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「そういえば聞いたかい? シル坊のやつ、とうとう親方から独立の許しをもらったんだってさ!」
買い物を終えた冒険者の一人が、楽しげに声をあげた。店の中にいた仲間たちも、驚いたように顔を見合わせる。
「へえ、まだ若いのにすごいじゃないか」
「これからは自分の店を持つってさ」
「……シルヴァンが?」
リディアが問い返すと、冒険者は大きく頷いた。
「ああ。隣町で鍛冶屋の親父に仕込まれてたんだが、とうとう一人前だってさ。腕は確かだし、村に戻ってくれば助かるだろ?」
「そうね。ソル爺さんの代わりになる人がずっと必要だったし……」
自然と笑みがこぼれる。
シルヴァン――小さな頃から弟のように慕ってきてくれた、あの銀髪の少年。
鍛冶屋を志し、村を出て修行に行った彼が「独り立ちした」と聞けば、胸に誇らしさと寂しさが同時に広がった。
(きっと、立派になったんだろうな)
ちょうど冒険者の笑い声が途切れたその時だった。
ガタン、と扉が勢いよく押し開けられる。
「……相変わらず賑やかだね、ここは」
少し大人びた声音に、店内の視線が一斉に向かう。眩しい日差しを背にして立っていたのは、見慣れた銀髪。淡い光を帯びた髪が揺れ、彷徨っていた鮮やかな緑の瞳がまっすぐリディアを捉えた。
ほんの一瞬、誰も声を発せなかった。
少年だったはずの面影が、その立ち姿の端々に逞しさを帯びている。
「……シルヴァン」
リディアが呟いた、その次の瞬間――。
「リディ姉ちゃん!!!」
堰を切ったように飛び込んできた。強く抱きついてきた勢いに、リディアはよろめきながらも思わず笑みを返す。
懐かしい重みと、変わらぬ真っ直ぐさ。胸の奥がじんわりと熱くなる。
「おい、シルヴァン」
低い声が割って入った。次の瞬間、大きな手ががしりと銀髪の頭を押さえ込む。
「な、なにすんだよカイル!離せって!」
「もうお前はリディアより背が高いんだ。いつまでも子どもみたいに抱きつくな」
「リディ姉ちゃんは嫌がってない!」
火花が散るような視線のぶつかり合いに、店内の空気が一瞬張りつめる。リディアは慌てて二人の間に手を伸ばした。
「こらこら!二人とも落ち着いて!……久しぶりね、シルヴァン。本当に独立したの?」
「うん!親方から“もう一人前だ”って言われたんだ。だからこの村に戻ってきたんだよ!」
胸を張って答える姿は、まだ幼さを残しつつも、確かな自信に満ちている。緑の瞳の奥には、少年の頃にはなかった強さが宿っていた。
「頼もしいじゃない。これからよろしくね」
「任せて!リディ姉ちゃんの店の隣、ソル爺が使っていいって!だから僕、ここで仕事するんだ!」
にこにこと笑うシルヴァンを横目に、カイルの眉間には深い皺が寄っていく。
「カイルさん、顔やばいっす……」
ぽつりと冒険者の一人が漏らし、店内に苦笑混じりの笑いが広がった。




