ほんとに大したことしてないんだけど……)


「それは置いといて、ちょっと相談があって……」


 少しだけ表情が曇る。


「友達のことで——」


(あー、来た)


 昨日の件を思い出す。


「名前を聞いてもいいかしら」


「結城ひなたです!」


 元気よく名乗る。


(かわいい……やっぱり“いい子”だな)


 でも同時に。


(こういうやつが一番、無理するんだよな)


 ちらりと、すみれを見る。


 すみれも同じことを考えているのか、静かにひなたを見ていた。


「事情を話して」


 静かな声。


 ひなたは一度深呼吸して——


「クラスのグループのことで……」


 語り始める。


(……さて)


 壁にもたれながら、ぼんやり考える。


 これは多分。


(さっきとは、違うパターンだな)


 でも——


(どうせ面倒なのは変わらない)


 ため息をつく。


(ほんと、なんでこうなるかな。俺は本来楽して生きたいだけなんだけどな)


 ちらりと、ひなたを見る。


 必死に言葉を選んでいる、その姿。


(……こういうの、放っとくと余計面倒になるしな)


 自分に言い訳するように、心の中で呟いた。


決してその姿が可愛らしくて庇護欲が出てしまったわけではない。


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