6
シルヴァンは村に戻ってきた後も、最初こそ子どもっぽい無鉄砲さが目立ったが、次第に仕事ぶりが落ち着いてきた。リディアの武器屋に並ぶ防具の手入れや、冒険者の剣の研ぎ作業を軽く頼まれると、器用に、しかも丁寧に仕上げる。大きな刃こぼれがあれば「これは隣町の工房に回したほうがいい」と正直に告げるようになり、適切な判断もできるようになっていた。
日を追うごとに落ち着きが増し、村人たちも自然と彼を頼るようになっていった。
「ラウルさん、直りましたよ。ついでに革の手入れもしておきました。」
「お、シル坊、気が利くなぁ!」
冒険者の顔がぱっとほころび、シルヴァンの手際に見入る。リディが嬉しそうにシルヴァンに対して頷く姿に、カイルは少し視線を逸らし、無言で帳簿を閉じた。
翌日もまた、シルヴァンはさりげなくリディアに声をかけた。
「リディ姉ちゃん、なんか悩んでる?」
「え?ああ……武器の出が多くて在庫が減ってきてるの。そろそろ仕入れに行きたいんだけど、何日間か店を閉めても大丈夫かなって」
リディアは少し困ったように笑い、帳簿を抱えたまま答える。それを聞くなり、隣で包帯を整理していたカイルがぴしゃりと口を挟んだ。
「仕入れに行くなら、俺も一緒だ。危なっかしいだろ」
「え? でもカイがいなくなったら道具屋が……」
「多少の不便なら村の連中も我慢できる。お前が一人で出歩くよりは、その方がずっと安全だ」
慌てるリディアに、シルヴァンが間髪入れずに割って入る。
「……そういうことなら、俺でもいいよ?」とシルヴァンが割って入る。
「店番でも付き添いでも、どっちもできる。こう見えても鍛冶屋だから、目利きくらいはできるし」
「…………」
カイルの視線が静かにシルヴァンに流れる。その表情に怒りはない。
ただ、
「悪くないが、まだ早い」
短く一言だけ。
「なっ……!俺だって、店を構えて一人前になったんだ!」
急に声を上げるシルヴァンに、リディアは優しく諭すように声をかける。
「シルヴァンは頑張ってるものね」
彼女の笑顔に頬を赤くしながら、シルヴァンは得意げに言葉を重ねた。
「これでも見習いの中で最短で親方に職人として認めてもらったんだよ!」
その横で、カイルは手を止めて小さく頷いた。
「……そうだな。村の連中もお前の腕は確かだと言っていたな」
意外な言葉にシルヴァンは目を丸くする。カイルは静かな声で続けた。
「なら、口で言うより結果で示せ。腕前は誇るより使うほうが早い。まずは信頼されるよう実績を積め」
挑発ではなく、ただの事実。だが確かにそこには、わずかながら期待が滲んでいた。
「っ……!分かった、見てろよ!」
むくれるシルヴァンを前に、リディアは慌てて二人の間に割って入る。
「はいはい、二人とも。言い合いしない!私、どっちも頼りにしてるんだから」
「…………」
カイルとシルヴァンの手が一瞬だけ止まる。「どっちも」という言葉を聞いたとき、彼らの横顔に影のようなものが差した気がした。けれど次の瞬間には、カイルは視線を逸らし、シルヴァンは唇を尖らせながらも砥石を手に取った。
戸口のベルが鳴る。
「ほら、二人ともお客さん来たよ。いらっしゃいませー!」
赤茶の髪が揺れ、窓から差し込む光に照らされるリディアの姿を、二人の青年は言葉もなく見付めていた。




