★挿話・2★ セルジオス
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これはボクが獣人にされたときの話。
それから、ボクがアンブローシア嬢と一緒に獣人領に向かった時の気持ち。
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騎士学校を卒業した後、ボクは何故だか第二王女付きの護衛騎士として配属をされた。
特に希望したわけでもない。たまたま空きがあって、身分的にそう悪くはない伯爵家の息子であるボクが選ばれたのかな……。なんて、思ったりして。
王女様の護衛騎士なんて、名誉は名誉。
だけど、配属先を伝えてくる役人の表情に、なんとなく嫌な予感もして。
で、騎士仲間とか先輩方とかに探りを入れた。
第二王女カサンドラは、顔で護衛騎士を選んでいる……と、先輩の一人がこっそり教えてくれた。
はあ? 顔?
まあ、確かに、ボクの顔はそう悪くはないだろうと思う。
よく言われるのが童顔。
それからかわいい。
女の子みたいな顔と言ってきたヤツらはぶっ飛ばしたりもしたけれど。
まあ、かわいい系だけど、それも個性の一つでしょって笑顔の一つや二つも見せれば、だいたい問題にはならなかった。
顔で選ばれようが、実力で選ばれようが、とにかく王女様付きなんだから、礼儀や礼節を守って、きちんと……って思っていたのに。
注意事項その他もろもろを教えてもらって、騎士服もきちんと着用して。
しばらくの間は王城の奥……カサンドラ第二王女の私室付近の廊下でずーっと立っているだけだった。
ま、新入護衛兵なんて、そんなもんだよね。
二刻くらい、所定の場所に配備され、時間になれば、移動して、王城内を巡回する。
後にまた、別の所定の位置で待機して、時間になったら、巡回して、別の護衛兵に交代する。
毎日、これの繰り返し。
高貴なお方を守るための、繰り返し。
半月くらいそれを繰り返した後、配置換えの辞令が来た。
いや……、本物の辞令だったのかも、今となっては分からない。
いきなりカサンドラ第二王女の部屋付きになったとか言われて連れていかれた。
カサンドラ第二王女の私室……、さすがに寝室ではなくて居間だったけど、そこには既に十人を超える護衛騎士が並んでいた。
髪の色はそれぞれ違えども、皆、長身で美形の男たちだった。背が低めなのはボクくらいで。
カサンドラ第二王女はその護衛騎士たちを一人ずつ、頭のてっぺんから足の先までじっと眺めては、また次の護衛騎士の前に向かい、またじろじろと上から下まで舐めるようにして見ていった。
そうして、ボクの前で、カサンドラ第二王女は足を止めて……、にたっと笑った。
「……あら、かわいい。ふわふわの短い白い髪も、毛先の跳ねていて、そこが少しだけ薄紅色をしているのも、まるでウサギさんね」
カサンドラ第二王女がボクの髪に触れた。その瞬間、ざわっとした嫌悪感に似た感情が、ボクの背筋を這った。
「うふふふふふ。たまにはこういうのもいいわね……」
カサンドラ王女のエメラルドみたいに緑色の瞳が輝く。きらり、なんて、キレイな感じではなくて……、魔女の瞳みたいに、どろっとした感じに。
「お前、新入りね。名前は?」
「はっ! セルジオスと申します!」
「そう、そんなに緊張しなくてもいいのよ?」
何がおもしろいのか、カサンドラ第二王女はくすくすと笑う。ぶっちゃけ、気持ち悪い。顔は、かわいいし、金の髪も、キレイに巻かれているし。ドレスは豪奢だし。
一見したところ、無邪気な王女様……だけど。
「あなた、かわいいから側付きの護衛にしようと思ったんだけど……」
「はい! 光栄であります!」
他に答えようがない。なんとなく気持ちが悪いとか、どうしてボクがとか、そんな発言を王女殿下に向かってはできない。
「で、ね。確認をさせてもらおうかしらーって」
確認とは何だろうとは思ったら。
「服を脱ぎなさい」
「ふ、服、ですか……?」
「そうよ。騎士服の上から体を触ったって、分からないじゃない」
どうすればいいのか。
横に立つ別の護衛騎士に、目線を投げるが、その護衛騎士はまるで彫刻になったかのようだ。ボクを見ることもしない。浮かんでいる表情は「無」だ。
「あ、あの……」
なんとか絞り出した声。カサンドラは「さっさと脱ぎなさい。王女の命令よ」と不機嫌に言った。
仕方がなく、上着を脱いでシャツも脱いだ。
「あらあら。顔がかわいいから、体もそうなのかと思ったら、がっしりしているのね。お腹なんて、腹筋がすごいわぁ」
ぺたりと、手のひらで腹を撫でられた。
気持ちが悪い。
騎士としての身体を確認されているのではなく……、コイツ、単に、男の身体を触りたいだけじゃないのか?
