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ゴリラ刑に処された令嬢の 可憐な仕返し  作者: 藍銅 紅@『前向き令嬢と二度目の恋』2巻 発売中


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8/10

★挿話・3★ ユークリッド

  ***



これはアンブローシア嬢が獣人領にやって来てからしばらくの話。

オレの未来への選択を、どうするか、まだ迷っていた頃のこと。



   ***



「すごいぞ、アンブローシア嬢。毎日どんどん獣人たちの名前をおぼえていっているらしい。そのうち住人全員、識別っていうか区別、できるようになるんじゃないか?」


ジュロームが言って、おもしろそうに笑った。


「は? どうやって?」


ここは獣人領なのだ。

住人というか、罪人たちだが、九割がたがネズミの獣人もしくはカエルの獣人。皆よく似ている顔だ。


というのも獣人刑に処すときに、エヴァンジェリンは罪の大小を確認はするが、細かい分け方はしない。


たとえば、殺人などの重い罪を犯した者は、一律カエル。

たとえば、病気の母のために薬を盗んだ程度で情状酌量の余地があれば、もれなくネズミ。


しかも、オレたちのように、獣の耳と尻尾が付いているだけではなく、まるっきりのネズミかカエル。動物そのものの顔と体。それが二足歩行をし、服を着ているだけ。

見分けることなんかできようもない。


ネズミとカエル以外の者、たとえば狐顔、狸顔、山羊のような角を持つ者、ラクダやロバの顔を持つ者。人間の顔はそのままで、耳だけが獣人なんていう者も、多少、いることにはいる。ちなみにオレも、そう。


が、それはエヴァンジェリン以外の者が行ったこと。


現王や第二王女のカサンドラの身勝手によって、獣人化された被害者たちだ。こちらは見分けやすいが……少数しかいない。


現王は、酒に酔うと魔法を乱発したり、メイドに手を付けたり……という悪癖を持つ。政務は有能とまではいわないが、無能ではないのだが……。

城の使用人たちは、王が酔っぱらったら、不敬でもなんでも逃げろ……との共通認識を持っている。とはいえ、逃げきれないことも多々あることで……。

それでも正妃様がご存命の時はまだマシだった。

お亡くなりになって、側妃だけになってしまった後は……宰相や文官たち、使用人たちの苦悩は計り知れないだろう。


カサンドラは……、あれはどうしようもない馬鹿だ。語るに値しない。気にいらない者をホイホイ獣人化する。


ああ、話がズレた。


獣顔の獣人を、どうやってアンブローシア嬢は見分けているのだろう?


「声で区別しているとのことだ」

「声⁉」

「さすが王太子の婚約者。未来の王妃に選ばれるだけはあると感心した」

「……婚約は破棄になるんじゃないか?」


アンブローシア嬢は、婚約者であるフィランダーによってゴリラの獣人にされた。


……十五歳。うら若き乙女がゴリラ化。

耳の形が変わったり、尻尾が生じるのではなく。まごうことなき立派なゴリラそのものの顔だ。


明るく振舞ってはいるが、内心はどうだろう? 

悲しんでいるのではないだろうか? 

それとも復讐心が煮えたぎっているのだろうか?


少なくともフィランダー王太子に対する好意などはないだろう。

自分をゴリラにした男との婚約なんて、ソイツがたとえどれほどの美形だとしても、オレだったら速攻却下だ。

……フィランダー王太子は、というか、王族は、確かに全員が全員かなりの美形だ。

王族の特徴であるプラチナブロンドの髪にエメラルドの瞳。

外見だけは、完璧に良い。

が……、まともなのはエヴァンジェリンくらい……。などと考えていたら。


「だといいな。アンブローシア嬢、あのクソ無能の王太子にはもったいない」

「ジュローム。彼女のことを、ずいぶんと気に入っているみたいだな」

「ああ。いいご令嬢だ。ユークリッド、今のうちにお前が嫁にもらっておけ」

「はあ?」


ジュロームがずいと顔を近づけてきた。


「ゴリラでも結構かわいらしいだろう、アンブローシア嬢は」

「あー……」


まあ、確かにかわいい。

ゴリラでも、かわいい。


目をキラッキラと輝かせて、獣人領で、罪人たちと交流する姿などは、実に愛らしいが……。


「身分的にもユークリッドとアンブローシア嬢は釣り合う」

「そう……だが」


元、王太子の婚約者にして侯爵令嬢。

そして、獣人領の領主。それから……。

つり合いは……、一応、取れる。


「お前が、獣人領なんかで大人しくせずに、表に出ることを願うのなら。アンブローシア嬢は良いと思う」

「おいっ!」


表に出る。

それは……。


正直を言えば、迷っている。

獣人領で一生を終えるのも悪くはない。

だが……。


迷う。

心が定まらないまま、ずるずると、ここで、獣人領の領主を続けて……。


ふう……と、息を吐く。

オレの母親を思う。

そして……血縁上の、父親という存在のことも考える。


「……虎の獣人のままでは、表に出ることは無理だ。ジュローム、おまえの獣人化を解く研究は……」

「解くほうに関しては、まったく進んでいない。だから伝えられている通り、愛し合う者同士が満月の下で口づけを交わすというのを試してもらいたいと考えている。ユークリッドとアンブローシア嬢が、もしも本当に愛し合って、口づけを交わしたら……二人とも元の人間に戻るかもしれない」

「ジュローム……」


獣人化された者が、元の人間に戻るには、満月の光を浴びながら、口づけをする。


「オレと……アンブローシア嬢が……」


元の人間の顔を知らないので、ゴリラの顔で想像をしてしまったが……嫌ではない。


が、迷う。

アンブローシア側の問題ではなく、オレ自身の問題。


「ユークリッドが要らないっていうのなら、自分が貰うが」

「おい、待てジュローム」


ニヤッと笑ったジュローム。


アンブローシア嬢を嫁に……というのが、ジュロームの本心なのか、それとも単にオレを焚きつけているだけなのか。


分からない。が……。


少しだけ、誰にも取られたくないなどと……思ったりも、した。





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