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家の中のもう一人

作者: 宮本 清久
掲載日:2025/12/08

『家の中のもう一人』】


夜中、妙な物音で目が覚めた。

マンションのドアがきしむような音だ。


一人暮らしだし、鍵は閉めていたはずだ。


(風……だよな)


そう思いながらキッチンの水を飲みに行くと、冷蔵庫の前に“誰かの足跡”があった。

それも裸足の、明らかに自分のではないサイズ。


ぞわりと鳥肌が立つ。


(泥棒か……?)


しかし物は何一つ荒らされていないし、部屋も静かだ。

俺はスマホを握りしめ、そっと寝室へ戻ろうとした——が、


その瞬間、寝室の扉が内側から「コン」と鳴った。


誰かが、そこに“いる”。


息を殺し、そっと耳を当てる。

微かに聞こえる呼吸音。

だが、それは俺のものとは違うリズムだった。


(警察……?いや、まず扉を開けて確認しないと……)


覚悟を決めて、ドアノブに手をかけた。


——その時。

スマホが突然震えた。


母からのメッセージだ。


『大丈夫?最近“もう一人のあなた”がよく出るって聞いたけど…』


意味が分からない。

続けざまに電話がかかってくる。


「母さん、どういう……」


『あんた最近、記憶飛ぶこと多いでしょ?

精神科の先生が言ってたの。“もう一人の自分”が表に出るって』


背筋が凍った。

スマホ越しに母の声が震えている。


『お願い、今すぐそこから出なさい。

今出てる“あんた”は……本当のあんたじゃないから』


寝室の扉の向こうから、ゆっくりと“誰か”がノブを回す音がした。


カチャ、カチャ……。


母の声が震える。


『逃げて!そっちにいるのは……“あんた”じゃない!』


扉がゆっくり開いた。


そこに立っていたのは——


“俺自身”だった。

だが、目つきが異常に鋭く、笑っていた。


「……やっと起きた?」


その“俺”は妙に落ち着いた口調で言った。


「ずっと入れ替わるタイミングを待ってたんだ。

次は……俺の番だよな?」


心臓が跳ねた。

逃げようとしたが、相手は俺と同じ身体だ。

すぐ肩を掴まれ、床に倒される。


耳元で囁く。


「安心しろよ。本物は俺で、お前が“作られた方”なんだから」


何を言っているかわからない。

だが確信した。


——この“俺”はすべてを知っている。


「次は俺がこの体を使う。

お前は……もう寝てていいよ」


視界が暗くなっていく中、スマホから母の叫び声が聞こえた。


『ダメ!そこにいるのは偽物、偽物のほうよ!』


どっちが偽物……?

どっちが本物……?


意識が完全に途切れる前、“もう一人の俺”が笑って言った。


「お疲れ。ここからは俺の人生だ」


——そして、闇に落ちた。


目を覚ますと、ベッドの上だった。

周囲は青空の壁紙。病院だ。


医者が静かに言った。


「あなたが本物ですよ。もう一人の“あなた”は捕まえました」


安心した——はずだった。


だが、病室の鏡に映った俺の顔は、

あの“もう一人”の不気味な笑みと全く同じだった。


看護師が震え声でつぶやく。


「……やっぱり、どっちが本物なんですか?」


鏡の中の“俺”が、ニヤッと笑った。

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