痴女か、王女のくせに。
耐えきれなくなって「おやめください」とはっきり言ったら。
途端に蔑んだ目を向けられた。
「あらぁ、王女に命令するなんて偉そうに。もういらないわよ、おまえなんて」
カサンドラ第二王女はボクを指さした。
「え⁉」
いらないと言われたことではなく、カサンドラ王女の指から発せられた光にボクは驚いて。
「わああああ!」
気が付けば、ボクの頭にはウサギのような耳が生えていて、尻には尻尾までついていた。
「あっはっはっは! お似合いよセルジオス! 獣人化してやったから、獣人領にでも行きなさい!」
呆然としている間に牢に入れられた。
えーと……。獣人。ぴこぴこと動かせるウサギの耳を触ってみた。
……うん、感触がある。
うわぁ……。マジでウサギ耳……。
罪を犯した者が獣人刑に処されて、獣人領に送られる。それがウチの国の刑罰……だけど。ボク、何を、した?
「……ええと、不敬罪とか、そーゆーやつ、適用?」
あー……。真っ当に罪人だけを獣人刑に処しているんじゃなくて。
城で働いている使用人とかが、王族の誰かが酔った勢いで獣人にされて、それで、罪もないのに獣人領に送られた……なんて、噂も聞いたことがあったっけ。
マジだったのか、あの噂。
「まあ、なっちまったモンは仕方がないか」
あのまま、抵抗もせずにいて、王女様に性的なアレやソレをさせられたりでもされたかもしれない。
王女が痴女で、王女の命令に逆らえなかっただけとか言っても。
ボクのほうが、処刑とか、されそうだし。
死罪を賜るより、獣人刑のほうがまだマシだ。
そんな感じに覚悟を決めた時に、犬の顔をした獣人の男女と、ドレスを着たゴリラがやって来て。
ああ、この人達も、獣人刑に処されたのかーなんて思って、親近感を覚えたりした。
で、そのゴリラが、王太子殿下の婚約者であるフィッツクラレンス侯爵令嬢のアンブローシア様だということにはめっちゃ驚いたけど。
ゴリラでも可愛いなーこのご令嬢なんて思って。
いや、前に遠目で見たときは、ツン! ってしてて、いかにもわたくしは偉いのよ的な雰囲気だったんだけど。
ゴリラ化して、背を丸めて、しゅんって、悲し気にしている姿とか。
剛毛が生えた両腕を気にしている姿とか。
あらら、フツーの女の子なんだなーなんて。
獣人領に向かう馬車の中でも、見るもの聞くもの全部珍しいって感じに、キラッキラした目でボクを説明を聞いてくれて。
途中のグリースウッドの臭い臭いなんて「オイルを大量に集めて、王太子殿下の頭にぶっかけてやろうかしらーって」とか言いだして。
ああ、おもしろいなー、このご令嬢。
好きに、なって、しまいそうだななんて。思ったりもしたけど。
競争率、高そうだよねえ……。
トクベツな関係になるのは無理かな?
でも、親しくなるくらいなら……いいかな、なんて。
思ってみたりしていた、このときの、ボク。




